それでは……
本編どうぞ!
「提督、少し落ち着いたらどう?」
「んぁ、そうなんだが……って、お前こそ貧乏ゆすりを止めたらどうだ?」
「――あっ!?あ、あははははは、いや~これは何と言うか……は、恥ずかしいところ見られちゃった」
『「げんざい、じょうきょうふめい!」』
『「いつかえってくるの?」』
『「わかんない」』
『「しんぱいだなー」』
臨時基地の司令部で報告を今か今かと待ち惚けの青年が落ち着けぬ様子であっちへこっちへと歩き回っていた。その行動を落ち着かせようと指摘した夕張本人ですら落ち着けず、妖精達ですら遊ぶことなく通信機を調整して音を拾おうと現場の現状を知りたくても知れぬもどかしい状況が続いている。一分がいつもよりも長く感じる程にこの場の空気は重く、時間がのろのろと経過しているのかと錯覚してしまう。
あいつらが変色海域に入ってから結構経った。あの中で長くいるのは自殺行為だ。まさか誰かが沈んだのか?い、いやそんな訳があるはずない!俺の
青年は待っていることがこれほど気分を害するものだとは思わなかった。結果を知りたいが、望んだ結果とは異なるものだとしたら……通信機から流れて来る雑音が断末魔に変わってしまったらとあらぬ考えが浮かんでしまう。
昇進を叶える為に艦娘は必要不可欠な道具である。邪な欲望を持つ彼でも今は心の内で勝利と帰還を願って祈りを捧げていた。それは神に対してでは決してない。身を挺して最前線で戦っている艦娘達に対して祈っていた。
「……提督、お茶飲む?」
「いい、お前が飲め」
「……うん」
そう言いつつも夕張も口を付けただけ。もう胸が様々な感情でいっぱいだった。
そういえばもう俺が提督になってから結構経っているんだったな。それでもまだ新米提督のままだが、既に戦艦棲姫とやりあうとこまで来てんだよな。あのクソ猫から始まって、病院を退院して初めはそう……
「……俺が最初にあった艦娘は吹雪だった」
「提督?」
青年は昔話……そこまで昔のことではない。彼が○○鎮守府A基地へやってきた時のお話を語り出した。いきなり語り出したので何事かと思ったが、夕張や妖精達だが誰も邪魔することはなかった。
初めて○○鎮守府A基地へやってきて散々な目に遭ったことや妖精達の出現、大淀達と出会い、初めての建造で生まれた熊野達も含めて共に海域を攻略し喜び合ったこと、そしてR基地で夕張達と出会う。この先は夕張でも知っている通り川内が着任、神通達を養うことになった。そのことは夕張も話で聞いていたが、青年から直接詳しく話されたことはなかったが、どうして今このタイミングで語ったのか不思議に思う。
「俺はまだあいつらが必要だ。あいつらが居なければなにもできない。現実、深海棲艦相手に手も足も出ないし、俺の能力も大したものじゃない。運動はある程度できてもそれは軍人だから。だがお前達には敵わない。戦略や知識はお前達よりも上だとしてもこう通信機が使えず、指示も出せなければ俺が居る意味がない……なんて人間はちっぽけな存在なんだろうな?」
「……提督」
こうも祈ることしか出来ねぇとは情けねぇ。軍人になることを目指して体を鍛えて勉強して、将来は贅沢三昧の日々を送れるように提督としての座を用意してもらって後は
今までの経験は決して無駄ではない。この俺の指揮とあいつらの戦闘力が備われば怖いものなしだ!っと言いたいところだが、指揮も出せず、落ち着けぬ状態に置かれてしまった俺はただ祈るしかできないとは……変色海域では俺の存在自体無力ってことかよ……クソ!
青年は自身の不甲斐なさにイラっとした。情報で既に知っていたが、いざその状態に陥った時の苛立ちは相当のものだった。
敵がただの深海棲艦相手ならまだしも姫級相手には変色海域が付きまとう。その中では通信機が役に立たず、その場で艦娘達の臨機応変な作戦変更が求められることになり、提督との連絡は不可能に近くなる。提督が役立つのは変色海域に入るまで、それ以降はどうすることもできない。そのことが彼にとって腹立たしいものとなった。自分は役に立たない……だからこそ無意識に彼らしからぬ弱音を吐いてしまった。
「提督、提督はちっぽけな存在ではないですよ?」
「何を言う。人間は艦娘や深海棲艦相手には手も足もでまい。俺だって同じだ」
「だからって
「そ、そうだな。まぁ容姿の良し悪しなんて微々たることだからな」
「でもそれが……嬉しかった」
「……」
ほんのりと頬を赤く染める夕張は真っすぐ青年を見つめていたが、ハッとして視線を逸らせた。
「て、提督が弱音を吐くぐらい不安なのはわかるわ。でも提督はちっぽけなんかじゃない……私達にとっての提督はあなただけなの。それだけはわかってほしいな?」
「夕張……まさかお前からこんなことを言われるとは。へっ、悪いな、俺の弱さを見せちまって」
「いえいえ、提督意外と弱いところ多いですし気にしてないです」
「んぁ?弱いところが多いだ?聞き捨てならねぇな、どんなところがだ?」
「例えば鳳翔さんと間宮さん」
「――ッ!?」
「お酒にもめっぽう弱かったもんね」
「あ、あれはあいつらが限度を超え過ぎてだな……」
「あっ、そういえば明石さんから妙なことを聞いたっけ?」
「妙なことだと?」
「初めての建造で、島風を建造した時に提督が鼻血を出しt……」
「――んぁあああ!!!そうだ、あいつらが帰って来たらすぐに入渠ドックへ入れてやらないといけねぇな!!!これはすぐに用意しねぇと!!!あー大変だ大変だ!!!」
「あっ!?提督……行っちゃった」
慌てて出て行った青年の背を見送る夕張は安堵の表情を浮かべていた。
「少しは提督の気晴らしになれたかな?思い詰めた顔よりも提督には笑顔でいて欲しいから……みんな、提督の為にも帰って来てよ……絶対」
ちくしょう、明石の奴め、俺のトップシークレットを話しやがって。今度会ったらただじゃおかないからな!たっぷりとお仕置きして俺の恐怖を植え付けてやる。それはそうと、あいつらが帰って来るまでに即入渠できるように準備しておかねぇと。提督である俺自身が動いてやっているんだからその対価は高くつくぞ?勿論支払いは体で払ってもらわないとな……クヒヒ♪って決して変な意味じゃねぇからな!?俺の為に今後も活躍して昇進の為の人柱になれってころだから勘違いすんじゃねぇぞ!!?但し、轟沈なんぞしたら沈んでも俺は許してやんねぇから覚悟しておけよ。
青年自ら入渠ドックの準備に取り掛かるのであった。
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轟音と共に噴煙が上がり、着弾地点は激しい水しぶきを撒き散らす。
「ニゲナイトアタッチャウワヨ♪」
戦艦棲姫による怪物のような姿をした艤装から繰り出される砲撃。戦艦故の火力に当たれば只では済まされない。それを吹雪と叢雲は辛うじて避けつつ敵に狙いを定め……
「当たってー!!」
「くらいなさい!!」
二人の砲撃が動きの鈍い戦艦棲姫に直撃した。この時二人はやったっと思ったが……
「フフッ♪ソノテイド?」
傷一つもない姿を自慢するかのように見せつける。駆逐艦では戦艦棲姫の装甲を貫けない。決して威力不足ではない、駆逐艦の単装砲でも傷は与えられた……今までならば。相手が並みの戦艦とは違うことを思い知らされる。
「くっ、なんて装甲なのよ!?」
「叢雲ちゃん!砲撃がダメなら魚雷で……!」
「サセナイワヨ?」
砲撃から雷撃へと切り替えようとしたところに敵の砲撃が二人を目掛けて飛んでいく。気づいた二人はお互いを突き飛ばして間一髪、砲弾が間を通り過ぎ水しぶきを上げた。機転が利いた行動を取ったことで回避できたが心臓がバクバクと音を立てているのがわかる。
戦艦棲姫には艦娘が子蟲のように見えていた。すばしっこいだけのいつでも叩き落とせる
「私達のこと忘れているんじゃないわよ!!瑞鶴隊いっけー!!」
「その背中、隙だらけですよ!」
忘れてなんかいない。隙など見せていないと戦艦棲姫は笑みを浮かべた。
「――なっ!?」
「――そんな!?」
瑞鶴と翔鶴は戦艦棲姫の背後に回り込んで艦載機を発艦させて隙だらけの背に攻撃をお見舞いしようとした。しかし戦艦棲姫と一心同体とも言える怪物型の艤装が対空砲を放ち、艦載機を撃墜した。
「それでもまだ残っているわ!翔鶴姉、まだやれる!」
「ええ、そのまま攻撃するわ!」
一瞬動揺したが、それでもまだ艦載機は飛んでいる。攻撃の手を緩めず攻め立てる。艦載機から繰り出される攻撃だったが、怪物型の艤装が戦艦棲姫を守るように立ちふさがり、直接被弾することはなかった。
戦艦棲姫を撃破しようと何度か作戦が決行された。その時に戦った経験かはわからないが、こちらの動きに対して対応してみせた。戦い慣れている。そう理解させるには十分な要素だった。
「(この戦艦棲姫……おかしいわ)」
その状況下でも赤城は冷静に判断していた……否、そうしないといけなかった。冷静でいることで内なる恐怖を抑え込んでいた。元帥直属の赤城と加賀は何度か『鬼級』『姫級』を相手にしてきたが、今回の相手は
『「赤城はできないと言うのか?簡単ではないだろうが、無理ではない。それにな、初めから沈んでもいいなんて考えは止せ。何が何でも生き残ってやる気持ちでいろ。辛いのは死んでいったものよりも残された方だ。自分は生き、仲間が沈んで、親しい者と会えなくなっちまう方がずっと後悔することになるんだ。お前達は仲間達に後悔と呪いを残していくつもりか?」』
『「なら生き残れ。泥水を啜ってでも帰って来ることだ。生きていればやり直せることだってあるかもしれねぇ、死んじまったら人間も艦娘もそこでお終いだ」』
『「そうだぞ加賀、良い事も悪い事は生きている時にしか成せない生命の特権だからな。それに目的は大きい方がいいだろう?まぁ、お前達は元帥殿の直属、借りたもんは返さねぇと。無事にとはいかねぇかもしれねぇが帰してやるよ必ずな」』
出撃前に青年から受けた言葉が蘇る。自分達が慕う鳳翔が元帥以外に心を許した相手、軽視派の人間でありながら謎の行動を取る男……外道丸野助。今回の作戦でその真意を確かめる丁度いい機会にも恵まれ、戦艦棲姫を撃滅する確固たる意志を見せつけたが、青年はそれを真っ向から否定した。「必ず帰って来い」と命じた。男が、しかも軽視派の人間が醜い艦娘である自分達にだ。話しに聞いていた通りに矛盾だらけの意味がわからない人間だった。だがその言葉が赤城を、加賀の心を支えることになっていた。
不思議だ。目の前に戦艦棲姫が居る。姫級相手に道連れも覚悟していたが、その覚悟も揺らぎ、必ず生きて帰ると、お前を倒して生き残ってやると魂が吠えているかのようだ。
「加賀さん!」
「ええ、五航戦の子達に負けていられないわ」
一航戦コンビから放たれた矢が艦載機へと姿を変え、空を舞う。空母四人で攻めるが、怪物型の艤装が攻めと守りを担い、強固な壁を突破できないでいる。それだけが戦艦棲姫に決定打を与えられない理由ではなかった。変色海域に長く居続けたことで艦娘側の艤装に亀裂や損傷を負った状態に陥っており、威力不足の原因となった。
「フフッ、コノテイドナノ?ミホンヲミセテアゲル♪」
「――赤城さん!!?」
「――ッ!?」
お前達に私は倒せないと決まっているとばかりに戦艦棲姫は嘲笑い、一発の砲撃音が響く。そしてそれは海上で爆発し、そこに居たのは赤城。咄嗟に艤装で防御態勢に入ったが、肝心の赤城自身の体は至る所に傷と灰まみれとなり大破状態だとわかる。これで艤装がダメになり、赤城は戦力になり得なくなってしまった。
加賀がボロボロの赤城に寄り添い、すぐに距離を取るが戦艦棲姫は逃すつもりはないらしい。もう一撃を繰り出そうとした……が、吹雪と叢雲の砲撃が顔を目掛けて飛んできたのを防いだ。顔を狙われたことが気にくわなかったのかそれまですばしっこいだけのいつでも叩き落とせる
「赤城さん!赤城さん大丈夫!?」
珍しく加賀は感情を露わにした。相棒である赤城の全身から血が流れている姿を見てしまったら動揺を隠すことなど彼女にできない。
「私は……大丈夫ですよ加賀さん……でも」
赤城は自分をここまで心配してくれる加賀の姿に嬉しさを感じた。しかし彼女の内には悲痛な思いが宿っていた。空母四人で戦艦棲姫を叩くつもりだった。変色海域に突入してからの予想以上の長期戦、赤城は油断したつもりなどなかったが、戦艦棲姫自身の強さを甘く見ていた。四人でも厳しい状況が三人に減ってしまったら後はもう無くなったも同然。赤城は唇を噛みしめた。
『アキラメテラクニナロウヨ』
艦娘達の心を折ろうとしているのか悪魔の囁きが聞こえてきた。いくつもの同じような言葉が自分達に向かって投げかけられていた。誘われている……暗く冷たい孤独な深海から。
「(私が大破していなければ……一航戦の誇りもここまでかしら……)」
「(赤城さんがこの状態では……勝ち目が……)」
その言葉に耳を傾けてはならないと頭で理解していても赤城と加賀の意識は深海へと向けられてしまう。自分達の命運も尽きたと……諦めかけていた。
「ちょっと!加賀さんともあろう方がそんな顔してどうするのよ!!」
「五航戦……」
「そうですよ、赤城さんも諦めないでください。赤城さんの分は私達が補いますから!」
「翔鶴さん……」
そんな二人を鼓舞したのは五航戦コンビだった。彼女達は諦めてなんかいなかった。その目は何としても生き延びてやると言う意志を感じさせた。この二人をここまで動かすもの……それはきっと臨時基地で自分達の帰りを今か今かと待っている人物の影響だろう。提督の元へ帰る……誰も轟沈させないと彼の約束を破らせたくない。だから全員で生きて帰る、帰ってみせると吹雪達の顔には疲労の色が見え始め、弾薬も消耗し状況は悪化しているのに諦めていなかった。
今の一航戦コンビにとってその光景は何よりも勇気をもらえた。
「……五航戦の癖に……頭にきました。あなたよりも上だと言うことを思い知らせてやります」
「それでこそ加賀さんね!」
「ありがとうございます翔鶴さん。でも大丈夫よ、私も戦います。一航戦は加賀さんだけではないのですから」
「はい!私達だって負けませんから」
そんな姿を見せられてしまったら一航戦としての誇りが黙っていられない。悪魔の囁きなどもはや彼女達には聞こえなくなっていた。
吹雪と叢雲は駆逐艦の機動力を活かし、砲撃を避けることに全力を注いでいる。攻撃が通じないのであれば狙いをこちらに向け、逃げ回って時間稼ぎをして赤城を助けることができた。しかし疲労が現れ始めてその動きは鈍くなっていた。その隙を戦艦棲姫が逃してくれるわけもなく、徐々に追い詰めていく。
「モウスグヨ、モウスグアナタタチハ……シズムノヨ♪」
決まっている未来だと、逃れられぬ宿命だと吹雪と叢雲に語り掛ける。
「あんたなんかに沈められて堪るもんですか!」
「うん、その通りだよ!私達は絶対に負けない!!」
「フン、ムダナアガキヲ」
吹雪と叢雲を鼻で笑う。足掻いても無駄だと意味のないことだと決めつけていた。
「無駄な足掻きなんてことはない!私は……私達はみんなで帰るんだから。
「
「えっ?」
突如としてその時は来た。
「ウ、ウゥ……
「な、なんなのよ?」
先ほどまでの余裕はどこへ行ったのか?頭を抑え、苦痛の表情を浮かばせる戦艦棲姫の様子に吹雪と叢雲は困惑の表情を浮かべる。
「
急に激昂し始め、周りが見えなくなったように所かまわず砲撃を放ち始めた。冷静さなど今の戦艦棲姫には見られなくなっており、その豹変具合に吹雪と叢雲だけでなく、赤城達も砲撃を避けながら状況の異常さに混乱している。だが原因はハッキリとしていた。
『テイトク』それが戦艦棲姫を狂わせる原因……そして。
「
戦艦棲姫もかつては共に戦場を駆けた