さて、戦艦棲姫の存在が明かされてどう物語が動いていくのか。
それでは……
本編どうぞ!
○○鎮守府A基地では現在艦娘達が忙しなく鎮守府内を動き回っていた。
「ねーえ、提督これはどこに運ぶの?」
「それは向こうに運んでくれ。後な島風、荷物を連装砲達に持たせて自分だけ楽をするな」
「ええー!?連装砲ちゃんは島風の手足なのに?」
「お前の手足はちゃんとあるだろ。自前を使え自前を!それに連装砲達をこき使っているといつか見限られちまうかもしれないぞ?」
「ぶぅー、わかったよ。連装砲ちゃんそれ貸して」
島風が風の如く去っていく。青年はやれやれと思いながらも作業を再開する。今彼らは何をしているのかというと荷物の確認、運搬、そして最終整備を行っているのだ。何故こんなことをしているのか、大本営からの通達(正確には美船元帥から)で特別命令が出された。それは南西諸島海域を拠点とする深海棲艦の撃破要請であった。
南西諸島海域は○○鎮守府A基地より遠出となる為に出撃前の準備をしていたのだが、青年はこれを好機と見た。何故なら彼は着任して月日が経ったにせよ、他の提督から見ればまだまだひよっこの新米だ。しかし他ならぬ彼を選んだのは美船元帥だ。
クヒヒ♪美船元帥さんよ、あんたが俺を選んでくれるとはありがたいことだが良かったのかい?俺が偉くなっちまうと立場が危うくなってしまうんだぜ?それにあんたの大好きな艦娘共がいいように利用されるだけされて粗大ごみに捨てられちまう未来が待っているのによぉ!まぁ、俺を疑っていても頼らないといけない状況なのは同情するぜ。無能な提督共だらけであんたも大変だろうしなぁ。あ~あ、可哀想すぎて涙が出ちまうわ!!
……ま、まぁ、命令を受けたからには見事やりきってやるよ。更なる信用を得る為には作戦を成功させなければならないが、その代償としてまだ利用価値のある
美船元帥が青年を選んだ。このことはこれから彼の昇進への道に大きな利点となるだろう。他の提督達よりも怪しさ満点、矛盾を宿す彼の方が信頼に足りるということを示している。これには内心我慢していても笑みがこぼれてしまう。
しかしだ、青年を頼るということはそれ相応の理由があるはず……彼は懐から届けられた手紙の内容をもう一度読み直すと顔をしかめ、手紙には深海棲艦の正体が記されていた。
「……戦艦棲姫か」
『戦艦棲姫』
艦載機や魚雷を一切積んでいない純粋な戦艦タイプの深海棲艦であり、タフさと火力は一級品。殴り合いで勝てる艦娘はそうそういない。
追加で『姫級』というものを説明しておく。深海棲艦の中には『elite』とは違う特別な『
この情報が青年の手元にあったことが何よりも助けになった。もし何の情報もなく出撃していたら轟沈者が現れた可能性が高い。それ程までに危険な深海棲艦である。吹雪達○○鎮守府A基地の艦娘達は今まで深海棲艦を撃破してきたものの、姫級と言った上位の深海棲艦との戦闘は一度もない。
……危険だ。吹雪達でどうにかできるか?相手は戦艦だぞ?こっちに戦艦はいない……重巡洋艦や空母で対抗できるかもしれないが、初の姫級にこいつらがどこまでやれるか心配だ。今まで吹雪達はゲームで言うところの中ボスを相手にしてきた。だが今度の相手は正真正銘のボスクラス、そして恐ろしいのがこいつが随伴艦として存在していた場合だ。
情報では戦艦棲姫がボスの位置にいるとのことだが、もし旗艦が別にいた時の場合に厄介なのがこいつのタフさで旗艦への攻撃を肩代わりしてしまうところだ……ダ〇ソンめ。そのせいでどれほど苦しめられたことか。だがそれはゲームの『艦これ』での話だから実際はどうかわからん。今考えても仕方ないが、何事も注意は必要だ。
情報を得てからいくつもの心配事が絶えない。しかも戦艦棲姫が支配している海域は
「ねぇ提督どうしたの?そんな顔して……しかめっ面もカッコいい♪」
悩んでいたところに声をかけてきたのは夕張だった。
「今回の相手……戦艦棲姫と戦うのかと思うと……」
「……怖い?」
「……いや、そんなことは……」
「提督、私は怖いよ」
夕張は前線に出る予定はない……ない方がいいと青年は思っている。彼女は艤装に何かあった時の為のバックアップ要員として共に行動する予定だ。その彼女でも怖いと思うもの、それはやはり仲間のことだ。
「提督も悩むほどの危険な相手と戦ってみんな無事に帰って来られるのか心配で……R基地でいつも無線を手にしていた。無線から嫌でも聞こえて来る沈んでいったみんなの悲鳴や断末魔が耳に残るの。またあんなのは……聞きたくない……」
あの頃を思い出してしまったのだろう、今にも泣きそうな夕張の姿がそこにある。
「……させないさ」
「……提督」
させてたまるか。例え相手が戦艦棲姫だろうと俺の
青年を見つめる夕張を置いて、彼は準備に取り掛かる。そして遂に出発の日を迎えた。
「アイドルが留守番だなんて……」
「そう言うな。無人にすることは出来ないんだ。留守番は頼んだぞ」
「は~い」
「青葉、熊野、川内も那珂がこんなのだから頼んだぞ」
「こんなのってなにー!?」
「あはは、でも司令官と一緒に居られないのは寂しいですが青葉に任せてください」
「このわたくしに不可能などありませんわ。鈴谷……頼みましたよ」
「うん、こっちは任せて」
「提督……無事に帰って来てよ?神通、提督をお願いね」
「はい、姉さん那珂ちゃん、青葉さんと熊野さん、妖精さん達もここを頼みます」
『「らじゃー!」』
『「のーぷろぶれむ!」』
『「だらしないせんかをあげるなよ?」』
「提督ー!!みんなも絶対無事に帰って来てよぉ!!!」
川内達と一部の妖精達に見送られながら青年達は南西諸島海域へと出発した。
「………………………………………………」
「川内ちゃん、大丈夫だよ。みんな無事に帰って来るから」
「そう……だよね。提督なら大丈夫……きっと大丈夫」
「うん。あっ、そうだ!この前ちょっと高級なお菓子の詰め合わせを見つけたんだ。それこっそりみんなで食べようよ♪」
『「おおっ!!?」』
『「いまのきいたか!?」』
『「こうきゅう……だと!?」』
『「いちばんはわたしだー!!!」』
『「ぬけがけゆるさん!!!」』
「ああ!?那珂の発言で妖精達が!!!」
「このままだと全部妖精さん達に食べられちゃう!?那珂ちゃん全速力!!!」
ドタバタと妖精達を追って川内と那珂は鎮守府内へと戻っていく。やれやれといった具合で青葉と熊野は二人の後に続こうとした。
「……んっ?」
「あら?どうか致しました?」
「……今誰かに見られていたような気が……」
「えっ?」
青葉の言葉に熊野は辺りを見回すが自分達以外人っ子一人居ない。それもそうだ、ここにいるのは自分達だけのはずなんだから。
「青葉の勘違いでしたね。ふぅ……ちょっとビクッとしちゃっいました。司令官が居なくなって寂しいからでしょうかね」
「きっとそうですわ。でもそれも少しの間だけです。青葉さん、わたくし達もお二人に続きましょうか」
「そうですね。いやー高級ですか。楽しみですね~♪」
二人も鎮守府内へと戻っていく……誰も居なくなったはずの港には一つの影が浮かんでいることを知らずに。
「おい、
「潜入した者からによれば現在複数の
「全くどうなっている?我々が目をかけてやったのは確かだが、任せていた豚野の奴は事故で記憶喪失となり、豚野のところの
「こちらも訳がわからん。それにあの小僧は
「はぁ?そんな馬鹿なこと……報告者は目でも腐っているのか?」
「いいや、情報は確かだ。信頼できる手の者を向かわせたのだからな。引き続き情報を得るつもりではいるが……」
「おいおい、汚物共を監視し続けないといけないとか見張りの奴が可哀想になってくるわ♪俺だったら逃亡するね」
「それを言うなら我々はどうなんだ?その汚物共と鎮守府に押し込められている身なんだぞ?」
「それは確かに、俺達って可哀想な人間だよな♪」
「違いない♪」
「「「はははははははっ!!」」」
「ええい貴様ら、何を笑っている!そんなことよりもだ、
円卓上で話し合う男達、服装からして軍人だとわかる。男達が何やら怪しさ満点の集会をしている光景が所判らぬ場所で繰り広げられ、一人のまとめ役だと思われる初老の男が声を荒げた。他の男達はピタリと動きが止まる。一体何の話をしているのだろうか?
「だ、だが証拠は隠滅したじゃないか」
「ああ、そう聞いている。何故俺達をここに集めてまで……もう終わったことだろ?」
「……貴様ら勘違いしているようだな」
「勘違いだと?」
「ここに貴様らを集めることにしたのは私ではない。あの方、直々に来てくださるそうだ」
「ま、まさか……」
初老の男の言葉に他の男達は何やら落ち着きがなくなり、姿勢を正す者や身なりを整えるものなど先ほどの雰囲気とは別物になった。そして同時に扉の外から高らかな声が聞こえて来た。
「おーほっほっほっ!!!」
「こ、この声は!!?」
高らかな笑い声に反応した男達。彼らはその声の主に期待を孕んだ瞳を向けている様子であり、扉を開け放ち現れたのは一人の女であった。
「これはこれは……お待ち申しておりました」
初老の男は急に腰は低くなり、いやらしい笑みを浮かべた。初老の男の前に立つのは女軍人であることが窺える。その人物の特徴的なのは顔面を覆う化粧がどぎつくて、紫色に染めた唇がでかでかと存在感を現して更には化粧の上からでもその顔のバランスが崩れているのが確認できる。一目見ただけで度肝を抜く容姿であるが、忘れていけないのがこの世界があべこべ世界であると言う事を……つまりこの女軍人は
「お喜びなさいな、わたくしともあろう者が人目を盗んでお伺い致しましたのよ?あなた方とこうして密会しているところを見られる訳にはいきませんし。特に
「は、はぁ……誠にその通りでございます大将殿」
男達は腰は低くなったまま。それもそうだ、この女の階級は大将。力関係は見るからに一目瞭然である。
名を
小葉佐大将は穏健派の人物である……が、それは仮の姿。裏では男達……もうわかると思うが軽視派の連中と繋がっている。そして何より先ほど
美船元帥は小葉佐大将のことを好んではいない。自分とは真逆の
小葉佐大将も美船元帥を好んでいない。この女は元帥の地位を狙っている。
「そ、それで……大将殿は何故我々をこの場に集めたのでしょうか?」
恐る恐るといった具合で一人の男が手を挙げて質問する。その男をちらりと横目で見た小葉佐大将はため息をついた。まるで落胆したようである。
「そこのあなた」
「は、はい!」
質問した男は小葉佐大将に指を刺されるとは思っていなかったのか声が裏返った。しかし
「南西諸島海域には何がありましたか?」
「それは
「そっ、ですが今は機能しておりません。でも実際に行われていたのは事実です。深海棲艦の攻撃を突如受けたが為におかげで放棄せざるを得なくなった。証拠は隠滅し、実験の研究成果も回収した……そこまでは知っていますわよね?」
「は、はい……」
「しかしです。先ほども言いましたが、深海棲艦が突如攻撃して来たのですよ?証拠は隠滅したと現場から確認を取りました。ですが僅かな証拠が残っている可能性も捨てきれません。僅かな証拠をあの
「は、はぁ……」
「あなた方がどのような作戦を立てているのか拝見しようと思いましたが……扉の外でお話を聞いていて呆れましたわぁ。私利私欲を優先し、目をかけていた若者を豚野さんに任せるだけ任せて後は放っていただなんて……なんておそまつな方々なのでしょうかぁ?」
「「「「「……」」」」」
「まぁ、あなた方のことはどうでもいいですわぁ。ですがわたくしは証拠が残っているかもしれないというその僅かな危険性を排除しようと考えました。その危険性を視野に入れ、穏健派に紛れさせた手駒を
小葉佐大将の指摘に男達は黙ってしまう。
「そ、それは……弁明のしようもございません」
「わたくし、あなた方には期待していましたのよ?その期待もハズレてしまいましたわぁ」
「い、いえこれはですね!!」
「もういいです。時間の無駄ですから。それで
「わ、我々はすぐさま連絡を取り、現場の確認をしてもらおうかと……」
「その前に
「しゃ、写真ならあります。こちらを……」
「わたくしの目に叶う方でしょうか?あなた方のようには期待していませんけどね。さて、どれどれ……っ!!?」
小葉佐大将は写真を見るなり微動だにしなくなった。石化したように動かない女に初老の男は恐る恐る声をかける。
「あ、あの……大将殿?」
「……ふむ、いいですわ、この若者が外道丸野助と言うのですね。連絡はわたくしがやっておきます」
「大将殿自らですか!?」
「そうですけど何か問題が御有りですか?」
「い、いえ……」
「それに噂通りならこの若者の実力を見るには丁度いいですし、あなた方が下手に動けばボロが出てしまいそうですし、あなた方は何もしなくて結構ですわぁ」
「は、はぁ……」
「外道丸野助君、わたくしのお眼鏡に叶えばいいのですけどね。楽しみにしていますわぁ……じゅるりっ♪」
舌なめずりをする女の瞳は獲物を見つけた蛇のように怪しく光っていた。