あべこべ艦これの提督さん   作:てへぺろん

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遂に敵が登場する時。


それでは……


本編どうぞ!




5-4 戦艦の姫君

 何者も飲み込んでしまうかのような真っ赤な海で今、轟音と共に異形と戦う者達が居た。

 

 

「これでも食らうにゃしぃ!!」

 

「はわわっ!?睦月さん危ないのです!!」

 

「――にゃ!?あ、危うく当たるところだったの……ありがとう電ちゃん」

 

「お礼は後なのです!はわっ!?敵がこっちに来たのです!!」

 

「なら夕立に任せて。夕立突撃するっぽい!!」

 

「僕達は夕立を援護するよ!鈴谷は向こうの敵をお願い!」

 

「OK!鈴谷におっ任せー♪」

 

 

 戦う者達とは艦娘、異形すなわち深海棲艦。正と負の対立する存在が変色海域で攻防戦を繰り広げていた。

 

 

「電が頑張っているわね。私も負けられない――っと、不意打ちのつもり?そんな攻撃、当たんないわよ?」

 

「雷もやるじゃないか。負けていられないね……Ура(ウラー)!!」

 

「むむっ、お姉ちゃんより目立つなんて!あ、暁だってやればできるんだから!!」

 

「加古、右に注意して!」

 

「わかってるって……よし!いっちょあがり~♪」

 

「――ッ!?各艦、前方に新たな深海棲艦を確認。注意してください」

 

「うげぇ、またぁ?神通、敵多すぎじゃんかよ~!」

 

「泣き言を言っている暇はありませんよ?こうしている間にも私達は追い詰められているのですから」

 

「そうよ加古?私達は帰らないといけないのよ。私達の帰りを待っていてくれる外道提督、それに弱樹提督の為にも」

 

「古鷹……そうだった。さっさとこの作戦を終わらせてぐっすり眠りたいしね!」

 

 

 次々と現れる深海棲艦をなぎ倒していく艦娘達。飛び交う砲弾と銃弾、空を舞う艦載機がその壮絶さを物語っていた。

 

 

「――ッ!!?全員あれを見ろ!!」

 

「「「「「――ッ!!?」」」」」

 

 

 切り込み隊長の木曾が放った一言で全員の意識が一ヶ所に集まった。そこに作戦のターゲットである戦艦棲姫が不気味な笑みを浮かべ、獲物を目の前にした猛禽類のように瞳がこちらを捉えていた。その不気味さに艦娘達の全身に悪寒が走る。それでも彼女達は歯を食いしばり、闘志を燃え上がらせる。

 決して逃げたりしないと決めている。自分達の背には守るべき者、帰る場所、そして帰りを待っていてくれる青年()がいる。

 

 

「みんな!準備はいい?いくよ!!!」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

 

 吹雪の一声に全員が応える。狙うは戦艦棲姫、南西諸島海域の覇権をかけての大戦が今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!?被弾しました!」

 

「あうっ!?や、やられました!!」

 

「ぐあっ!?ちくしょー!!!」

 

「みんな気をつけt――うわぁ!?」

 

 

 無数の砲撃、空を舞う艦載機の攻防戦、艦娘と深海棲艦がぶつかり合う海上(戦場)で激しい損傷は避けられない。吹雪達は承知の上だが、厳しい状況へと追い込まれていた。

 

 

「(不味いぞ、時間がかかり過ぎている。このまま不利な状況が続けば誰かが轟沈する!!)」

 

 

 木曾は焦っていた。変色海域の影響が思っていたよりも仲間の損害に繋がっていた。中破した者まで出てしまい、このままでは誰かが沈む。比べて戦艦棲姫は随伴艦に守られ傷一つない状態だ。強者としての余裕なのか、自らは直接手を出さずに高みの見物を決め込んでいる姿が頭に来る。

 

 

「(ちくしょう、俺達なんて敵じゃねぇってか?その余裕ぶっこいだ不細工な面が更に醜く歪むのが見ものだぜ!)」

 

 

 木曾はこの危機的状況に対して決断する。

 

 

「おい吹雪!」

 

「は、はい!?」

 

「お前達は赤城達を連れて戦艦棲姫の下へ行け。そこまでの道は俺が作る!」

 

「で、でも木曾さんだけでは……!」

 

 

 木曾と共に先行部隊として結成された利根、筑摩は中破してしまった。幸いなことに島風はその速度を活かして損傷を免れたが、魚雷を打ち尽くしてしまい自ら囮役をかって出て深海棲艦の注意を引いていてくれている。その役目を放棄してしまったらその分の攻撃が時雨達へと向けられてしまう為、彼女には今のまま場をかく乱してもらった方が好都合。現在、仲間も無傷である艦娘の方が少ない状況で、これでも大破した者がいないことは奇跡に近いが時間の問題だろう。そう判断した木曾は自ら一人で戦艦棲姫への道を切り開くつもりだ。

 吹雪、叢雲、赤城、加賀、瑞鶴、翔鶴を連合艦隊から独立させ、戦艦棲姫及び随伴艦の撃破を目指す。時雨や神通達は他の深海棲艦を足止めしてもらう作戦にかける。

 

 

 変色海域では無線もほとんど使い物にならない。提督である青年の指示も届かず、自分達で戦況と作戦をその場で判断しなければならない。時間をかけることができない状況でこの作戦は間違っていないだろう。しかし一人で突っ込むのは無謀だと吹雪の視線が訴えるが……

 

 

「俺は切り込み隊長だぞ?切り込み隊長の俺が後ろでちまちま援護なんてやってられるか。それに安心しろ吹雪、俺は沈まねぇよ。それに……帰って来てくれって言われたからな

 

「木曾さん?」

 

「なんでもない。吹雪、頼んだぜ!!!」

 

 

 たった一人の先行部隊、切り込み隊長の木曾はかけた……吹雪達の道を切り開くために。

 

 

 ★------------------★

 

 

 まったく、なんて無茶をするのかしら――ねっ!!!ほんと、滅茶苦茶よ!?

 

 

 叢雲の砲撃が駆逐イ級を沈める。戦場と化した海に残骸が散らばり海底へと沈んでいく。幾多の深海棲艦の亡骸は戦場の壮絶さを思い知らしめる。しかし叢雲の視線の先では更なる壮絶さが繰り広げられていた。

 

 

「これくらいッ!なんとでもないぜ!!!」

 

 

 切り込み隊長こと木曾が傷つこうと艤装が砕けそうになろうともお構いなしに複数の深海棲艦と戦っていた。それもたった一人で叢雲達を戦艦棲姫の下へ辿り着かせる為だけの突撃。木曾は軽巡洋艦、相手には重巡洋艦、空母、駆逐艦の数々をことごとくぶちのめしていた。本来ならば圧倒的な戦力差だが、ゲームと現実は違う。

 

 

 ステータスが全てで決まるものではない。そこには目には見えぬものが確かに存在していた。

 

 

 絆、意志、信念が彼女を強くしていた。彼女だけではない、この作戦に参加している艦娘達全員に言えることだった。彼女達は今、艦の性能を超えた力を発揮した。相手はたった一人で何ができると弱小な存在だと侮っていた深海棲艦はこの結果に驚愕していた。

 

 

 もう木曾ったら滅茶苦茶に暴れてくれているわね。少しぐらい自分の身を大切にしなさいよ……でもあなたのおかげで……到着できたわ。

 

 

 叢雲は自分達の分まで引き付けてくれている木曾に感謝しつつも目の前の存在にのみ意識を向ける。

 

 

「フフッ♪マタエモノガヤッテキタワネ」

 

 

 戦艦棲姫が不気味な笑みを浮かべて佇む。今までの深海棲艦との存在感があまりにも違いすぎる強者の貫禄。絶対強者が叢雲達の前に君臨した。こちらは六人、相手は一人だとしても余裕の笑みは浮かべられない。寧ろ戦艦棲姫の方が余裕を持っているようだ。

 比べて叢雲達はゾワリとした感覚が全身を伝う。生命が発する危険信号は目の前の相手とはやりあうなと警戒していた。しかし彼女達は本能を理性で抑え込む。決めたんだ、誓ったんだ、この作戦を成功させて再び青年の元へ必ず帰ると。

 

 

 ――ッ!戦艦がなによ!私は沈まない、吹雪も沈ませない、みんなで帰るのよ。あそこにはあいつが待っている……これは別にあいつの為じゃないわ。あいつにはまだ私達の為に汗水流して死ぬほど働いてもらわないと困る……死んじゃったらもっと困るけど、死なない程度に働いてもらわないといけないのよ。だからね、あんたなんかに時間を割いている程に私達は暇じゃないのよ!

 

 

 叢雲は鋭い瞳で戦艦棲姫を睨みつけた。狼が今にも飛び掛かって来そうな勢いを感じさせる。更には背後で仲間達が戦艦棲姫との戦いへ介入させないように他の深海棲艦に必死に抗っていた。誰もが死に物狂いで生にしがみつき、相手を沈める(喰らう)。深海棲艦らが艦娘達の迫力に気圧される程だ。

 

 

「ホゥ、イママデノエモノトチガウ……カ。イイメダ」

 

 

 戦艦棲姫もその光景を見て感心しており、仲間が気圧されていても楽しんでいる。それはまさに人の感情と同じ物だと印象を受ける。

 

 

「フフッ、コワシガイガアルヨウネ♪」

 

 

 しかし本質は暴力的だった。邪悪な笑みを浮かべて意志を持った艤装を展開し、これから始まる死闘に興奮を抑えられていない。

 

 

「赤城さん、加賀さん、瑞鶴さんと翔鶴さん準備はいいですか?」

 

「はい、一航戦の誇りにかけて赤城、全力で参りましょう!」

 

「同じく加賀、勝利は譲れません」

 

「さぁ、始めるわ。絶対に私達が勝ってやるんだから!」

 

「私だって、提督の為にも負ける訳にはいきません」

 

「叢雲ちゃんも準備はいい?」

 

「勿論よ、私の戦場(いくさば)での活躍その目にしかと刻みなさい!」

 

「サァ!タクサンノヒメイヲキカセテモラウワヨ♪」

 

 

 何が『沢山の悲鳴を聞かせてもらうわよ♪』ですって?あんたみたいな奴なんかに私達がやっと掴んだ幸せを奪われてたまるもんですか!戦艦棲姫、覚悟なさい!!!

 

 

 命運をかけた戦が今始まった。

 

 

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