あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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お泊り中の青年達。そこで何も起こらない訳もなく……「提督」とは何だろうか?


それでは……


本編どうぞ!




3-9 二人の提督

「はい、お茶を持って来たわ」

 

「ありがとう雷」

 

「ふっふ~ん♪瑞鶴さんはもっと私に頼っていいのよ?」

 

 

 

 ○○鎮守府F基地、そこでは普段これほどまでに賑やかな光景を見ることはできない。しかし今日は違っていた。お客様がいらしているのだ。

 

 

「電がそっちに居るのね。ふふん、お姉ちゃんが居なくて寂しがっているに違いないわ。レディーである暁なら一人でも全然余裕だけどね」

 

「ほう、夜中トイレに行くとき誰かに付き添ってもらっているのに?」

 

「ひ、響は余計なことは言わなくていいの!!!」

 

「そうなの?帰ったら電に言わないといけないわね」

 

「そ、それはやめて叢雲さん!!」

 

 

 青年御一行は○○鎮守府F基地に泊まることになった。初めての別の鎮守府からやって来たこともあって特に暁達駆逐艦娘は張りきっていた。

 

 

「おお!これはまた美味しそうなカレーですね。あっ、そうだ古鷹込みの一枚いいですよね?」

 

「あ、青葉それはやめて!私みたいな……醜い姿が写真に残るのは……」

 

「大丈夫ですよ、司令官は気にしません。お話したでしょ?青葉達の司令官は変わり者だって」

 

「それは聞いたけど……」

 

 

 食堂で夕食であるカレーを食べながら団欒の時間を過ごしているところだ。各自思い思いに好きなことをしている。

 

 

「ふ~ん、あんた変わってんね……あたし達のような奴と一緒に食事する男なんて初めて見たよ。それに妖精なんて初めて見た」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

「提督と艦娘が揃って食事をすることはない。それが普通なのにこうしてあたし達を見ても平然としてるっておっかしいんだ。妖精も見える人間なんてそう居ないってのも知ってる。詳しい話を聞いた時は何言ってんだこいつって思ったよ。川内もそう思ったよね?」

 

「うん、ねぇ何とも感じないの?」

 

「何とも感じないことはない。かわい……ゴホン、俺が言いたいのは容姿なんて関係ないってことだ。それで優劣を決める奴はバカだ。無能な奴が頂点に立てば下の者は苦労するし、勝てる戦いも勝てなくなる。人間と艦娘、互いに協力し合わなくてはこの先永遠に深海棲艦に勝てなくなるだろうよ」

 

「そうなんだ……」

 

「あんた変人だけどいい人なんだね」

 

『「へんじんじゃないよ、へんたいだよ」』

 

「変人は余計だ……っておい今なんて言った?」

 

『「なんにもいってないよ」』

 

 

 その中でも青年は当然のように参加していた。食事は食堂で食べるのが基本であり、他の鎮守府に行ってもそれは変わらない。やはり男が艦娘と一緒に食事をする光景が珍しいのか暁達に遠目に眺められていた。しかも妖精達のおまけ付きだ。こんな光景は彼女達は初めて見るので興味を惹くのは当たり前。

 しかしそれだと興味津々に見つめられていると気になってしょうがない青年は「お前達もこっちに来て食べろ」と言った。醜い艦娘が一緒に食事をするなど不快にされてしまうので断ったが、そこは青年だ。適当な文句を並べて説き伏せてしまう。そわそわと落ち着くことができないでいた彼女達だったが、叢雲が「こいつは変人だから気にしてないわ」と経緯を話したことで納得してくれたわけだ。

 

 

 加古と川内の眼前で周りの煩さも気にも留めず、嫌悪感を示すこともせずに会話しているなど普通では考えられない。だから誰もが『変人だけどいい人』だと安心した。妖精達がその証拠でもある。しかし本人は()()()()を演じているだけではあると主張するだろうが。

 

 

「加古さんと川内さん、それに外道さんにも雷からお茶のプレゼントよ」

 

「おぉ、サンキューな。だけどお酒が良かったなぁ……」

 

「……ありがとう……雷」

 

「……うん、もっと褒めてくれてもいいのよ?」

 

 

 加古の呟きは無視され、川内のお礼の言葉に寂し気な笑みを浮かべた雷。雷なりに川内を心配しての行動だった。軽巡ヘ級によって沈められた仲間達を思うと不憫だが川内は悪くないと答えるだろう。だけど本人は心に影が差している……証拠にお礼を言った川内の言葉は謝罪にも聞こえたぐらいだ。

 青年にもそう聞こえた。だが何も言わずに視線を逸らした時に見えた。神通が何かしていた。よくよく観察していると、お盆に一人分の食事を載せてどこかへ運ぼうとしている。その行動の意味は想像できる。

 

 

「弱樹の奴……じゃなくて、弱樹提督に食事を運んでいるのか」

 

「ああ、そうだよ。いつもあいつに食事を持っていく係は神通なんだ。そこは誰にも譲る気はないみたいでね。それに外道提督、あいつのことを提督なんて言う必要はいらないよ。そんな価値のある奴じゃないから」

 

「話は聞いたが、それでも加古の提督だろう?」

 

「あたしはあいつを提督だなんて思っていないし、なんなら早くどっか消えてくれた方が良いって思ってる」

 

「……私もそうかな」

 

「ちょ、ちょっと加古さん!川内さん!」

 

 

 どうやら二人にとって弱樹提督は提督として見られていない。頼りなく、無駄なプライドを優先したこと、しまいには提督の職務を放棄したことが信頼を失うきっかけになったようだ。

 

 

「………………………………………………」

 

 

 黙っていた青年は少し考える素振りを見せた後、カレーを胃にかき込んだ。

 

 

「雷、頼っていいか?」

 

「えっ?」

 

「カレー美味かった。片づけておいてくれ」

 

「あ、う、うん。任せておいてください」

 

「おいあんたどこに……?」

 

「……」

 

 

 何も語らず神通の後を追ったのだった。そしてその後を一人の艦娘が追うのを加古と雷は見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂からしばらくして辿り着いた見慣れた部屋。何度目になるだろうか、昼の食器が無くなっていることから中に居る人物が食べたのは間違いない。ホッとすることはない。ただいつもと同じ光景なのだから。今日も同じように食事を載せたお盆を置く……

 

 

「ここに居るんだな」

 

「――ッ!?外道提督!!?」

 

 

 声が聞こえて咄嗟に振り返った神通が見たのは青年だった。神通の後を追い、ここまで来た彼は一体何しに来たのか……そう思うと同時に期待の眼差しを彼に向けていた。

 

 

「どうして外道提督が……」

 

「何だっていいだろう。それよりも……弱樹提督居るのだろう」

 

 

 扉の前まで歩を進め、ノックもせずに呼びかける。一瞬中からガタリと音がした。知らない声が聞こえて身構えているのかもしれない。

 

 

「○○鎮守府A基地の外道だ。訳あって今ここに居る。話したいことがある」

 

 

 しばらく待っても何も返って来ることはない。こちらが話しかけているのに返事も返さないことに少しイラっとした。そして誰かが駆け付けた様子である。

 

 

「川内姉さん?」

 

「丁度いいところに来た川内、頼みがある」

 

「……なに?」

 

「この扉をぶち破れ」

 

「わかった」

 

「――えっ?!」

 

 

 青年の言葉に躊躇もせず行動に移した川内に神通は自身の耳と目を疑ったが、間違いではないと気づいた時は遅かった。扉は難なくぶち破られ、破片が散らばる。唖然としていたが、我に返った神通は扉を壊されて怒るよりも感情が動いていた。

 

 

「提督!!!」

 

 

 会えずにいた弱樹提督の姿を目にしたかった。彼女にとって彼が自身の提督だったから。

 

 

 ★------------------★

 

 

 見渡す限り部屋の中はゴミが散乱し、食器が洗われずそのまま放置されて匂いも混じり合い異臭がする。中心には布団が引かれており、そこには一人の若い男が髪はボサボサ、服は着替えていないのか汚れが目立つ。何日も風呂に入っていないことが一目でわかる程に汚かった。

 

 

 うっ!?くっさ!!?おえぇ……よくこんなところに何日も居座れたもんだ。それにしても……これが今のあいつか。俺が知っている弱樹とはまるで別人だな。臆病な性格だったが、中々の成績を残していたと記憶している。それがここまで落ちぶれやがって……それでも軍人かよ!!!

 

 

 変わり果てた弱樹提督を見て固まっている神通を退かし、驚愕と恐怖に怯えている若者へと近寄る。後ろでその様子を見守るは川内。

 

 

「弱樹提督、俺を知っているか?」

 

「……だ、だれ……で、すか……?」

 

「外道丸野助、お前と同じく訓練学校に通っていた者だ」

 

「そと……みち……」

 

 

 弱樹提督はその名に憶えたあった。将来有望だと見られていた人物だと。

 

 

「あ、あなたが……ぼ、ボクに……な、何の用ですか……?」

 

「何の用だと?本来ならお前のような弱虫野郎に用などなかったんだがな、用ができちまったんだよ。お前、自分が何をしているのかわかっているのか?」

 

「……」

 

 

 青年の言葉に唇を嚙みしめる弱樹提督は頭では理解している。しかし恐怖が彼を逃がさないと縛り上げ、視線を逸らさせてしまう。

 

 

「目を背けるな。見ろ、この部屋の有様を。自分自身の姿を」

 

「……」

 

「この鎮守府で起きたことは聞いた。俺はお前のことはあまり知らねぇし、興味もない。だがお前が優秀だったのは知っている。お前は提督になったのではないか?」

 

「……す、好きでなったんじゃ……ない……い、言われて仕方なく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だったらなんでここにまだ居やがるんだ!

 

「――ひぃ!?」

 

 

 怒号は鎮守府全体に響き、青年の剣幕に悲鳴を上げた。すると廊下の方から幾つもの足音が近づいて来た。騒ぎを聞きつけ叢雲達が駆け付けたが、青年は気にも留める暇などない。

 

 

「嫌ならやめればいいだろう!だがお前は部屋に閉じこもり、過保護にされていることをいいことに甘えやがって!挙句の果てには提督としての仕事も何もせずに役目を放棄した。それなのに提督に未だしがみついている……ここに居ることがその証拠だ」

 

「あっ……あぅ……」

 

「お前が嫌だ嫌だと駄々こねている一方で戦場へと向かう艦娘が居るんだ。そいつらは海に出たらもう帰って来ないかもしれないんだぞ……俺達はもう子供ではいられない。責任を負う立場になったんだ。俺達は責任を果たさなければならない。提督の役目は人々と国を守ることだけじゃねぇ。指揮することも重要だが、戦場へ出て行った艦娘達が安心して帰って来れる場所を作ってやる。共に戦うのが提督であり、俺達人間のやるべきこと……お前は何もせずにプライドで言い訳しているだけだ。てめぇ軍人なめてんのかぁ!!!」

 

 

 胸ぐらを勢いで掴み上げる。怯えた弱樹提督の顔から液体が流れぐちょぐちょで気持ち悪いが、それ以上に青年の怒りは頂点に達していた。

 

 

 俺はな、着任当初から問題だらけの鎮守府を建て直したり、妖精共(チビ共)に自腹で菓子を恵んでやったり、昇進の駒とも気づかず従ってくれる哀れな艦娘共(バカ共)の食生活から健康管理に至るまでやってやったんだ。俺はわざわざいい人間を演じ続けてきた。それもこれも昇進し、輝かしい未来の為にだ。だが豚野郎の時もそうだったように、お前らのような恥さらしが居ると俺も同類だと思われちまうんだよ!!!そうなったら昇進なんて夢のまた夢になっちまうだろうがぁ!!!

 

 

 青年の苛立ちは拍車がかかった。食生活を疎かにし、清潔感もなく、青年の目指すものとは真逆の不摂生な生活を見せられてはそう思うのも無理はない。それに軍人にさせられたと言えども、訓練学校を途中で辞める事なく卒業した弱樹提督の我慢強さは誇れるものだと認めても良い。しかし今はどうだ?軍人の「ぐ」の字も見当たらない。これには青年のプライドを刺激した。

 昇進し、贅沢三昧な夢を見ている。それだけならば軍人じゃなくとも、もっと他の仕事を見つければ良かったはずだ。しかし軍人の道を歩んだ。彼は人間であり、この日ノ本に生まれた。自分が生まれた祖国を訳の分からない深海棲艦という存在に好き勝手にされるなど許せなかった。だから彼は寝る間も惜しんで勉強と運動に精を出し、めでたく訓練学校に行くことができた。入学してからもその生活は変わらず、更なる厳しい生活にも弱音を吐かずに遂に提督の地位へと上り詰めたのだ。それなのにこれが自身と同じ軍人であり、提督であることに我慢ならなかった。

 

 

「うぅ……あぁ……」

 

 

 流れる液体は顔だけでは収まらず、下半身から流れ出た液体で布団を染める。その姿は惨めだった。背後で様子を窺っていた古鷹達の視線に失意の念が混じり、加古に至ってはため息を吐いた。だが神通だけは……

 

 

も、もうやめてください!!

 

 

 青年と弱樹提督の間に割り込んだ。その拍子に胸倉から手が離れ、神通が庇うように壁となる。

 

 

「何をしやがる。俺は今こいつと話をしているところだぞ」

 

「もうこれ以上はやめてください!外道提督の言うことは正しいと思います。でも……弱樹提督は私達のように醜い艦娘相手でも何も言わずに我慢してくれました」

 

「それは仕事上仕方なくだ」

 

 

 初めて艦娘と遭遇すれば大抵嫌悪感を抱き、中にはあまりの醜さに吐いてしまう。弱樹提督もそうだ。そして我慢できぬ者は着任してからすぐに提督の座から逃げ出してしまう。

 

 

「そうかもしれません……いえ、そうです。醜いことは事実なんですから……それでも逃げ出すことをせずに留まってくれました」

 

 

 しかし弱樹提督は神通が言う通り逃げ出さなかった。

 

 

「逃げださずに提督として私達と共に居てくれました。ですがあの日の出来事で弱樹提督は傷つき、艦娘が沈んでいく度に苦しんでくれました。おかしいと思うかもしれませんが、それが嬉しかったんです」

 

「なに?」

 

「苦しんでくれる……艦娘の命を重く感じてくれている。私……知っています」

 

「……何をだ?」

 

「艦娘を道具として扱い酷い人たちが居るってことを。その人達は艦娘が轟沈しても何とも感じないってことを……私は知っています」

 

 

 ○○鎮守府F基地で建造され、初めて出会った提督は彼女の背に居る臆病者。今まで外へ赴く暇さえなかったが、醜い容姿を持った艦娘が辿る結末が決して美しいものではないと言うことを知っていた。

 

 

「正直に言って弱樹提督は頼りないです。それはみんなわかっていることなんです。提督としては失格かもしれません。ですが私が提督に求めるもの指揮官としての才能でも能力でもありません。無いのであるならば身に着けて頂ければいい。最も欲しいもの……それは優しさです」

 

 

 彼女が語る言葉一つ一つに思いが込められ弱樹提督を擁護するものだった。甘やかしていると青年は思ったが気づいた。彼女の瞳に映るのは対面している青年ではなく、弱樹提督が映っていたことを。

 

 

「沈んでいったみんなの為に苦しんでくれた……臆病でも根は優しい人なんです。弱樹提督こそ理想の提督だとこの人に見たんです!他の誰かではではなく、私にとっての提督は弱樹提督だけなんです!!!」

 

「じ、じん……つう……」

 

 

 少々気弱で内気、控えめな性格な神通から思いもよらない強い口調と強い意思を感じさせた。相手が別の鎮守府の提督であっても己の胸の内をぶつけた彼女の背中を弱樹提督は見た。

 

 

 頼りになる背中だが、寂しそうだったのは見間違いではない。

 

 

 ……チッ、弱樹(こいつ)には勿体ないぐらい熱い瞳を宿してやがるぜ。最前線で真っ先に直接敵軍を叩く切り込み部隊である「華の二水戦」その部隊の旗艦を最も長い間務め上げたぐらいだし、俺に臆することなく言いたいことを言う度胸は、流石川内の妹にして那珂の姉と言ったところだな。

 

 

 青年が神通の度胸に感心し、背後で事の成生を見守っていた艦娘達に気づく。もう夜中でこれだけ騒いだことで彼女達にストレスを与えかねない。感情的になってしまったことを後悔してさっさとこの場から去ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「――ッ!!?」」」」」

 

 

 ○○鎮守府R基地でも聞いたことがあった音……鎮守府内に緊急事態を知らせるサイレンの音が響いた。

 

 

「――チッ、またかよ!!?」

 

 

 神様は青年に休息を与えようとしないのであった。

 

 

今後の展開についてアンケートを行いたいと思います。アンケート結果によって話の内容に矛盾が生じれば直す可能性もありますのでご了承ください。○○鎮守府R基地の艦娘は青年が……

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