それでは……
本編どうぞ!
バンッ!!!
大きな音が響いた。
その正体は机に誰かが拳を叩きつけた音だった。
「……ごめんなさい、気が立っちゃって……それで?」
「は、はい……報告では外道提督が彼女達を保護しているようです。現在は臨時基地にて撤退準備を終えた後に○○鎮守府A基地へと帰還する予定だそうです」
「……そう」
ピリピリした空気が漂う一室に居るのは美船元帥、彼女が拳を叩きつけた張本人。報告書を読みあげる大淀に傍の固唾をのむ龍驤と鳳翔に間宮の姿があった。
戦艦棲姫及び南西諸島海域の解放に木曾、赤城、加賀の三人を援軍として向かわせた。作戦指揮を執るのは外道丸野助。激戦が予想され、この戦いで艦娘達の中に轟沈者が出る可能性が高い。尊い犠牲と切り捨てることは美船元帥の心情として納得できるものではなかった。勝てるかも正直わからない戦力でもあったのだから元帥は全員の無事を祈り、今か今かと恐る恐る報告を待った。
そしてその時は来た。大淀が訪れた時に偶然にもその場に龍驤達もいたが、誰もが報告の結果を想像してしまった。大淀の沈んだ表情を見れば……誰が沈んだのか?そもそも戦いに負けてしまったのか?こんなことなら無理にでも過剰戦力とも呼べる程に集めればよかったと後悔しつつ、歯を食いしばりながら美船元帥達は報告を聞いた。
するとどうだ?想像していた結果とは真逆の勝利を掴み、大破したものの誰一人として轟沈者を出さずに済んだのだ。これには美船元帥達の目が点になった。しかし龍驤達は我に返ると喜んだ。仲間の生還に……しかし元帥はまだ優れない様子……それはそうだ。大淀の表情は報告する前と変わっていないのだから。龍驤達もすぐに気づき、まだ何かあるのだと喜びを抑え、続く報告を耳にして……耳を疑った。
戦艦棲姫を含む深海棲艦の撃破に成功したが、とある小島で艦娘達を発見した。しかしその艦娘達は隠された地下に幽閉され、非人道的な実験を行われていたとか。これを知った美船元帥の胸に怒りが湧き上がり、苛立ちを表に溢れさせてしまった。それがこの場の現状である。
「……美船元帥」
「間宮……ごめんね?落ち着きたいから飲み物……なんでもいいわ。持って来てくれる?」
「あっ、はい。少しお待ちください」
何度も呼吸を整えようとする美船元帥は落ち着こうとした。ぐつぐつと沸騰する湯の泡のように留めなく止めることができない。それもそのはずである。我が子同然の艦娘達を実験体に使ったのだ。演習と呼べぬ艦娘同士の殺し合いもそこで行われていたらしい……そんなことをされて怒りを抱かない
「気持ちはわかるで美船。ウチもな……今どうしようもないぐらいにこんなアホな事を仕出かした連中を叩きのめしたいぐらいや。こんなことを平然とできるんは軽視派の連中や。裏でこそこそ何かしていると思っとったが……呆れてしまうで」
「ええ、艦娘に対して碌な事しかしない連中とは思っていたけど……まさかここまでとは思っていなかったわ。今すぐに元帥権限で連中を全員逮捕してやりたいぐらいよ!!」
だができない。軽視派の連中が犯人だと言う決定的な証拠は存在しないのだから。ならばあの施設を調べればとそう考えているが簡単にはいかないだろう。
あの小島は深海棲艦により壊滅的な状況に陥っているか自ら施設を意図的に破壊でもしたのか?もしくはその両方か……どちらにせよ壊滅状態であることに変わりはない。知られたらまずい実験を行っていた場所だ。証拠を隠滅するからくりは存在していただろうから証拠は残されている可能性は低い。その中で山城達があの場所にいたことは何かの手違いか意図せぬ事で残ってしまったと考えるのが妥当だろう。それだけではない。
あそこは本土よりも離れた小島で調査にも多大な時間と労働力を必要とし、大部分は埋もれてしまって掘り起こすにも時間が必要だ。気を抜けないことに軍関係者にどれほどの軽視派が存在するのかハッキリとしない中で、調査は行うにしても難航するだろう。艦娘達に頼もうにも国全体が深海棲艦の防衛で人手不足。必然的にこの件は軽視派の耳に届き、調査団に紛れて証拠を隠滅される可能性もゼロではない。
何故人間同士の都合で艦娘が犠牲者となり、深海棲艦に立ち向かうはずなのに協力すらできないのであろうか?こんなことで深海棲艦よりも悩まなければならないことに元帥はため息を吐いた。
「美船さん……どうなさるおつもりですか?」
鳳翔が不安そうに美船元帥に問いかける。
「調査は行う。だけど時間はかかるわ。証拠も残されているのか不明……連中は愚か者の集まりだけどこういう悪知恵は誰よりも得意な連中よ」
「だとしたら……」
「鳳翔の心配はわかるわ。でもね山城達がいる」
「山城さん達ですか?」
「ええ、話によれば彼女達を
「はい、赤城さんの報告ではそう言っていたと」
大淀はそう赤城の報告で聞いた。
「……ふぅ、外道提督にまたこちらから連絡を入れるわ。大淀ありがとうね」
「いえ……」
「美船元帥、お茶をお持ちしました」
「ありがとう間宮、そこに置いておいて。後ね、みんなには悪いけど少し考え事したいから……」
「ああわかっとる。ウチらは持ち場に戻るわ。ほな行くでみんな」
龍驤達は美船元帥の心境を悟り部屋を後にする。一人残された元帥は間宮に出されたお茶を無言で眺めていた。
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艦娘をどこまでバカにすれば気が済むの!?容姿は醜いけど、それがあなた達に何か悪いことをやったの!?気分を害するから?気持ち悪いから?なら鏡を見てみなさいよ!どっちが醜いなんてわかるでしょう!!!
手元の湯呑に注がれたお茶を眺めながら……美船元帥はただ静寂を貫いていた。しかし胸の内は怒りと悲しみに彩られ、我が子同然の艦娘を蔑ろに扱った連中に罰を与えてやりたい。感情のままに権力を使い、一網打尽にしたい衝動に駆られていた。すぐにでも証拠を見つけたいとは対照的な調査の見通しに歯痒い思いをする。
だが一握りの希望はある。山城達が本人達が気づいていない何かを持っているかもしれない。軽視派の連中が非人道的実験を行っていたと言う証拠が見つかればそれで良いし、何の実験していたのかを知る手掛かりに繋がるかもしれない。どちらに転んでも彼女達に会うことからだ。精神面的にも問題を抱えていると報告にもあり、心配なのだ。
……ふぅ、落ち着きなさい。ともあれ赤城達が傍についている。外道提督も一緒なんだから何も心配いらないわね……って、彼を信用してしまっている。
彼は凄いわ、轟沈者を出さずに成し遂げた功績を心から絶賛したい!でも……やっぱり私は嫌な女みたい。信用したから今回の戦艦棲姫撃滅作戦を任せたはずなのに心のどこかで信用しきれていない矛盾が私の判断を狂わせている。艦娘に対してふざけたことを仕出かした連中は軽視派だと確信を持っている。平気でやってのける連中は奴らしかいないから。そんな派閥に属している彼に対してどうしても不信感が拭えないのよ……矛盾しているとか言っておきながら人のことを言えないわね。これは言い訳かもしれないけど、人間の汚れた裏側を見すぎた影響が原因なのかも。
軽視派に属しておきながら艦娘に優しい青年とそんな彼に戦艦棲姫撃滅作戦の大役を任せながら心の奥底では信用しきれていない元帥は信用したいのに信用しきれない自身の意志の弱さに嫌気がさす。
青年が属するのは
「……ああもう!考えても
美船元帥は準備に取り掛かろうとした時だ。
プルルルル!
電話が鳴り響き、美船元帥は受話器を耳に当てた。
『「おーほっほっほっ!!!御機嫌ようですわぁ!」』
「……小葉佐大将?」
受話器の向こう側から聞きなれた高笑い……小葉佐大将だった。
美船元帥と小葉佐大将は
「一体どうしたと言うの?」
『「外道提督は戦艦棲姫撃滅に成功したようですわね」』
「……どうしてそれを?まだ通達していないはずよね?」
『「戦艦棲姫には経験を積んだ提督達が挑み、艦娘が沈みました。戦いは困難を極めるでしょう?そんな相手に挑もうとする彼をわたくしは励ましたく思いまして作戦前にお話をしましたの。それで縁ができまして一足先に作戦成功を伝えられましたわ」』
「……なるほどね」
『「それと……艦娘が囚われていたことも」』
「……」
『「許せませんわ。艦娘を実験体にするだなんて……彼女達はどんな姿であれ協力関係にあるというのに礼儀がなっておりません!わたくし怒りを通り越して呆れてしまいました」』
電話越しに小葉佐大将の
「確かに許せないわ。だからこの案件は慎重にことを進める必要があるのよ」
『「そうですわね。軽視派の連中の好きにはさせませんわ。そこで元帥に相談があるのですわ」』
「相談?」
『「実はですね……」』
「ええ、それじゃよろしくお願いするわね?」
『「はい、お任せくださいな。それでは失礼いたしますわぁ」』
ガチャリと受話器を置くと本日何度目かのため息を吐いた。
小葉佐大将も協力してくれると言ってくれたからこれで軽視派の動きを阻止できるかもしれないわね。でも連中は悪巧みだけは一流。どう動いてくるのか注意しないといけないわね……
美船元帥は細々とそう思いながら冷めてしまったお茶を口にした。