読者の皆様、今年もお疲れさまでした。来年もまたお会いしましょう!
それでは……
本編どうぞ!
牢屋へ辿り着くとそこには誰かが居た。睦月にはそれが誰かわかったようだ。
如月……睦月型の2番艦としてその名が存在していたが、彼女がここに居るのは不可解だ。それも手足は鎖で繋がれていた。何日ここに居たらそうなるのか髪も汚れ、服も変色していた。
この空間に悪臭を撒き散らしていた原因はきっと彼女……
鉄格子を隔てて悲痛な表情を更に歪ませ、泣き崩れそうになる睦月。仲間達はこの空間がどんな場所かを思い知ることになった。それでも目の前の光景が受け入れられず思考を放棄して唖然と眺めていた。そんな中で加賀が一足先に我に返り、他の牢屋にそっと光源を向けると
「……五航戦」
「……」
「……瑞鶴!」
「あ、えっ?な、なに加賀……さん?」
「気持ちはわかる。呆然とすることもね……でもね、他にも居るわよ」
「えっ!?」
瑞鶴も視線を向ければそこには如月と同じように鎖で繋がれた艦娘達が居た。その中の一人に光源が向けられ……その姿を視界に入れた時雨が驚愕の表情を露わにし、一つの牢屋へと駆け寄る。
「ま、まさか……山城!?そうなんでしょ!?」
「……だ……だれ……?」
「僕だよ!時雨だよ!!」
「し……ぐれ……?ああ……ついに……げんかくまで……みえるように……なったのね……」
「山城!?山城しっかりして!!!」
扶桑型の2番艦である山城がそこにいた。時雨とはレイテ沖海戦時に西村艦隊として共に戦った歴史がある。まさかその時に旗艦であった山城がこんな場所に居るとは思いもしなかった為に戸惑いを隠せない。
「時雨、落ち着きなさい」
「加賀さん!でも山城が!!!」
「あなたは睦月達を連れて一度外へ出て。ここは私がやるから」
「だ、ダメだよ!山城を置いて行けないよ!!」
「大丈夫よ、必ず地上へ連れて行くから。あなた達は地上に出て無線でこの状況を知らせて……お願い」
「……」
時雨が加賀と山城を交互に視線を移し、すすり泣く声をする方へ向ければ、涙を流す睦月の姿と現実を直視できず唖然とする叢雲と電の姿がある。顔色が悪く気分が優れない様子であり、睦月に至っては妹の変わり果てた姿を直視することになり、胸の内で混乱が渦巻いていることだろう。
地下である為に無線が通じにくい。加賀は睦月含め時雨に青年にこの事を伝えるように指示し、渋々従ってくれた。これは加賀の優しさだった。これ以上この場にとどめるべきではないと判断した。
加賀の優しさを理解して尚も残り続けるのは瑞鶴だけ。加賀自身も辛いはずだ。一人にさせてはいけないと誰かが傍についていなければいけないと瑞鶴の優しさの表れだった。
「……加賀さん」
「……下がっていなさい」
時雨達を見送った加賀は鉄格子に力を入れる。すると鉄格子は
「……瑞鶴、彼女を……」
「わ、わかったわ」
瑞鶴は駆逐艦娘の如月を抱きかかえ、加賀は鉄格子を壊して回り、山城そして彼女と同じように拘束されていた球磨と多摩を解放することに成功した。
「……頭にきました!!」
それは誰に対する呟きか。世界の闇の部分を直視して加賀は怒りを孕んだ呟きを残して山城達を地上へと連れだした。
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俺は今、臨時基地から小型ボートを借りて時雨達が隠れている小島へと向かっている。海に何の力も持たない人間が居れば深海棲艦の餌食だろうな。戦艦棲姫を倒しても深海棲艦の残党がまだいるかもしれない可能性を考慮すれば俺なんかが船に乗る必要はないんだろうが……時雨は言った。南西諸島海域の小島に誰かがいた形跡があるとな。大本営から得た資料にはあの辺りは生活するには不便どころか鎮守府すら存在していない。
廃墟、それが気になった。人目を避けるように森の中にポツンと建っていると言う……それを聞いた時、嫌な予感がした。大体こういう予感は当たっちまうもの、それでも願う……予感が外れていることを。
青年は小型ボートに乗り込み出発した。戦艦棲姫を倒して万々歳!とはいかず、新たな問題が浮上した。偶然訪れた小島に何者かがいた形跡があった。深海棲艦ではない、廃墟である辺り人間だろうと予想する。それだけならまだ良かったのだが、彼の勘が警告を告げた。気になった彼はまだ疲労の残る吹雪達を連れて海に出る。疲労した状態での戦闘は危険だが、この目で確かめなければならないと言う確信があったからだ。
「おい鈴谷、大丈夫か?」
「平気ヘッチャラ……って言えたらなぁ。あ~あ、ゆっくり
「悪かったって。俺の予感が……外れたら詫びに言う事を一つ聞いてやる」
「――っ!?ゴクリ……な、なんでも一つ叶えてくれるの?」
「か、勘違いすんなよ!?なんでもとは言ってないからな!!」
「そこは了承してもいいと鈴谷思うんだけどな~」
「ゴホン、まぁそんなことは置いておいて……」
「ちょ、提督酷くない!!?」
「(聞こえてないフリしておこ)……この辺りか」
青年達は小島に到着した。途中深海棲艦の残党に出会うことが無かったのはまさに幸運だった。提督自ら海に出ることは滅多にない。常識を打ち破ってでも彼の勘が何かを訴えかけ、彼をこの小島に急かすように操った。
深海棲艦の残党に見つからないように海岸の岩陰にボートを隠し、吹雪達も上陸。少し島の内側に向かうとそこには赤城達が待っていた。
「吹雪ちゃんお帰りっぽい!」
「夕立ちゃん、ここは鎮守府じゃないよ?」
「そうだったっぽい!」
二人が笑い合い、青年を発見した夕立は真っ先に飛びついた。
「提督さん来てくれたんだ!夕立嬉しいっぽい!!」
「遅くなっちまって悪かったな」
「謝罪はいらないっぽい。代わりに撫でて!」
「ああ、わかったわかった。これでいいだろ?」
「ぽ~い♪」
「「「「「(いいなぁ……)」」」」」
そこに尻尾があればフリフリと振っているような気がしてしまう程に頭を撫でられる夕立は上機嫌。ボロボロなのも忘れて青年に甘えている。その様子を羨ましそうに眺めている吹雪達、そしてこの中に木曾も含まれているだなんて誰が予想できただろうか。その中で一人だけ内心驚いていた赤城、青年が自らこちらに来ると聞いていたが、本当にやって来るとは思わなかった。そんな感情を隠しつつ窺っていると青年が自分と木曾の下へ近づいて来た。
「大丈夫か重症のお二人さん?」
「へ、俺がこの程度でくたばると思っていたのか?」
「お前は無茶をするからな。心配したんだぞ?」
「そ、そうかよ……心配してくれたのか……へへ♪」
青年を直視することが出来なくなった木曾はそっぽを向く形となったが、口角が吊り上がり、だらしない表情を曝け出していた。青年はすぐに赤城に注視していた為に気づくことはなかったが、吹雪達からジト目の視線が彼女に突き刺さっていた。
「赤城も良くやってくれたな。流石は美船元帥さんの艦娘だ」
「いえ、私はあまり役に立たなかったと思います。空母が大破してしまってはただの的、加賀さんのサポート役しか出来ませんでした」
「何を言う。戦艦棲姫を倒すことができたのは全員の力の結束によってもたらされた結果だ。吹雪から詳細は聞いている。赤城の支えがあったからこそ加賀も力を振るうことができたんだと俺は思うぞ。だから負い目を感じることはない。お前はちゃんと役目を果たしたさ。立派だぞ流石は一航戦だ」
「外道提督……」
青年の言葉がすっと赤城の胸の中へと入り、美船元帥に優しさをかけられたような温かい気持ちになれた。
「そういえば加賀さん達はどこに行ったのでしょうか?」
「そうじゃった!なんでも変なのを見つけたとか言っておったの?」
筑摩と利根は加賀達の姿が見えずに疑問を投げかけた。青年もあれから連絡が届いていなかったので状況を聞き出そうとした丁度そのタイミングで無線から時雨の声が聞こえてきた。
『「提督……そこにいるの?」』
時雨の奴、様子が変だな。何があったに違いない……嫌な予感は的中しちまったってわけか?つくづく運がねぇ人生だぜ……
明らかにいつもの時雨の声ではないとこの場に居る全員そう思った。
「ああ、今到着したところだ。大丈夫か?」
『「大丈夫……って言えたら良かったよ。正直言うと辛いんだ」』
んぁ……時雨のメンタルがやばそうだな。いつもと様子が違うから吹雪達が動揺していやがる。これは無理はさせられねぇ、代わりに叢雲に聞き出すとするか。
無線越しからでも時雨の精神面にダメージを受けていることが窺える。青年も彼女の口から何があったと聞き出すのはよろしくないと判断した。
「……そうか、叢雲は居るか?」
『「……なによ?」』
「お前も辛そうだな。時雨の代わりに聞こうとしたんだが……」
『「大丈夫よ、睦月と時雨ほどでは……ないわ」』
こいつもか。だが待て、睦月と時雨だと?あの二人に関係しているのか?お前達は何を知ったんだ?それに加賀と瑞鶴は一緒じゃないのか?何がどうなっているんだ?無線で聞きたいことが山ほどある。山ほどあるが……余裕がなさそうなこいつらをこのままにさせるわけにはいかねぇな。内容は気になるが、まずは合流することが先決だ。それがいい。
青年は叢雲にそう伝える。彼が来てくれることで少し安堵したのか声が明るくなった気がした。無線をきる前に「待っているわ」と付け加えたぐらいだ。彼女も心細かったのだろう。
そうして大破状態の木曾と赤城を吹雪達に任せて早速向かおうとしたが、二人は自身の目で何が起こっているのか確かめたいと無理やりにでもついて来ると言って聞かなかった。意地でも従わないだろうと判断し、翔鶴と筑摩の肩を借りながら周囲を警戒しながら森の中を進んでいく途中で報告にあった残骸を発見。更に奥へと進んでいくと例の廃墟の前に辿りついた。
「司令官さーん!!」
「――んぁ!?お、おいぃぃぃい!!?いきなり抱き着くn……」
気づいた電はパタパタと走って来て青年に抱き着いた。小さい体でギュッとめいいっぱい抱き着く電に彼はイケない気持ちになって
泣き腫らした顔だった。一体何が電を泣かせたのか?時雨達も同じような状態なのか?そう思いよく見れば加賀と瑞鶴の姿もそこにあり、何やら時雨と睦月が悲痛な表情浮かべており、傍には誰かがいた。
恐る恐る吹雪達と共に近づいていくと誰もが顔をしかめることになった。
……そういうことかよ。嫌な予感は当たるもんだ……当たってほしくなかったけどな!ちくしょう、この問題も解決しなければ美船元帥さんが良い顔することは無くなったわけだ。万々歳で終わらせてくれよ……クソ!!!
青年は状況的に時雨達が精神的にダメージを受けたか理解できた。故にこれから訪れるであろう面倒事に苛立ちを覚えた。
「……加賀さん」
「……赤城さん」
「怖い顔をしているわ。気持ちはわかります。でもみんな怯えてしまうわ」
「……はい」
「それに外道提督もお見えになっていますよ」
加賀と対面することになったが、彼女が纏うオーラは怒りを孕み、近寄りがたい威圧を放っていた。そんな彼女に恐れを抱くこと無く声をかけたのは赤城。彼女に諭され、先ほどまで怒りを孕んだ瞳は影を潜め、加賀の視線が青年に向けられた時……彼は見た。
外見は無表情を貼り付けた普段通りの加賀だが、瞳の奥に秘められた感情は正直者だった。人間に対する失望と憎悪、悲しみに彩られた彼女の心の奥底が見えた……そんな気がしたのだ。ハッキリ言えば青年の思い過ごしかもしれない。しかしそう見えてしまった彼は知らんぷりをすればいいものを……
「……はい?」
青年はそっと頭を撫でていた。予期せぬ事態に加賀本人も呆然としていたが、ハッと我に返る。
「……何のマネかしら?」
「い、いや、なに、いきなり撫でて悪かった。謝る」
「それで、一体何故こんなことをしたの?」
加賀は手を払いのけ、鋭い瞳が青年を射抜く。いつもの彼ならビビッてしまうだろうが、今の彼はいつもの彼ではない……いや、ほんの少しだけビビッてはいた。
「いや、何でかと言われれば……加賀の心が曇っていたからだ」
「……意味がわからないわ」
「撫でてもらうと心がポカポカするそうだ」
「……はっ?」
加賀は青年の答えの意味がわからずポカンとした。
「……何を言っているの?」
「んぁ……どう説明すればいいのやら、吹雪達は頑張ったご褒美になでなでを所望するんだ。俺は何がいいのかわからないんだが、撫でてもらうと心がポカポカするらしい。だから心が曇りきっているようだったから撫でてみたんだが……いきなり意味不明な事を言ってすいませんごめんなさい申し訳ございません許してくださいお願いですご慈悲をください!!!」
苦手なことは中々克服するのは難しい……加賀を意味不明な理由で撫でてしまい、彼女から漂う威圧に次第にへっぴり腰になる青年。弱い、圧倒的に弱いぞ青年よ。
しかしその答えに驚いた様子の加賀は何を思ったか瞳に力が宿り「ひえっ!?」と小さな悲鳴を上げる青年。
「……そんな理由で?」
「つ、辛そうだったので少しでも気分が紛れたらいいなと思ってな……ま、まずかったか?」
もはや蛇に睨まれた蛙のように冷や汗が止まらないが、吹雪達の前で醜態を晒せないので今にもちびりそうになりながら平然とした態度を貫いているように見せていた。これは男の意地だとフォローしておこう。
「……そうね、いきなり何をしているのか驚いたわ」
「そ、そうだな。非礼を詫びる」
「けど……あなたの言う通り、少しだけ気分が紛れたわ」
「そ、そうか、ならばいい」
んぁぁぁぁぁび、ビビらせやがっt……あっ、び、ビビッてねぇし!!?ちょっと目がやべぇと思ったんで即席メンタルケアをしてやっただけなのにキレられるかと冷や冷やしただけだし!!!俺もなんで撫でてしまったんだ?吹雪達にせがまれてやっていたこととはいえ、こいつにやるのは間違っていたよなうん、次から気をつけねぇと……ただ俺はこれ以上面倒事を起こされたくない思いで対処してやっただけなんだよ。そうこいつに同情したとか思っていないわけであのそのぉ……ええい!どうでもいいだろうそんなことは!!!それよりも肝心なことがあるだろうが!!!
見て見ぬふりを出来なかった。ただそれだけなのだが、青年がまだ人としての尊厳を失っていない証でもある。この廃墟を利用していた人間とは違うのだと言う証明でもあり、この行動が知らず加賀の心に影を差さずにいられたことに繋がっていたことなど青年は気づきはしなかった。
「遅かったわね」
加賀から視線を逸らし、いつの間に傍にいた叢雲は電を慰めて青年に語り掛けた。彼も(ビビっていた)気持ちを入れ替え対応する。
「大破した赤城と木曾を連れての移動だからな。少し遅くなったことは謝ろう」
「別に怒っているわけじゃないの。来てくれただけでも……よかったわ」
「何か言ったか?」
「な、なんでもないわよ、それよりも……聞きたいんでしょ?」
「……ああ、詳しいことを聞かせてくれ」
「……ええ」
さてと、大体状況を見ればわかるが……また嫌な役目を負うことになるんだろうな。
青年は遠い目で悲しみに暮れる時雨達を見つめていた。