それでは……
本編どうぞ!!
『提督』それは艦娘達にとってかけがえのないものとなる存在であり、深海棲艦に唯一対抗できる艦娘達を指揮する者。鎮守府で艦娘と共に屋根の下で暮らすことを強いられている。しかしこの世界にとってそれは拷問に等しいことでもあった。
艦娘は醜い容姿である。見ているだけで吐き気を
そしてここ○○鎮守府F基地に話を向けよう……
○○鎮守府F基地の一室の扉の前で佇む一人の艦娘が居た。
川内型の2番艦である神通だ。彼女はお盆を持ち、その上には一人分の食事が用意されていた。
「あの……提督、お食事をお持ちしました」
「………………………………………………」
提督と言っていることから部屋の中には○○鎮守府F基地の提督が居ることが窺えるが、神通が声をかけても返事はない。その返答がいつも通りのように神通はお盆を部屋の前に置いてその場を去った。
彼女の表情は暗く、力無く歩いた先は執務室だ。いつも通り重く感じる扉を開けばソファの上で寝息を立てて眠っている加古が目に飛び込んでくる。途端にキッと瞳が鋭くなる神通。
「加古さん!!」
「おわぁ!!?」
神通の声が執務室を響き渡った。驚いた加古はソファから滑り落ちて腰を打って痛そうにしている。
「古鷹ごめん!……って神通か。古鷹だと思ったじゃんか」
「古鷹さんにも後で怒ってもらいますから安心してください」
「それはやめて……って神通はまたあいつに食事を持って行ったのか?もう止めなよ、食事もただじゃないんだし、勿体ないよ。それにあいつに望みをかけても無駄だよ」
「――ッ!!」
加古の言葉に怒りの感情が湧き上がる。しかし加古がそう思うのも無理はないことだった。だから神通は湧き上がった感情を押しとどめることにした。
「………………………………………………」
ここは先ほどまで神通が訪れていた部屋だった。ガチャリと扉がゆっくりと開かれ、廊下を見回すと誰も居ないことを確認した後、お盆に乗せられた食事を引き入れた。
○○鎮守府F基地の提督はまだ若き男性だ。
この若者がそうであり、名は
弱樹提督は自身の意思で提督になった訳ではなかった。
両親共々軍人である家系に生まれ、男性では珍しく厳しい教育方針で育ってきた。しかし彼は臆病な性格をしており、厳しい環境に苦しんでいたが、それでも両親のことは嫌いになれずにいた。それ故に両親の方針に逆らえず軍人になることを定められた若者である。
訓練学校に通い、厳しい訓練に何度も耐えかねて逃げ出したい衝動に駆られたが、両親の期待を裏切れない彼は我慢した。卒業できるまでついてこられたことは奇跡と言えるだろう。臆病な性格の割には奥底に意外なガッツは持ち合わせているようだ。臆病な性格だがそこそこ優秀な成績を残したことで提督に抜擢されたっと言うよりも両親の取り計らいである。勿論彼は拒むことができずに、半ば強引な形で〇○鎮守府F基地へとやってきた。
艦娘の容姿は写真や映像で見るよりも実際に目にすれば明らかな違いがあった。視覚に加え、嗅覚、聴覚、感覚が刺激される。近くで見れば見るほど嫌悪感を湧き上がらせ思わず息が止まった程だ。後から込み上がる吐き気を覚えトイレに駆け込んだ記憶がある。
着任した頃の弱樹提督は我慢した。容姿に問題があるのはわかっていたことだったので我慢すればいいだけだと自身に言い聞かせ、提督として振舞おうとしていたのだ。初めは良かった。しかし深海棲艦と彼女達が戦う姿を直視してしまった彼は恐れた。
艦娘が深海棲艦を沈める姿を見た。人間ではどうすることもできなかった深海棲艦をあっさりと沈めてしまった。人間と変わらぬ(容姿の美しさを除いて)姿をした彼女達がそれ程の力を持っており、悠々とその力を振るうことができてしまう。もしあの力が自身に振るわれれば……そう思うと恐怖が生まれた。艦娘が人間には危害を加えられないと言うことも知っていたが、湧き上がる人ならざる者への恐怖を押しとどめることは出来なかった。
次第に艦娘達と会う時間は減っていった。心配する艦娘達、罵倒も暴力もなく、提督だと言うのに小心者だったが、ちゃんと仕事は出来ていた。乱暴な運用方法を取ることもせず、会話や対面していた時間は少なかったものの嫌いにはなれなかった。そんな彼の役に立とうとしていたが、ある日を境に彼は部屋に閉じこもることになる。
決定づける出来事……それが起こったのは嵐の夜だった。
元々○○鎮守府F基地の初期艦は川内、神通、那珂の三人。この三人は姉妹艦同士で練度が最も高く、鎮守府周辺を深海棲艦から奪い返す為に組まれた攻略部隊。川内率いる水雷戦隊が鎮守府周辺の深海棲艦を撃破し作戦は成功。上機嫌の川内達だったが嵐に遭遇し、吹き荒れる風に思うように進めず、視界が最悪の中での帰路となった。
しかしこの裏には多くの不安があった。作戦を実行するにあたって問題となったのはやはり嵐、気候は戦況を大きく左右するものであり、作戦当日の天気を
とある鎮守府の若き提督が鎮守府近隣海域の制海権を取り戻した知らせが届いた。それもそこの鎮守府は元々ブラック鎮守府で、軽視派の人間が支配していた場所であった。新しく若き提督が着任したものの、資源も戦力も他の鎮守府より乏しい状況で突破したのだ。これにより人類は一歩巻き返したことになった。しかし良いことばかりではなかった……少なくとも弱樹提督にとっては。
この時、彼はまだ鎮守府周辺に現れた深海棲艦をちまちま撃破しているぐらいの戦果であった。とある鎮守府の若き提督と彼は同期で同じタイミングでの着任だったがここまで差がついてしまった。元々ここはブラック鎮守府でもなく、資源にはだいぶ余裕があり、戦力も悪くないと言える。それなのに大した戦果を上げることが出来ずにいたことが両親の目に留まり、お叱りを受けた。
それだけではない。日が進むにつれ、両親の存在が頭の中を巡り、そして一向に環境が変わらぬことへの不満が所々から声があがる。周辺の住民達から向けられる視線に責任と言う重圧がのしかかっていく。
焦る彼はある情報を手に入れた。深海棲艦が一つの島に集まりつつある……つまり侵攻してくるのだ。早めに叩かなければ鎮守府が狙われ自身の命が危ないと感じた。そして国そのものも……しかし残された時間はあまりなかった。数日後にでも攻め入る準備をしている深海棲艦を叩くに絶好の時があろうことか嵐の日なのだ。その島はここから決して近いとは言えず、嵐に見舞われるのは避けられない。嵐を待った方が艦娘達の為になるのだが、嵐が過ぎれば準備を整えた深海棲艦の群れが攻めて来る。合流してしまったら最後、群れと化した深海棲艦を撃破する戦力はなく、援軍を要請しようと艦娘の一人が声を上げても彼は承諾しなかった。
両親の期待に応えなくてはいけない。自身の力だけで守り切れないと知られた時が怖い。失望されるのは嫌だった。誰かが聞けばそんなことを言っている場合ではないだろう!と喝を入れるだろう。もし守り切ることが出来なければ待っているのは想像も絶する地獄絵図が広がることは容易に想像できたが、彼には勇気がなかった。臆病な性格がここで仇となる。
焦る心、恐怖心、プレッシャーが弱樹提督を苦しめた。しかし答えを出さねばならぬ非情の決断を迫られる。そして彼が出した答えは自らの戦力だけで深海棲艦の溜まり場を襲撃する強行策だった。これには艦娘達は抗議の声を上げたが、彼は聞き入れない。これ以上苦しみたくない彼は無理やり提督命令として作戦を決行したのだった。
結果は成功と言える。損害は無償ではなかったが、誰も沈まずにいられた。それに夜戦での戦いだったことで上機嫌の川内と呆れかえる仲間達。後は嵐を抜けて鎮守府へと戻るだけだった。その部隊でも気を抜くことをしなかった神通は気づいた。
無数の魚雷が接近していたことに。だが気づいた瞬間爆発した。大破状態にまで追い込まれた神通が見たものは新たなる深海棲艦の姿だった。
気を抜くことをしなければ気づけた魚雷。だが神通は気を抜いていなかったが、生憎の嵐でしかも夜……これが最大の敵となったのだ。嵐の夜でなければ川内達の練度ならば問題はないはずの敵だったが、今となってはもう遅い。次から次へと砲撃を受け、仲間が沈んでいく。そして……那珂が沈んだ。姉の川内、神通の目の前で。
川内は吠えた。それは夜戦で舞い上がった自身への戒めか、妹を沈めた深海棲艦への怒りか、それとも両方か……最後まで残ったのは川内と神通だけだった。最悪の戦果となってしまい、妹や仲間を失ったことで冷静さを失った川内は弱樹提督を責めた。彼の作戦は強行策だった。しかし川内も自身に責任があることは承知しているつもりであったが、那珂を失った怒りと悲しみは正常な判断を曇らせた。神通に止められるも川内は止まらなかった……いや、止めることができなかった。
大粒の涙を流していた。自身の不甲斐なさ、妹を守れなかった、寝床を共にした仲間を失った悲しみが留めなく溢れた。翌日から川内は深海棲艦を許さなかった。怒りに支配された川内はあろうことか神通の制止を振り切り多数の深海棲艦へ突撃した。そして……川内は帰って来なかった。
それからしばらくして軽巡ヘ級が鎮守府周辺に現れた。しかしこの深海棲艦は非常に強かった。一人、また一人と艦娘が沈められてしまい、神通が相手取ったがお互いにボロボロの状態にまで追い詰められた。軽巡ヘ級は姿を眩ませたが、今のところ確認はされていない。
強行策で多くの艦娘が沈み、川内の轟沈、そして軽巡ヘ級……弱樹提督は軽視派ではない。しかし穏健派でもない。小心者で軍人にさせられた若者だ。そんな若者である彼は艦娘に対して兵器がどうこうとかの問題は関係なかった。命あるものが死ぬ……臆病なだけで人の心は持っていた。
例え艦娘が人ならざる者だとして、その事実に恐怖したとしても、彼女達を道具として見ることはできなかった彼だが……多くの
それからというもの彼は一室へ籠り、提督の座を放棄して己の殻の中に閉じこもった。
「………………………………………………」
時間が経ち、冷たくなった食事を摘まむ。目の下にはくまが目立ち、生気のない瞳で食事を食べ終えた弱樹提督は布団に身を包む。何日経ったどうかなんて憶えておらず、何もやる気が起こらない。流されるままの人生を過ごして来たが、今まさに悪夢にうなされていた。
人ならざる力を持つ彼女達が正直言えば怖い。プレッシャーに負け、強行策を決行した。もし援軍要請を出していれば少しは変わっていたかもしれないがもう手遅れ。最悪の結果だけが残り、艦娘達を沈めてしまったことへの罪悪感が悪夢を見せる。責める川内の姿、作戦の犠牲になった那珂や仲間達が弱樹提督の夢に現れる。何度この悪夢で目が覚めたか……忘れたかった何もかも。
しかしふっと思い出す。神通達のことだ。提督である自分が居なくても鎮守府を維持してくれている。毎日食事まで運んでくれる神通の顔が特に鮮明に浮かび上がる。そのせいでちょっと吐き気がするが、容姿が醜いのは認めるしかないあるまい。醜くも今も必死になっているだろう姿を容易に想像できた。
「……神通……ごめん……」
それでも恐怖心には打ち勝てなかった。再び悪夢の
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あれから全て変わってしまった。それでも私は……提督を恨むことはできません。
○○鎮守府F基地で初期艦だった神通は執務室に居た。それも本来ならば提督が居るべき椅子に腰掛け、机の上には書類が積まれており、弱樹提督が部屋にと閉じこもって以降、提督の仕事は神通が中心に執り行っていた。そしてそれを支える小さな駆逐艦達。
「はい、こっちは終わったわ神通さん」
「ありがとうございます雷さん」
「もーっと私に頼っていいのよ」
「わ、私だって頑張ったし。雷だけ頑張った訳じゃないんだけど!?」
「……
「暁さんも響さんも無視していた訳じゃないんです。お二人もありがとうございます」
「ふふん♪当然よ、大人のレディーなんだから♪」
「
神通を手伝っていたのは暁、響、そして雷の第六駆逐隊だった。そして執務室には怒られている加古とその姉である古鷹が居た。そう、これが全員だ。○○鎮守府F基地は嵐の強行作戦以来多くの艦娘が沈み、残ったのはここに居るメンバーだけとなってしまった。建造すればいいのだけの話だと思うだろうが、何故か提督が自ら建造を行わなければ艦娘は生まれて来ないのだ。これ以上の戦力増強は期待出来ずにいるが、それでもめげずに提督の代わりに頑張っている。
みんなのおかげでここを維持することができています。ここに提督が居ないのは寂しいですが……あの人も苦しんでいました。そして今も……私が何とかしないと。
弱樹提督が着任した当初から神通は彼の事を知っている。最後に残ったたった一人の初期艦それが彼女だ。初めは男性と言うことで緊張したが、対面し気分を悪くした様子の弱樹提督を見ると落ち込んだ。多くの提督が艦娘と対面しただけで気分を害して辞めていくが、彼は我慢してまで○○鎮守府F基地の提督として着任してくれた。そのことが彼女にとって嬉しかった。
噂では醜いと言う理不尽な理由だけで暴力を受けることもある艦娘が居ると聞く。それに比べれば仕事として付き合ってくれるだけでもどれほどマシか、その中でも○○鎮守府F基地は更にマシな方だったのだ。とある鎮守府では男性提督と艦娘が一緒に仲良く食事をするという夢のような楽園があるのだが、神通は知らぬこと……それでも弱樹提督が彼女にとっての提督となった。
嵐の日から全て変わってしまった○○鎮守府F基地。弱樹提督は今も苦しんでおり、少しでもその苦しみを和らげてあげたい。未だ平行線だがいつか戻って来てくれると信じている神通だが……
「もう説教はそれぐらいにしてよ~古鷹!!」
「加古が悪いんです。説教されて当然でしょ」
「でも……どうしてあいつの仕事をあたし達がやらなきゃなんないのさ?あいつただ飯食って部屋に籠っているだけなのに。居るだけ無駄な奴なのにいっそここから居なくなればいいんだよ」
「加古!!」
その言葉を聞き逃すことが出来なかった。加古は弱樹提督のことを良く思っていない。なんせ初めに援軍要請を申し出ることを提案したのは彼女なのだ。神通も古鷹もこの提案は通ると思っていた……のに強行策を取った。勿論神通達は止めようとしたが、頑なに譲ろうとしなかったことで仲間が沈んだ。加古が愚痴をこぼすのもわかるが、ここではそれは禁句だった。
バン!っと叩かれた机が砕けた。鬼の形相で加古を睨みつける神通の瞳に暁達が震える。今朝から加古が弱樹提督に対する失言が多いことに神通の堪忍袋の緒が切れたのだ。この場に居る艦娘の中で一番長い付き合いがある神通は彼を侮辱されることがどうしても許せなかった。そして鬼の形相で睨みつけられている加古も神通を睨み返している。彼女も嫌気が差していたのだ。何故あんな奴の意地に巻き込まれ多くの仲間達が沈まなければなかなかったのか。
「なにさ、文句でもあるの?」
「……加古さん、最近のあなたはらしくないですよ」
「それは神通もじゃないか」
「……私は冷静です」
「嘘だね。あたしだってこんな事言いたくないけどさ、あいつのどこがいいわけ?確かに初めは仕事もできるし、そこそこ話し相手になってくれるからいい人だなって思ったけど、援軍要請も出さずに無駄な意地張って、無謀な強行策を取ってみんな沈んだ……結局あたし達を道具として見てる連中と一緒じゃないか」
「提督はそんな方ではありません!!!」
「「「「ひっ!!?」」」」
神通の怒号に古鷹を含め暁達が小さな悲鳴を上げ、駆逐艦達が古鷹の後ろに隠れる。響と雷は震えており、暁は今にも泣き出してしまいそうだ。険悪なムードが場を支配し、古鷹はこの状況をどうしかしなければと考えていた時だ。
電話が鳴った。険悪だったムードが一瞬だけ緩む。
こんな時に……一体誰ですか!!!間違い電話なら許しません!!!
機嫌がすこぶる悪い神通は仕方なく受話器を取った。
「……はい、こちら○○鎮守府F基地です……へっ?あ、あの……は、はいそうです!!……いえいえそんな!!!」
不機嫌だった神通の態度が変わり古鷹達は相手が誰か気になる様子……その誰かとは?
『「○○鎮守府A基地の提督、外道丸野助だ」』
外道提督の登場である。彼は神通達○○鎮守府F基地に関わろうと言うのだろうか?
今後の展開についてアンケートを行いたいと思います。アンケート結果によって話の内容に矛盾が生じれば直す可能性もありますのでご了承ください。○○鎮守府R基地の艦娘は青年が……
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引き取るべき
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引き取る必要はない