それでは……
本編どうぞ!
「那珂ちゃんそっちに行きましたよ!」
「OK!こっちは任せt――ッ!?川内ちゃん!!」
一匹の深海棲艦……いや、元艦娘だったのか?わからないけど那珂を無視して私に向かって恨みが籠った一発の砲撃が放たれる。
少し前なら当たってもいいかなって思ってたよ。でも今は違う。
「てー!」
放たれた砲撃を避けてお返しに一発撃ち込んであげたら深海棲艦は沈み、敵の姿は見当たらないが油断はしない。油断した。それで一度私は沈んだ。けれども二度同じ過ちは繰り返さないと決めたんだ。
見上げれば星が私達を照らしている。そして満月も……私は今夜、一歩踏み出すことができたんだ!
「お疲れ様です姉さん」
「今日のMVPは川内ちゃんだね!」
「うんうん、睦月も同感にゃしぃ!」
「夕立もそう思うっぽい!」
「川内さんこれタオルです」
「ありがとう」と吹雪から手渡されたタオルで髪を拭く。みんな私が抱えている事情を知っている。トラウマを知ってくれている。トラウマをほんの少し乗り越えることができたことを褒めてくれた。けどみんなは私より断然活躍していたし、こんなことで満足していられないよ。けど……みんなの優しさは素直に嬉しかった。
近海に深海棲艦の姿が確認されて吹雪達が出撃しようとした時に「私も出たい!お荷物にはならないから!!」と提督を説得した。神通と那珂とトラウマを克服しようと練習していたあの忘れられない(数々の射殺さんとする視線を浴びた)夜の日からずっと頑張って来たんだ。だからその成果も含めて私は提督にお願いした。すると提督はすぐに「いいぞ」って言ってくれた。やけにあっさり返答が帰って来たけど、私を信じてくれていたからなのかもしれない。なんとなくそう思っただけだけど間違っていなかった。
艦娘に戻って初めての出撃で無事に帰って来れたけどまだ心臓の鼓動音を感じていた。気持ちを落ち着かせる為に何気なくふと見れば、そこには当然のように提督が妖精達と一緒に待っているとは思っていなかった。提督を待たせるのは良くないと思って港に足をかけたんだけど、一歩踏み出すことができた高揚感と安心した後の疲労感が一気に襲ってきて、ふらりと足元がふらついてしまった私を支えてくれたのは提督だった。
抱かれる形で「大丈夫か?」って心配してくれた何気ない一言が自分でもわかるくらい嬉しくて恥ずかしくて……顔が熱くなっていたのを覚えてる。
背後から吹雪達の痛い視線を感じたけどあれは故意にやったことじゃない事故だから!!
まぁそれから色々とあったけどお風呂で落ち着いて、布団に入って後は寝るだけだけど中々寝付けない。気分が高まっているみたいで寝付けないみたい。何度も寝返りをうち、枕に抱き着いて何も考えないようにしているけど忘れられない。
帰りを待っていてくれるって……なんだかいいよね。きっとその時は笑顔だったに違いない……だってにやついた笑みをしているのを自分自身の肌で感じるから。だからって「気持ち悪い」なんて言わないでよ那珂、神通も「姉さん、応援してますから!!」なんて私と提督の間には何も……何も……
無いなんて……ことはないのかな?提督は私のことをどう思っているんだろう?
艦娘ってみんなどうしてこんなに醜いのかな?神様って不公平だよね。国と人の為に戦って命かけているのに好かれる姿にしてくれなかった。艦娘を兵器みたいに扱う奴もいるって聞いた。吹雪達も酷い目にあったって言ってた。だけどみんな声を揃えて「でも司令官(提督)がいるから」って……変わってるよね、あの人は。
私達こんな顔で、首から上を隠しても「あっ、こいつブスだな」ってわかるぐらいの容姿なのに提督は普通に接してくれる。話しはF基地で聞いていたけど……一緒に暮らしてみると驚くことばかりだった。
同じ空間で同じ食事をしたり、それが相席だったり、あまりの量の仕事に疲れた時にはアイスやジュースを奢ってもらったし、悩みや相談に付き合ってくれたりとまるで聖人のようだけど変わり者。島風がお風呂からバスタオル一枚で走り回っている姿を見た提督が鼻血を垂らして気絶したなんてことがあった。どうしてそんな安らかな顔なのか意味がわからない出来事があったし、叢雲に蹴られても解体しないなんて……もしかして隠れドМだったりとか考えてみたりした。
この前のなんて艦娘の私と男女二人っきりで同じベッドで寝ただなんて未だに考えられない。あ、あれは私のせいでもあるけど、それを抜きにしても普通なら嫌がるんだけどそうはならなかった。あの時はその場の勢いで言っちゃったけど後悔はしていない。トラウマを克服しようと思ったのは提督のおかげだから。
提督と出会って良かったと思える。やっぱり私の提督はあの人しかいない。提督の役に立ちたい。
「提督……ん?あ、あれっ?ここは……」
ふと気づいたことがあった。さっきまで自分の布団の中に居たはず……なのにここって……
見下ろすとそこには提督が寝ている。私はいつの間にか提督の寝室に訪れていたみたい……これってもしかして提督のことを考えていたからなの?……提督は寝ていて気づいていない。
いけないことだと思った。でも……少しだけなら。ほんの少しだけ、温かくてドキドキしたあの時の夜と同じ時間を過ごしたかった。
「……提督、言ったよね?傍に居ていいって」
何も返事は返ってこない。そりゃそっか、寝ているからね。でも私は忘れていないよ「俺の傍に居ればいい」って言ってくれたことを。
ねぇ提督、昔のように夜戦を楽しめるようになれると思う?好きで好きで大好きで堪らなかったあの闘争、手に汗握る緊張感、全てが愛おしかったあの頃を取り戻せるのかな?神通や那珂、みんなも協力してくれている。私自身、正直言えばまだ夜が怖い。けどいつかトラウマを克服して、夜戦を楽しめるようになれたら……提督。
私と夜戦しよっ?
ほんの少しだけのはずがいつの間にか私も寝ちゃって……それから大変だったなぁ。
まぁなんて言うかさ、みんな良い子達ばかりなのは知っているんだけど……ね。
「川内さん、抜け駆けはいけないと思います。ちゃんと聞いていますか?」
「あっ、はい」
鎮守府の中庭で吊るされた私を極寒の瞳で見つめる吹雪達って本当に駆逐隊なのって思うよ現在進行形で。吹雪達が提督のこと大好きだってわかっているけど、だからって吹雪も夕立も主砲を向けないで!電も魚雷なんか持たないでよ!?時雨たすけ……えっ、なんで包丁なんか……叢雲と睦月は黙ってないで助けてよ!?あっ!鈴谷丁度いいところにお願いたすけ……って、なんで加勢してるの!?神通ー!!那珂ー!!誰でもいいから助けてぇええ!!?
結果提督に助けられたから良かったけど……あの時は怖かった。でも、それでも……提督の下から去るなんてことはしない。「傍に居ていい」って言ってくれたんだ。だから吹雪達であっても私は譲らないよ。