それでは……
本編どうぞ!
「司令官、吹雪以下五名全員無事帰投、軽度の損傷もありません。敵深海棲艦も全て轟沈確認済みです」
「よくやった。吹雪にはいつも助けられてばかりだ」
「そ、そんなことないですぅ」
「いいや、失敗を乗り越えよくぞここまで強くなった。偉いぞ」
「え、えへへ♪」
今日も深海棲艦相手に完全勝利した吹雪達。毎日充実した生活を送り、訓練や護衛任務をこなしていく毎に彼女達は強くなっていった。今でははぐれ艦隊程度恐れるに足らず。本日敵艦に空母ヲ級が同時に三人居たことに少々危機感を感じたが杞憂に終わった。ビシッとした敬礼をしつつ、青年に褒められた吹雪はふにゃりと破顔する。追い打ちで青年に頭を撫でられ更に顔はふにゃふにゃとだらしがなかった。
「(んぁ!?いかんいかん、つい頭を撫でてしまった……べ、別にこいつが愛らしくてやったわけではない!!こいつらは毎回俺に褒美を求めて来るからであっていつもの癖で……ゴホン、そうじゃなくてだな、どうせこいつらは褒美を寄越せと言ってきやがるから吹雪には先払いで褒美を与えてやったまでのことだ。だからそこを勘違いするなよ!!)」
青年曰くご機嫌取りの
「ああー!!吹雪ちゃんにだけずるいにゃしぃ!!」
「夕立も褒めて褒めてっぽい!!!」
「あ、あの!い、電も……なでなでをご所望するのです」
「提督、不公平は良くないと思うな。僕も頑張ったのにご褒美無しなんてちょっと意地悪なんじゃない?」
「私の結果に不満なのね?そうなんでしょ!……ま、まぁ今回は活躍あまりできなかったけど……でもそれでも声ぐらいかけなさいよ。寂しいじゃない……」
「ああもうわかったわかった!お前らも毎度飽きねえな。そんなにこれの何が良いんだよ?」
「良いに決まっています!司令官に撫でてもらえると心がポカポカして温かいんです。司令官のなでなでは国宝級なんですぅ!!」
吹雪を含む出撃していたメンバーが無事に帰って来た。そして褒美のなでなでを求め青年に群がり、
頑張ればご褒美が貰える。子供を釣る餌のようにも見えるがこれが効果的だったりする。憧れの男性と合法的にちょっとした欲をぶつけることができる。それで鈴谷と熊野もデートの約束を取り付けることに成功し得をした。後でルンルン気分の二人を陰から嫉妬で染まった連中から睨まれたのだが……その話はよしておこう。しかし何から何までなんて贅沢な尽くしの生活を送ることができる鎮守府なのだろうか。他の鎮守府に属する艦娘達が見ればまさに楽園に見えるだろう。
しかしそれはここだけだろう。決して平和とは言えない世界情勢。深海棲艦との戦争が激化する最前線の様子はというと……
「くっ!不知火大丈夫か!!?」
「はい!こちらは大丈夫です。しかし木曾さんの方が!!」
「俺は問題ない!それよりも右!!」
「――ッ!?沈め!!」
深海棲艦との激戦区である最前線で繰り広げられる戦いは壮絶なものだ。敵に重巡洋艦、軽巡洋艦や駆逐艦は当たり前、加えて戦艦に空を支配する空母そして潜水艦が陰に潜みこちらを狙っている一切の油断も許さない状況。その中でも援軍として大本営より遣わされた木曾と不知火は戦果を次々に上げていた。初めは練度も低く頼りない仲間達を徹底的に鍛え上げ、そして今日決着をつける時が来た。
数々の仲間達が傷つき、いつ途切れるのかわからない程の数を相手に撃破して道を拓くことに成功する。バトンが手渡され不知火と木曾、そして護衛の仲間達と共に敵の主と対峙する。
「オノレ……イマイマシイ!!」
「へっ、ようやく追い詰めたぜ!!」
「あなたは中々手強い相手でした。しかしそれも今日ここで終わりです。お覚悟を!!」
「オノ……レ……ワタシ……ハ……ココデ……シズムノ?」
ここら一帯を支配していた深海棲艦の主は沈んだ。その姿を見届けた木曾と不知火は長い戦いを終え、ようやく勝利の
「ここに居るのも今日で最後ですね」
「……ああ」
不知火と木曾は数々の戦果を上げ、美船元帥直属の艦娘故にVIP待遇を受けており二人だけで大部屋に滞在している。初めはそこまでしてもらうつもりはなかったが、相手は一向に引こうとしなかったので渋々利用せざるを得ずにいたがもう慣れてしまった。しかしここに滞在するのも今日で最後。激戦区の一つであったここの海域を取り戻すことに成功したことで、明日美船元帥の下へ帰るのだ。
「「………………………………………………」」
沈黙が漂う。二人はここに来てからの出来事を思い出していた。ここの提督は穏健派の人物で、艦娘に暴力や罵倒などはないにしても関りを極力少なくしていた。例え穏健派の人間であっても艦娘の容姿を受け入れるかは別であり、艦娘は兵器ではないと言っていても最低限な仕事をこなしていくだけの関係だった。しかしそんなことでは艦娘達の特徴や性能を記載された資料が手元にあったとしてもお互いの気持ちなど理解できるわけもなく、真の意味で結束できずにいた。性能の良い装備を用意しても練度を上げても最後に必要なのは絆であり信頼。あの青年が教えてくれたようにお互いを思いやり受け入れる気持ちが無ければ真の力を発揮できない。
事態を重く受け止めた不知火は積極的に動いた。以前の彼女ならば自らこんな行動は取らなかっただろうが、これも影響を受けてのことだろう。まず艦娘達を集め、仕事上の表面での交流ではなく、本当の意味で交流を持つことの大切さを教えていった。形式的な交流しかしてこなかった艦娘達は最初は戸惑っていたが、日毎に参加者も増え、お互いに意見を出し合いどうしたら提督と仲良くなれるのか何度も話し合い、結果少しずつだが提督と艦娘達の距離は近づいていった。
この結果に導いた不知火を尊敬する艦娘も現れ、一部の駆逐艦の間では姐さんとも呼ばれたりしている。一方の木曾は戦場で真っ先に突撃し、多くの深海棲艦を倒しただけでなく、大破した仲間を最後まで見捨てることなく救うその姿に憧れた者達もいる。鍛え上げられた艦娘達により戦力は上昇、提督との関係も以前よりも良好となり明るい未来が待っているだろう。
「………………………………………………なぁ」
「なんでしょうか?」
「不知火……お前やっぱり変わったよな」
「不知火がですか?どう変わったとは……いえ、言いたいことはわかります。確かに変わったのかもしれません」
「……あいつの影響だろ?」
「はい」
不知火は布団から手を伸ばして鞄を漁り取り出した一枚の写真。そこには不知火だけでなく、大淀達や木曾に吹雪達、そして青年とパーティーの時に一緒に撮ったものだ。大事なのかカバーに包まれている。
「司令に出会えたことは奇跡に近いものだと感じています。男だからと言う訳でなく、指揮官としても真面目で初めは軽蔑していましたが、不知火達のことを大切にしてくれました。変わり者でしたが、司令と出会えたことを不知火は胸を張って誇れるでしょう」
「………………………………………………」
「木曾さんは司令に出会えて良かったと思わないのですか?」
「お、俺は……」
木曾は無意識にポケットの中の物に触れ、取り出そうとしてハッとした。それを誤魔化すように不知火に背を向ける。
ポケットの中身は肌身離さず持ち歩いている明石特製防水仕様のカバーに包装された写真……不知火が大事にしているものと同じ物。○○鎮守府A基地での生活は終わりを迎え、最前線に援軍としてやってきた。ここの生活に不満があるわけではないが、どうしても不安になったり、心細く感じることが多くなった。美船元帥の下では感じなかった
「……俺はただ吹雪達の為に働いただけだ。あいつのことなんて知らないよ……まぁ、飯と寝床はちゃんと用意してくれたことには感謝している……それだけだ」
「そうですか」
不知火はそれだけ言うと満足そうに眠りについた。木曾は何も言い返して来ない不知火にムッとしたが、明日もあるのでさっさと眠ることにした。
「………………………………………………あいつはなにをしているんだろうな」
小さな呟きを残して温かい布団の中で夢の世界へと旅立った。
「……邪魔するで」
「あら、龍驤さん」
「悪いな鳳翔、こんな時間に訪れてしもて」
「いえ、構いません。この子達も居ますし」
「なんや、赤城も加賀もここにおったんか」
「龍驤さん……」
「……」
居酒屋『鳳翔』
美船元帥の下で鳳翔が営む居酒屋の名前だ。昼に下ごしらえを整え、夜はお酒とおつまみでおもてなしをする。美船元帥の提案で作られてから艦娘達に人気の店である。いつもはお酒に酔い、居酒屋の雰囲気を味わいながら一時を過ごしているが、今日は違った。
先に来店していた赤城と加賀。二人が居るのは珍しい光景ではないのだが、赤城の瞳は先ほどまで涙を流していたのか涙腺の痕が残っていた。その理由を龍驤は身をもって知っている。
最前線から帰投した龍驤の表情は暗かった。深海棲艦の侵攻を食い止めるべく赤城と加賀と共に援軍として派遣され見事敵を打ち倒した。しかしそれに至るまでに仲間が何人も沈んだ。海上は戦場だ。仲間を失うことなど承知の上だと覚悟をしていたが、やはり辛く苦しいものがある。敵は倒れ、勝利を掴んだが喜べるものではなかった。
カウンター席へ座る龍驤にそっと鳳翔から焼酎が差し出される。そこには言葉など存在せず、龍驤はお猪口に注いだ一杯を一気に飲み干し、すぐにまた注いだ焼酎を飲み干す。
「龍驤さん、ペースはもっとゆっくりの方がいいですよ。お身体に悪いです」
「鳳翔の言う通りなんやけどウチもな、やけ酒したい時だってあんねん」
「……お気持ちはわかります。けど今後のことを考えてください。お身体を壊してしまうと美船さんだけでなく、提督にも心配をかけてしまいますよ?」
「――うぐっ!?しゃ、しゃあないな(美船はともかく、あの若者まで出すか……やけ酒は止めとこか)」
やけ酒で嫌なことを忘れようとした龍驤であったが、青年が自分を心配する姿を妄想すると手が止まってしまう。それ程に龍驤の中で彼の存在は大きくなっているようで、迷惑をかけたくない思いが上回った。
「なぁ、赤城も一杯どうや?」
「……私は……」
「遠慮したらアカンで?ウチだって辛いのは同じや。やけ酒は止めたけど飲まんとやってられへんねん。それには飲み仲間が欲しいねん」
「……それじゃいただきます」
「加賀は……もう寝てもうてんのか」
「もうこの子ったら……疲れちゃったのね」
「加賀さんは表情にはあまり出しませんが悲しかったんです。何度も嘆いていました……自分が不甲斐ないと。私も同じ気持ちです」
「……赤城ちゃん、お酒追加するわ。龍驤さん、私も一杯いいですか?」
「構わんで。ウチの愚痴にも付き合ってもらいたいしな」
「はい、今日は気の止むまで飲みましょう。逝ってしまった子達の為にも……」
「……せやな」
夜遅くまで居酒屋には明かりが灯り、海に散って逝った仲間達への弔いの盃を交わす空母達の姿があった。