それでは気を取り直して……
本編どうぞ!
「と、とっても暗いのです……」
「にゃ、にゃしぃ……」
損傷した艤装でも光源は存在する。それを灯して道を照らしているがそれが無ければ辺り一面闇の中だろう。艤装の明かりだよりでも真っ暗な闇に怖がる電と睦月はお互いに手を取り合ってキョロキョロと辺りを見回しながら恐る恐る歩いている。電灯など見受けられるが電気が通っておらず光を灯していない。
南西諸島海域の小島にひっそりとその姿を現した廃墟の地下へと艦娘達は足を踏み入れていた。階段を下りた先は岩肌そして所々人工物で補強された壁などがあることから元々洞窟だったのに手を加えて作られた場所のようだ。こんな手のかかるようなことをするには何か訳がある。時雨達は慎重に足を進めていく。
奥に進むにつれて自然に創造された洞窟の面影は薄れ、人工物の侵食が広がっていく。だが地下も無事ではない様子で、地上での影響を受けたのか壁や天井が崩壊して通路や扉を塞いで進める場所は限られ、火災が発生していたのだろう黒焦げとなった部屋も発見された。何が起こるかわからない状況に纏まって辺りを調べながら探索していく。
「……ねぇ加賀さん」
「……何かしら?」
「加賀さんって……もしかしてこんなことに慣れてたりする?」
「……そうね、目につかない場所に悪いものを隠したがるのが人間。本棚の後ろや使われなくなった艤装に隠したり、酷いものなら隠し部屋なんか鎮守府に作っていた輩もいたわね」
「そう……なんだ」
誰もが沈黙する中で瑞鶴が加賀に尋ねた。彼女の行動は美船元帥と共に軽視派の連中を摘発する証拠を見つける為に身についたものだ。それだけ艦娘のことを蔑ろにする者が多いと言う事、それを何度も見て来た加賀の胸の内を瑞鶴は感じ取り悲痛な表情が浮かぶ。
「気にする必要はないわ。私は……私と同じ境遇の艦娘を見ていられなかっただけ……ただそれだけだから」
「……加賀さん……そっか、加賀さんってやっぱり優しいんだね」
「……あなたほどではないわ」
「えっ?なんて?」
「別に、そんなところでぼさっとしていると置いて行くわよ五航戦」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
呟きは拾われることはなかったものの、加賀と瑞鶴の仲はいつの間にか縮まっていた。初めは火花を散らしていたが共に戦場を駆けたことで二人を運命的な因縁の壁を崩してくれたのだろう。加賀の隣を歩く瑞鶴の姿があった。
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「ふえぇぇぇ……不気味にゃしぃ……」
はわわわ、睦月さんの言う通り不気味なのです。至る所が壊れてて……洞窟の壁が顔のように見えて……はわわ!!?
「――ぐふぅ!!?」
「あっ!?ご、ごめんなさいなのです叢雲さん!」
「だ、大丈夫……よ……ちょっと痛い……そ、それよりいきなり倒れてきたら危ないじゃない。怖いのはわからなくもないけど私達が居るんだから心配いらないわよ」
「は、はい、なのです……」
うぅ、うっかり驚いて躓いてしまったのです。後ろに叢雲さんが居て助かりましたけど、勢い余ってお腹に衝突してしまったのです。叢雲さん大丈夫と言っていますけど顔が青いのです。ほ、本当に大丈夫なのですか?
穏やかな性格(たまに黒い)に慌てんぼうで、よく人とぶつかってしまう電が恐る恐る衝突した叢雲の顔色を窺っていると彼女の耳が何かを捉えた。
「……って」
い、今なにか……どこからか声がしたような気がしたのです……?
電は何かが聞こえた気がした。咄嗟に辺りを見回しても自分達以外誰もいない。
「ん?電どうしたんだい?」
「時雨さん、何か声がしませんでしたか?」
「声?いいや、僕は何も聞こえなかったけど?」
「そ、そうなのですか?加賀さんも瑞鶴さんも聞こえなかったですか?」
「いいえ、聞こえなかったわ」
「私も聞こえなかった。電の空耳なんじゃない?」
じゃ、じゃあ、電の思い違いなのでしょうか?ま、まさか……お、お化けとか……あ、ありえないのです!
そう思いたいと願った時だ。
「……って」
「はわわわっ!!?」
「――ぐふぅ!!?」
聞こえた。声を聞いてしまった電は驚きのあまり後退ったが、また躓いて叢雲のお腹に後頭部が再び衝突し、痛みに耐えかねてうずくまる叢雲。
「もう……何やっているのよ」
「む、叢雲さん本当にごめんなさいなのです!ま、また変な声が聞こえてビックリしてしまったのです!」
瑞鶴の呆れた様子に叢雲に謝りながらもまた声が聞こえたことを伝えた。
「だ、だい……じょうぶよ……わたしは……だいじょうぶ……だから」
「また声かい?もしかしたら誰かいる?もし誰かいてもこんなところで生活なんて……睦月はどう思っt……睦月?」
電の答えに時雨は少し考えを見せた後、痛みと戦っている叢雲を余所に睦月に意見を聞こうとしたが、彼女の様子がおかしいことに気づく。懸命に何かを聞き取ろうとしている……
「……こっちから声がするにゃしぃ!」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!!」
瑞鶴の制止を待たずに睦月は駆け出した。電達も悶絶する叢雲を支えながら後を追う。睦月は迷うことなく通路の突き当りに位置する扉に向かって行き、手をかけようとしたがそれを制止したのは加賀だった。
「にゃ、加賀さん?」
「待って、私が開けるわ。駆逐艦のあなた達は後ろに下がっていなさい」
「う、うん」
「五航戦、あなたは何かあった時にこの子達を守れるように気を引き締めておいて」
「わ、わかった」
加賀はより一層に警戒心を抱いた。電達は加賀の威圧感を孕んだオーラの前では背後にいるしかなく、瑞鶴も素直に従った。
以前美船元帥と共に秘密の隠し部屋を発見した時にトラップが起動して危うく命の危機に晒されたことがあった。ここにも証拠を隠滅あるいは知ろうとする者を排除する罠が張られているかもしれない。経験があの時の無警戒な自分を重ね合わせ、もし自分に何かあっても背後の瑞鶴達を守らないといけない使命感に駆られた。
予想よりも重みを感じる扉に手をかけ、ゆっくりと慎重に開け放つ。するとどうだろうか、加賀は顔をしかめることとなった。
「これは……牢屋?」
加賀の背後から顔を覗かせた時雨も彼女の変化を理解した。入り口から見える範囲でも鉄格子で遮られた空間がいくつも広がっていた。いわば牢屋がずらりと並んでいたのだ。更には悪臭が内部に充満しており鼻を抑える羽目になった。
「な、なんで牢屋があるのです?」
「わ、私に聞かないでよ。でも……良い気はしないわね」
叢雲さんの言う通りなのです。とても嫌な気分になるのです。司令官さんが来る前の○○鎮守府A基地の雰囲気に似ている……ううん、違うのです。もっと嫌な感じがする……こ、ここに何があるのでしょうか?
空気がよどんでおり、どこからか入り込んだであろう虫の死骸が散らばっており気分を不快にさせる。電と叢雲も顔をしかめることになった。この先に待ち受けているものは決していい結果にはならないと本能的に察知し、誰もが一歩踏み出せないでいるはずだが一人だけ違っていた。
「あっ、ちょっと睦月!」
するりと瑞鶴の手をすり抜け、加賀を通り過ぎてこの異様な空間へと足を踏み入れる睦月。何があるのかわからない状況で迷わず彼女はいくつか並んでいる牢屋の一つへ向かう。電達は放っておくことはできず、ついていくと睦月が何かを発見して驚いた声を上げた。
「如月ちゃん!!!」
光を手にした艦娘達は影を見ることになる。