12月下旬、中山競バ場で迎えた有マ記念。
先発マックイーンが大量失点、ハルウララも勢いを見せず惨敗だった。
競バ場に響くファンのため息、どこからか聞こえる「今年で100敗だな」の声。
ファンフェスで楽天の選手達がうまぴょい伝説を披露する中、勝利から離れているハルウララは独りベンチで泣いていた。
レースで1着を取る喜び、感動、そして何より切磋琢磨できるライバル・・・
それを今のハルウララが得ることは殆ど不可能と言ってよかった。
「どうすりゃいいんだろう・・・」
ハルウララは悔し涙を流し続けた。
どれくらい経ったろうか、ハルウララははっと目覚めた。
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した。
「やれやれ、帰ってトレーニングをしなくちゃな」
内川は苦笑しながら呟いた。
立ち上がって伸びをした時、ハルウララはふと気付いた。
「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
ベンチから飛び出したハルウララが目にしたのは、スタンドを埋めつくさんばかりの観客だった。
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのように目覚まし時計が響いていた。
どういうことか分からずに呆然とするハルウララの背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ウララさん、レースが始まりますわよ、早く行きましょう?」
声の方に振り返ったハルウララは目を疑った。
「キ・・・キングちゃん?」
「バ場、距離両方の適正が合っていないので実力を100%出せないかもしれません」
「た・・・たづな理事長秘書さん?」
「なんだハルウララ、かってにたづなさんを引退させやがって」
「石井さん・・・」
ハルウララは半分パニックになりながら電光掲示板を見上げた。
1番:石井琢
2番:キングヘイロー
3番:メジロマックイーン
4番:ローズ
5番:たづな
6番:内川
7番:セイウンスカイ
8番:谷繁
9番:ゴールドシップ
10番:スペシャルウィーク
11番:グラスワンダー
12番:テイエムオペラオー
13番:エルコンドルパサー
14番:メイショウドトウ
15番:ゴールドシップ
16番:ハルウララ
暫時、唖然としていたハルウララだったが、全てを理解した時、もはや彼女の心には雲ひとつ無かった。
「勝てる・・・勝てるんだ!」
トレーナーから鉢巻きを受け取り、ターフへ全力疾走するハルウララ、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・
翌日、ベンチで冷たくなっているゴールドシップが発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。