それでは……
本編どうぞ!
……不幸だわ。
何故……私を建造したの?
私が必要だった?そんなわけはない。
『欠陥戦艦』とか『艦隊にいる方が珍しい』とか、いいたい放題していた癖に……
あれはいつだったなんてもう憶えていないし、憶えている必要すらなかったわ。よくわからない機械だらけの場所で目を覚ました私は建造されたんだとすぐさま理解出来た。けど想像とは裏腹な周りの雰囲気に戸惑ったわ。それでも艦娘として生まれた使命を胸に戦場に身を投じ、殉じようと心構えをしていたら暗闇からぞろぞろと見知らぬ人間達が現れた。
動揺を見せず、
扶桑型戦艦2番艦、山城です。私は艦娘、その醜い容姿から避けられてしまう。それは承知の上ですよ、艦娘の誰もが受け入れざる負えないものだから。でも艦娘には全うしないといけない使命があるの。その使命に殉ずるまで我慢するのよ。扶桑姉さまなら……そう言うと思うわ。
命令に従い、ここがどこだかわからぬまま連行される。「これじゃあまるで囚人ね」と内心呆れながら軽蔑の視線を受けつつ歩いているとただ一つ伝えられたのが「お前らのようなガラクタにお似合いの場所だ!」と嫌悪感を抱いた様子で私を見下した誰かに案内された場所は牢屋だった。私はまるで囚人ではなく、囚人だった。流石に驚きを隠せず、こんなの深海棲艦と戦う者に提供するものじゃないと反論したわ。私だって
反抗的な態度を取れば容赦なく打たれることを知った。辺りを見回せば私と同じような目に遭ったのでしょう、ぐったりとしている仲間が居ることを知った。この誰かは……ここの連中は艦娘を
そんな連中は私に何を求めているのか……わからなかった。建造されて数日後、実に不愉快そうな態度を示しながら逆らえば暴力を振るう誰かに連れられ、嫌々ながらついて行った。出撃?それとも演習?出撃なら逃げ出せないかと考えたりもしたけど、通された場所は忘れもしない海のにおいがした。施設内に海水を取り込んで作られた巨大なプールのような場所だと理解し、太陽の光すら眺めることはできないここは箱庭なのねと思ったわ。誰かも知らない人物はその場を離れてモニター越しから見ているのか至る所にカメラが設置されていて、見世物にされている気分だったわ。でも気になるのは対面の駆逐艦の子、この状況を私は察して「ああ、これから
でもこれが……
建造されたばかりの私は戸惑いながらも駆逐艦の子は既に艤装を装着していた。私も仕方なく艤装を装着し、海面へと進み出てあの子をハッキリと視界に捉えた時に気づいたわ。
駆逐艦の子からただならぬ敵意を向けられていることを……
私は何かあの子にしたかしら?なんて呑気に考えていた時、砲撃音が鳴り響く。そしてすぐ傍に水柱が立つ。開始の合図も待たずに攻撃!?と思ったけど、あの子の瞳を見て悪寒が走った。あれは……あの目は……まるで……
私に……まだ見ぬ深海棲艦の姿を幻想させた。
私に砲身を、瞳を、憎しみをぶつけてきた。駆逐艦の子は
「こんなの演習じゃない!やめて!」
私は叫んだ。モニター越しに見ているだろう誰かに叫んでも届いていない。あの子にも……体に着弾する砲弾がその証拠。痛い……戦艦でも痛いものは痛い。まさか同じ艦娘の子に撃たれるなんて思ってもいなかった。
目の前で敵意……いいえ、殺気を向けるあの子に砲身を向けるなんてできない。そう思いつつも胸の内から湧き上がる衝動を抑え込む。私は戦艦なのだから耐え抜けばいいだけ、駆逐艦相手なら魚雷さえ注意すれば……そう戦場に立ったことすらない私は思っていた。けど、違った。
駆逐艦の子の魚雷をギリギリ避けて弾薬も底を尽き脅威が無くなったと判断した私は弾が無ければこれで終わりと艤装を解除しようとした……それでもあの子は戦いを辞めず襲い掛かって来た。
「やめて!もう戦いは終わったのよ!?」
そういってもあの子は唸り声を上げながら私に飛び掛かり首を掴んだ。そのまま力の限り私の首を絞めつける。私は戦艦だから駆逐艦の子の拘束を容易に抜け出すことができた。けど……震えた。
あの子が私を睨み、息の根を止めようとする事実に……恐怖した。怖くて全身から力が抜け、戦艦の私が尻もちをついて何もかも理解できずに襲われそうになって……
砲身をあの子に向けていた。そして……
……眼下には赤い色の海が広がっていた。
……不幸はこれで終わらなかった。
あの後の記憶は曖昧、あの子がどうなったかなんて……教える必要もないわ。それから私はただ出される一日に一度きりの食事を食べ、睡眠時間もごく僅かで周りの牢屋からすすり泣く声を聞いていた。私は他の艦娘を気にする余裕もやる気が起きなかった。そんなことなどお構いなしに連中は容赦ない罵倒と暴力が連日振るわれる。
ある日また誰かがやってきて鬱憤が溜まっていたのか私に八つ当たりのように暴力を振るい、そして吐き捨てるように言った。
「
私は我を忘れた。
気づくと鎖に繋がれていた。きっと我を忘れた私は知らぬ誰かに危害を加えたのか血の匂いがした。一瞬自分がしてしまったことに動揺したけど、その感情は沈み驚くほど冷静でいられた。
「奴の容体はどうだ?」
「あかんな、戦艦に殴られたんや。顔が陥没しとった」
「それでよく生き延びられたな」
「艤装は身に着けていなかったことが幸いしたな。それが良いのやら悪いのやら……」
「ですがこれで
「ああ、我々は運がいい♪」
その日から散々な目にあった。何も語らない連中は私の目を塞ぎ、知らない場所に連れて行かれた。目隠しは外されることなくこれから何をされるのかわからない恐怖を感じながら連中の軽蔑した視線をしっかりと感じた。私の意思を完全に無視した調査と言う形で体を調べられ、薬品の投与により意識が朦朧として気分が悪くなったり、耐久テストと称して電流が流された。
まさに拷問だったわ。流される電流で体の自由も思考も焼け焦げたように思えた。声にならない悲鳴を上げてもお構いなし。時より牢屋内で聞いた悲鳴はきっと艦娘達の……それから何度か
「
また監禁生活に逆戻りとなったけど今度は調査や耐久テストはやらされなくなった代わりに食事も与えられなくなった。
艦娘は食事を摂らなくても生きていける。でも空腹状態で力を発揮できるわけないじゃない!連日はそのことを知っていて食事も与えずに我慢できなくなった私が謝るのを待っているのかそれともこれは罰なのか……?
薬と空腹により力が出せず、鎖で繋がれ動くこともろくにできないまま、私と同じく連れて来られた球磨、多摩、如月と出会った。初めは励まし合って何とか気持ちを保っていたけどある日のことだった。荒々しく鳴り響く轟音と慌ただしい連中の会話で意識が牢屋の外に向いた。詳しくはわからないけど、何かあったのだと思った。
そうしたら明かりも消え、どこかが爆発したような音も聞こえた。地震のように牢屋が震えて、どこかが崩れたと慌ただしい会話を耳にした。それからしばらく同じような音が鳴り響いていたがぷっつりと無音となった。荒々しく鳴り響いていた轟音も連中の出す音も聞こえなくなり、ここには私達以外は存在しないことがわかった。けどそれが何?今更同じことよ、私達は連中にとっていないのも同然なのだから。それから時間だけが過ぎていく中で私は思った。
何が深海棲艦よ、何が国の為によ、人間なんて……私達を
よくわからないけどその時は非常に気分が悪くなって意識がハッキリとしなくなって気がつくとどれぐらいの時間が経ったかわからないけど、それなりの時間が経っていた。そしていつもそんな時に球磨と多摩それに如月から「何かブツブツと独り言を言っていた」って……それは三人にも言えることだったわ。そして誰も自分がそんなことを呟いていた自覚なんてなかった。打たれた薬のせい?それとも私達は監禁生活で頭がおかしくなったのかしら?でも時間だけが過ぎていく毎にもうどうでもよくなっていった。段々無駄と感じていた。だって私達は深海棲艦を倒すことすらさせてもらえなかったのだから……
もう……不幸でもなんでもいいわよ……『欠陥戦艦』でも。
ワタシハ……オノレノ……フコウヲ……ウケイレタ。
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「私達の
「「「「「………………………………………………」」」」」
誰も言葉を発せられなかった。山城達が置かれていた状況は想像を遥かに超えたものだったからだ。
「……ふぅ、そうか」
「司令官……!?」
山城の話に呆然としていた吹雪は青年の方を見て息を呑んだ。他の艦娘達もそうだ。
ああ……ちくしょう、散々厄介事に巻き込まれて来た。あのクソ猫に出会ってからというもの俺の人生が真逆に変わっちまった。着任した鎮守府は問題だらけ、それから何故か厄介事に巻き込まれ全て俺が解決しなければならなくなった。運がついていないのは感じていたがここまでとは……わかっていたさ。
こいつらの状況から考えればこんなことがあるだろうと。蓋を開ければ道徳を無視した非人道的な実験の数々か……ったく、どっかの誰だかは知らねぇが……ほんっっっっっとうに面倒なことをしてくれたなぁ!!!
青年が不機嫌な表情で頭を抱えていた。ただ不機嫌な様子ではないことは見てわかる。苛立ちを隠せない……隠せない程に表に膨れ上がっていると言っていいだろう。吹雪達は優しい彼にもこんな一面があることを知ると同時にその苛立ちを自分達に向けられてしまったらきっと泣いてしまう自信がある。顔が怖い訳ではない、失望され、見捨てられてしまうのではないかという不安を抱かせてしまう雰囲気を宿していた。
怒っている。誰から見ても同じ答えが出てくるだろう。闇を知り、その犠牲者が山城達だ。
青年は昇進の為に艦娘を利用しようと色々と画策する姑息な奴だ。だがそれでも
「外道提督」
「……なんだ加賀?」
「私が言えたことではないですが、冷静になってください。この子達が怯えています」
青年が周りに意識を向ければ吹雪達の瞳の奥に怯えが見えた。無意識に怖がらせてしまったようだとすぐに理解できた。加賀のおかげで落ち着きを取り戻した青年はゴホンッ!と咳ばらいをして話を進める。
「んぁ……まぁ大体お前達の事情は理解した」
「ええそうよ、誰かさん?」
「誰かじゃない、俺は提督だ。こいつらのな」
「そう、それで?どうするつもりなの?艦娘に囲まれてさぞ鬱憤が溜まっているでしょうなら気晴らしに殴っても構わないわよ?」
「山城……」
山城を見つめる時雨は表情を曇らせた。
息をしていることだけが生きている証にはならない。楽しみ、悲しみ、喜び、怒りを感じて時には涙を流し、怪我をしても明日を目指すことこそ生きている証だ。なのに山城は己の生に執着がなくなっている。川に流されていく枯れた葉っぱのように抵抗すらなく流れていくのみ。過去を語られた頃には抵抗する気力はあったものの現在は気力すらない。球磨と多摩はまだ反抗的な態度を取れるだけマシ、如月も恐怖心を抱いているなら重度であるが
こいつは相当だな。どれだけ長いこと監禁されていればこんな性格になれるんだ?『艦これ』のゲーム内では
青年は一度深呼吸をして気持ちを整えた。
「とりあえずは保護させてもらう。安心しろ、人間の俺はお前達に安易に近づいたりしないし、手を出さないと誓う。身の回りの世話は同じ艦娘の時雨達に任せる。それならお前達も安心だろ?」
「……こんな
生気を感じさせぬ瞳を青年に向け、言葉とは裏腹に心底どうでもいいように吐き捨てる。
「
「……なんですって?」
「お前達はまだ生きているじゃねぇか。生きているなら……まだ足掻けるぞ?そしてこれから変われる。変わろうとするならばな」
「そんなの無駄。私達は
「へっ!やれるもんならやってみやがれってんだ!俺は提督、そしてこいつらは俺の優秀な艦娘だぞ?それにな、ついさっき戦艦棲姫をやっつけたところだ。高々
「……随分と艦娘を信頼しているのね?」
「当然だ。信頼関係無くしてどうやって深海棲艦に勝てる?協力しないで勝てる相手ならもうこの世に深海棲艦は存在してねぇよ」
「……時雨、あなたはどうなの?私達を今のうちに……」
「やめて山城。僕は山城を手放すなんてことはしないよ?大丈夫、僕は提督を信じてる。今は信じられないかもしれないけど、きっと山城も提督を信じられるようになるから……だから!」
必死に説得を試みる時雨。そしてその様子を見守る艦娘と妖精達。山城達は自分達に向けられる視線は今まで感じたことのないものだと感じた。
「……いいわ。でも後で後悔することになるわよ?」
「上等だ。だが
「……あっそ、そんなのありえないだろうけど」
青年にとって保護することはリスクでしかなかった。それでも突き進むしかなくなった。手放してもきっと裏腹の連中に口封じされるだろう。山城達も青年も……お互いに離れられぬ関係となった彼らにこの先に何がまちうけているのだろうか?
それはこの場に居る誰にもわからない。