それでは……
本編どうぞ!
美船元帥の元に報告が届く前まで時間は遡る。
「私はこのことを美船元帥に報告いたします」
「ああそうしてくれ」
「赤城さん、私もついていくわ」
「ありがとう加賀さん」
赤城と加賀は美船元帥に報告するために一度退席した。現在、臨時基地では山城達をどうするのか意見を出し合っていた。
「ねぇ~提督?」
「なんだよ?」
「一度那珂ちゃん達に報告しなくていいの?きっと心配してるよ?」
「そうだな……島風の言う通りそうするか」
青年も艦娘達を残して一度退席し、
「はぁ……」
「元気ないですね川内さん?」
「何故かわかっているくせに」
「だはは……まぁ、青葉もお気持ちはわかります」
「うじうじしていたら一人前のレディーになれませんわよ?」
「そうだよ川内ちゃん!今日もダンスレッスン一緒にしよ?」
提督のいない執務室に
○○鎮守府A基地は今日も平和である。だが日に日に元気がなくなってきた川内に付き合う青葉達。言わずもかな、青年達が出かけてそれなりに経っている。作戦が成功したという報告は今のところ届いていない。それを安堵と捉えて良いのか難しいところだが彼女達はサボっていられない。今も命がけで戦っている仲間の為にとやるべき仕事を終わらせてきたが、妹の那珂に励まされているいるにせよ、川内は気になってしまう。やっぱり心配なものは心配なのだ。
「はぁ……」
「川内さんいつまでもため息ばかりで不甲斐ないですわよ!レディならシャキッとしなさいな!」
「はぁ……」
「こうなったらレディ検定1級の資格を持つわたくしが喝を入れて差し上げますわ!さぁ!
「熊野ちゃん、川内ちゃんが可哀想だからやめてあげて」
「元気出してくださいよ川内さん、なんならこの提督の秘蔵写真なんてどうです?」
「……青葉さん、わたくしに保存用、観賞用、お出かけ用、添い寝用等々でそれ五十枚ほどお願いできます?」
「那珂ちゃんも三十枚欲しいな」
「お二人が反応するんですか!?いやまぁ、別に構いませんけどね……って多すぎません!!?」
「当然のことだよね熊野ちゃん?」
「ええ、殿方の写真を複数所有するのはレディたる者の嗜みですわよ?」
「え、えぇ……」
日に日に元気のなくなる川内に対しての秘密兵器を用意した青葉だったが思惑通りにいかなかった。川内は秘蔵写真と聞いてピクリと反応するがすぐに我に返る。確かに欲しい。
色々あったがやっぱり生で青年に会いたい思いが強い。秘蔵写真にお熱な熊野と那珂を放ってまたため息を吐いてしまう。
プルルルル!
そんな時に電話が鳴り響いた。一番近場にいた川内が必然的に取ることになる。
「……はい、○○鎮守府A基地ですけど何か用……?」
自分でしまったと思った。元気がないにせよ、事情を知らない相手側に取るものではない。気分を害して電話を切られるかそれとも激昂するか受話器を取った後に後悔したがもう遅い。どんな反応が返ってくるかと身構えたが……
『「んぁ?なんだお前にしては元気がないじゃないか川内?」』
「て……提督!!?」
ガバリ!と勢いよく立ち上がった拍子に椅子を跳ね飛ばすが気にもならない。そんなことよりも受話器に全神経が集中する。青葉達もダダダ!と近寄ってみんなが耳を傾ける。
『「――っ!!?声がでかい!鼓膜を潰す気か!?」』
「ご、ごめん。でも久しぶりだったからさ」
『「んぁ……色々と立て込んでいたからな。作戦が終了するまで控えていたんだ」』
「終了するまでって……ことは!?」
『「クヒヒ♪喜べ!神通も古鷹も加古も暁達も負傷したが無事だ。吹雪達も誰一人として轟沈させずに戦艦棲姫を倒したぞ!!」』」』
受話器から聞こえた内容に川内達は大喜び。その騒動を聞きつけてやってきた妖精達もこのことを知りお祭りムードに発展した。
「(よかった……神通達は無事なんだ。提督も……)」
自分がこの人の艦娘になりたい、この人が提督でいてほしいと青年の艦娘となった。彼が妹の神通を引き連れて帰ってきてくれる……喜びが胸いっぱいになる。
『「んぁ……だが一つ、厄介事を持って帰ることになっちまうんだよなぁ」』
「……厄介事?」
川内達は知る。山城達の状況を……青葉達は悲しみに暮れ、妖精達は怒り心頭の様子だ。
「そう……山城達を連れて帰るんだね?」
『「そのつもりだ。帰るまでもう少しかかりそうだが……んぁ……その……大丈夫か?」』
「うん、心配してくれてありがとう。でも大丈夫、辛いのは山城達の方だから私達は平気……じゃないけど、こんなことではへこたれないよ?だって提督の艦娘なんだから」
『「頼もしいぜ。要件はこれだけだが、そっちは何かあるか?」』
「川内ちゃん、代わって代わって!」
「ちょっと待って……みんな提督と話したいって。那珂に代わるね?」
受話器が川内の手から那珂に移ると久々の青年との会話に没頭していく。青葉も熊野も自分の番が来るのをうずうずと待ち遠しく待機してるのを尻目に川内は執務室を出て港へとやってきた。
「……提督」
青年達が誰一人として欠けずに帰ってくる。それを「おかえり」と出迎えることができる。世の中には「いってらっしゃい」と見送ってそれが最後となることもある。ただ帰って来られることがどれだけ幸福なことなのだろうか。しかし喜びとは別のもう一つの不安が生まれた。山城達のことだ。
彼女達が抱える闇は深い。人間の裏側の犠牲者であり、裏側を知ってしまった彼女達を裏側の連中は黙って見逃すことはしないだろう。そうなれば必然的に青年も巻き添えに……そんなことはさせないと川内は拳を握りしめた。
「提督、私が……私達が提督を守るからね」
吹雪達もそう思っていることだろう。闇から山城達を救い出し、青年を守るのだと……そんな彼が
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「……はぁ、やっと切れたか」
あいつら話長すぎだろ。待たせていた分の会話以上に話したんじゃないか?まぁそんなことはどうでもいい。川内達には伝えたし、後は……
○○鎮守府A基地に待たせている川内達に連絡は済んだ。少々お疲れのご様子の青年だが、次に連絡を入れなければならない相手がいる。その相手の番号を入れようと思ったが躊躇った。
『「初めまして外道提督さん、わたくしのことお分かりですよね?」』
『「外道提督さん、そのわたくしはあなたを気に入りましたわぁ」』
『「そうですか。外道提督さん、作戦成功することを祈っていますわ。わたくしはあなたを信頼しております。この作戦が無事に成功した暁には共に盃を酌み交わしたいものですね」』
青年の脳内では何度も反復して聞こえてくると同時にその人物の顔を思い浮かべてしまう。あろうことか相手の顔が頭からは離れられずに意識を逸らそうとしても逆に意識が吸い取られてしまいかねない魔力を帯びた容姿だった。
――うぷっ!!?き、気持ちわるい……ちくしょう、なんでこんなに意識しちまうんだ!全く興味ねぇのによ!?だ、だがやらねばならねぇ。相手は大将さんだ、美船元帥さんと同じ穏健派だ。何かとコネがあれば後々優位に立てる。俺が軽視派であってもこの功績は無下にできないはずだ。そう、これは今後の為のパイプなんだ。それによ、今回の件は軽視派の先輩方が絡んでいるだろうが……俺は何も知らなかったんだから仕方ねぇよな?後で「なんてことしてくれた!」と言われても知らん。豚野郎が居なくなってから一度も連絡を寄こさねぇ連中が悪いんだから俺は悪くねぇもんね♪
大将さんに何かあれば連絡くれと言われていたからな。だからな……指よ動け!俺の意思に背くんじゃねぇ!!
青年の意思に対抗するように体は硬直する。黒電話のダイヤルに指をかけるが動かない。体が意思に背き、そこまでして会いたくない相手なのだ。今回は電話なのだが、会話するだけでもその容姿を思い起こさせるとは……恐ろしき存在である。
よく考えろ俺の体よ、この機会を見逃せば後々面倒事が増えるに決まっている。上司に嫌われると組織での居場所がなくなるなんてことはよくあることだ。下っ端は辛いもんだ。だがな、俺は昇進しなければならない。ゴージャスな豪邸に住んで毎日ウハウハエンジョイな生活を送る夢を夢で終わらせてたまるか!
向こうから接触してきたということはきっと興味があったんだろう。大将さんと良好な関係を築けるかもしれないチャンスなんだ。うまくいけば利用できるし、元帥さんだけだと百のパワーだが大将さんも含めると千のパワーを得られる。
「もしもし、小葉佐大将ですか?外道です」
『「あらぁ?外道提督さん?一体どうしたのかしら?まさか……戦艦棲姫を倒したとか?」』
「はい、そのまさかです」
『「――ッ!!?本当に?」』
「はい、無事……とは言えませんが、艦娘全員轟沈せずに見事勝利を収めてくれました」
『「……誰一人かけずに勝利したと言うの?」』
「はい!間違いなく我々の勝利です!」
『「……なんてこと……!?」』
小葉佐大将が心底驚いているのが伝わってくる。戦艦棲姫を倒すのに多くの艦娘が沈んだ。何人かの提督が躍起になっても勝てなかった相手、それがはたから見ればまだ新米提督に過ぎない青年が誰も轟沈させずに勝利を手にしたことを疑っても無理はない。しかし彼の言葉からは確固たる自信が伺える。それに援軍として共に前線で戦った赤城達は美船元帥に勝利の報告を伝えていることを大将に伝えると確信に変わる。元帥相手に虚偽の報告などできるはずもない。故に戦艦棲姫を打ち破ったのは真実だとわかる。
『「凄いですわぁ!外道提督さん!!あなたはとても優秀な方なのですね♪」』
「い、いえそのようなことは……」
『「わたくし感激いたしましたわぁ!!!」』
受話器の向こう側で大層ご機嫌な様子が伝わってくる。やはり戦艦棲姫を倒したことはそれほどに大きな功績なのだ。人類は一歩前進したといえる。
『「外道提督さん、お礼を申し上げますわ。これであそこの海域を交通の手段として利用できるようにも……」』
「あの……小葉佐大将、大変申し上げにくいことが……」
『「あらぁ?どうかなされましたか?もしかして……
「ええ……実は……」
青年は一瞬話すのを躊躇した。何故かはわからないがこのことを言っていいものだろうか?と疑問を持ってしまった。しかしそれも一瞬のこと、彼は気の迷いなど振り払い昇進欲を最優先として包み隠さず山城達のことを伝えた。小葉佐大将はその間、一言も音を立てることはなく青年は通話が切れているのか?と疑ったぐらいだ。恐ろしいほどに無音だったのだから。
「……あの、小葉佐大将?ワタシの話を聞いておられましたか?」
『「……ええ、すみませんでした。あまりの内容に唖然としていまして……それで?その艦娘達はどうなさるおつもりですか?」』
「とりあえず保護しましたので、一度○○鎮守府A基地へ連れて帰るつもりです。後のことは美船元帥さんと相談しようかと思います」
『「そうですか。わかりました。こちらから元帥に伝えておきますわ。色々とお話もあるでしょうし」』
「そう……ですね、ご迷惑おかけいたします。それでワタシはこれで失礼しま――『外道提督』はいなんでしょうか?」
『「わたくしの言葉を覚えておりますか?」』
「言葉……ですか?」
『「この作戦が無事に成功した暁には共に盃を酌み交わしたいものですね。そう言いました』
「あっ、えっ!?ああ……そ、そんなことを言っていました……ね?で、ですが今回の案件は優先すべきかと思いますねはい!」
『「そうですわね。ですが見事あの戦艦棲姫を倒したのですから祝盃を上げても罰は当たりませんわよ。休息も仕事の内と言いますし、やりましょう!後ほどこちらからご連絡させていただきますわ♪」』
「あっ!?ちょ、まっt――」
『「それではわたくしは用事が出来ましたので失礼させていただきますわ。
ガチャリと通話が切れ、その場に立ち尽くす青年。
……うそ……だろ!?折角嫌なことを忘れていたのに!!!できれば直接は会いたくない……会わなければいいんだが断れない。うぅ……話が
受話器を元に戻す手が震える。今後待ち受けている展開を想像してしまいたまらず膝をつく。
祝盃を上げる方へと話が流れてしまい上司との付き合いに逆らえないのは下っ端のあるあるだ。それだけならばマシだった……
「……まったく、本当に使えない方々ですのね!結局は証拠が残っているではありませんか!」
受話器を置いた瞬間から小葉佐大将は苛立ちを表に現した。この場にはいない強欲な連中に向けて腹が立っている様子である。だがその様子も落ち着きを取り戻し、クスリと笑みを浮かべる。
「ああそれにしても……外道提督さんはなんてお利口さんなのでしょうね?戦艦棲姫を撃破しただけでなく、処分を逃れた証拠まで手に入れてしまうなんて♪まぁ、あの
先ほどの苛立ちとは打って変わって煌々とした瞳でご機嫌な様子だ。まるで獲物を得たトラのようであった。
「まず
口から唾液が漏れ出る。小葉佐大将の脳裏では素っ裸の青年のあられもない姿が浮かび上がっていたが、その光景も一度納め、美船元帥へと電話をかけるのであった。