あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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長らくお待たせしましたが、楽しんでいってください。


それでは……


本編どうぞ!




3-2 世間からの視線

「それじゃ行ってくるぞ。留守は頼む」

 

「司令官……お気をつけて」

 

 

 時刻はマルナナマルマル。

 

 

 ○○鎮守府A基地の門前にはここに所属する吹雪含めた艦娘達が揃っていたのは青年が外出する為である。弁当を買いに行くのでもなく、本日は仕事で出向くのである。以前○○鎮守府R基地において深海棲艦の侵攻と重なったことから何名かの瞳には不安の色が宿っていた。

 

 

「心配しないでよ吹雪、僕達が付いているから心配ないよ」

 

「司令官さんは電がお守りするのです」

 

 

 不安に駆られる吹雪とは対照的な時雨と電の姿がある。この二人は護衛……つまり青年と一緒にお出かけ組なのだ。これからの仕事に艦娘が深く関係してくることから誰かを選別して連れて行くことにした。誰を連れて行くのか「付いてきたい奴の中から選べばいいか」と楽観的に決めようとしていたが、我こそが!っと誰もが名乗りを上げた。

 元々鎮守府から外出を滅多にする機会がない。ほとんどが海の上、仕事で外へ行くにしても興味がある。それに青年と一緒ならば行きたい……行くしかない。男性と一緒に外出するつまり「これはもはやデートなのでは?」と誰もが考えたことだ。吹雪達秘書艦組は勿論のこと、熊野率いる建造組、そして鈴谷連合軍新生組がその座をかけて火花を散らす大激戦(じゃんけん大会)にまで発展することになった。「どうしてこうなった?」と青年は食堂で勝者と負け犬となった艦娘達の阿鼻叫喚を耳にしながら現場を見てそう思ったと言う。ちなみに夜の執務室でラムネを片手に楽しんだ(意味深ではない)吹雪は青年を独占しようとした罰から強制的に辞退させられることになって、絶望したのは言うまでもない。

 

 

 結果からわかるように時雨と電の二人が勝利者となった。決勝戦までほぼ秘書艦組が負けなかったのはそれほど運が良いのか、それとも彼を思う気持ちが強いのか、どちらにせよこの二人に勝利の女神が微笑んだことに変わりはない。羨ましい視線を背に感じつつ一同は出発した。

 

 

 ★------------------★

 

 

「時雨、電もわかっていると思うが遊びに行くんじゃねぇぞ?」

 

「うん、わかっているよ。でも帰りどこかで食事でもしようよ。滅多に外では食べられないんだから」

 

「電も司令官さんと一緒に食べたいのです」

 

「んぁ……そうだな、仕事が終わって時間があれば考えてやるよ」

 

「約束だよ?」

 

「やったのです♪」

 

 

 空が青いね。天気も良くて眩しいけど、それよりも眩しく思える初めて見れば怖いかもだけど本当はとてもカッコイイ横顔。太陽の光でも提督の優しさの前では輝きが足りないと思えるね。それぐらいにこの人は眩しいよ。夕立も尻尾があれば勢いよく振っているってわかるもん。まぁ、僕も夕立のこと言えたものじゃないけど……提督が悪いんだよ?鈴谷達を救っただけじゃなく、海の底に散った駆逐艦の艦娘達を弔ってくれたって吹雪から聞いた。

 

 

 ありがとう……僕達艦娘を命あるものと見てくれて。

 

 

 提督は男の人で僕が思い描いていた理想の提督だった。みんな提督のこと気に入るのは当然なんだ。だからみんな提督と一緒に外へ出る勇気が出たんだ。僕だって外には興味があったけど正直怖い。

 特別なのは提督だけだと思う。元帥ともちょっと違う気がするけどそれが何なのかはわからないんだ。何となくそんな気がするんだけど今は置いておくよ。提督以外の人間達が僕達のことを見れば……うん、大体想像できる。でも電が今笑っていられるのは提督が傍に居てくれるからなんだ。

 

 

 電が大きな建物や広場の光景に興味津々で色々と青年に聞いてそれに応える青年を見ていると隣を歩く時雨はしみじみ思う。一人なら……艦娘だけならこんなところへは来られなかった。早朝の時間帯で世間では休日である為、道行く人影は見当たらない。それは運が良いと言ってもいいのかはわからないが、人目を気にせずにいられたからだ。

 

 

 艦娘の容姿は醜い。知っている者は誰もがそう感じる現実だ。青年が特別なだけであって時雨や電も以前は醜いという理由で理不尽な扱いを受けていた。それは鎮守府内に留まらず、醜いという美的感覚に差は生まれない。差が生まれないからこそ他人からどう見られるか……想像できてしまう。でも青年が自分達を求めたのならば応えよう、傍に居るから勇気が出せる。彼が一緒であるなら心強いだろうが、正直なことを言えばこれから向かう仕事先に行きたくない。それでも鎮守府から外の世界へと一歩を踏み出せたのはやはり青年の存在が大きいのだ。

 

 

 仕事先に近づくにつれてだんだんと口数が減っていく。電も先ほどの元気はどこへ行ったのやら……表情に不安の色が浮かぶ。時雨の足取りも徐々に重くなるのを感じた。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……苦しい。帰りたいって思いが強くなってくるのがわかる。電もそうだよね……

 

 

 時雨は我慢していた。それは何から?答えは視線だ。

 

 

 誰の?それはこの場にいる人間達からだ。

 

 

 何者?海と共に生きる漁師達。

 

 

 青年達が訪れている場所とは漁業関係者が集会などで使われる施設の一室。今までは深海棲艦の攻撃に晒されることから漁師達が海へと出向くことが出来ずに国からの補助金で生きていくしかなくなり、多くの漁師が海を去ることになった。そう、仕事とは深海棲艦から制海権を取り戻し、海上にはその姿を見ることが減ったことで再び海へと出向くことができるようになる。制海権を得てからもすぐに行動しなかったのは海上の安全性を確認しなければならなかった為であり、前々から漁師達との間で話し合いの場を設けるようと行動してきた。そしてようやく現実になったわけだ。

 現在集会所に居る彼らだが、青年の傍にいる時雨と電の表情は優れない。想像通りだったのだ。漁師達の視線が嫌悪感を含んだもので胸に突き刺さる。艦娘を初めて見た漁師の人間も居たが、視線を逸らされる直前に口元を押さえていたのもハッキリと捉えてしまった。

 

 

 ……提督が居なかったらもう逃げ出していたよ。やっぱり辛いし、そんな汚物を見るような目で見ないでほしいけど事実だから僕達が我慢すればいいんだ。提督に迷惑はかけたくないし、必要としてくれているんだ。僕達は必要とされることに喜びを感じて勝手にデートだと思い込んで付いてきただけだから……

 

 

 時雨は胸の苦しみから解放されたいと思った。でもこれが現実であり、やらねばならぬ仕事でもある。それに青年が自分達を必要としてくれていることが何よりも嬉しく、その願いに応えたいと思った。彼が着任してからと言うもの時雨達は救われてばかりだ。この恩を返す為にも今は我慢すればいいと考えていた時だ。

 

 

「皆さん、艦娘を知っている方も知らなかった方もお気持ちは同じだと思います。ですがワタシはそれを認めたくありません」

 

「……なんだと?」

 

 

 ベテラン漁師の一人が青年の言葉に眉がピクリと動いた。その反応は好意的なものを抱いていないものだ。

 

 

 ……提督は何をするつもりなの?

 

 

 もしもの時の為にすぐに行動できるように力を抜く時雨、そして電も感じ取ったのか同じように動けるよう気持ちを切り替える。

 

 

「彼女達は確かに艦娘です。しかし皆さんは彼女達の何を知っていますか?好きな食べ物は?二人の名前は?深海棲艦相手にどう戦っているのかご存じでしょうか?何故彼女達は人間とこの国の為に自らの命を危険に晒してまで守ってくれるのか不思議に思ったことはありませんか?誰かその理由がわかる方はこの場にいるでしょうか?」

 

「そんなものは知らないがそれがどうしたと言うのだ?」

 

「知らないのに外見上で判断する。それは正しいとはワタシには思えません。()()()()()()()彼女達は醜く見えるでしょうけど、容姿は後回しにして彼女達のことをまず知りましょう。それからでも遅くはありませんからね」

 

 

 提督ったら……僕達をどれほど救えば気が済むんだい?でもそれが提督なんだね。

 

 

 一人の青年による艦娘講義が始まった。

 

 

 ★------------------★

 

 

 やっぱりこうなったか……だが俺の予想通りの結果だ。何の問題もない。問題はこいつらを説き伏せねばならねぇってことだ。ちょっと骨が折れるかもしれないが、昇進の為にも頑張れ俺!!

 

 

 数人の漁師達はベテラン揃いでその中には女性も居たが、例にもれず()()だ。漁師達の誰かの奥さんなのだろうが、改めてあべこべ世界で自分だけがイレギュラーなのだと感じさせられた。お口直しならぬお目目直しの為に時雨と電へと視線を向ける……愛らしさにほっこりしていたのは秘密にしておこう。

 しかし二人の表情が優れないことも見てしまい、青年は無意識のうちに視線を逸らしてしまった。彼も無理に連れて来るつもりはなかった。「付いてきたい奴の中から選べばいいか」と楽観的に決めようとしていたし、提督故に無理に連れて来ることもできたがそうすると士気が落ちて今後の支障になりかねない事態を引き起こす可能性もあった。だが彼の想像通りなのも確かだ。

 

 

 艦娘は醜いのは誰から見ても一目瞭然。漁師達の視線が時雨と電を汚いものを見ているのと同じで嫌悪感を抱いているのがわかる。彼の想定通りなのだこの展開は。

 

 

 わかりきっている展開……青年はそれを利用することにした。それは何故か?

 

 

 こいつら漁師共を味方に引き込む必要がある。深海棲艦に怯えて民間人は生活しているところに救世主が現れたらどうする?救世主を称えるに決まっている。深海棲艦を打ち倒す力を持っている人間つまり提督だ。提督である俺がこの地域一帯を救えば「○○鎮守府A基地の提督さんは俺達、私達の為に深海棲艦と戦ってくれる英雄だ!」と認識される。そうなれば俺の意見に反対する者が減り、言うことを聞きやすくなり避難誘導やもしもの時の為に手助けにもなるだろう。しかしだ、深海棲艦から守っていただけではこいつらの信頼は勝ち取れない。信頼を勝ち取るには生活を何とかしてやらねぇといけない。

 深海棲艦によって大打撃を受けたのは言うまでもなく漁師。生活保護の補助金を貰って生活しているがそれだけでは精一杯だろう。戦争が始まってから漁師を辞めたとも話は聞いている。こいつらはそれでも漁師を辞めなかった連中だ。海に生きることを誇っているはずだ。それ故に今まで我慢して来たが、そろそろ我慢の限界だろう。

 

 

 青年は漁師達と対面した時から観察していたが、嫌悪感を抱く視線以外にも苛立ちが込められている視線を感じていた。

 

 

 ずっと深海棲艦との拮抗状態で変化がなく、生活は厳しい状況。その苛立ちを深海棲艦に向けても届くことは決してない。向けても返り討ちに遭うだけで手が届くことがない。だから状況が変わらない原因となっている提督や艦娘に対して八つ当たりのように苛立ちを向けるしかないんだ。人間って哀れな生き物だよ……まったく、こいつらのヘイトまで俺が解消してやらねばならねぇんだからよ。だがらこそのこの場だ。

 艦娘を信頼させただけでは俺の盾は鎮守府内のみだ。だがこいつら漁師を信頼させれば外にも盾の予備を置いて置ける。俺が提督を辞めさせられそうになったらきっとこういうだろう……

 

 

 「俺達、私達を救ってくれた外道提督を辞めさせるな!!」と抗議運動にまで発展するかもしれん。民間人は数が多いのが強みだ。数は力なり……いい言葉だぜ。どんどん俺を取り巻く信頼と言う名の砦を築き上げ、俺に仇為す者達を逆らわないようにさせる……完璧な作戦だぜ。その為にもこいつらと艦娘との関係を改善しなければならない。難しい問題だがやらなければ俺を守る頑丈な砦は崩壊するのは目に見えている……やってやるしかねぇ!俺の演技で哀れな民間人共を騙しきってやるぜ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦娘と言うのは建造させて生まれてきます。そこは人間であるワタシ達とは根本的な違いが見えます。しかし恐れないでください。生まれて来る過程は違えども意志があるのです」

 

「彼女達の好みは人間のワタシ達と同じように娯楽で楽しんだり、食事でお腹を満たすと満足します。知っていますか?プリンをスプーンで突いて揺れるのを見て楽しむ艦娘だって居るのです。それに運動すれば汗をかき、お腹が減る。転べば痛みを感じますし、トイレに行ったり、睡眠だって十分な時間を取らなければ寝不足になって調子が悪くなります」

 

「深海棲艦と戦う術を艦娘は持っています。到底人間では扱うことのできないもの、それをワタシ達は艤装と呼び、艦娘はその艤装を体に装着して戦い傷つきます。傷つけば血が流れるのを見たことがありますか?ワタシはあります。その血は人間のワタシと何も変わらない赤い色をしていました」

 

「戦いに勝利すれば喜び、負ければ悔しい。誰かが犠牲になれば悲しみ、涙を見ました。そこに人間のワタシ達と大差がありますか?本来ならワタシ達が負う筈だった苦しみを艦娘達が代わりに背負ってくれているのです」

 

「人間と艦娘との種族の違いはあれど、感じたり考えたりすることは何も違わないはずです。価値は容姿で決まるものではないと言いたい。外見で決まるなら人間同士で争ったりしないはずですからね。ワタシは……外見だけで判断するのは間違いだと思っています。そして人間と艦娘との関係が平行線のままだと必ずこの国は落ちる……そう断言できます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「漁師の皆様、もう一度考えてください。周りがこうだからとか、これが常識だからだとかではなく、己の心に問いかけてみてください。それでも答えが同じなら……ワタシは何も言いません」

 

 

 青年の艦娘講義は長々と続き、ようやく講義は終わりを見せる。今まで艦娘と言うものをよく知らなかった漁師達に誕生から散り際まで、生活から人間との差異を彼なりにまとめて語った。その中では青年自身の体験談も含まれており、先ほどまで抱いていた苛立ちや嫌悪感を含んだ『艦娘は醜い存在』から『艦娘がどういった存在』なのかに意識が切り替わった。まだ納得は出来ていないだろうが、『醜い存在』から別の視点に興味を持ったということが大切だ。

 

 

 『食わず嫌い』という言葉があるように、食べたことがなく、味もわからないのに嫌いだと決め込むことやその人のことを意味している。食べて初めて美味しいかどうかがわかるのだ。そもそも嫌いな食べ物には関心を持つことはない。関心があるなら一口でも味わってみようと思うはずなのだから、それと同じように関心をまずもらわないといくら時間をかけて考え抜いて作った100点満点のスピーチでも点数は0となる。漁師達を講義に釘付けにさせることに成功した事で彼のスピーチは0点には少なくともならないだろう。

 

 

 その証拠に集会所は誰もが沈黙した空気に包まれていた。

 

 

 後もう少しだ、後もう少し押しておこうか。こいつらは今、一度に大量の情報を得たことで思考する時間を欲している故の沈黙だろう。言葉って言うのは時として刃となり他者を傷つけるが、時として魔法となり他者の心を惑わすことだってできる。そうだ、今がその時だ!

 

 

「それともう一つだけ言っておくことがあります」

 

 

 一声に沈黙状態の漁師達の意識が青年に注がれる。

 

 

「艦娘はワタシ達の為に戦っているのです。そういう風に生まれて来た存在だと思えばそうかもしれませんが……人間を守る理由は違います。守るのは彼女達がそうしたいと思っているからです。何故なら彼女達は……人間とこの国が好きだから」

 

「「「「「……」」」」」

 

「そこに欲があると言えばあると思います。活躍したところを見てほしい、仲良くしたい、褒められたいと言ったことは欲です。ですがそれも人間と変わらない……でもそれは人間とこの国が好きだからワタシ達の代わりに戦ってくれるのです。いえ、そうではありませんね。()()()()()()()()()()()必要があるのです」

 

「だ、だがあんたは戦えるのかよ?深海棲艦は人間の武器では倒せないんだろ?」

 

「倒せないのは確かにそうです。ですがワタシは艦娘達と共に戦ったと言えます。戦場にいる艦娘に指示を出すことは共に戦っているに含まれるでしょう。それ以外にも士気を維持できる食生活を用意したり、戦力を低下させないように誰も轟沈させないように作戦や日頃の訓練に精を出させること、戦いで傷ついた者達が帰って来れる場所を築き上げることで共に戦っている……そうと言えないでしょうか?」

 

「「「「「……」」」」」

 

「先ほどから言ってある通り外見だけで判断するのは間違いだと思っています。人間と艦娘との関係が平行線のままだと必ずこの国は落ちるとも……そして今、最も必要なのは艦娘と共に戦うことが肝心です。ワタシが提督だから共に戦えているとか関係ありません。戦場に出ないから戦えないではなく、彼女達を理解し、支えとなることで艦娘は更に力をつけることになるのです。守りたいと思う気持ちが強さに繋がり、信頼が艦娘に力を与えるのです。これから先、深海棲艦との戦争が激化していく中で、賢明なる漁師の皆様が何をしなければならないか……正しい答えを出してくれると信じています」

 

 

 拍手はない。講義は真の終わりを迎えた。これ以上長々と続ければ夜になってしまう……現に気がつけばいつの間にか夕暮れ時、赤色の絨毯(じゅうたん)が一緒に広がっていた。講義だけに時間を割いてしまい、仕事の話はまだできず区切りをつけたわけだが……

 

 

「……提督さんよ、仕事の話は後日にしたい。今日は帰ってくれ」

 

 

 一瞬機嫌を損ねたかに見えたが、何やら漁師達は思考を整理整頓する時間を欲している様子だった。この回答に青年は満足し集会所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手応えはまぁまぁって言ったところか。あいつらに迷いが生まれている様子だったが、これは良い方向だ。何故だと?それはこうだ。

 迷いとは決定的な回答が出来ずに判断が曖昧になっていることだ。心に隙が生まれ「あれ?この人の言っている事……正しいかも?」と疑いを持てば自身が今まで正しいと思って来た行動に疑問点が生じる。そうなれば見方が変わり、こちら側の意見も聞き入れやすくなるってもんよ。あの豚野郎ほどではないが、頭が固い奴は何人かいるだろうな。自身が正しいと人の意見を聞き入れない傲慢な奴はこの世界には多々居る。そう言う奴は厄介者で今後上手く誘導出来ればいいんだが、急ぎ過ぎてヘマをすれば台無しだ。今はあいつらの返答を待つしかない……が、その前にだな……

 

 

 夕日の光を浴びながら鎮守府へと歩を進める青年はその間に色々と今日の出来栄えや反省点などを上げていく。次の機会に生かすためだ。しかし先ほどから気になっていることがあった。

 

 

「うぅ……ひぐぅ」

 

「……」

 

 

 背後から聞こえて来る嗚咽が聞こえて来る。

 

 

 電は涙を溢れ出しながら、時雨は瞳に溜まった涙を時より拭う仕草をしており、夜の街でその姿は注目の的だ。見方によれば青年から何かされて嫌々付いているように見える。通行人の何人かは声をかけようとしたのだろう近づいて来たが、二人の容姿を視界に入れると関わるのを辞めた。時刻は夜の為に顔が見えなかったのだろうが、見てしまった瞬間に関わりを辞めたのはやはり容姿が関係しているのだ。

 不細工であるが故に関わりを断ち切られてしまう。小さな子供を誘拐……などは不細工である為されないだろうが、誰も助けようとしてくれない。もし青年が本当に誘拐犯ならなんとも理不尽な世界だ。しかし今は状況が違う。

 

 

 この涙は辛いものではなく、嬉しい気持ちの現れだ。

 

 

 艦娘のことをここまで思ってくれている人はいなかった。時雨や電ですらあの美船元帥に対しても艦娘を大事にしていることが本当なのか疑いを持っていたぐらいだ。絶望的状況の中に居た訳でマイナス的思考に陥っても仕方なかった。青年と出会ったことでそのような考えは消えたが、先ほどの講義でどれほど自分達のことを大事に思っているのかを知った。それが嬉しいのだ。

 青年は昇進への道をより安全に進む為の姑息な作戦だったのだが、嘘は何一つ言っていなかった。深海棲艦を侮ってはいけない。艦娘だけでどうにかできる相手ではなくなっていく。そうなれば国は落ち、昇進の夢は儚く崩れ去る。そんなことは彼が一番望まぬことだ。

 

 

 豪邸のソファーで寛ぎながらド迫力の映画を楽しみ、高級ステーキにカニやエビを丸ごと使った海鮮料理……だけでは飽きるので、またには庶民的なハンバーガーやラーメンそしてデザートはチョコレートパフェ(DXサイズ)で閉める。毎日贅沢三昧&時より庶民的な生活を送る……その夢が崩れ去るのは何としても阻止したいのだ。

 その為に艦娘講義を披露したが、元々こうなることを予想していたとはいえ、言葉に詰まることもなく、台本すら用意せずとも彼女達の良さを口にできたのはきっと彼だからできたことなのだろう。本人にとっては昇進の為だと言い張るだろうが……それでいいかもしれない。

 

 

「おい、いつまで泣いているつもりだ?」

 

「うぅ……ひぐぅ……しれぇいかんさぁん……」

 

 

 うわぁ……電の奴め顔がぐちゃぐちゃじゃねぇか。鼻水まで出しやがって……ったく世話のかかる餓鬼だ。

 

 

「おい電、ジッとしてろよ」

 

 

 ハンカチを取り出して電の顔を拭くとぐちゃぐちゃになっていた顔が綺麗になった。醜い艦娘に綺麗と言っていいのかと思うかもしれないが、青年にとっては綺麗だから問題ない。でも電が顔を真っ赤にしていた。

 

 

「し、しれいかんしゃん!?き、汚いのですよ!!?」

 

「汚い?これで綺麗になったじゃねぇか。何を言っている?」

 

「――はわわ!!?」

 

 

 不細工な自分の顔をハンカチで拭くだなんてやめてくださいとの意味を込めて言ったつもりだったが、返って来た答えに更に顔が赤くなる。不意に綺麗と言われるなど思ってもいなかったし、まさかそんな言葉をかけられるとは……青年の顔を見れなくなってしまって小さな手で顔を隠してしまう電だった。

 

 

 

……ずるい

 

 

 そう隣から聞こえた気がした。見れば時雨が嫉妬を含んだ眼差しで、物欲しそうにハンカチを凝視していた。

 

 

「……鼻水付きのハンカチで拭いて欲しいのか?」

 

「……出来れば綺麗なハンカチがいいな」

 

「残念ながら今持っているのはこれだけだ」

 

「なら帰ってからで……ね?」

 

「いや、その必要は……」

 

「………………………………………………」

 

「無言の圧力はやめろ。はぁ……わかった。だがその前にどこかで食べて帰るんだったな」

 

「あっ、それはもういいよ」

 

「んぁ?なんでだ?」

 

「なんでも……今は早く帰りたい気分。食事はまた今度でいいんだ」

 

「そうなのか?電はどうだ?」

 

「電も今日は早く帰りたいのです。お食事は今度みんなと一緒がいいのです」

 

「そうか。ならさっさと帰るぞ。鎮守府(我が家)にな」

 

「うん♪」

 

「はい!なのです♪」

 

 

 そこには、帰ってからの青年とのやり取りを想像する時雨とほんのり赤色になった頬をした電の、青年に寄り添う形で薄暗く人通りの少ない鎮守府への道を鼻歌を歌いながら歩く姿があった。彼女たちが行きに感じた不安など消え去っていた。

 

 

今後の展開についてアンケートを行いたいと思います。アンケート結果によって話の内容に矛盾が生じれば直す可能性もありますのでご了承ください。○○鎮守府R基地の艦娘は青年が……

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