あぁ、それが夢ならばどんなに良かっただろうかーー

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信じない、信じたくない。


白昼夢に沈む

それは突然の事だった。

「……はっ?トレーナーが……?」

 

なんでもない晴れた日の昼下がり。

トレーナー室で、今日のトレーニングをするため部屋の主を待っていると不意に鳴った電話を取った。

そこで聞かされた唐突な訃報。

 

「……分かりましたわ。直ぐに向かいます」

 

電話を切り、荷物を纏め即座に部屋を飛び出した。

まだ、信じられない。

イタズラか悪い夢だと思った。なんで、なんでトレーナーが……

ーーー自殺なんて。

最近、顔色が悪いとは思っていた。疲れているのなら休むこともまた一流の仕事をするために必要な事だと口を酸っぱくして言っていたし、本人も分かっていると応えてくれていた。

なのに、何故……?

 

学園を飛び出し、ウマ娘専用レーンを隣の一般道で法定速度を、遵守しているとはいえ車両ですら置き去りにするような速度で教えられた病院まで駆け抜ける。

 

ーー遅い。そう感じた。

ウマ娘の走る速度は人間の比では無い。それこそ最高速度は70km/hを優に超え、制限速度下という条件はあるものの車両をも超える速度で走れるはずのこの脚がただひたすらに遅いと感じた。

 

「はぁ……っ!はぁっ!」

 

飛び込んだ先の病院で通された部屋の中に居たのは白い布を顔に掛けられ寝かされた男性と、医師と思われる白衣を着た男性だった。

ふと、目が合う。

 

「キングヘイローさんですね?お待ちしておりました」

「え、えぇ……」

「現場となったマンションの付近で倒れている所を近所の目撃者からの通報があり、直ぐに駆けつけたのですが、その時にはもう……持ち物から名前と所属されているトレセン学園とは連絡が着いたのですが要員の方々がすぐに来られないそうなので担当ウマ娘であるキングヘイローさんならと言われまして……お辛いかも知れませんが確認の方をお願いしても?」

「えぇ……」

 

寝かされている男性と体格は同じくらい。着ている服も血で赤黒く染まっているも普段見なれたジャケット。

だけど、私にはどうしてもそれがトレーナーだとは思えなかった。

だって、だって一緒に一流になるって誓って、一流のウマ娘の一流のトレーナーになるってそう言って……

 

ゆっくりと捲られた布の下から、やはり普段見慣れているトレーナーが顔を出した。

投身自殺をしたからか傷に塗れ頭部に至っては包帯で厳重に巻かれているのに、 その顔はまるで寝ているようでトレーナー室で居眠りする何時もの顔と同じものだとすら感じられた。

 

「あ……ト、トレーナー?……」

「我々が到着した段階ではもう……申し訳ありません」

 

医師が私に何かを言っているようだが、理解が追いつかなかった。理解できなかったし、理解したくなかった。

だって、ほらこんなにも寝ているだけなのに。

 

「ほら、何こんな場所で寝ているのよ。さっさと起きなさい」

「まったく、お医者様から電話が来て焦ったのよ?このキングを迎えに呼びつけるなんていい度胸ね?」

 

ゆさゆさと揺すってもその閉じた瞼は開くことはなく。

 

「まったく、寝坊なんてへっぽこなんだから。一緒に一流を背負うのでしょう?いい加減起きなさい」

 

触れたその手は思わず手を引っ込めてしまうくらいにゾッとするほど冷たくて。

 

「ひっ……!」

「ト、トレーナー?」

 

青白く変わってしまった顔にもう一度目を向けても、何の反応も示さない。

 

「お、起きなさい。ほら、今日のトレーニングがまだ……」

「もう、それくらいでよろしいかと」

 

トレーナーを起こそうとする私を止めるように腕を掴んだ医師と目が合う。

 

「うそ、うそよそんなの」

「死亡確認、トレーナーさんでよろしいですね」

「……いや、いやよ」

 

これではどう足掻いても認めるしかなく

 

「そんなのいや……いや、いやぁぁぁぁぁああ!!??」

 

目を逸らせないほど彼の死を理解させられた。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

それからのことはよく覚えていない。

理事長とたずなが迎えに来てくれた事までは覚えているが、学園に着いてからどうやって戻ってきたのか、何を話したのか。気がついた時には部屋でハルウララに抱きしめられていた。

 

「ウ、ウララさん……?」

「……っ。大丈夫だよ、キングちゃん。今日はもうおやすみしよっ?ねっ」

「っ、ウララさん……」

「大丈夫、大丈夫だよ。キングちゃんにはスペちゃんやスカイちゃん、みんなが一緒だよ。ウララだっているよ?」

 

ぎゅっと、大切なものを抱きしめるように胸に抱えてくれて。

触れたトレーナーからは感じられなかった暖かな熱と確かな鼓動が感じられて。

「どうして……なんで……?」

「キングちゃん、今日は疲れちゃってるから。もう寝よう?大丈夫、ウララがずっとぎゅってしててあげるからね」

 

あれだけ自分を見失う程取り乱した時ですら出なかった涙が今更になって溢れてきた。

 

「ト、トレーナーがっ、つ、冷たくて……揺すっても起きなくて」

「うん……うん」

「何時もならちゃんと起きてくれるのに。笑っておはようって言ってくれるのに……」

「……っ」

「なんで、……どうして……」

「大丈夫、大丈夫だよ……」

 

すすり泣く私の声だけが、意識が途絶えるまでずっと続いていた。

 

 

ーーー

 

 

ふと、 いつもと同じ時間に目を覚ますと、明け方の眩い朝日が窓から差し込んでいた。

 

ーーあぁ、良かった。やはりアレは悪い夢だったんだわ。だってそうだもの、トレーナーが自殺するなんて有り得ないのだから。なら、いつも通りの朝練をしないといけない。

 

「……キングちゃん?もう起きたの?」

 

扉が開く音と共にウララがこちらを見ていた。

彼女にしては珍しく随分と遅くまで起きていたのか早く起きすぎたのかは分からないが目にうっすらと隈が出来ていた。

 

「ウ、ウララさん?今日は随分と早いのね。普段からこうだと助かるのだけれど」

「うん、今日は早起きしちゃってね。あ、キングちゃん昨日ご飯食べてないと思うけど、お腹減ってない?」

 

ふと言われてみれば、昨日は夕食を摂った記憶は無い為、結構な空腹感を覚えていた。

自覚した途端にきゅるるとお腹が鳴りだした。

 

「キングちゃん、よかったらにんじんパン食べる?美味しいよ」

「え、ええ……なら有難く頂こうかしら」

「うん!待ってて、すぐ温めてくるね!」

 

顔を綻ばせたウララがパタパタと寮の調理室に置いてある電子レンジを使うために部屋を出て行き、しばらくすると戻ってきた。

 

「はい、キングちゃんどうぞ。なにか飲む?」

「あ、ありがとう……。飲み物は何でもいいわ」

「なら、はいこれ。パックだけどにんじんジュースだよ」

「あ、ありがとう」

 

少し行儀が悪いがベッドに座ったまま食べることにした。

電子レンジで温められたにんじんパンはふわふわになっており、一口齧るとにんじんの甘みと旨みがじんわりの行き渡る。

 

「美味しい……」

「でしょー?前にね購買で見つけたんだー。ウララこれ大好きだからいつでも食べれるように買いだめしてるんだよ」

「そ、そうなのね」

「キングちゃん見てたらウララもお腹すいてきちゃった。一緒に食べよーっと」

 

温かいパンの美味しさと空腹も手伝ってあっという間に食べ終わった。

食べ終わった袋とゴミを捨てると、ふと視線を感じた。

 

「あ、あのね」

「……なにかしら?」

「あの……キングちゃん……」

「どうしたの?はっきりおっしゃい」

「あのね、キングちゃん無理してない?……その、昨日大変だったでしょ……?」

 

ーー大変だった……?

 

「どういうことかしら?」

「だって、そのキングちゃんの……」

 

普段は快活明朗でハキハキと喋る彼女らしくないと思つつ、ふと時計を見ると普段の朝練まであと数分しか残されていなかった。

 

「大変、ウララさんすみませんが話は後にしてもらってもいいかしら。朝練の時間に遅れそうですの」

「え、あっキングちゃん!?」

「帰って来てから必ず聞きますから!また後でお願いしますわ!」

「待って、キングちゃん!」

 

急いでジャージに着替え、部屋を飛び出す。

朝の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込み集合場所のターフ目掛けて走る。

トレーナーはいつも10分前には到着して準備をしているためこれは少し待たせてしまうかも知れないと考えながらも約束の時間に間に合うように急いだ。

時間を守れないなんて一流のウマ娘としてあってはならないのだから。

 

「ま、間に合いましたわ……!」

 

時計を見ると集合時間の30秒前。

ギリギリ何とか滑り込めたことに安堵し、周りを見渡すと居るはずのトレーナーが居ないことに気がついた。

 

「あら?」

 

もう一度時計を見ても丁度朝練の始まる時間であり早い訳でも遅い訳でも無かった。

 

「まったくもう。寝坊なんてへっぽこなんだから。一流のトレーナーがすることじゃないわ」

 

仕方がない、電話して起こすことにしようと思い、コールするも一向に繋がらない。

 

「出ないわ……このキングの電話を無視するなんていい度胸してるじゃない」

 

ふつふつと怒りが込み上げてくるも、時間を無駄にすることも一流ではない。

とりあえず、トレーナーが来るまではストレッチをすることにして来たら文句を言ってやろうと思った。

 

「来たらこれはお説教が必要ね……」

 

「キングちゃん!!!」

 

ふと、大声が聞こえ振り返るとウララさんが寝巻きのまま追いかけてきていた。

 

「ど、どうしましたの?ウララさん、こんな…」

「キングちゃん!!」

 

何度か転んだのであろう、彼女のピンク色のパジャマには所々泥が着いており、相当に慌てて追いかけてきたことが見て取れた。

 

「キングちゃん!!ちゃんと……ちゃんとウララの話を聞いて!」

「ウ、ウララさん?だから話は後でと……」

「キングちゃんしっかりしてよ!キングちゃんのトレーナーさんはもう居ないんだよ!」

「ウ、ウララさん?何を言ってるの……」

「キングちゃんがとっても辛いのは分かるよ、だけど知らないフリしてるとキングちゃんダメになっちゃうよ……そんなのウララ見たくないよ……」

「……」

 

ーーあぁ、そんな。まさか、

「ウララさん、あの、トレーナーは本当に……?」

 

駆け寄ってきたウララにぎゅっと抱きしめられた。

「キングちゃん」

「いや、いやいやいやいや!そんなまさか……本当に……」

「……っ」

 

ーーアレは夢ではなかったと言うのか




感想等励みになりますので頂けたら幸いです。
口調の再現ってこんなにも難しいのか……


僕には難しいのでみんな書いて(懇願)

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