それでは……
本編どうぞ!
「それで逃げたつもりなのか?遅すぎる!」
砲撃音が鳴り響く。一発の砲撃が深海棲艦に直撃し、海の底へと沈んでいく。
遂に始まった戦艦棲姫撃滅作戦。木曾率いる艦隊。利根、筑摩、島風の計四名は敵の戦力を確実に削っていった。
「へっ、この程度か。もう少し骨があるかと思っていたが拍子抜けだな」
「これ木曾よ、吾輩がお主に言える立場ではないが気を抜くでないぞ?」
「気なんて抜いちゃいねぇよ、俺がそんな腑抜けに見えたのか?」
「提督にデレデレしていたのは腑抜けではないのか?」
「なぁっ!!?お、俺があいつにで……でで、でれ……デレデレなわけないだろ!!!」
「むっ?そうなのか?」
「そうだっ!!!」
そ、そんなことがあるかよ。俺があいつに……で、でで、ってバッカ野郎!!!まるで俺があいつに気があるみたいじゃないか!!?
顔を真っ赤にした木曾が利根に反論しようとした時、二人に割り込む者が居た。
「もーうー!無駄話ばかり!二人共、真面目にしないと提督に怒られるよー?」
「島風さんの言う通りですよ木曾さん、利根姉さんもここは戦場です。気を抜くことは
「うっ、そ、それは確かにそうだ」
「うむむ、すまぬ」
既に
くそ、俺は何やってんだここは戦場だぞ。筑摩と島風の言う通りだ。仲間を危険にさらすなんてこと旗艦としてやっちゃいけないことだろが!俺のバカ野郎!!だが、久しぶりに会えば利根も筑摩も暗い面影はなくなっているな。島風もここまで強くなりやがって……あいつに色々と教えられたようだな。
木曾は美船元帥直属である故に利根と筑摩との交流は少なかった。元々R基地はブラック鎮守府であった為に利根と筑摩を含めた者達の心は深い海の底に沈んだように暗かった。しかし今はそんなことを感じさせなくなっていることがわかる。島風は建造組で交流はよくあり、ジッとしていることの方が少ない子だったのを憶えている。その時はまだ建造してからそれほど経っていなかったので、練度も低かったが先ほどの戦いを見ていて随分鍛え上げられていたことがわかる。誰の目からも上達していたのは間違いない。
あいつめ、やるじゃないか。こいつらをここまで鍛えあげるなんてな。へっ、俺もいいところをあいつに見せてやらねぇと気が済まねぇぜ!
青年が利根達のことを大切に扱っていた。そのことを木曾は自分事のように誇らしく思え、自分も負けてはいられないと奮起した。
「よっし、もう気は抜かねぇ。全員前進だ!深海棲艦共に俺達の強さを見せてやるぞ!」
「「「了解」」」
この先に待ち受けている深海棲艦に恐れなどない。例え強大な敵が立ちはだかったとしても生きのびてやる。再び青年と共に歩む為に彼女達は恐れている暇などないのだから。
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「木曾、派手にやっているようね」
「そうですね。おかげで今のところは安全に進んでいますが……やはり簡単にはいきませんね。完全に殲滅は難しいみたいです」
赤城さんの視線の先に敵、先行艦隊として木曾達が道を切り開けてくれているけど辺り一帯が大海。木曾達が切り開いた方角とは別のところから私達を始末する為に進軍する部隊のようね。数は軽巡1、空母2、駆逐3、敵意むき出しにして全速力で近づいている。こちらを沈める気満々ね。でもこんなところであなた達の相手をしている暇はないの。
「鎧袖一触よ。心配いらないわ」
弓をつがえる加賀は一呼吸した後に矢を放つ。同時にもう一本の矢が隣の赤城から放たれ、二本の矢は艦載機へと姿を変え、敵を撃滅せんと空を舞う。敵空母からも艦載機が飛び立ち空中戦を繰り広げる。敵の艦載機が加賀達の艦載機へ接近し、鉛玉をぶち込もうとするが軽やかに避ける。これに驚いた敵だったがそれが命とり、別の方角から加賀達の艦載機が機銃を掃射し敵を撃墜する。敵味方が入り乱れても加賀と赤城が放った艦載機は一機も撃墜されていなかった。これも練度、そして経験の差なのだろう。敵はなすすべもなく次々と撃墜されていく。そこへ少し遅れて新たな艦載機が加わり、数でも圧倒的な優位にたった。
「翔鶴隊行くわよ!全機、突撃!」
「アウトレンジで……決めたいわね!」
現れたのは瑞鶴と翔鶴の艦載機。加賀と赤城から見ても練度的には一航戦コンビの方が上だ。敵の狙いが加賀達の艦載機から瑞鶴達の方へと狙いを変えた。弱い方から潰していき、数を減らす。基本的な戦術だ。しかし五航戦の意地か舐められたからか、動きにキレが増し、次々に敵を撃墜していった。
「どうよ!加賀さんばかりにいいところを渡さないわ!」
瑞鶴は胸を張り、自分達の活躍はどうだ!と言わんばかりに加賀にアピールする。
「――ッ!?瑞鶴危ない!!」
「――えっ?」
そんな時に翔鶴の切羽詰まった声に気づく。いつの間にか空中戦からすり抜け、瑞鶴を目掛けて突っ込んで来る敵の艦載機。避けれない……そう思った瑞鶴だったが、上空から弾丸の嵐が敵の艦載機を襲う。なすすべもなく火の手を挙げながら海の底へと沈んでいった。何者かと見れば青の機体、加賀隊の証が刻まれていた。
「油断大敵ね」
「むっ!」
どうやら加賀の方が一枚も二枚も上手のようだ。そのことが気に入らないのか瑞鶴はムスッと表情を変えた。
「まだまだね、張り合おうとするのは勝手だけどここは戦場、敵を殲滅することが最優先。この程度で油断していると後が大変よ?でも威勢だけは上出来、お調子者のあなたにはお似合いね」
「な、なんだとー!!?」
加賀に指摘され顔を真っ赤にしてぷんすかと怒りだす。
困った五航戦ね、私よりも敵を見るべきなのにそんなに私のことが嫌なのかしら?あなたにとって
加賀は思い出す。大淀達が帰って来たあの日から変わった。加賀達は艦娘を蔑ろに扱う軽視派の連中を告発する為に不正や横領の証拠を探り出し、暴力等から艦娘達を守って来た。しかし○○鎮守府A基地、正確には一人の青年だけが違った。自分達が心の底から慕う鳳翔が、今まで軽視派に容赦しなかったあの木曾が信頼を寄せる男が今、加賀達の指揮官としてついている。思うところは山ほどあった。加賀自身も瑞鶴を見ていて思うことがある。
加賀は瑞鶴のことが嫌いではない。ただ軍艦だった頃の名残りの影響が残っており、お互いに反発してしまうだけである。加賀は瑞鶴が酷い仕打ちを受けていたことを知っており、幸せになって欲しいと思っているが、彼女の提督が例の青年。そこに複雑な感情を抱いてしまうのは仕方ないことだった。
「瑞鶴無事!?」
「翔鶴姉……私は無事」
「よかった」
妹の瑞鶴が無事でホッと息を吐く翔鶴は加賀に向き直り、頭を下げた。
「加賀さんありがとうございます。おかげで瑞鶴は無事です」
「いいのよ別に」
「瑞鶴、お礼はちゃんと言わないとダメよ?」
「……一応助けてもらったお礼は言っておくわ。あ、ありが……とう」
それだけ言って恥ずかしいのか背を向けた。加賀に対して突っかかる瑞鶴ではあるが助けられたらちゃんとお礼を言う。加賀に対して態度はあれだが根は優しいのだ。顔は背を向けてしまい見えないが、耳が赤く染まっていた。
「……ふっ」
「嬉しそうですね加賀さん」
「いいえ、私は別に嬉しくなんてないわよ?」
「ふふっ、そう言うことにしておきますね」
「もう赤城さんったら……」
瑞鶴を眺めながら、無表情から少しだけ笑みを見せた加賀であった。
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「敵影……なし。叢雲ちゃんと時雨ちゃんはどう?」
「こっちは損害ないわ」
「僕達も大丈夫だよ」
「神通さんの方はどうですか?」
「こちらも誰一人として損傷はありませんでした」
「わかりました。よし、この調子で行きましょう!」
そこからはあっという間だった。航空戦にて勝利を収めて優位に戦況が傾いた状態からの海上戦が始まった。加賀達空母を含めた主力艦隊の旗艦吹雪、叢雲の護衛が付いている。更には別艦隊の旗艦神通、暁、響、雷、古鷹、加古と更に時雨、夕立、睦月、電、鈴谷の艦娘総出での連合艦隊として動いている。敵よりも数が勝り、練度も高い連合艦隊である今の吹雪達を突破できぬものなどそうないだろう。その結果が誰一人として損傷を受けずに敵を撃滅したことがその証拠だ。
それから真っすぐに突き進む途中で敵と邂逅するもあっさりと撃破していく。先行する木曾達のおかげで敵は先行艦隊に夢中で、吹雪達は赤城達空母組を護衛しながら安全に進路を進めていくことができた。そして木曾から無線越しに伝わって来た内容によると遂に変色海域へと差し掛かったようだ。少し遅れて到着した吹雪達は改めて変色海域の意味を理解する。
真っ赤だ。途中少しずつ海が変色していったが、ここから先は別の世界が広がっているかのような錯覚を覚えさせる程の真っ赤な海。この場にいるだけで悪寒を感じさせ、不気味な静けさ、視界を妨げる赤い霧が立ちはだかっていた。
「おい吹雪、そっちは問題ないか?」
「はい、木曾さん達のおかげで損害なしです」
「ならいい。さて、こっからが本番だな」
意気込む木曾は改めて変色海域の恐ろしさを感じていた。並みの深海棲艦とは違う大物、多くの艦娘達を沈めた憎き敵、この先に戦艦棲姫が待ち受けていると思うと汗が流れる。
「んぉ?提督から連絡じゃん!どったのー?」
臨時基地の司令部からの連絡にいち早く気づいた鈴谷。他の艦娘にも青年の声が届く。
『「お前達、変色海域へ辿り着いたようだな。全員無事か?」』
「はい!吹雪以下全員無事です!」
『「ならいい。だが注意することだ。ここからは時間との勝負だ。変色海域内ではお前達の艤装が損傷していき、その中ではお前達艦娘には不利な状況となるだろう。これは避けられない事態だ。だからと言って逃げることはできない」』
皆真剣に青年の言葉に耳を傾けていた。
『「艦娘は皆、人間、国の為に戦ってくれた。しかし俺達人間はその恩を忘れ、お前達の中には酷い仕打ちを受けた奴もいるだろう。俺達人間を嫌いになってもおかしくないが、それでもこうして深海棲艦との戦いに身を投じてくれた。少なくとも俺はお前達に感謝している。新米提督の俺をここまで支えてくれた。お前達艦娘のように艤装は扱えず、力なんてこれっぽっちもないが、俺はこれからもお前達を支えたい。その為にも帰って来い……いや、帰って来てくれ。俺の艦娘達よ」』
「「「「「了解!!!」」」」」
艦娘達は変色海域へと足を踏み入れる。信頼と未来への希望そして胸に熱き魂を宿した彼女達には恐怖心など抱くことはなく瞳は真っすぐまだ見えぬ戦艦棲姫へと向けられていた。
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「遂にですね」
「ああ」
臨時基地の司令部には青年と夕張、少数の妖精達のみ。その誰もが緊張を胸に宿している。
吹雪達が変色海域へと侵入した途端に通信にノイズが所々に入り、まともに音を拾うことが出来なくなった。これも影響の一つと見て間違いない。そして何より恐ろしいのが敵のテリトリーは時間制限付きであることだ。不利な状況下での強敵との戦い、下手をすれば艦娘全員轟沈する可能性もある。だが青年は決してそんなことにはならない、させないと決めていた。
頼むぞ、俺の昇進がかかってんだ。相手は姫級、それを新米提督の俺が撃滅してみろ?最高の戦績になるじゃねぇか!だが美船元帥さんは艦娘にご執心、戦艦棲姫を撃破しても轟沈しようものならいい顔はしないだろう。そんなお優しい元帥さんに気に入られる為にはこの作戦、誰一人として失うことは許されねぇ。
艦娘共の士気を上げてきた。これも計画通りに進んでいる。俺は
ぶるりと赤城と加賀の鬼すら逃げ出す形相を思い浮かべてしまった青年にとって鳳翔と間宮を連想させることにもなっているのだろう。
「あの……提督」
「んぁ?なんだ?」
「みんな無事に帰ってこれますよね?」
「帰ってこれるじゃない、帰って来るんだ。あいつらはああ見えてもだらしないところがあるから面倒見てやらねぇといけねぇ世話のかかる奴らだが、俺にとってもあいつらにとってもお互いに必要不可欠な存在、決して失うわけにはいかないんだよ」
「提督……」
そうだよ、帰って来ないと美船元帥さんの好感度が得られねぇんだよ!今までお前達にかけた時間は無駄じゃないだろ?だから俺はお前達を信じている……早く戦艦野郎をぶちのめして帰って来い。まだお前達にはやってもらうことがあるんだからよ!
夕張と青年には最終的な目的は違えど、彼には艦娘達がまだ必要。昇進するまでは手放すことはしない。それでも今は皆が無事に帰って来ることを祈っていた。