それでは……
本編どうぞ!
「ど、どうかな?変じゃないよね?」
「わ、わたくしの格好も如何でしょうか?」
○○鎮守府A基地の一室に集まる熊野そして元R基地に所属していた鈴谷率いる御一行。その中でも特に鈴谷と熊野は忙しなく落ち着きがない様子で何度も自身の恰好を気にしていた。いつもの服装と同じではあるが、汚れ一つ埃一つすら付いていない新品と変わらない仕上がり具合に気合いの入り方が違うとわかる。
「服着ていればなんでもいいんじゃない?」
「むっ、その態度は嬉しくないんですけど~?」
「仕方ありませんわよ。今日はわたくし達
素っ気なく返答する夕張にムスッとした鈴谷を
憶えているだろうか。深海棲艦だった川内(その頃は軽巡ヘ級)の見張りを非番だった鈴谷と熊野に頼み込んだ際に「お願い」を聞いてくれればという条件を付けた。その条件がデートであり、これは川内の添い寝事件とは別の正式な条件であった為に誰にも文句は言えないのだ。二人にとってはルンルン気分、しかし他の艦娘達からしたら……
「吾輩も付いて行けば……沢山奢ってもらえるはずじゃな。筑摩、吾輩も付いて行きたいのじゃ」
「利根姉さん残念ですが抑えてください(提督とデート……なんて羨ましいのでしょうか)」
「ぐぬぬ、二人だけずるい!ね、翔鶴姉もそう思うでしょ!?」
「で、でもお二人は提督からの褒美だから私達がとやかく言っても……でも羨ましい」
護衛任務の際、青年と外へ出かけることもあったがそれは仕事としてだ。だが今回は違い、緊急事態も考慮した上での近場ではあるものの、仕事も気にせずに楽しめる外出。しかも艦娘が理想の男性提督とのデートに誰もが喉から手が出る程に羨ましがられていた。
「鈴谷の魅力を提督に見せつけてやるつもりだし、そしてあわよくば……ふひひひっ♪」
「あっそ。鈴谷は放っておいて、熊野は提督とのデート楽しんできてね。私達のことは気にせずにデートだけに集中してよね?」
「ええ、それではお言葉に甘えてそうさせていただきますわ。鈴谷、承りましてよ」
「ちょっと
「さぁ?それよりも熊野は行っちゃったわよ。提督とのデートすっぽかす気?」
「ああ、熊野ってば待ってー!!」
約束の時間が迫っていることもあり二人は出かけた。きっと今頃スキップで向かっているのかもしれないと思うとぷくっと頬を膨らます利根と瑞鶴の姿がある。
「吾輩が居残りとは……無念じゃ!!」
「あーあ、私も提督さんとお出かけしたかったなぁ。鈴谷と熊野だけずるいってやっぱり!!」
納得できないでいる二人を傍で苦笑して見守るしかない翔鶴と筑摩。そして夕張は……
「(鈴谷……沢山笑うようになったね。それは私達もだけど、R基地に居た時とは別人みたい。あの頃はお互いに見ていられない状況だったし、鈴谷は姉妹を失った。自分だけ残ってしまったことに何度も謝っていた。もし轟沈していたら深海棲艦になっていたかも……でもそうはならなかったのはここのみんなと熊野そして提督のおかげよね。鈴谷は人一倍苦しんだんだからそれ以上幸せになってもらわないと私だって困るんだから)」
小さく笑みを浮かべた夕張はまだいじけている利根と瑞鶴を急かして名残り惜しくも皆は仕事へと戻っていった。
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「て、ててて、提督まったー!?」
「ご、ごきげんよう、熊野ですわよ!?」
「……少しは落ち着けって」
「で、でもでもデートなんだよ!?一生に一度味わえるかわからないビッグイベントに興奮しないとかだったらそれは女として枯れちゃってることだよ!!?」
「わ、わたくしも殿方とのデートなど体験したことなんてありませんので」
「そう鈴谷達は初体験なの!!って言うか艦娘とデートすること自体まずありえないことだから!!」
正門前に集合した青年達の会話からわかるように鈴谷と熊野は非常にテンションが高い。楽しみにしていたこの瞬間が訪れてワクワクを隠しきれずにいる。それに比べて青年は落ち着いた様子であった……
れ、冷静になれ、そして落ち着くんだ俺。女子○生ギャルとなんちゃってお嬢様と一緒に出掛けるだけであって、これはだな……そ、そう!こいつらが要求した対価で俺は仕方なく付き添っているから勘違いするなよ!?そもそも俺の昇進に利用される為の奴らだ。そこに特別な感情なんてあるわけがない!!だからな
……わけがあるはずもなく、内心では冷静さを欠いていた。下半身の
「と、とりあえずさっさと行くぞぉ!!じ、時間は待ってくれねぇんだからなぁ!!!」
「
「
この調子で大丈夫なのだろうか……?
「お、お願いします神通さん!見逃してくれませんか!?」
「ダメです。外道提督から誰も尾行させるなとの指示を受けました。着任したての私ですが、弱樹提督をお救いになってくださった外道提督のお力になると決めました。例え青葉さんでも見逃せません。それでもと言うのならば強硬手段を取らせていただきますが?」
「ひ、ひーっ!それはご勘弁ですー!!」
提督とのデートという特大級のネタに
さて、青年達へと話を戻そう。出かけた彼らは出発当初は緊張でガチガチであったが、時間が経てば
「提督見てよ、これってブランコじゃん。乗って遊ぶ遊具らしいけど……楽しいの?」
「気になるなら乗ってみればいいだろ?」
「ええっ、鈴谷みたいな大人にはちょっち恥ずかしい……」
「お前はまだ子供だ」
「そうですわね」
「ちょっ!?子供扱いしないでよ!!鈴谷は立派な大人ですぅ!!」
「えむぶいぴぃを取ったご褒美が提督のなでなでをご所望したのは誰でしたっけ?」
「ちょー!!?やめてってば!!!」
公園に立ち寄りブランコに興味を持った鈴谷は揶揄われて顔を赤くしてぷんすかと頬を膨らませた。
「ねぇ見て見て、この服ちょーぱなくない?」
「あら、この服……十字架や薔薇の模様が沢山ついていますわ。派手ですわね」
「それは
「へぇー、あっそうだ。提督にこれ着させてみようよ♪」
「いい案ですわね。提督、更衣室はあちらのようですよ?」
「いや俺は着ねぇから!!」
洋服屋へ寄って中を見回ったりとしている内に時間が刻一刻と過ぎていく。楽しい時間は早く過ぎてしまうもので気付けば夕方になっていた。
「提督ってば、ご飯食べに行こ♪」
「んぁ?もうそんな時間か」
「ならあそこのレストランなんて如何でしょうか?」
「まぁお前達がそこがいいって言うなら俺はどこでも構わんが」
「勿論提督の奢りだよね?」
「昼飯も露店で買ってやっただろうが……そんな目で見るな。わかった奢ってやる。その代わり訓練に励めよ?」
「あっざーっす!」
「もう鈴谷ったら……申し訳ありません提督。わたくしの方は大丈夫ですから」
「いや、もうここまで来たら熊野も遠慮するな。昼飯の時もそうだったがお前だけを除け者にはできん。奢ってやるよ。た・だ・し、お前も訓練に励むことだ」
「提督……ふふっ、それではお言葉に甘えさせていただきますわ♪」
昼は露店で済ませた分、晩はお腹いっぱいになるまで堪能しようとしている艦娘二名。しかも奢りと来たものだ。これで青年の財布の中身は空っぽになるかもしれない。軽い足取りの二人と自分でカッコイイことを言っておきながら重い足取りの一人はレストランへと足を踏み入れた。
太陽が沈み、暗黒の空が降臨した時間帯。それでも町には光が灯り、車や人が行き交う。そこから離れた一本の道を歩く三つの影、鈴谷と熊野に青年が向かうは
「「………………………………………………」」
鈴谷と熊野は暗闇と同化してしまったように暗い顔をしていた。
わかっていたけどよ、こうも落ち込む必要は……あるか。クソが!!折角デーt……ゴホン、付き添いでこいつらのやる気を底上げしようとしていたのに……民間人め!!
青年は内心苛立っていた。それはレストラン……いや、町に出かけた時点で起こっていた。
青年達……正確には鈴谷と熊野に向けられる視線は不快なものだった。艦娘は醜いが当たり前。この世界では美人(あべこべ)が多く、不細工な艦娘は理不尽な扱いを受けている。○○鎮守府A基地が異常なだけなのだ。それもこれも青年の存在がそうさせている。A基地から一歩外に出ればそこが別世界だと言われても納得できるほどである。
公園のママ様方のひそひそ話、洋服屋では客がそそくさとその場を離れ、レストランでは……
『「ねぇねぇ、あそこの男の人カッコよくない!?」』
『「わかるー!でも他にも居るみたい……うわっ、きも!?え、なに?罰ゲームかなんか受けてるの?」』
『「あの男の人は軍人さんよ。軍服来てるでしょ」』
『「それじゃ一緒に居るのって……
『「みたい。でも可哀想よね、
『「でもなんでここに居るのかな?」』
『「きっと無理やり付き合わされているんじゃない?」』
『「うわぁ……よく我慢できるね。あたしがあの立場だったら
『「ほんとそれ」』
『「「「きゃははは♪」」」』
女子学生だろうか、学校帰りの様子であった。思春期の若者達は好奇心
モノのように例えられ、笑われて、食事も美味しさも感じられずにレストランから逃げ出すように去った。
嫌悪感を孕んだ視線を浴びるなんてわかっていた。不細工なのは事実だから何を言われても受け入れるしかない。けれどもあんまりではないかと鈴谷と熊野は心の中で思った。
深海棲艦から守っているのは誰か?食卓へ出される魚介類を取る漁師達を守っているのは誰なのか?誰のおかげで学校へ通うことができるのか?それなのに自分達が頑張ってもバカにされ、醜いというだけで避けられる。二人は初めてのデートに浮かれ、現実を心の隅にしまい込み、気づかないフリをして楽しもうとしていただけだった。
しかし思い出した現実。自分達は醜い人ではない何か。世間一般からは
「「………………………………………………」」
現実を見せつけられた二人は道中一言も喋らず沈黙を通している。朝はあれほどテンションが上がっていたのに今では見る影もない。
ちくしょうがぁあああ!!!あのクソガキ共が好き勝手なことを言ったせいで面倒なことになったじゃねぇか!!直接向き合って言えねえ癖して何も知らずに艦娘を語っているんじゃねぇ!しかもだ、俺のことを哀れみやエロい目で見やがって……チッ、思い出してもイライラするぜ。だが俺の事よりこいつらを何とかしないとこのままズルズルと引きずるに決まってやがる。そうなったら鬱陶しくてかなわん。まったく手間をかけさせやがる。
「おいお前ら、あんなことは気にするな」
「ですが提督……わたくし達が醜いのは事実ですわ」
「例え艦娘が世間一般からは
「それは提督は変人だから気にしないだけじゃん。鈴谷達バカにされた……頑張っているのに」
「変人言うな。それに艦娘が世間一般からバカにされ、何を言われようと次第に思い知る時が来るだろうぜ。艦娘が居なければならない大事な存在、自分達人間なんかよりも役立っている、守られていると知ればバカにされることもなくなるさ」
「でもでも……いつまで待てはいいの?頑張っても頑張っても褒めてもらえないと……鈴谷やる気でないんですけど?」
「俺達が……いや、人類全体が頑張らなければいつまでもこのままだ。焦ってもこればかりはすぐには変えられないものだ。少しずつだが変えていくしかない」
「……気が遠くなりそうですわ」
「安心しな、俺はお前達の(利用)価値を既に知っている。俺にはお前達が必要なんだ(昇進の贄として)頼りにしているぞ(昇進の間までだがな♪)」
「提督……キュン❤」
「やば、濡れそう❤」
どうだ俺の善人ムーブは!?こいつらバカだから簡単に俺の策に引っかかってくれるし、ちょっと優しくしただけで機嫌治りやがって、取り扱いが簡単で楽過ぎてつまらんぐらいだぜ、クヒヒ♪
青年の善人面にコロッと騙される二人。少なくとも先ほどより機嫌が良くなったように見えた。そんな時だった。反対側から誰かがこちらに向かってくる。その人物は年老いた老人だったが、青年には見覚えのあった顔だった。
「おお、これは提督さんではないですか」
「あなたは漁師の……鎮守府に用があったのでしょうか?」
相手は漁業関係者の一人で歳のため漁には出ていないが次代の漁師を育て上げる人物であり、青年はすぐさま接客モードに切り替え、鎮守府での普段とは別の顔を作り上げる。これも人付き合いには必要不可欠な術、印象はこの世界では大切である。
「ああ、少し世話になっている鎮守府を見たいと思ってな。して、そこにおるのは艦娘じゃな?」
「そ、そうですが……」
「……鈴谷達に何か用?」
視線を向けられても二人は笑みを作れなかった。今まで向けられた視線はどれも嫌悪感を孕んだものだったし、先ほどもそうだったから警戒心が勝るのも仕方のないことだった。
「……すまんかったのぅ」
「「えっ?」」
老人は腰が悪く、杖をついている。しかしこの老人は頭を下げ、申し訳なさそうに謝った。何に対してかわからぬ鈴谷と熊野は呆然とするばかりだ。
「深海棲艦が現れてからというもの、漁師の生活は厳しく多くの漁師が辞めていってのぅ……家族の為と言って涙ながら辞めた者もおった。一向に改善しない生活に嫌気がさし、酒に溺れる若者達が現れた。それもこれも全部解決できない艦娘が悪いとわしらは身勝手にもそう思い込むようになってしまったのじゃ」
「「………………………………………………」」
「わしは提督さんの言葉とわしらを守る艦娘達を見ていて、今まで艦娘のことを何も知らずにただ醜いから、深海棲艦を倒さないからと虐げ八つ当たりをしていたことに気づかされたのじゃ。わしらを守ってくれる艦娘に対する態度ではないと……提督さんの言う通り見た目で判断していたわしがバカじゃった」
老人はそう言い、腰が悪いにも拘らずまた頭を下げる。
「すまんかった」
「「………………………………………………」」
「……頭を御上げください」
「いや、わしらが艦娘達にして来たことは許されるもんではないはずじゃ。今も若いもんの中に艦娘を嫌っておるもんがおる。説得しても遂にボケたと言われる始末、助けてもらっても感謝をせんわしらの方が無礼者だと言うのに……頭を下げることしか出来んのじゃこの老いぼれには」
謝罪は言葉だけのものではなかった。老人は心の底から後悔しているのだろう。
「そのお気持ちは本当にありがたいものです。艦娘のことを理解してくれる方が一人でも増えたことがワタシには喜ばしいことです。彼女達にもその思いは伝わっているでしょう……ですよね?」
「う、うん」
「え、ええ」
「……そうか、ありがとうお若い艦娘の方々。今のわしがあるのはあんたらのおかげじゃよ」
「「………………………………………………」」
「……さてもう時間も遅いですし、送って行きましょうか?」
「いやいや、そこまでしてくださらんでもよい。こんな老いぼれでも散歩が日課で、腰は弱くとも足だけは丈夫なんじゃよ」
「そうですか……道中お気をつけてくださいね」
「ああ、提督さんそして艦娘のお若いの、重ね重ねすまんかった」
ゆっくりとした足取りで町の中へと消えていった老人。残された青年達は消えていった老人の背を見送った。
「……どうだ?ほんの少しだが変わったぞ。あの爺さんは思い知ったんだ。艦娘のことを知り、お前達の活躍を見て大切さ、そして自身の間違いに気づけた。お前達の頑張りが身を結んだってところだな。嬉しいか?」
「嬉しい、めっちゃ嬉しい。やっと鈴谷達の努力が報われたんだね」
「感謝されるとこんなにも温かいものなんですわね……わたくしなんだか感慨深いものがありますわ」
ほっこり顔の鈴谷と瞳に雫を宿した熊野。先ほどの暗さはどこかへ吹き飛ばされてしまったようだ。
ナイスだ爺さん。あんたのおかげでこいつらの機嫌が良くなった。面倒事が無くなって仕事に専念できるぜ。それに……クヒヒ♪艦娘講義を開いて正解だったな。これから少しずつ漁師共を説得していけば俺の味方が鎮守府外で現れて俺を守ってくれる。いいぞ、その調子だ。どんどん俺の術中にはまっていくがいいさバカどもめ♪
もしもの時の保険計画もいい方向へ向いており、これには青年も上機嫌となった。
「鈴谷、熊野、さっさと帰るぞ。俺達の帰りをみんな待ってんだからよ」
「らじゃー♪」
「承知いたしましたわ♪」
悪いこともあれば良いこともある。頑張っていれば報われる。一人の老人との出会いで散々だった一日が一変し、鈴谷と熊野の足取りは軽くなった。そんな二人に挟まれる形で鎮守府までの帰路をゆっくりとデート気分を堪能するのであった。