それでは……
本編どうぞ!
「……よし、問題ないわね」
いつになく艤装を点検している。それは少しでも緊張を
「夕張よ、吾輩のカタパルトはどうじゃ?」
「不調……になることはないんだけど、おかしいわね?利根の体質が原因かしら?」
「なんじゃと!?そのようなことがあるのか!!?」
「別にどこかに問題がある感じはしない。けど本番になって不調になるのは……私でもわからないわ」
「ど、どうすればいいのじゃ筑摩!?」
「こればかりは私も利根姉さんの体質としか言えませんね。好調の時はありますけど……」
「むむむ、今度は不調になるわけにはいかんというのに!」
利根、筑摩さん、夕張が頭を抱えているわ。今回の作戦はミス一つ許されない。ミス一つで仲間を危険に晒して最悪壊滅の可能性がある程に危険な作戦だからよ。私達にとって初の姫級……戦艦棲姫を撃滅すること、それが私達に与えられた使命だったわ。いつもならさっさと出撃してやっつけて帰って来るだけなんだけど、あいつがあんな顔をするの……初めて見た。
あいつは変わり者。醜い艦娘に手を差し伸べてくれたバカ。健康管理に気をつけろと自分で言っておきながら夜遅くまで書類と睨めっこして自分の健康を蔑ろにする特大バカ。そんなバカが今回の作戦に対する気持ちは察することができたわ。不安なのね、私だって同じよ。
戦艦棲姫を何度か撃滅しようと大本営の方で作戦が結構されたようだけど、どれも失敗に終わっているわ。轟沈者も出たとか……
○○鎮守府A基地が今では我が家になった。吹雪も時雨、夕立、睦月、電、みんなの帰るべき場所それがあそこ。以前まではあそこに帰るだけで足が竦んだわ。けどもう恐怖なんて感じない。あの憎い男は消え、帰ればあいつが待っていてくれる。美味しい食事に温かい布団、誰かが隣に居てくれる当たり前の生活が以前の私にはなかったわ。でも今は違う。私は今が好き。今を失うことが怖い……白雪達が沈んだあの時と同じことはもう味わいたくないのよ。
「夕張なんとかならぬのか?」
「異常は見られないし……どうしよう」
「ちくまぁ……このまま役に立たなければ皆に顔向けできん。皆は全力で頑張っておるのに吾輩だけ不調など許されるはずがないじゃろ!」
「だ、大丈夫ですよ利根姉さん。カタパルトも気合いでなんとかなるはずです!」
「気合いでなんとかできるのかなぁ?まぁ、私も時間ギリギリまで調整してみるわ。万全の状態で出撃させてあげるんだから」
「頼むぞ夕張、お主に吾輩の行く末がかかっておるのじゃからな!」
利根も筑摩さん、夕張……この光景を失うわけにはいかない。あいつだってそう思ってくれているに決まっているわ。だからこの作戦……
「勝たせてもらうわよ、戦艦棲姫」
あんたが邪魔なのよ。その為に狩らせてもらうわ。あ"っ、言っておくけどあ、あいつの為じゃないんだから!!私の為に戦うだけなんだからねっ!!!
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「……大丈夫かな」
「なによ、怖いの?」
「あっ、瑞鶴さん、翔鶴さんも」
「吹雪さん、ちょっとお話しませんか?」
「えっ?あっ、はい、いいですよ」
ボソリと口から出た不安、二人に聞かれてしまったみたいです。やっぱりこれって心配されていますよね?弱いところを見せてしまうだなんてダメだなぁ。最古参の私がしっかりしないといけないのに……みんなを引っ張っていかないといけないのに。
「はぁ……」
「こら、ため息つくなって!!」
「す、すみません!!」
「ちょっと瑞鶴!ごめんなさい、瑞鶴ったら不安に押しつぶされるもんかって、少しでも自分を奮い立たせる為に気が立っているの」
「ちょっと翔鶴姉!!私は別に気が立っているとかそういうのないから!!」
「……やっぱり瑞鶴さんも不安ですか?」
「……ええそうよ、だって当たり前じゃない!提督さんの顔見たでしょ?」
「……はい、司令官は優しい人ですからきっとこう考えているはずです……」
もしも……もしも誰かが沈んだら?戦艦棲姫に勝てるのか?きっとそんなことばかり考えているはずです。私だって同じ想いの筈ですから。瑞鶴さんも翔鶴さんも……同じなんですよね?
私達艦娘は醜いです。私達のことを見ると気持ち悪がられたり、距離を置かれてしまいます。でもこの国もそこに住んでいる人達のことが好きです。一度はこの気持ちが失われそうになったことがありましたけど、司令官が来てくれたおかげでこの気持ちを今度は失わないように心掛けています。司令官のように優しい人もいるって知ることができましたから。だから私達は相手が戦艦棲姫でも引かずに戦う……っと言えたらカッコ良かったのですけど。
居場所があって、何気ない日常を暮らしながら叢雲ちゃん達と笑い合える今の生活がとても好きです。でも戦艦棲姫と戦えばそれが崩れてしまうかもと思うと……怖いんです。戦う為に存在しているのに、足が竦みそうなんです。みんなと……司令官と二度と会えなくなってしまうんじゃないかと考えてしまい、暗い海の底に沈んでいく光景が頭の中で何度も繰り返されるんです。
それがとてつもなく怖い。現実になってしまったら……きっと耐えられない。
「吹雪さん、瑞鶴も私も怖いです。R基地に居た頃は何度も自分よりも小さい子達が沈んでいくのを見ている事しか出来ませんでした。だから思ったんです」
「……何を、ですか?」
「私達がやらないと他の誰かが犠牲になる。誰かが私達の代わりになってしまうと……その誰かを不幸にしてしまうと。だから怖くても私達がやらなければならないと決意を固めました」
「――っと言っても怖いし、不安だらけ。でも翔鶴姉や吹雪、みんなで協力し合えば絶対勝てるって!」
「翔鶴さん、瑞鶴さん……」
「だから一緒に倒しましょう。戦艦棲姫を、提督の為にも、ね?」
司令官の為に……そうですね翔鶴さん。私達に「お前達ならできる。やってくれると信じているぞ」そう言ってくれたのも司令官です。いつも気にかけてくれて、世間から見放された私達に手を差し伸べてくれた司令官に頼りにされているなら私がやることは一つです!!
「――はい、一緒に勝ちましょう!!そして司令官に吹雪のカッコイイところいっぱい見せてみせます!!」
司令官の喜ぶ顔を見る為に私は沈んでなんかいられませんし、誰も沈めはさせませんから。みんなで生き残って「おはよう」って明日を迎えられるように。絶対に勝ってみせます……この特型駆逐艦の1番艦、吹雪の名に懸けて!!!