それでは……
本編どうぞ!
「………………………………………………楽しかったなぁ」
自然と口から出てしまった言葉。それを私は全くその通りだと自分自身に頷いた。
あそこは楽しかった。毎日が新鮮に感じることができて何より初めてのことがいっぱい体験できた不思議な鎮守府だった。
役目を終えた私達は帰って来た。喜ぶはずなのに心がどこか遠い気がする……ここが元々私達の我が家のはずなのに。居心地が悪いわけはないのにどうしてだろう?元帥に問題があるはずがないんだけど……やっぱり恋しいのかな?多分それだ。
笑顔があって、仲間が居て、そしてあの人が居る。私達の運命を変えた元帥の面影と重なった若くてちょっと怖い顔をしているけどカッコいい新米提督さん。初めはあの顔が憎く見えたけど、今では忘れられなくなっちゃった。
外道提督ほど変わり者は居ないと思うな。だって仕事の関係で装備開発やメンテナンス作業を任されていたから工廠の中で一日中過ごすことだってあるのに、提督は顔を出してくれて気を使ってくれたり差し入れまでしてくれた。作業服が油まみれになった私に対しても平然と近づいてくれたことだってあります。「汚い」なんて言われなかったことが当初不思議で仕方なかった。でも思えば提督にとっては大したことではなかったんだろうなぁ。
夢の中に出てくる王子様……とはちょっと違うけど提督は艦娘にとって理想的だった。私達の容姿が醜いからって差別したりしないで欲しかった。私達は人達が、この国が好き。でも現実は人達も国も嫌いになりそうだった。見た目で理不尽な扱いを受けるなんて当たり前。頑張っていれば、成果を出せば変わってくれると願っても現実は甘くない……いくら耐えても変わらない。その内耐えられなくなって……何人の艦娘が無念を抱いて沈んでいったんだろうね。
それだけじゃない、深海棲艦との戦争で轟沈する仲間がいる。必要な犠牲と言うけど、提督は私達に沈むなと言ってくれた。その約束通り誰も沈まなかった。○○鎮守府R基地の件は危うくこの国存亡の危機にまで瀕していたことにヒヤッとしたけど、それに比べて提督の安否が気になっていたなんて言えない。
「……私って、おかしいのかな?」
国より提督一人の方が気になるなんておかしいと思う?でもどちらかと言えば提督がおかしいと言うのは間違いない。あの人って本当に軽視派なの?全然そんな感じには見えなかったし、穏健派の人達よりも優しかった。だからこんなに悩んでいる結果になったんだけどね。でも本当に悩んでいる理由は……
「……また会えるかな……」
会いたいなぁ……提督に、みんなに、あの鎮守府に。
「明石居る?」
「ん?ああ、大淀どうしたの?」
「どうしたの?って、明石忘れていますね」
「?なにを?」
「美船元帥から工廠の在庫管理の確認をお願いされていましたよね?私達が居ない間は工廠を別の方が管理していたでしょ?本来の担当は明石なんだから、その備蓄等在庫の最終確認ですよ」
「ああ!?忘れてた!!!」
思い出して駆け出す時に危うく大淀とぶつかりそうになったけどそれぐらい慌ててた。元帥からお願いされていた事を忘れていたなんて……それも工廠関係の事で忘れるなんて私ってどうかしてる。でもこれは提督のせいだよね。提督がおかしいから私もきっとおかしくなっちゃったんだ。だからこの責任を取ってもらうんだから……あっ!?せ、責任って言っても男と女の責任とかそういう意味じゃなくって……ごにょごにょ。
と、とにかく絶対に提督と会うんだから!その時は覚悟しておいてよね!!!
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「まったく……明石
慌てて出て行った明石を呆れた様子で見送った私ですが、明石のこと言えません。
私は外道提督の補佐として○○鎮守府A基地で活動してきました。本来は軽視派である提督の監視でしたが、その必要はなくなりました。調べても何一つとして悪事の証拠はありませんでした。そもそも悪事に手を染めている様子もなかったのが驚きましたね。驚きの毎日でした……それが楽しかったのだと今になってそう思えます。
私達は帰って来ました。美船元帥も笑みを浮かべて出迎えてくれました。そこに不満なんてあるはずがありません。ここが私達の我が家なのですから……でも。
「寂しい……ですね……あっ」
……本当なら言葉にするつもりはありませんでしたけど、いつの間にか呟いてしまったみたいですね。○○鎮守府A基地は不思議な鎮守府でした。前提督が居た時とは全くの別物に提督が変えてしまった場所。危うく人間不信に陥ってもおかしくなかった吹雪ちゃん達を救い、鎮守府近隣海域の制海権を取り戻すことにも成功しました。少しだけですが深海棲艦との攻勢に有利になりましたが、例の○○鎮守府R基地の件といい、他にも目には見えないところで蔑ろにされた艦娘の誰かが泣いています。そして提督は自身の命を顧みずに鈴谷さん達を救い上げてくれました。残念ながらそこに所属していた艦娘全員とはいきませんでしたが……それでも提督の行動は素晴らしいものだと私は思っております。
視察に長門さん辺りが来るのかと思っていましたけど……美船元帥本人が訪れたのは驚きましたね。またあの人なら自分の目で見たかったと思います。私の報告書も後々になって思い出せば訳のわからないことばかりの内容でしたしね。視察は丁度いい機会だったのでしょう。
結果を言えば美船元帥はあなたのことがわからなくなっている様子でした。実際に会って見ると報告書通りだったんですから。矛盾だらけの存在……ですがあなたなら、美船元帥の信頼を勝ち取れると信じています……いえ、そうであってほしいと願っています。あなたは軽視派なんでしょうけど根はきっとお優しい方なのでしょう。
今まで出会って来た男性は失礼なことを申し上げますと魅力を感じたことがありませんでした。容姿が醜いと言うだけで粗末に扱う方は勿論のこと、そう言った方でなくとも仕事上の付き合いで笑顔を引きつらせて距離を取る相手に対して魅力を感じろと言う方が難しい無理な話です。そんな方々と提督を比べたら……ね。
提督は素敵です……人としても男性としても。あんなに優しくされて提督を慕わないはずがないわけありませんよ。だって不知火ちゃんや木曾さんなんかは……あら?
「……妖精さん?なんの御用でしょうか?」
『「――!!!」』
ふっと気配を感じれば妖精さんが肩に乗っていたとは全く気づきませんでした。いつ乗ったのでしょうか?それよりも何かを伝えようとしていますね……ふむふむ、言葉がわかりませんが身振り手振りである程度は……えっ?私が抱えている書類ですか……あっ、ああ!?
「そ、そうでした!!報告書を提出するついでに明石を呼びに来たんでした!?ありがとうございます妖精さん!また何か奢らせてもらいます!」
『「――♪」』
妖精さんには後で甘いお菓子を与えるとして……ああ、やっぱり明石のこと言えませんね。私も提督のことになると周りのことなんて忘れてしまうようです。提督と出会ってからと言うものおかしくなってしまいました。明石や私だけじゃありません。他の皆さんもあの鎮守府で過ごした時間が忘れられない様子です。しかし皆さんがああなってしまうのも納得です。なんせあの提督なんですから。
パーティーまで開いてもらって、別れ際には笑顔で見送ってもらい楽しい思い出でした。それが心残りになっているだなんて……私は皆さんに比べたら情けないですね。これでは次にお会いした時どういった顔で会えばいいのでしょうか……