また来年もこの小説をよろしくお願いいたします。
それでは……
本編どうぞ!
それはいきなりだった。
あいつが現れた。
あいつは「今度は臆病な人間ではなく、君達に相応しい提督になりたいんだ!!」と言った。
神通はあいつの味方だ。古鷹も暁達もあいつに最後のチャンスを与えた。あの加古ですら何かを感じて渋々だけど従った。けど私はチャンスなんてものを与えなかった。するとあいつは泣き出した。悪いなんて思わない……ごめん嘘ついた。ちょっとだけ心に来るものがあった。あいつの覚悟は伝わって来たし、私だって鬼じゃない。でも……一度沈んだ。
神通達の目の前で……そして蘇った。深海棲艦として。その後の記憶は曖昧だったけど、話を聞いて思い出した。ここのみんなを沈めたんだって。バカみたいでしょ?那珂やみんなを沈めた深海棲艦を恨んであいつに当たってさ、それなのに今度は私がみんなを沈めてた。神通達は許してくれたけど……聞こえるんだ。
私が沈めてしまったみんなの声が……私を責める。平然としているように見えているけど、結構参っているんだ。それでね、私は夜戦が大好き。なんでって……わからないの?実際やってみれば誰だって夜戦が好きになるよ。そう今までは言えたんだろうけど……そんな気分にはなれないよ。あの嵐の日を思い出すんだ……忘れもしないあの夜のことが。
○○鎮守府F基地の司令部、そこには青年と弱樹提督、夜戦では力を発揮できない瑞鶴、そして川内が残っている。瑞鶴はわかるが、川内が出撃しなかったのは彼女が拒否したからだ。
怖い……夜戦が怖い。夜が怖い。沈めたみんなが海の底から引きずり込もうとしているんじゃないかって思うと怖いんだ。だから私は出撃しなかった。臆病だよね、あいつのこと言えないじゃんか……
夜戦が大好きでいつもは「夜戦!夜戦!」とはしゃいでいるはずの姿はなかった。全てが変わってしまったあの日のことを思い出してしまう……深海棲艦にとって沈んだ仲間達、自身が深海棲艦へと変貌し、自らの手で沈めてしまった仲間達が変わり果てた姿で現れる。そんな予感が頭を過ぎり、背筋が寒く感じた。
「ちょっと大丈夫?」
「う、うん……だ、大丈夫……」
「そうには見えないけどね。やっぱり沈めた仲間のこと気にしているんじゃない?」
「……」
瑞鶴に指摘されても返す言葉がなかった。その通りだと沈黙は肯定しているものだ。
「……怖い?」
「……うん」
「そう……でも大丈夫よ。少なくとも提督さんの傍に居れば」
どっちの?と聞く必要はないだろう。瑞鶴が信じる提督は一人しかいないのだから。
「ねぇ、どうして外道提督はあんなにおかしいの?」
「う~ん……それは私も初めは思ったけど、それでいいって納得できたわ。前よりも待遇は断然良かったし、それに……や、優しくてかっこいいし……」
後の方が聞こえなかった。でも瑞鶴の頬が赤みを帯びていたのは気のせいではなかったが、今の川内にとってそれは何の感情を示しているものかはわからなかった。そしてやはり普通ではないと再認識させられる。
醜い艦娘と一緒に食事をするだなんてどうかしているし、叢雲達から青年の武勇伝の数々を聞いたので余計に訳がわからない。それに深海棲艦だった川内を神通達は受け入れてもらえないと不安を口にした彼女に勇気を与えた。その言葉で逃げることをやめ、現実に向き合った。おかげで受け入れてくれて涙を流しそうになった。それに彼はこんなことも言った。
『「……ま、まぁあれだ、受け入れられなかったら……俺の所に来い」』
青年は既に川内を受け入れていた。深海棲艦だった自分を入渠ドックへと入れてくれたことも聞いていた。そしてわざわざここまで自分を連れて来てくれた。何故会って間もない自分に対してここまでしてくれるのか不思議で仕方なかった。だから興味が湧いた。そして今もその背中を見て思う。
この人なら私を苦しみから解放してくれるのかな……?
変人の青年に川内も神通と同じように淡い期待を抱かずにはいられない。
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「……やはりこうなったな」
「み、みんな!?こ、この場合はええっと……ど、どうすればいいんだ……!?」
今、出撃した神通の部隊が問題に直面していた。戦力的な問題ではない。戦艦ル級が敵には存在するが、後方から叢雲と青葉の援護射撃により小破までには追い込んだ。叢雲と青葉は何も問題はないのだが神通達だ。特に駆逐艦の暁や響に雷が問題だった。
『深海棲艦は艦娘だった』そのことが頭を過ぎり、砲撃の軌道を逸らさせる。頭で理解していても納得できるものではない。今目の前にいる深海棲艦はもしかしたらと思うと……暁達は一度も砲撃が当たっておらず、古鷹と加古は敵に命中させているがやはりと言うべきか、沈んだ艦娘だと思うと引き金にかけた指に躊躇が生まれていた。
戦艦の火力は恐ろしい……早く決着をつけなければ被害が出てしまう。最悪な事態も想定しているが、それだけは避けなければならなかった。しかしこの状況になることを青年は想定していた。
吹雪達も一時的に士気が低下した。こうなることを想定はしていたが、真実をそのまま伝えるのを止めておけばよかったとは思わないさ。あいつらは現実を受け入れ、壁を乗り越えた。こいつらだってできるはずだ……いや、出来て貰わねぇと困るぜ。俺の昇進の為に贄の駒は沢山あった方が良いからな。しかもそれが他の鎮守府と来たもんだ。ここも俺の為に役立ってくれると思うと……クヒヒ♪
……しかしだ、弱樹の奴この程度で取り乱してんじゃねぇよ!提督になるとかほざいておいて、神通達が今戦っている最中にお前が勇気づけてやらねぇでどうすんだ!!期待に応えるんじゃねぇのかよぉ!!!
「弱樹提督!!」
「――は、はい!!」
「取り乱すな!!お前が取り乱せば神通達にも不安が伝わるだろう!これ以上、あいつらに失望されたいのか?」
「い、いや……嫌だ。ぼ、ボクはもう……神通達の期待を裏切りたくない!」
「なら堂々としろ。お前は提督なんだ。あいつらに声を届けて支えてやれ。指揮するだけが提督の役目じゃねぇって言っただろ?今までの自分とはおさらばしろ!!」
「そ、外道提督……は、はいっ!!!」
クヒヒ♪バカな奴だぜ。俺の演技にまんまと乗りやがって……利用されていることも知らずに頑張りやがって♪そうだぞ、俺の為に頑張るんだ。いい手駒としても需要するだろうから俺が優しく厳しく指導してやるからな。今だけは……な。
言っちゃ悪いが職務放棄したんだ。反省しているとはいえ、それ相応の罰が待っているだろうな。
弱腰になっていた弱樹提督は喝を入れられ、瞳に炎が燃え上がり、以前の弱樹提督とは瞳が違っていた。以前のダメな自分を捨てるかのように神通達に通信機器を使って声を届けている。その様子を傍で見守る青年は思う。
深海棲艦共を倒して海に一時の平和が戻った後はお前自身が罪を償う時間だ。だが今だけは
何度も何度も神通達の名を呼び続ける。思いを込め過ぎて涙と鼻水が垂れて傍に居る青年達にドン引きされたがその声は神通達にとってはいつになく逞しいと感じられた。考えられない……あの臆病で部屋に閉じこもっていた若者から発せられるものだとは思いもしなかった。
だが……悪い気はしなかった。寧ろ胸の内から熱いものが込み上がって来る。彼を否定した加古ですらも。
「司令官もやればできるじゃない!私だって一人前のレディとして頑張るんだから!!」
「実に
「なんだかパワーアップしたみたいに力が湧いて来ちゃった。雷、司令官のためにもっともっと働いちゃうね!!」
「ふふっ、こんな気分は初めてです。重巡洋艦のいいところだけじゃなく……古鷹のいいところを提督に見せます!!」
「まあ、なんだ……お前にも熱いものがあるんだな……意外だよ。その思いが今回だけにならないようにあたしが見ていてやるよ。深海棲艦共!あたしの加古スペシャルをくらいやがれー!!」
「提督……やっぱり私達の提督はあなただけです!戻って来てくれた……こんな私でも、提督のお役に立てて……本当に嬉しいです!!!」
それを人は絆と言うのではなかろうか?一度切れた糸、それがこうして提督と艦娘とが結びついた時、得られる力は装備でも近代化改修でも得ることができない程に強力だ。
見るからに動きが変わった神通達が戦艦ル級へ突撃する。叢雲と青葉が咄嗟に止めようとしたが二人は思い知る。ル級が放った砲撃は易々と神通達に躱され、次から次へとお返しと言わんばかりに砲撃の雨を降らせる。たとえ強力な火力を持っていようとも当たらなければどうということはなく、分厚い装甲であったとしても今の彼女達からしたらただの時間稼ぎにかならないものだと教えられた。
胸の内から湧き上がった何かが力を与えた。中破、そして大破とル級は追い詰められ気が付いた時には終わっていた。怨みの念すら嘆くこと無く深海棲艦は敗北を悟る前に海の底へと沈んでいった。
「神通!暁!響!雷!古鷹!加古!ぶ、無事で……よ、よかった……あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
港に帰って来た神通達を迎えた弱樹提督はぐちゃぐちゃのドロドロだった。そしてみっともなく泣き出してしまった。
お、おいおいおい……こいつ泣き過ぎだろうが。鼻水まで垂らしやがって気持ち悪いぜ。しかし驚いた。こいつ聞いた話じゃチビ共が見えるらしいじゃねぇか。それに神通だけではなく、古鷹や暁、響に雷、そして加古ですら見る目が変わった。やればできるじゃねぇか!!ちょっとは見直したと言っておいてやるが……やっぱり気持ち悪い。近寄らんとこ。
「ちょっと、私達も帰って来たんだけど?」
「青葉もただいま戻りました司令官」
「ああ、お前達もご苦労だった。チb……妖精さんも神通達に力を貸してくれたな。よくやった」
『「そうおもうならおかしくれ」』
「……わかった。帰ったら好きなだけ食べて良いぞ」
『「ふとっぱら♪」』
『「さっすが♪」』
『「あいかわらずのいいおとこ♪」』
『「ぶっちゅうしたい❤」』
「それはやめろ」
妖精達の手助けの甲斐もあり乗り切ることができたが、神通達の絆が勝利へと繋がったのだろう。
「妖精達にはいつも助けられてばかりだけど、私達は今回は特に役立ってなかったわね」
「まぁ、確かに青葉達の出番はありませんでした……だはは」
「そうでもない。叢雲と青葉は立派に役に立ってくれた。俺は胸を張って誇れるってもんよ。ただ今回はあの男がMVPだっただけだ」
青年の見つめる先には神通達に囲まれて慰められている弱樹提督の姿があった。
「ねぇ提督さん、ここはきっと良くなっていくと思わない?」
「ああ……そうだな。だが職務放棄による罰は免れない」
「……そうよね」
「軍人としてあるまじき行為。反省しているようだが、罪に罰は付き物だ」
「……でも神通達が可哀想よ。折角弱樹提督と仲良くなれたのに……私達のように使われるだけ使われて、駆逐艦の子達なんてみんな……」
「もう言うな。豚野郎はもういないんだ。それに瑞鶴、お前は俺の艦娘だ。辛いことは幸せで上書きしてやるから何も心配するな」
「……うん」
「それよりも悪かったな瑞鶴の出番がなくて(こいつもちゃんとフォローしておかねぇと)」
「ホント、活躍のチャンスがないなんて……まぁ、提督さんのかっこいいところを傍で見られたから良かったけどね」
「んぁ?なんだって?」
「な、なんでもないったら!!」
こうして○○鎮守府F基地の危機は去った。深海棲艦撃退し、港には誰一人欠けずに帰って来た艦娘達を迎え入れた弱虫な提督さんがいた。
「………………………………………………」
ただ川内一人だけがこの状況を静かに見つめていた。
俺は今、自分の目を疑っている。それは何故か……ここに居るはずのない相手が目の前に居たらお前達ならどう思う?
青年だけではなかった。呆然としていたのは叢雲達も同じこと。
深海棲艦を撃退し、提督が新たな覚悟を胸に宿して帰って来た。神通達は興奮して中々寝付けなかっただろう。弱樹提督自身も初めての高揚感に包まれ、寝付けぬまま朝を迎えることになってしまったがこれはこれで良いことだろう。それもこれも全ては青年がきっかけを作り、こうして導いてくれた。彼には感謝しかない。
今まで提督と艦娘の距離が疎遠だった○○鎮守府F基地は生まれ変わった。弱樹提督に何度も感謝の言葉を送られ、朝食もご馳走になった。その後、青年はすぐさま帰ろうとしていた。弱樹提督や神通達からもう少しゆっくりしてもいいのではないかと引き止められたが、青年は早く帰って仕事を纏めたかったし、何よりもうここには用がない判断した。
青年は弱樹提督から絶大な信頼を得ることに成功した。思惑は良い方向へと向いている。向こう側にとっても利益となる結果に収まった。弱樹提督の為に戦うと誓ったし、あの加古ですら口では文句も言いつつも、神通達の輪に加わっていた。深海棲艦撃退後、弱樹提督は古鷹達に謝った。完全に許したとは言えないがこれからは良好な関係を築いていけるだろう……○○鎮守府F基地はもう大丈夫だ。だが職務放棄した件については美船元帥にも重要案件を含めたF基地の事情を説明しておこうと決めた。
共に戦った仲間同士にも絆が生まれた。叢雲達が帰ってしまうことに寂しい思いをしている暁達だが、ここで青年は姑息な案を思いつく。「他の鎮守府同士の結び付きが強くなれば何かと利点がある」そう考え、寂しがる暁達に「時間がある時に遊びに来ればいい」と伝える。暁型には4番艦が存在する。その4番艦が電だ。彼女は青年の下に居る。余程会いたかったのだろう、パァッと三人は笑顔を浮かべ、古鷹や加古にもお礼を言われた。これで青年は自分達の提督だけでなく、この鎮守府そのものを救ってくれた恩人に映った訳だ。誰も姑息な策略だと知らずに。
ただ一人だけ姿を見せなかった艦娘がいた。それが川内だ。別れの挨拶にも現れずにどこに居るのか……暁が探しに行こうとしたが神通が止めた。その時の神通は何かを悟った表情をしていたのだが、この時は誰も答えを知らない。後にわかることになるが、居ないのならば仕方ない。そう青年は楽観的に考え、タクシーに乗り込み去っていった。
そしてタクシーに揺られるながら見慣れた鎮守府へと帰って来た。代金を払い、タクシーから降りた一同はあり得ないものを見てしまった。
「川内、参上」
何故ならそこには○○鎮守府F基地に居るはずの川内が先回りしていたからだ。
いやいやいや!なんでだよ!?おかしいだろ!?お前が何でここに居やがるんだ!!?
「ね、ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……あなたは川内よね?F基地の?」
「違うよ」
瑞鶴の問いに否定したことで「なんだ別の川内か」と安堵したのも束の間。
「
「違わないじゃない!!」
瑞鶴は驚いている。そもそもどうやって先回りしたんだろうか?
「タクシーの屋根に居たけど?」
こいつ忍者かよ!?いや忍者だったわ。そして「それがどうかしたの?」って顔やめろ。お前ぐらいしかそんなことできねぇよ!!もし落ちて大事故になってたら俺が許さねぇし、もっと自分の体を大切にしやがれってんだ!!!
叢雲達も青年の気持ちと同じだろう。そんなことができるのはお前しかいないと……しかし何故川内がついて来たのか疑問だ。わざわざついて来たと言うことはそれ相応の理由があるはずだ。
「おい、お前がここに居るのは何か訳があるんだろうな?」
「うん、外道さん」
「……なんだ?」
「外道さん……ううん、提督!私を……!」
「……やっぱりこういう展開になることはわかってた?」
「はい、だって私の姉ですから」
○○鎮守府F基地の執務室の机の上に一枚の文字が書かれた紙が置いてあった。
「ずっと姉さんは悩んでいたんだと思います。そして答えを出した」
「それが……これなんだね」
「はい」
「……ボクじゃ川内の提督にはなれなかったってことだね」
そう言って紙に書かれた文字を見た。
『外道提督の下へと参ります。提督、今までお世話になりました。神通もみんなも元気でね』
鎮守府内どこを探しても川内は見つからなかった。執務室を確認した時にこれを発見し、二人は悟った。
「ちょっと……悲しいけど、川内がそう決めたならボクは何も言わないよ」
「提督……」
「それにきっとまた会えるよ。その時に彼女に言いたいことを言えばいいんだから」
「ふふっ、そうですね。悩んでいるのに妹の私に何も相談せずにとは……ちょっと姉さんには
「じ、じん……つう?も、もしかして……お、怒ってる?」
「当然です。外道提督の下なら何も問題ありませんけど、みんなに心配をかけたんですから♪」
笑っているが目が笑っていなかった。気弱な娘だと思うだろうが、こう見えても彼女は根っからの戦士なのだ。その一面を弱樹提督は見た。
「そ、そっか。でも……ボクは提督としての役目を放棄した。だから……きっと罰が与えられるんだろうね」
「提督……」
「んぁ……新しく着任することになった川内だ」
「みんな、これからよろしくね!」
先ほど弱樹の奴に連絡したが何が「川内のことをよろしくお願いします」だ。俺に子守をしろってのかよ!まぁ戦力の増強にはなったけど、こいつには色々と問題が山積みなんだ。出来ればそっちで解決してほしかったが仕方ない。俺の
その前にここでのルールをしっかりと頭に叩き込んでやらないとな。それに色々と精神的にも疲れがあるはずだから日頃から注意しておかねぇといけねぇや。まずは甘いお菓子でリラックスさせてからだな。仕事は後に回してメンタルケアを優先してやる。だが勘違いするなよ?使い物にならなくなったら元も子もねぇから面倒をみてやるだけだからな!!
こうして新たな仲間が加わることになり歓迎された。しかし川内は外見こそどうとでもないように見えて胸の内は決して清々しいものではなく、暗い海の底を思わせるようなものであった。
アンケートご協力ありがとうございました。アンケート結果を参考にかかせていただきます。