年始初の回なのに青年の出番なし(哀れ)
それでもめげずに……
本編どうぞ!
「……これは本当のことなのね?」
「はい、外道提督から直接お話をお伺いしたので間違いないかと」
「……そう」
美船元帥と五月雨、そして傍でその報告を聞いていた大淀の三人は何やら深刻な話をしていた。
「まさか深海棲艦から艦娘に変わるなんて……」
○○鎮守府F基地の弱樹提督の処遇について考えていた美船元帥の下に一本の電話が入った。その相手は青年だった。好みの声にうっとりしてしまう美船元帥……傍で仕事をしていた大淀に注意されて気を引き締める彼女だが、「近いうちに会えないでしょうか」と彼は聞いて来た。電話越しからの
美船元帥はあまりの多忙さで代わりに信頼する五月雨を送ると約束を取り、五月雨を呼び出し訳を話せば青年と会うことにちょっと恥ずかしがっていた。視察へと向かった時に「かわいい」と言われたことを思い出したのだろう。その様子を傍で見ていた大淀は五月雨を羨ましく思ったとか。そして約束通り○○鎮守府A基地を訪れたが、そこで彼の口から伝えられたことに五月雨は驚愕した。
F基地の件もそうだが問題は例の川内の件だ。初め五月雨は「何かの間違いです!」と主張したが、直接深海棲艦が艦娘に変わる瞬間を見ていた電と那珂の詳しい話もあり納得せざるをえなかった。深海棲艦が艦娘に、艦娘が深海棲艦になる原因は不明であり、まだ不確定要素ばかりである内容だったが美船元帥には知っておいてほしいと伝えられた。電話でこの内容を話さなかったのは漏洩を防ぐ為であり、軽視派の人間がどこで嗅ぎつけているかわからない。このことを知っているのはA基地とF基地、そして美船元帥達ということになった。
艦娘と深海棲艦との関連性を知った美船元帥のみならず一同は頭を抱えることになった。
「……美船元帥、私達は……一体誰と戦っているのでしょうか?深海棲艦だと思っていましたけど相手が艦娘だったなら!」
「五月雨、あなたが言いたいことはわかるわ。でも外道提督が言っていたように不確定要素だらけなの。川内の一件が初の案件の可能性もあるのだから」
「で、でも……」
「それに言われたんでしょ?『たとえそうであったとして、お前はどうするのか?』って。あなたはなんて答えたって言ったっけ?」
「……それでも私は仲間を美船元帥も守ります」
「でしょ。今はそれでいいのよ。深海棲艦相手に躊躇してやられちゃったら意味ないの。このことは頭の隅に置いておいて頂戴」
「……わかりました」
「うん、わかればよろしい。それじゃ疲れただろうからお風呂にでも入ってらっしゃい」
「……はい、それでは失礼します」
扉が閉まり、五月雨が退出したことを確認して美船元帥と大淀はため息をついた。
「はぁ……まさかこれほどの案件が浮き上がってくるだなんて……ああもう!みんなにどう説明すればいいのよぉ!!?」
「美船元帥、長門さん達にもお教えするのですよね?」
「当たり前よ。私達は家族なの。家族に隠しごとなんてしたくないし、すぐにバレる。でもわかっているわよね?この件はまだ不確定要素ばかりであるということを。下手に軽視派の人間にでも知られたら面倒なことになるから外道提督のA基地、事情を話さなければならなかった弱樹提督のF基地、そして私達のみが知る情報として処理するのよ」
「了解しました」
「これほどの重要な発見、これから先どうなるのかしら……艦娘と深海棲艦そして私達人間との関係性。考えるだけでも頭だけじゃなく胃も痛くなってくるわね。はぁ、上に立つ者はどのご時世でも不憫ね」
「胃薬を買い足さなくてはいけませんね」と愚痴る大淀に同意する美船元帥であった。
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「ふぅ……生き返るわぁ~♪」
やっぱりお風呂は最高ねぇ……癒されるわぁ♪って言えるのも今だけなのよね。
美船元帥は誰にも邪魔されぬ露天風呂で一服するつもりだったが、本日何度目になるかわからぬため息をついた。長門達に隠しごとはできない彼女が深海棲艦の新たなる一端の全て伝えると顔を真っ青にしていた。混乱も少なからずあり、落ち着くにも時間はかかったが、美船元帥との絆はそう容易く歪むものではなかった。寧ろその程度で済んだのはやはり数々の修羅場を潜り抜けて来た猛者だからだろう。未だ前線では気が抜けない状態が続いている。今は目の前の敵を殲滅することが肝心だと心に言い聞かせたのだ。しかし誰もが不安を宿していた。
「艦娘、そして深海棲艦か……」
艦娘と深海棲艦の違いって何なのかしら?個体によっては見た目に大きな違いがあったりするけど、人型なら長門や漣、醜い私達の姿に変わりはない。性能に違いはあるのは当然だけど、そう考えてみれば何も違いないのよね私達と深海棲艦も。それなのにお互いに戦争しているなんて……おかしな話よ。
今回の案件がただの特例なだけか、今まで気づかなかっただけで沈めて来た深海棲艦が艦娘だったのか……どっちが艦娘達にとっての幸せだったのか?いい方向に取れば轟沈した仲間が帰って来る。けれど悪い方向なら仲間同士で争っていることになる……ままならないものね。
美船元帥は可能性を考えた。もしこれから先に同じような案件が浮上しだすと軽視派はこれを好機と見て動くだろう。
艦娘達を危険分子とみなし排除、もしくは兵器化を更に望むはず。民間人にも情報がもし漏れたとしたら、いつ敵に回るかもしれない存在が身近に潜んでいるとなれば不安を宿した者達が艦娘達を排除しようとする。そうなったら私だけでは彼女達を守ることは難しくなる。元帥の立場が危ぶまれれば誰かがその座を狙ってくるに違いないわ。
軽視派の人間が元帥の地位に立てば……艦娘にとって余計に生きづらくなってしまう。最悪人間と艦娘との絆がボロボロになり、お互いに敵視し合った状況で勝てる訳もない。きっと深海棲艦には手も足も出ずに滅ぼされてしまうでしょうね。それぐらいのことは考えればわかるはずなのに、卑しいバカ共は目の前の事にしか目を向けず、地位と名誉を欲して己と言う存在に酔いしれている。「敵」は一体誰のことを示しているのか……わからなくなるわね。
「ほんっっっとうに、人間ってバカな生き物よ」
欲望に駆られた人間は何をしでかすかわかったもんじゃない。それが滅びる道に近づいているとしても未来のことなんて考えているフリをするだけ、今が良ければそれでいいって思っている。十年、二十年、三十年後に私達人間はまだ生存できているのか疑わしいわ。いっそこのまま深海棲艦に滅ぼされても自業自得な気も……
「――って、そんなことを考えちゃダメ。元帥なんだからみんなを守らないといけないのにこんな弱気な事を考えちゃって……全員がそうでないとわかっているはずなのにね」
美船元帥にとって外道丸野助はよくわからない。矛盾を宿した若者だとしか。しかし新たな希望となるかもしれないと期待を込めている。やはり彼は変わっている。軽視派の影響を受けておきながら、その活躍は素晴らしいものだ。これも何かのカモフラージュで行っていることなのかわからないが、そうとは思えない。現時点でも悪事を働いているということは全く見られない。
黒の様で白。理解しがたい人物であるものの、艦娘達が彼を必要としていることは間違っていない。この先に問題を抱えた艦娘達が出会えば暗く冷たい海の底から救い出してくれる気がする。
「外道提督、あなたはバカな連中と同じではない……のよね?」
そして美船元帥も艦娘と同じように彼を必要としている……のかもしれない。