あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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変わりつつあるのは鎮守府だけではない。艦娘の心も変わることができる。


それでは……


本編どうぞ!




0-6 きっと救われる

「凄いです司令官!まるで新築みたいです!」

 

「妖精さんって凄いんだね。たった一日でこんなに綺麗になるだなんて僕思わなかったよ」

 

 

 睦月は今、提督に連れられて妖精さん達によって綺麗になった施設を見て回っているけど……凄い!ここにはいい思い出がない……汚くて辛い思い出ばかりだった。けど吹雪ちゃんが言うようにまるで新しく建った建物みたいになって、時雨ちゃんやみんなも驚いているにゃ。

 

 

 青年は吹雪達を引き連れて鎮守府内を見て回った。お菓子を腹いっぱいに貰った妖精達は凄かった。

 

 

 鎮守府内の至る所にこびり付いた汚れやシミ、劣化した壁や亀裂、カビだらけの床や不要になったゴミを全て短時間で終わらせてしまったのだ。艦娘であっても大人数の人間であってもこれほどの短時間で直してしまうなどできないことをやってのけたのだ。

 

 

「す、凄いな。流石にここまで綺麗になるとは思ってもいなかったぞ」

 

 

 ピカピカにテカリのある床や壁に変貌した内装に少々の戸惑いを感じる青年だが、汚いよりかは断然いい。

 

 

「妖精さんは凄いのです!これでもう大丈夫なのです!」

 

「うん!これでもう気持ち悪いトイレに行かなくて済むっぽい!」

 

「はわわっ!?夕立さんハレンチなこと言っちゃダメなのです!」

 

「っぽい?」

 

「んふふふっ♪」

 

 

 こんな光景を見ていて笑顔になってしまうにゃしぃ。今度の提督はこんなことでは怒らないの。前の提督はいつも睦月のことをウザいとか言って叩かれたし、睦月の髪を乱暴に引っ張られたりもした。酷いのは弥生ちゃん達のことをボロ艦と言ったことは許せなかった……最期の時までみんな頑張っていたんだよ。それなのに前提督は弥生ちゃん達のことを「沈んで当然のボロ艦」と言って見捨てた。だから睦月は提督に期待するのを諦めちゃった。

 けど今度の提督は違う……初めは怖かった。でも吹雪ちゃんや妖精さんとのやり取り、そしてあの温かい()()()()()を食べた時から怖いなんて思わなくなってたの。今度の提督ならもしかしてって……期待した。その期待に応えてくれる人だと睦月は思ったの……その時はなんとなくだったのだけども。今ならこの人なら睦月は信じてもいいと思えるにゃしぃ。

 

 

 

 

 

 

「提督、提督ぅ!妖精さん達のおかげでこんなに鎮守府が綺麗になったね。これも提督のおかげだと睦月は思うにゃ!!」

 

「ああ……ところで睦月に言っておきたいことがある」

 

「およ?なんでしょう提督?」

 

「俺、猫嫌いだから……あまり俺の前で猫語使うな」

 

「にゃしぃ!!?」

 

 

 確かにちょっと独特な喋り方だって自覚はあるけど、それが睦月の個性なのに……前提督は私の個性を嫌った。でも今度の提督は「俺のことは司令官様と呼ぶ必要はない。提督でも司令官でも好きに呼べ。堅苦しいのは抜きにしよう。これからお互いに支え合っていく仲なのだからな」と言ってくれた時は嬉しかった。睦月の個性を出せずに窮屈な自分を偽り続けなければいけないなんて嫌だった。辛い日々に気持ちが沈んでいく弥生ちゃん達を勇気づけることができた睦月の唯一の個性を抑え込むなんてしたくなかった……自分に嘘をつくのは嫌だった。でもこれからは睦月は自分をさらけ出すことができるにゃしぃ!

 

 

 ……っと思っていたらいきなり個性を封じられた。睦月泣きそう……

 

 

「うぅ……」

 

「お、おい……なんでそんな悲しそうな顔をする?」

 

「司令官、実は睦月ちゃんは……」

 

 

 今にも泣き出してしまいそうな睦月に困惑していると吹雪が青年に教えた。睦月も姉妹艦を失っており、彼女達を勇気づけることができた自分の個性に誇りを持っていると。

 

 

「(面倒な奴だ。だがこのままだと士気に関わっちまう……何とかしねぇとな)んぁ……睦月、猫は確かに嫌いだが、別にお前のことを嫌いになった訳じゃないし、お前を否定した訳でもない。だから睦月は睦月の個性をさらけ出して構わないぞ」

 

「でも提督は大丈夫なの?嫌じゃない……の?」

 

「お前が良ければいい。俺はお前達の提督だ。一番に考えなければならないのはお前達のことだからな。俺の我が儘で睦月に無理強いをさせることはしたくない……それに睦月の本当の姿を見て見たい」

 

「提督ぅ……!!んふふふっ♪睦月をもっともっと見てよいぞ!睦月の本当の姿をその瞳の奥まで刻み込むがよいぞ!!いひひっ♪」

 

「(なんかムカつく)あ、ああ……よろしく頼むぞ」

 

「にゃしぃ!」

 

 

 やっぱり提督はいい人だにゃ、これからの睦月を見ていてほしいぞ!そして睦月のことをもっともっとも~っと知ってほしい!!睦月も提督の為に頑張るにゃしぃ!!!

 

 

 ★------------------★

 

 

「さて、内装把握がてらに見て回ったことで鎮守府の全体像が大体わかった。問題の箇所もな。入渠ドックはチb……ゴホン!妖精さんに任せておくとして、工廠は問題なく使用できるが資材が足りず、大本営からの資材の仕送りは当分期待できない。修復剤の備蓄もあとわずかだ。そしてお前達の艤装についてだが……吹雪」

 

「はい、艤装は私達で管理していました。ですがやっぱり明石さんがいないと……使えないことはないのですけど調子が悪くなったり問題が起きてしまいます」

 

「どうして明石はここに居ない?艦娘の設備等には大本営から補佐として何人かの艦娘が送られて来るはずだろ?」

 

 

 鎮守府へと着任する前に青年は自分なりに詮索していた。予備知識も無しに提督の座を手に入れたとしても、着任後の成績次第で昇進できるか決まる。それに前提督のように結果も残さずに私欲に溺れ、無能であれば上層部から見切りをつけられてしまう可能性だってある。その為、それなりに勉強していたのである。昇進の夢の為ならばと寝る間も惜しんで机とにらめっこしていた日を懐かしく感じる……こう見えても結構努力している青年であった。

 

 

「聞いて提督、前提督のせいなんだ。資材が勿体ない、艤装も直す必要もないからって明石さんまで出撃を強要させて……明石さんは……そのまま……っ!!」

 

「わかった。もういい」

 

「ごめん……提督」

 

 

 時雨はその時の光景を思い出したのか拳を握りしめていた。前提督に怖くて逆らえず、みすみす沈んでいくのを見ているしかできなかった。この様子だと他の艦娘達、設備等の為に居た彼女達も無理やり出撃させられたようだった。掘り返せば掘り返すほど泥水のように濁り切った内容の話ばかりだ。

 

 

「(明石が居ないっとなると鳳翔や間宮も居ない……実際に居なかったしな。この鎮守府に吹雪達以外残って居ないと言う事が気になっていたがやっぱりそういうことかよ……チッ、おっさん無能すぎるだろ!!全部俺が尻拭いせねばならないとはな!!)」

 

 

 青年はこれでもかと内心悪態をついていた。それもこれも前提督が無能すぎたのが原因で、着任日から悪いことばかりの状況に堪忍袋の緒が切れそうにもなっている。

 しかし青年は幸運なことに、吹雪達からの信頼を得られた。そのことが青年にとってプラスに働いている。もしも吹雪達がまだ青年に対して不信感が強ければ確実にこの鎮守府は終わっていた。だが、そうではない……今ならチャンスはある。

 

 

 後が無い状況の中で青年は考える。この状況を立てなおす為には行動に移るしかない。そうなるとやるべきことは一つだけ……

 

 

「やるぞ……遠征」

 

 

 新たな提督の元、初めての任務に当たる時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備できたな」

 

「はっ!時雨及び以下三名準備できました」

 

 

 遠征の為に港に集合する出撃メンバーは時雨を旗艦とし、夕立と電に睦月の四人が共に過酷な環境を過ごした艤装を装着する。これで遠征の準備はOKだ。

 

 

「時雨含めお前達に命じることは一つだけだ」

 

 

 その言葉に緊張が走り、旗艦の時雨は責任重大な役割である為に胸締め付けられた。前提督はここにはいないはずなのにその影が見える。青年と前提督とは違うと思っていても艦娘の彼女達の傷はまだ癒えておらずどうしてもあの頃の光景を思い出す。

 

 

『働け!それがお前達ブス共が生まれて来た理由だ』

 

『旗艦の責任だ。お前は罰として鞭打ち百回の刑だ』

 

『なんとしてでも資材を持ち帰れ!他の艦娘が犠牲になろうともだ!』

 

『こんなこともできんのか!?グズめ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『命令だ。失敗は許さんぞ』

 

 

 遠征は成功させなければならない。それがここの決まりであった。失敗すれば何度も殴られた。艦娘よりも資材が優先で、敵と遭遇しても何とか逃げ切ることができた。危険な目に遭ったが、ようやく回収した資材が少ないと文句を言われて殴られた。理不尽な扱いは尽きることはない……成功したなんて無いに等しかった。今思えばただ前提督が不細工な自分達を痛めつけるための口実ではなかったのか?そう思ってしまう。部屋に閉じこもることすらできず駆り出され、戦闘の繰り返し、疲労などお構いなしの連続遠征……仲間達といる一時だけが幸せの時間だったが、帰る頃には恐怖と苦痛に耐えきれず逃げ出したいと言った駆逐艦の子が居たが、その子はいつの間にか居なくなっていた。

 逃げるなんてできなかった。逃げればその子の姉妹艦が酷い目に遭い、同室の子も同じ罰を与えられた。仲間との絆が仇となったのかもしれない……そんなことなど気にせずに逃げ出せればどんなに楽だったか。しかし艦娘である彼女達にはそれができなかった。同じ苦しみを味わう仲間を見捨てるなんて彼女達にはできなかった。外見は醜くとも内面は仲間思いで誰にも負けていないと誇りたいが、それすら許されない世の中であった。

 

 

 資材の為ならば轟沈しても構わない。前提督はそう言う人間だった。実際にそう命令されてきた時雨達。

 

 

 どんな命令を出されるのか……緊張の一瞬。青年が出した命令は一つだけだった。

 

 

「四人とも帰ってこい。以上だ」

 

「……それだけっぽい?」

 

「それだけだが何かあるのか?」

 

 

 夕立は首を傾げた。帰ってこい……ただそれだけの命令に疑問が生まれていた。あっけないっとそう思えた。

 

 

「ねぇ提督、本当にそれだけしか言わないの?もっと失敗するなとか、資材を絶対に持ち帰れとか……僕たちの仕事は資材を持ち帰ることだよ?」

 

「し、失敗は許さないとか……司令官さんは言わないのですか?」

 

 

 失敗は許されず、資材が優先されてきた……自分達よりも。今までそう命令されてきたのだから青年の言葉を疑ってしまう。

 

 

「言わねぇよ。確かに資材は必要不可欠だが、お前達はここの主力なんだ。そのお前達が居ないとこの先やっていけないんだよ。それに資材は無理に持って帰って来るなよ。どうせおっさn……前提督から無理して限界以上持って帰れとか言われていたんじゃねぇのか?」

 

「うん、睦月達いつも重たくて辛かった。帰って来る途中で深海棲艦に見つかっても資材の方が優先だったし、酷い時には誰かを盾に使えとか言われていたの」

 

「だろうな。戦闘の邪魔だろうし、持てるだけでいい。最悪の場合なら資材は諦めて他の方法を考えてやるから一人として欠けることは許さんぞ」

 

「提督……」

 

「提督さん……!」

 

「司令官さん……」

 

「提督ぅ……睦月感激!」

 

「だからほら、わかったならさっさと行ってちゃっちゃっと戻って来い。早く戻って来ないと飯抜きにしちまうからな」

 

「「「「ご飯抜き!!?」」」」

 

 

 以前はレーションだけの生活で、任務や遠征に失敗すれば罰としてそのレーションすら食べることのできない日々すらあった。それとは比べようのない美味しかったお弁当。忘れもしないあの味がまた食べられるのかと言う期待とそれが食べられなくなるかもしれないと言う衝撃の言葉……それだけは嫌だった。

 

 

「こうしちゃいられない!!みんな早く出撃するっぽい!!」

 

「にゃ~提督ぅ、睦月も行ってくるにゃしぃ!!」

 

「電も……今日は本気を出すのです!!」

 

 

 美味しい食事をお預けされるのは死刑宣告と同じ。あの味を一度味わってしまえばレーションなんて食べる気にならない。旗艦である時雨を放って夕立達は目的地へ出撃してしまった。今までにないほどに全速力で向かい三人の姿に青年を含めて呆然としていた。

 

 

「……はは、騒がしくてごめんね提督。それじゃ僕も食事に遅れないように戻って来るよ」

 

「ああ、お前達には(昇進の為に)()()()()()()からな」

 

「……うん。それじゃ行ってきます」

 

 

 ()()()()()()っと言われた。これほど心が軽く頑張ろうと思える遠征は時雨にとって初めてだった。

 

 

 ★------------------★

 

 

「目的は何よ、私達に優しくして何を企んでいるの?」

 

「叢雲ちゃん、司令官は何も企んでいないよ!」

 

「嘘ね、吹雪も他のみんなもどうかしちゃったのね。着任してまだ二日目よ、なのに何故こいつのことを信じられるのよ?」

 

「でも司令官は私達に美味しい食事を与えてくれたよ。叢雲ちゃんも美味しそうに食べてたじゃない」

 

「そ、それはそうだけど……そ、それとこれとは話は別よ!大体私達のような醜い容姿を見ても何もしないなんておかしいわよ!!」

 

 

 青年の元には遠征メンバーから外れた吹雪と叢雲が残っている。この二人は練度が時雨達よりも高く、鎮守府にもしものことがあった時の非常時に備えて少数でも戦力を保てるように決めた編成であった。何よりこの二人は姉妹艦で仲は良好だと思っていたが、傍から叢雲は何故か吹雪から距離を取っているように見えた。

 

 

 青年を執務室へと連れ込んだ吹雪に対してつい感情的になってしまって「白雪達が居ればよかったのに」と言ってしまったことに負い目を感じていた。そしてその原因となった提督の存在……青年に憎悪は向く。時雨達の姿が見えなくなるなり叢雲が青年に突っかかったのだ。

 今まで彼女が見てきたのは酷い光景ばかりだった。暴力、罵倒、理不尽な扱い「醜いのが悪い」と言った前提督の言葉……それが叢雲達艦娘が不細工なのが原因だった。しかしこの青年は容姿のことについて何も言ってこない。寧ろ青年から熱い視線を受けたような気がしたし、鼻血まで出していたのを見た。まさか自分の体に興奮したのか?でもそれは何かの勘違いだと万に一つの可能性はないとしていた。誰がこんな醜い姿に興奮する変態がいるかと……だが、この青年がおかしいことに変わりはない。

 

 

 いい人間を装って、信用させて後で正体を現すに決まっているわ。こいつもあいつと同じ……必ずあんたの化けの皮を剥いでやるわ!

 

 

「醜いか……今まではそうだったんだよな」

 

「司令官?どうしたんですか?」

 

「いや、なんでもない。まぁ叢雲が俺を信用するかしないかはお前の自由だから勝手にしろ。ただし仕事はやってもらう。人数が少なく備蓄もないからな」

 

「ふん、まぁ何もしないなんて薄情なことはしないわ。あんたを信用してないけどね。それで?私達に何をしてもらいたいのかしら?」

 

「そろそろ届く頃なんだが……」

 

 

 青年が時計と窓の外をしきりに気にしており、その行動に吹雪と叢雲は首を傾げた。「届く頃」と言っているあたり何かを持っている様子だが一体なんだろうか?

 そんな時に外を眺めていた青年が何かに気づき歩き出す。二人もその後を追いかけると外にはトラックが止まっており作業服姿の女性が居た。その女性の歪んだ顔が二人には美しく見え羨ましく思えた。自分達もこのような容姿であったならば辛い日々を送らずにいられただろう……二人と作業服姿の女性と目が合うがギョッとして視線を逸らされてしまう。受け入れるしかない現実なのはわかっているが、こうして実際に見比べてみると天と地の差があることに劣等感を感じてしまう。

 

 

「注文の品だが、後はこちらでやっておくからここに下ろしておいてくれ」

 

 

 何やら話していたようだが、すぐにトラックから大きな荷物を運び出して来た。青年の指示通り大きな荷物は複数ありそれら全てが積み出され吹雪と叢雲の前に置かれ、作業服姿の女性は青年に納品書を手渡してトラックに乗り込み去って行ってしまった。

 

 

「……なんなのよこの山は?」

 

「なんだか……フワフワしてる」

 

 

 叢雲は積まれた荷物を見て独りごちる。気になり恐る恐る吹雪が触ってみると感触はフワフワしていた。

 

 

「これはお前達の布団だ。それにサービスで枕も付けてあるから自室へ運べ」

 

「「……はっ?」」

 

 

 ちょっと今こいつはなんて言ったの?私達の布団?サービスで枕も付けたですって?

 

 

 吹雪と叢雲は一瞬訳がわからなかったが、青年はお弁当の買い出しついでに吹雪達の布団と枕を購入しに家具屋にも寄っていたのだった。これから多くの艦娘を養わなければならなくなる状況になっていくだろうから多めに注文し、配達してもらうことでつい先ほど届いたのだ。

 

 

「それじゃ司令官が外へ行ったのは()()()()だけじゃなく、これも私達の為に……?」

 

「まぁ……なんだ、環境を改善してやると言ったんだ。これぐらいはしてやるよ」

 

「司令官……ありがとうございます!!」

 

 

 吹雪はお弁当だけでなく缶詰状態の倉庫から綺麗になった寝室へ変わっただけでも嬉しいことなのに、自分達の為に布団と枕も用意してくれていた青年の優しさに嬉しくなる。吹雪の瞳から今までの苦労がやっと報われた安心感から涙が流れていた。

 

 

「た・だ・し!その分しっかりと働けよ。遠征に向かっている時雨達もそうだが、お前達には頑張ってくれないと俺が困るんだよ」

 

 

 青年はそう言うと二人を残してそそくさと建物内へ戻ってしまった。

 

 

 なんなのよあいつ……なんで私達にここまで優しくするのよ。これも何かの作戦に決まっているわよ。でも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あいつなら私達を……救ってくれるのかしら……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これでおしまい。ありがとう妖精さん達」

 

『「のーぷろぶれむ」』

 

『「はたらいたよー」』

 

『「はたらいたあとのおかしはかくべつだ!」』

 

『「おかしはわたしのものだー!!」』

 

『「あっ、ずるい!!」』

 

 

 残された吹雪と叢雲はこの複数の布団と枕をどう運ぶか迷っていた。青年は先に去ってしまってか弱い女の子二人の力では一つ一つ運ぶのに時間がかかってしまう。艤装を付けようかと思っていたところに妖精達がやってきてせっせと運び始めたのだ。妖精の言葉は艦娘の吹雪達にはわからないが、身振り手振りで何となくわかった。

 青年が妖精達にお願いしたそうなのだ。報酬は勿論お菓子だろう。一仕事を終えた妖精達が我先に向かうのは青年の下へ報酬を貰いに行ったに違いない。吹雪もお礼を言いに行こうと妖精達の後を追おうとした時だ。

 

 

「ねぇ……吹雪」

 

 

 叢雲が引き留めた。振り返れば言いにくそうに言葉を詰まらせている姿がある。吹雪は彼女を急かさずジッと言葉を待った。

 

 

「……ごめんなさい。感情的になって吹雪よりも白雪達が居ればよかったのに……なんて酷い事を言ってしまったわ。嫌いになったでしょ……」

 

 

 やっと言葉が出たが静寂が場を支配した。一分一秒が長く感じるほど叢雲の心は罪悪感で押しつぶされそうであった。

 

 

 吹雪に酷い事を言ってしまった自覚はあった。今二人だけで謝るタイミングは今しかなかった。辛い日々だったが、姉妹一緒に居られたことが救いだった。しかし叢雲の言葉で姉の吹雪とわだかまりが出来てしまうのは避けたかった。残されたたった一人の姉妹……今更謝るなど嫌な奴だと思われ、嫌いになられても仕方ないと叢雲は諦めていた。

 

 

 本当は嫌いにならないでほしい……素直に言えればよかったが、彼女にはそれができない。クールな一匹狼、自分の実力にプライドを持ち、上から目線だが、優しい一面もある。それが吹雪型5番艦の叢雲だからだ。

 

 

「叢雲ちゃんは……司令官のことどう思う?」

 

「えっ?」

 

 

 しかし返って来たのは予想外の言葉で思考が真っ白になる。

 

 

「今の司令官は叢雲ちゃんが思っていた司令官通りだった?」

 

「……いいえ、想像していたのとは……違ったわよ」

 

 

 叢雲の思っていた提督の姿は青年には見受けられなかった。初めは信用させて裏切るタイプかと考えていたが、迷いが生まれていた。もしかしたら本当に自分達のことを救ってくれる人物なのではないか?叢雲の中で諦めていた理想の提督の姿が青年と重なりつつあった。

 

 

「そうなんだ。私は司令官のことを信じてる。白雪ちゃん達が居ないのは辛いよ。でもね、私は司令官と出会えて良かったと思ってる。それに叢雲ちゃんは私が辛い時いつも傍に居てくれた。私と叢雲ちゃんは姉妹だよ?大事な妹のことを嫌いになるわけないじゃない」

 

 

 手をそっと握られる。嫌われてしまう……それを怖いと思った。だが手を握ってくれた姉の優しさについ嬉しくなる。叢雲にとって残った最後の姉である吹雪は心の拠り所であった。

 

 

「だから叢雲ちゃんも私が信じる司令官を信じてみて。あの人なら私達をきっと救ってくれるから!」

 

「吹雪……ふ、ふん!吹雪はともかく、あいつは努力次第ね。あいつがヘマをしない限りは見限ったりしないから安心しなさい」

 

「叢雲ちゃんもヘマしないように、しっかり司令官の為に頑張らないといけないよ?」

 

「わ、わかっているわよ!!それに……嫌いにならないでありがとう

 

「えっ?なんて?」

 

「な、なんでもないわよ!!」

 

「変な叢雲ちゃん」

 

 

 ……仲直りできて良かった。これも吹雪があいつのことを信用したおかげなのかしらね。でも私はまだあいつのこと信用したわけじゃないから。吹雪のことを信じて言うことを聞くだけだから。もし私達を裏切るようなことをしたらその時は……覚悟しておきなさい!!

 

 

 吹雪が言うのだから不本意ながら仕方ないと自分に言い聞かせ、ほんの少しだけ青年を信じてみようと思うのであった。

 

 

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