泥と汗に塗れた黄金が夢へいざなう   作:N2

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ちょっと久々過ぎました。
別の作品に注力してて…… 本当に申し訳ございません。


第六話 トレーナー室にて

 メイクデビューにGⅢなどのレースを経て、俺が担当するウマ娘のゴールドシチーと今後の出走計画を打ち合わせするため、トレーナー室に来たが――

 

 「あ! シチーのトレーナーさん来たよ」

 

 「遅くね。ネイル出来上がったし」

 

 「ウェーイ! 遅いから部屋借りからの、やりらふぃ~! あざまる」

 

 メジロパーマーがゴールドシチーに俺が来たことを告げ、トーセンジョーダンがダウナー気味にネイル用の道具を片付けていた。

 パーマーは、首を傾げながらダイタクヘリオスが言った言葉を考えているようだ。

 

 「おつ~、てか、やりらふぃってるのヘリオスだけじゃ、痛っ!?」

 

 いきなり背中をひっぱたかれた。

 

 「何しれっとヘリオスに絡んでんの? ウザいし」

 

 折角ノリに合わせようとしたのに、我が担当ウマ娘様のご機嫌がマッハで悪くなってる。

 いや、秒でっていうほうが、この場のノリにはいいのかな?

 

 「アハハハハ! シチーのトレさん大丈夫そ?」

 

 気遣ってくれるヘリオスに癒やされる。パーマーも引き気味ながらもシチーを、まぁまぁ、と押さえてくらているし。

 

 「う~ん、ちょっと掛かり気味ですが、一息つきたい所で、痛い!?」

 

 ヘリオスに応えようとしたらまた叩かれた。

 

 「実況ネタとかマジないわぁ。シチー怒ってるし」

 

 こいつバカじゃね? 

 みたいなノリでジョーダンには飽きれられてしまった。

 

 「ま、まぁまぁ、トレーナーさんも来たし邪魔しちゃ悪いよ。じゃぁシチー、私らは行くね」

 

 面倒見宜しくパーマーがヘリオスとジョーダンを連れてトレーナー室を後にしてくれた。

 あの子はメジロだし、中身お嬢様のカッコいい系ギャルかな?

 アリだと思います。

 

 「な、何で機嫌悪いの?」

 

 「別に…… 打ち合わせ、するんでしょ」

 

 うぃっす。

 テーブルで向かい合い話を切り出した。

 

 「おめでとうシチー。重賞を勝利したから、朝日フェブラリーステークスか阪神ジュベナイルフィリーズに出走出来るぞ」

 

 「え!? マジ! ジュニアBで唯一走れるGⅠじゃん!」

 

 ゴールドシチーを担当して半年弱。

 専用トレーナーにスカウトされず、一年間学園で講義される基礎練習しかしていなかったゴールドシチーには快挙だろう。

 そして同世代からも注目が既に集まってきている。

 

 「模擬レースや併走も経験が足らない君を慣れさせるために、6月と7月は練習も兼ねてレースに出したけど、予想以上の成果だよ。本当によく頑張った」

 

 「じゃぁ、やっぱティアラ路線かな。アタシに似合いそうだし…… てか、最初からそういう風に喋ればいいっしょ! 合わせなくていいから、キモい。ったく、アンタにはかなり感謝してるっていうのに……」

 

 うっさい、俺だってまだ23歳で若いし! キモくねぇよ!

 今後のレースへの展望が花開いたことで、シチーも笑みを浮かべながら考えている。

 三月や四月の時には考えられなかった姿だ。

 

 「三つのティアラ、君のファンもそれらを身に付けたゴールドシチーの姿を望んでいそうだ」

 

 「アタシ的にもそのほうがいいと思うけど…… どうかした?」

 

 「ん? 俺か? いいや、何でもないよ」

 

 日本ダービー、そこで走るゴールドシチーが見たかったのが俺の本心だけど仕方がない。

 

 「……ならいいけど」

 

 「桜花賞、オークス、秋華賞はマイルと中距離だしね。シチーの適性にもピタリとハマる」

 

 シチーは俺が担当に付くまで、座学とレース講義での教官から習ったことをストイックに一年間熟していた。

 基礎は出来ていたからこそ、直ぐにシチーに合ったフォームと走法のトレーニングに入れた。

 結果としてメイクデビュー二着、未勝利戦一着、GⅢ新潟3歳S一着、OP戦コスモス賞一着という快挙と言っていいここまでの内容だ。

 俺自身、勝利と重賞制覇はトレーナーとしても初めてのこと。それをもたらしてくれたシチーの要望は、是が非でも叶えてあげたい。

 

 「なら、阪神フェブラリーステークスに出走するから。アンタも気合い入れてよね!」

 

 「GⅠは俺にとっても夢の舞台だ。12月までは1,600mに特化したトレーニングを行っていく」

 

 阪神フェブラリーステークス、それを制したら本当に来年のジュニアC組、クラシック年は忙しくなる。

 シチーのモデル業との兼ね合いの件、出水清美マネージャーと打ち合わせもしておこう。

 

 「アタシさ…… ヴァンケルやレイヤにレディエ、それにプリティやギフティとも争えるのかな?」

 

 シチーの年代で入学当初から注目されているウマ娘の名前を恐々と声に出す。

 

 「シチー、自分の努力と忍耐を誇れ。お前が今挙げたウマ娘達よりも本番のレース数は、このジュニア期ではシチーが一番だ。要は本番独特のレース経験はシチーが断トツだ。これは来年のティアラやクラシックに向けて大きなアドバンテージになる。経験は時に才能や練習を超えた武器になるからな」

 

 ゴールドシチーの目を真っ直ぐに見据えて俺は言い放った。

 そう、一年、ゴールドシチーはジュニアC組からB組に上がるまで、彼女等と異なり専属トレーナーに巡り合わなかった。だが持ち前の生真面目さと負けず嫌いで基礎を徹底的に固めている。

 だからこそ、自信を付けるために本番のレースをメイクデビューから八週で四レース組んだ。その結果重賞も勝利した。それは自信にもなるし、この世代では抜きんでた経験と実績だ。それも賢いシチーにはわかっているだろう。

 わかっているからこそ、俺の言葉を聞いて少し俯き気味にそっぽを向きながら遠慮がちに声を掛けてくる。

 

 「……ねぇ、今日はトレーニングはオフでしょ。ちょっと付き合って」

 

 ん? ねぎらいだろうか?

 俺はトレーナーだからな。そんな気遣いをウマ娘がする必要は無いんだが……

 

 「まぁ、いいけど。何処に行くんだ?」

 

 出水マネージャーさんには、後で電話して互いの都合のいい日程を決めるか。

 

 「ん、まあ~、ショッピング的な。もう10月になるし雑誌は冬物特集組んでるし…… 次いでに秋物も」

 

 なんか歯切れが悪いな。

 

 「いいよ。シチーが電車に乗ると目立つし車出すよ」

 

 学生時代の友人が高卒後に働いている中古車ディーラーから購入したBMW320iMスポーツ。ポルティマオブルーのローライズされた姿に一目惚れして買った。

 しかし、シチーには似合うんだけど、あの車から降りてくるシチーって、なんか水商売っぽく見えるだろうと予想されるのは内緒にしておこう。

 

 「え、車! てか、あれいいよね! 実は助手席とか余裕で脚のばせるし、乗り心地最高! いい趣味してるよね。あの車で動けるんなら…… 新潟のレースとかもアリじゃね」

 

 そう、レースで乗せてレース場に乗りつけたら陰口を叩かれたのだ。

 シチーの最後の方の言葉は小さすぎて聞こえなかった。

 

 「……? 喜んでくれたようで何よりだよ」

 

 スリードアだけど、後部座席は腰が沈む設計だから後ろもそれなりに広く感じる仕様だ。

 240万を200万にしてくれたお友達価格に感謝だな。

 トレセン採用時に必須とは言わないが、免許はあったほうがいいと爺様に言われたから、四月から六月の休みを全て潰して取りに行った。

 チームメンバー全員で動く時は、トレセン所有のバンを所定の手続きで借りていたけど。

 勤めだして三年目に購入したが、チームを率いていると遠征時や折々の食事関連は経費ではなく奢っていた。

 それでもここの給与だと貯まる。二年目からはリフレッシュ含めて週に一日は必ず休んで、ショッピング行ったり、旧友関連で何やかんやしてるがそれでも貯まる。

 沖野さん、何であんなに金欠だったんだろう?

 

 

 

 

 とまぁ、ちょっとしたドライブといった具合に来たところは、表参道だった。

 駐車代めっちゃ高いから涙出そう。平日だし上限あるとこ探そさなきゃ。

 

 「んで、連れてこられたわけだが、俺のコーデ?」

 

 何か男物の店に連れてかれた。

 

 「そ、あんた行きつけの美容院でファッションのアドバイスも受けてるんだっけ? 何か広く浅く女子受け狙ったコーデが、無難というか、引っ掛かるんだよね」

 

 「カットの時って話しするから、輪郭や顔の系統に合った髪型に服装と美容師さんに聞くと便利だからなぁ。それに割りと受けはいいし…… 昔の俺の事を知っててくれるから嬉しいしな」

 

 「ジャニとザイルを足して2で割った無難過ぎる量産型イケメンコーデとか無いでしょ…… それなりに似合ってんのがムカツクんだよね…… は? 何、アンタの昔って?」

 

 ぶつぶつと最後の方は聞き取れなかったが、顔をしかめながら俺の全身を睨み付けてくる。

 人気モデルも兼ねる我が担当ウマ娘様は、仕事魂に火でも着いたのか、俺が気に入らないのか非常に険しい表情をしている。

 量産型は素晴らしいんだ。

 JD、OL、お嬢様系ギャルや姉ギャルにも人気があるんだ!

 

 「……あ、あぁいや、高校の時の…… ってなんでそんな不機嫌に何だよ」

 

 「文句でもあんの?」

 

 山の天候のように気分がコロコロと変わる年頃の女性のようだからこそ笑顔で対応する。

 

 「まさか、ありがとう。聞きたいのかいシチー?」

 

 ニコニコと大人の余裕で受け応えた。

 

 「ふ~ん、素直じゃん。じゃぁ、美容院や各セレクトショップのメモは後で渡すから。わからなければ店のスタイリストさんに聞けば、ちゃんとコーデしてくれるから」

 

 「それは…… かなり助かるな。実際の所、自分でどうのこうのチョイスは面倒だし」

 

 シチーのお薦めならセンス云々は問題無いだろう。

 今までも行き着けの美容院のスタイリストさん頼みだったしね。

 

 そして俺の髪型やコーデが、ベンチャー系社長や広告、IT系のチャラめなビジネスマンとお水系を足して2で割ったような感じになった。

 う~ん、表現を悪く行ってみたけど、チョイスするブランドが変わっただけで、あまり今までと違いが、ファッション系に疎い俺にはわからないんですけど。

 

 「……ねぇ、トレセンってさぁ、トレーナーや職員、それにウマ娘達もトゥインクルやドリームの事だけで夢中だけど、中にはウマ娘が関わらないスポーツとかも知ってる奴も少数ながらいるんだよね。あんたのこと…… 聞いてもいい? ぶっちゃけパーマーから、昔のアンタのこと聞いてるから。ちょい有名人じゃん…… アタシに内緒にする意味が不明なんですけど」

 

 「え? パーマーってメジロだよな…… 何でそんな名門のウマ娘が?」

 

 メジロパーマー、メジロを冠するURAそして財界やファンにも多大な影響力を誇るメジロ家の一員だ。もちろんそのポテンシャルも高い。

 カッコイイ系のギャルで人当たりはいいが中身は本物のお嬢様だ。シチー世代はいないとはいえ上にはトリプルティアラのメジロラモーヌもいるし、シチーの一つ下の世代で入学してきたウマ娘にはメジロアルダンもいる。

 何故そんな彼女が世俗の、しかもただの高校生のスポーツの祭典を知っているんだ。

 

 「パーマー、本家が嫌で家出していた時期があるからね。野良レースやスポーツ、ヒトミミの男や女に人気のあったトレンドは知ってるよ。かく言うアタシもパーマーから聞いてマネジからアンタの事裏取ったから」

 

 トレーナーというのは余り表に立つポジションではない。

 有名な育成実績のあるトレーナーなら話は別だが、実績が無いとG1記者会見でもウマ娘の添え物だ。

 俺のような若くて実績のない奴は、精々が新人特集とかヒトミミ女性誌の若手男性社会人ピックアップ、もしくは女性ファッション誌で、ウマ娘用ブランドの添え物モデルぐらいでしか世間を賑わせない。

 

 「……聞いても楽しい物じゃないし、トレセン採用時の面接でも語っている。それこそたづなさんや理事長に聞けば直ぐにわかるぞ」

 

 「あの人らは忙しいでしょ。何? アンタ、担当のアタシに言えないわけ? へぇ、信頼してたのって、アタシだけの思い込みなんだ」

 

 ゴールドシチーはさぞ傷ついたとでも言うように意気消沈する。

 

 (マネジが言ってた、男を問い詰める時には、こちらが良い悪いに関わらず、何で? って疑問と傷ついたという態度を見せれば、男は勝手に謝りながら喋るって)

 

 ゴールドシチーは未だジュニアB級、要は14歳だが、クラシック期前だというのに女の技術を身に着けていた。

 そしてそうとも知らずにレクリエーションと思いトレーナーとしてゴールドシチーを対応していたというクソボケな感覚を無視して、ゴールドシチーは車デートを楽しみ車中の写メもしっかりとりつつ、後日トレーナーのトレセンに来る前の事を聞き出すことに成功するのだった。




ヴァンケル……サクラロータリー
レイヤ  ……サクラスターオー
レディエ ……マティリアル
プリティ ……マックスビューティ
ギフティ ……タレンティドガール
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