泥と汗に塗れた黄金が夢へいざなう   作:N2

5 / 6
サクラやシンボリの設定で独自のトレーナー達の描写を書いてみたらキャラがヤバくなったのだ。
レース中にピキーンと指示が出せそうなトレーナー達になったのだ。


第五話 ライバル達

 四月に入った途端、トレセン学園は春休みが終わったかのように、在籍しているウマ娘達も各々寮に戻ってきていた。

 新入生の入学はまだ後日ではあるが、生徒会長も無敗のマルゼンスキーから皇帝シンボリルドルフに代わり、学園内及び各寮の空気も皇帝の発する凛とした気配にあてられたのであろう、非常に引き締まったものとなっていた。

 今年度にメイクデビューを控える者、クラシック世代にシニア世代はこぞってトレーニングに励み出している。

 そんな中、同期で際立ったウマ娘が少ない栗東寮のゴールドシチーは、カフェテリアで美浦寮のウマ娘達に囲まれていた。

 

 「やったねシチーちゃん! ついに念願の専属トレーナーがついたんだね!」

 

 朗らかに周囲まで明るい雰囲気にさせる微笑みを浮かべながら話かけているのは、ポニーテールがピョコピョコと尻尾と同期しているような錯覚に陥る、大正ロマン風味溢れるサクラ軍団期待の星の一人、サクラエストレイヤオーだ。

 

 「へぇ、これでシチーも僕らのようにジュニアB組でのメイクデビューに間に合いそうじゃないか」

 

 凛々しくボーイッシュな出で立ちで威風堂々とした立ち姿を披露するのは、これまたサクラ軍団期待の星の一人、サクラヴァンケルだった。

 

 「まだトレーニングも始めたばかりだから。アンタ達みたいなスゴイのと一緒にしてもらっても困るんですけど」

 

 持ち前の頭の良さと負けん気で、学園で講義されている基礎トレーニングは、かなり高いレベルで取り組んでいるゴールドシチーではあるが、それでも自身に合った専用トレーニングを受けているウマ娘達からは、長いと一年間の開きがある。

 トレーナーがついて浮かれる気分もあるが、そう楽観はしていなかった。

 

 「シチーが頑張ってたのは私達知ってるからね。服やコスメのアドバイスまでしてくれる…… 純粋に嬉しいのさ」

 

 「メリー、あんたは大人っぽい美人なんだから、無頓着もほどほどにしなよ。勿体ないんだからね」

 

 「いやぁ、そこはシチー様々って事で」

 

 一見するととてもジュニアには見えない大人びた容姿のメリービューティだが、お洒落に無頓着なのが逆に幸いしたのか、入学当初からゴールドシチーにコーデのアドバイスを受けていた。

 

 「ははは、シチーさんもそうだけど、二人は本当にジュニアなのかな? 私も会長、シンボリルドルフ先輩みたいに格好よくなりたいなぁ」

 

 黒鹿毛を清楚なロングスタイルにしているスラリとした体躯のウマ娘は、皇帝シンボリルドルフの再来とシンボリ王国では目されているイングレディエントだ。

 ただし、その本人は皇帝シンボリルドルフとは異なり、少々気弱気味で繊細な所がみられる。

 

 「レディエちゃんも憧れるだけじゃダメじゃない? ま~たシンボリからのプレッシャーが強くなっちゃうよ」

 

 「あ!? うぅ、胃が痛くなってくるからそれを言わないでぇ~」

 

 サクラエストレイヤオーの指摘にイングレディエントはお腹を押さえ出してしまう。

 

 「ま~た、レディエは。ほら、胃薬あるから飲みなさい」

 

 「ありがと、シチーさん」

 

 ゴールドシチーは胃腸は丈夫だが、周囲に気を遣う性格から、イングレディエントのために胃薬をポーチに常備するようになってしまっていた。

 

 「実際どんな感じなの? シチーちゃんのトレーナーさん。若いよねぇ、私ちょっと経歴知ってるんだけど、どんな人かはわからないから」

 

 「たぶんスパルタ…… 足りない併走やレースメイクは本番でトレーニングだ、何て言って6月半ばと末、それに7月半ばと末に四レース組んでんだよね。メイクデビューで勝った場合と負けた場合含めて。鬼かっつの」

 

 走らせろ、人形扱いするなと言ったシチーではあったが、トレーニングメニューはまだしも出走スケジュールを聞かされた時は唖然としてしまったのは言うまでも無い。

 サクラエストレイヤオーも引き気味だ。

 

 「うわぁ…… って何でシチーはちょっと嬉しそうなんだ?」

 

 少し口角が上がっているゴールドシチーをメリービューティが覗き込んで不思議そうに聞いてくる。

 

 「べ、別に真剣にアタシのレースの事考えてくれて感動してるとか、嬉しがってなんか無いから!」

 

 語るに落ちている事に気付いていないのはゴールドシチーだけだ。他の面々は然も面白い事を聞いたかのように、ニマニマと笑みを浮かべ出した。

 

 「シチーにそんな面があったなんて驚きだよ。それに、レースをそこまで割り切ってトレーニング扱い出来る人もそういない。でも、これでデビューはこの中ではシチーが最初か」

 

 「寧ろジュニアB組ではトップクラスで早いんじゃない? これって……」

 

 サクラヴァンケルの言葉にイングレディエントが驚きを込めた声色で応える。

 

 「へぇ、シチーちゃんのトレーナーさん。来年のティアラかクラシック、強引に仕上げるつもりかな? まだ担当したばかりなのに強気だね」

 

 サクラエストレイヤオーの言葉に空気が引き締まるのをゴールドシチーは感じ取った。

 来年の事はゴールドシチーも聞かされていないが、サクラエストレイヤオーの言葉通りであれば、ここにいる五人はライバルになるという事だ。

 

 (一年前から専用メニューでトレーニングを積んだ彼女達と同じ土俵に上がるんだ)

 

 「アタシも走るためにトレセンに来たんだから、この一年で必死にアンタ達に追い付いてみせるから」

 

 「良い顔だね。去年のシチーは辛そうだったから僕としても嬉しいよ。ただ、僕達はクラシックを狙う。ティアラにはプリティマックスとギフティドレディがいる。手加減は期待しないほうがいいね」

 

 「上等じゃない。手加減なんかしたらアンタ達でも許さないから」

 

 仲の良い同学年の友達から、ライバルになった瞬間であった。

 

 

 

 

 トレーナー達も慌ただしくなり始める四月、年度が変わると共に新生徒会長にはアメリカから帰ってきた皇帝、シンボリルドルフが就任した。

 アメリカでのレースは六着と結果は奮わなかったが、これには理由があった。

 

 「URAの経営委員会の理事とトレセン学園、それに俗に言うシンボリ王国から、チームとは言わないが、ルドルフ以外のウマ娘も担当しろと昨年度から私に圧力が掛かってね…… 彼女のラストランだというのに、専属の私が付いていけなかったのが心苦しい。日本を発つ前にルドルフの走りに違和感が出ていたというのに…… 出走取り消しを打診したが聞いてもらえなかった。海外で走るというのはそれはもう一大イベント…… 賢く責任感も強い彼女は、どこまでも偉大な皇帝として衆目の期待に応えたと私は誇りに思うよ」

 

 日本ウマ娘トレーニングセンター、所謂トレセン中央も新しい年度を迎えたので、トレーナー達の行きつけの居酒屋で、トレーナー各々がゆるりと新年度を迎える懇親会を催していた。

 シンボリルドルフ自身故障気味の脚に初めての海外、サンタアニタレース場、コース特徴であるダートを横切る箇所で左脚に故障を発生してしまった。このレースに関しては日本でもニュースで取り上げられる程であった。

 つい先日に行われたシンボリルドルフの引退式には、レースではないというのに10万人以上ものファンが来場したのも、今後彼女を彩る伝説の一部となるのだろう。

 

 「岡野さん……」

 

 無敗でクラシック三冠を制覇し、七冠ウマ娘にまで至った偉大な皇帝のトレーナーである岡野幸祐さん。

 所謂、大先輩ではあるがマルゼンスキーのトレーナーの中渡橋善彦さんと共に、時折俺を話や飲みに連れて行って貰えたりする間柄だ。

 

 「……でも、よくあのシンボリルドルフが、岡野さんが他のウマ娘を担当に持つことを許可したなって一時期噂になってましたよね」

 

 上からのお達しという事もあって詳細は語られていなく、三か月もすれば忙しいトレーナー達は気にも留めなくなっていった。かく言う俺もそのうちの一人。

 気さくに話しかけてくれはするが、岡野さんも中渡橋さんも新人にとっては雲の上の存在だ。彼等が世間的にまだ若いという事もトレーナーとしての偉業に拍車を掛けている。

 

 「まぁ、これを認めさせたからな」

 

 薬指にキラリと光る円環がはまっていた。

 

 「指輪!? あぁ…… 中渡橋さんとマルゼンスキーの前例がありましたね」

 

 ジュニアC組、クラシック年代で出走を果たした有マ記念を、劇的なラストランで飾って引退したマルゼンスキーは、シニア期最初の一年間で故障を治療した後、トレセン学園在籍中に担当トレーナーの中渡橋さんと結婚。

 マルゼンスキーは、母親が外国で妊娠が発覚して帰国後の日本で生まれた。他にはある一定年齢の幼少期まで外国で過ごした後に日本に来たウマ娘達は、日本生まれのウマ娘達で、ジュニア期の総決算であるティアラとクラシックに出走するという規定の壁に阻まれ出走できないでいた。

 規定で雁字搦めになってしまっていたマルゼンスキーだが、当時出走出来た唯一のGⅠである有マ記念を含めた9戦9勝、2着に着けた差は合計63バ身という規格外の戦績を誇る。

 そんなウマ娘に報いるため、そして学園から去らせず怪我の復帰後にはドリームトロフィーリーグ等、更なる貢献を望んだURAの公正審査会議と学園の理事会は、本来なら許可しないだろうが、法的に問題ない事を理由としてある許可を出したのだった。

 彼女、マルゼンスキーが希望する担当トレーナー、中渡橋善彦との在学中での結婚を。

 

 「トゥインクルシリーズ引退後、要は今月の会長就任と同時に婚約だ…… 私がつけているこれは結婚指輪のようなものだがね。加えてルドルフの目利きでシンボリ王国から入学してきたウマ娘ともう一人を担当する事に決まっている。昨年の話だが、本河内も知っているだろう? お前がゴールドシチーを担当する事も噂に上がっている。ゴールドシチーと同世代だな」

 

 マルゼンスキーと中渡橋さんの件は、当時雑誌にも素っ破抜かれた事があり、暫くは在校生のウマ娘達が相当掛かり気味になったとか。

 婚約、というよりも結婚指輪を嵌めている段階で事実上の結婚のようなものだ。今はまだ落ち着いてはいるが、シンボリルドルフと岡野さんの件でウマ娘達の掛かり気味が再燃しそうだな。

 ウマ娘一人の専属トレーナーとなったばかりの俺には関係のない話ではあるけど。

 

 「知ってますよ。皇帝の再来、皇帝に最も近いウマ娘とシンボリ王国も期待しているイングレディエント…… フランスに行くかどうかなんて言われてましたが、やはり日本で走りますか。そもそも岡野さんはどういう立ち位置なんです? 皇帝のトレーナーは解任ですか?」

 

 加えて岡野さんはプリティマックスを担当している。

 究極の美女ウマ娘として美しさでゴールドシチー共々、見た目の華やかさが取り上げられるが、プリティマックスは既に、一年前の入学後最初の選抜レースで注目を浴びていたウマ娘だ。

 

 「いや、トレーナーは続ける。ドリームトロフィーリーグもあるからな。ルドルフは、あくまでリギルに出向させる形だよ。リギルのチーム力の底上げのための練習相手も兼ねてだな。ルドルフ自身のトレーニング環境としても申し分ない。レディエとプリティのトレーニングメニューはこちらで考えるが、ルドルフと共に出向だ。二人に関しては、昨年忙しかった私の個別トレーニング以上の成果も既に見込めている。東条には感謝しかない」

 

 マジか……

 何だその恵まれた環境は。

 岡野さんはシンボリ王国が母体となっているトレーナー予備校出身。イングレディエントの担当になるのはわかる話でもあるのだが。

 岡野さん自身が初の高卒予定者での採用でありシンボリ王国トレーナー群期待の星。

 中央のトレセン採用後は、シンボリ関係から期待を一身に背負って大事に育てられた経緯がある。シンボリトレーナー群のサブトレーナーとして下積み後、満を持してシンボリ王国の至宝、シンボリルドルフを担当したらしいが、実はシンボリルドルフとは彼女が幼いころから面識があり、なし崩し的にというのが真実とは本人の談だ。

 

 「イングレディエントもそうですが、来期のクラシック世代ってサクラ軍団も10名以上いるんですよね。メジロ家がいないのが幸いとはいえ……」

 

 サクラ軍団、サクラ学園初等幼稚舎から入学してきたウマ娘達。

 ここは日本ウマ娘トレーニングセンター学園にウマ娘を入学させるための児童ウマ娘の養護施設も兼ねた名門学園施設でもある。

 それと同時に、トレーナー育成予備校も存在し、高校及び大学からトレーナー養成のための教育を行っている。中央トレセン採用後はサクラ軍団のトレーナーに就任する流れを取っている。

 現在は、精鋭サクラ軍団として中央トレセン内にて最大の勢力を誇っているのだ。

 

 「ゴールドシチーやイングレディエントの世代だとサクラヴァンケル、次にサクラエストレイヤオーが注目株でしたよね。後は――」

 

 「ギフティドレディとメリービューティ、僕が担当しているよ」

 

 俺と岡野さんの話し合いに、穏やかな声色をした人物が声を掛けてきた。

 

 「――中渡橋さん。またウマ娘の中でも相当美人で実力も高い二人ですね…… マルゼンスキーはいいんですか?」

 

 「一昨年にマルゼンのような立場のウマ娘の出走制限撤廃が決定した…… だから僕も担当を持てと昨年度に上からせっつかれてね。岡野君に対する皇帝ほど厳しくないけど、その二人はマルゼンの目利きだよ。今年度入ってくる新入生も一人担当するから、リギルにその三人は出向させない予定かな」

 

 結局マルゼンスキーの名前で、有望なウマ娘を担当出来たと新たに揶揄されているが、中渡橋さんは大して気にしていないようだ。

 本当の事だしね、などと本人も言っているが、反論してもいいと思うけど。

 

 などと、三者で同世代で戦う者同士挨拶のような、それでも普段と変わらない様子で話をしていると、俺のいるテーブルから少し離れた所から、ジョッキを叩き付ける音と声が響いてきた。

 

 「トレーナーとして、僕がウマ娘を一番上手く扱えるんだ!」

 

 「飲み過ぎだぞ安室君…… 情けないトレーナーと競う意味はない。ましてや同じサクラ内ではナンセンスというものだろう」

 

 「バカにして…… そうやって貴方は、ずっと他人を見下す事しかしないんだ」

 

 茶髪の天パのトレーナーが、グラサンをかけたノースリーブの俺でも知っている一流トレーナーに、酔った様子で食って掛かっていた。

 

 「あれはサクラ軍団の――」

 

 「そうだね。サクラ軍団所属トレーナー統括、西総帥だ。あの若いのは今年で三年目じゃないか?」

 

 俺の呟きに中渡橋さんが補足してくれた。

 小宮山さんと同期か。

 若いのって…… 中渡橋さんと岡野さんの二人は、見た目も年齢もトレーナーの中では十分に若いんですがね。

 俺は通路を挟んだ向かいのテーブルを見ると、何を察したのか爺様に睨まれた。

 あそこは敬老会かな?

 

 「確かあの安室君は才覚を認められてサクラエストレイヤオーを担当している筈だが……」

 

 ゴールドシチーの世代で一、二を争う優秀なウマ娘だ。何が不満なのだろう。

 

 「サクラヴァンケルを西トレーナーに取られて、今年度入学したサクラチヨノオーをマルゼンの肝いりで僕が担当することになったからね…… 思う所もあるんだろう」

 

 「サクラヴァンケルのほうが、サクラ軍団内では評価が高いんでしたっけ。そういえば、よく中渡橋さんがサクラチヨノオーを担当出来ましたね」

 

 サクラ初等幼稚舎上がりをサクラと関係がないトレーナーが担当するのは前代未聞だが……

 

 「チヨノオーとマルゼンが合意したからね。マルゼンの実家も交えてサクラと話をしたのさ。向こうもチヨノオーが結果を出すなら、トレーナーは僕でも構わないってね。だからこそプレッシャーではあるんだけど」

 

 ウマ娘同士の希望と無敗のウマ娘の実家も絡んでると。何か規模の大きい話だな。

 

 「貴方も何とか言って下さい! 中空(なかそら)トレーナー!」

 

 西トレーナーの隣に座している、肩口に掛けてボリュームのあるパーマが目立つ中年のトレーナーに、先ほどの安室トレーナーが食って掛かる。

 

 「私はサクラの総意を引き受ける器のようなものだ。彼らが願うところを願うとしている。私自身で考えることはしない」

 

 「器だなんて! 例え造り物であっても、そんなものでトレーナーは出来ませんよ!」

 

 もう一人、安室トレーナーの隣にいた彼よりも一期後にトレセンに来た花島トレーナーが、中空トレーナーの物言いに反論していた。

 彼等の言い合いを何とはなしに聞きながら思うことは――

 

 「サクラ軍団のトレーナーって、キャラ濃すぎません?」

 

 理由は不明だが、そのうち無言で言葉のやり取りをしそうで怖い。

 

 「まぁ…… ウマ娘達を相手にするのであれば、あれぐらいのほうがいいのかもしれないね。彼らに比べたらマルゼンを担当している僕や皇帝を担当している岡野君、それに本河内君も没個性気味かもしれない」

 

 中渡橋さんの苦笑じみた言い方に同じく岡野さんも苦笑いしているが、俺とても彼等にキャラの濃さで対抗しようとは全く思わない。

 先ほどのテーブルから、品の無い笑い声でおそらく安室、花島の両トレーナーを嘲笑する声が響く。

 

 「諸君ら、あんまり生真面目にやっていると、バァカ見ちゃうよ!」

 

 声の主は、頭髪の左サイドを大きく刈り込んで頭頂部左寄りの髪から右に流しているパンクな女性だ。

 中央のトレセンに所属しているトレーナーは男性比率がかなり大きいが、その中で珍しいサクラ軍団所属の女性トレーナーだ。

 

 「空田茜トレーナーか。彼女も優秀だが、ウマ娘を潰す事でも有名だな…… 結果も出しているが極端でもある」

 

 岡野さんが先ほどとは打って変わって苦々しい表情を浮かべていた。

 

 「同期でしたっけ? 有名ですよね。トレーニングも一見すると一貫性が無いというか……」

 

 「専属トレーナーというのは各ウマ娘の状態に合わせるものだ。挙棋不定(きょきふてい)のようでいて、外からはわかりにくい彼女の合理があるのだろう」

 

 まだ喧々諤々としたやり取りをしているが、あのサクラ軍団に所属するトレーナー達は、あのキャラの集合でよく瓦解しないものだと俺には思えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 「うふ、ふふふ。アタシがあいつらのライバル。ヤバっ」

 

 「嬉しそうっスね。最近シチーの情緒が不安定になってきたんで心配っス」

 

 寮の自室に戻ってきてからの反応や仕草で、バンブーメモリーにはシチーの状態が、それなりに判別出来るようになっていた。

 

 「なっ!? は、走りをアイツに認められたのが嬉しいの! 寧ろアタシの外見スルーするとか無くない? あのトレーナー、デリカシー無いわぁ」

 

 「全然そこまで言って無いっス。自爆じゃないっスか…… まぁ、シチーが嬉しいようで何よりっス」

 

 「だ、だってサクラ達やメリー、それにレディエがライバル扱いしてくれたんだよ! そんなの…… めっちゃ嬉しいし……」

 

 ウマ娘としてこの中央のトレセンで認められたという事だ。今まではモデルとしてゴールドシチーは尊敬の念を集めていたが、そこに走りに関しての注目は皆無だった。

 走りが認められないのであれば、ここ中央のトレセンにいる意味もかなり薄まってしまう。走りが少しでも認められるのは、シチーでなくとも嬉しいのが必然だ。

 

 「気持ちはわかるっスけどね。あっ、油断してトレーナーさんをパパとか呼ばないように気をつけたほうがいいっスよ。シチーが男の人をパパ呼びとかヤバい気がするっス。何て言うんスか? えっと、ヤバみマジ卍? っス」

 

 「い、いい、言わないし!? そんなこと言った事ないでしょ! ギャル語も使わなくていいから!」

 

 「いや、寝惚けた時とかたまに言ってるっスよ。じゃ、お休みっス」

 

 「ちょ!? もう! い、言ってないんだからぁ」

 

 「もう遅いんで静かにっスよ~ zzZ」

 

 顔を真っ赤にしたゴールドシチーは、表情を隠すかのように布団を被って無理矢理寝る態勢に入ったのであった。




ある方のツイッターより
シチーさんの幼名はヘミングウェイ。作家アーネスト・ヘミングウェイは、失われた世代の生態と精神を書いた長編、日はまた昇るが著書にある。シチーやサクラスターオー、マティリアルの87年クラシック、いわゆる悲運の世代を考えると、シチーさんの幼名は皮肉が利きすぎている。
感謝祭でのバンブーメモリーとの会話にて「パパ」ネタは、ヘミングウェイの愛称がパパヘミングウェイだった事に起因するのだと思う。

サイゲはよく考えてるのだ。マニアック過ぎるのだ。

サクラエストレイヤオー:サクラスターオー
サクラヴァンケル:サクラロータリー
イングレディエント:マティリアル
メリービューティ:メリーナイス
プリティマックス:マックスビューティ
ギフティドレディ:タレンティドガール

メディアがマルゼンスキーを「競馬に絶対はある。タイムオーバー馬を続出させるマルゼンスキーの恐怖を」と言っていたのだ。皇帝よりヤバいのだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。