無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。   作:流星の民(恒南茜)

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第10R 刮目せよ、これが伝説の始まりだ。

「…遂に、ね。」

「…ええ。」

 

地下バ道を歩きながら、トレーナーと言葉を交わす。

「…とにかく、ブチかましてきなさい。私から言えるのは、それだけ。」

 

そう宣言すると、拳をこちらに向けてくるトレーナー。

これは、あれか?よくある拳をぶつけあう奴か?

 

「分かりました。絶対に勝ってきます。」

そう宣言すると、俺も拳を作り、コツリと音を立て、ぶつけ合う。

…これで宣言は完了。逃げ場はもうない。

 

「…行ってきます。」

 

その場に留まるトレーナーに挨拶をし、光照らす地上へと顔を向ける。

——テイオーと、百合色の学園生活を送るため、俺は絶対に勝つ。

 

固めたのは決意。

もう迷いはない。

 

一歩、一歩踏み締めるように、踏み出していく。

さあ、レース(推し活)の時間だ。

 

「あと!準備運動はしっかりとするのよ!」

 

あれ?さっき私から言えるのはそれだけ、とか言ってカッコつけてませんでしたっけ?トレーナーさん?

 

コソリと囁くは心の中の煽り厨。

まあいい、緊張は解けた。

トレーナーに感謝しつつ、足に力を入れると、俺は地上へと駆け上がっていった。

 

◇ ◇ ◇

 

響くはファンファーレ。

届きたいのはゴール。

 

美しい青空の下、始まって参りました、メイクデビュー。

実況は私こと、トレミアンタレスがお送りいたします。

 

まあ走るのは俺だが。

 

『2番人気はこの娘、3枠6番トレミアンタレス。選抜レースでの事前評価も相待って、期待のできる娘ですね。』

実況は当然、赤坂氏ではないようである。

 

流れてきたのは、知らん男の声だ。

うわー、モチベ下がるなぁ。

 

と、下がりそうなモチベを押し上げつつ、無理くり首を振る。

 

…いやいや、落ち着け?中央に行けば聞けるから。というか、これ、第一歩だから。ここで負けたら、初っ端挫折どころか、テイオーと学園生活送れる確率めちゃくちゃ下がっちゃうから?

 

…うん。なんかモチベ上がってきた気がする。

 

肩を回したり、足首をぐりぐり回したり…とにかく、準備運動は念入りに行わねば。トレーナーも言ってたことだし。

とやってた時である。

 

「お前か、トレミアンタレスってやつは。」

 

挑戦者が現れました。

なんか、初手から喧嘩腰な方…というかウマ娘さんがご顕現なされた。

 

「アタシはフォルテッシモってもんだ。お前か、最近調子に乗ってる奴ってのは。」

 

「いや、別に乗ってませんけど…。」

 

「あ…あれ…?もしかして、迷惑だったり…しますかね…?」

 

どうした急に。

なんか萎縮しだしたぞこいつ。

 

「いや…別に…迷惑ってわけじゃないんですけど…何というか…喧嘩腰だなって…。」

 

「そ…そうですか…よかった…覚悟しとけよぉ!?今日は、アタシが飛ばしまくって勝ってやるからなぁぁ!?」

 

うん。情緒どうなってるんですかね?

なんか、片田舎でコミュ力3ぐらいしかない人間が会話してる最中に急にヤンキーが割り込んできた感じ。

 

まあ、何はともあれ、目の前の少女からは、強者感が溢れまくってるからおそらく強いのだろう。

 

「…まあ、その…何でしょう…よろしく…お願いします…。」

ああいうのとは、あまり関わらない方がいいって、トレーナー、言ってたもん。多分。

 

そそくさと、その場を離れていく。

あれ?意外と突っかかってこないな。

 

まあ、それに越したことはないから、良いとして、だ。

 

『3番人気はこの娘。1枠2番、フォルテッシモ…』

 

てか、お姉さん、3番人気だったんすね。ふーん、だっちじゃん。

と言うのは置いておいて。

 

スタンドでこちらに向かって手を振っているヴァーゴのところに向かわねば。

 

「アンタっ!しっかり勝ってきなさいよ!」

 

まあ、さっき対面した謎の無礼な少女のことは忘れた方がいいだろう。

 

「…了解。勝ってくるよ。」

「言ったわよねっ!?絶対だからねっ!」

 

「ちょっ!苦しいってばぁ…。」

バ鹿力で抱きしめられるのが、こんなに苦しいものとは…。

 

知らなかったぜ、メモメモっと。

 

ぼかあ、メモ魔なのだよ。と、そういうことにしておこう。

 

——さて、どうやら時間のようだ。

 

向かうはゲート。

 

遂に、俺ことトレミアンタレスのデビュー戦が始まろうとしていた。

 

◇ ◇ ◇

 

「…ふぅ。」

 

握りしめたがあまり、手元にじっとりと滲む汗。

 

思わずため息をつきつつ、彼女はターフに目を戻した。

今までも、何度か自身の担当するウマ娘のデビュー戦というのは経験してきた。

 

しかし、何なのだろう、この鼓動は。

今までにもまして、鳴り止まぬ心臓。

 

違うとしたら——やはり、目標のせい…だろうか?

 

彼女を彼女たらしめているもの——無敗の八冠という目標——。

果たして、伝説の始まりとなるのか否か。

 

背筋がゾクゾクするような感覚。

 

更に、鼓動を早めていく心臓。

 

レースが始まる前だというのに、彼女はすっかり、緊張しきっていた。

 

◇ ◇ ◇

 

「…すー…はぁ…」

 

案外、広いゲートの中で、深く息を吸い、吐く。

スズカァ!このゲート広いデース!

 

と叫びたい気持ちを堪えつつ…悲しいね。うん。

 

『各ウマ娘、出走準備が整いました。』

 

響き渡る実況ボイス。

 

見据えるのは目の前。

 

 

ガコンッ!

 

 

ゲートが開かれると同時に、地面を踏み締め、加速。

 

…よし、不安があったスタートは順調だ。

芝は柔らかく。

照りつける陽光に対し、前方から吹き付ける風が心地よい。

 

——まあ、日向ぼっこしにきてるわけじゃないんだ。ここは置いておこう。

バ場状態は良というだけあって、走りやすさは今まででもピカイチだ。

ちゃんとしたレース場である、というのも影響はしているのだろうが。

 

さて、今回の作戦は差し。

今回というか実質ずっと差しみたいなものだったが。

“いい?まず序盤はとにかく冷静に、ね。”

 

思い返されるのは今日までトレーナーが教えてくれたことの数々。

 

冷静に…冷静に…。

 

『2番フォルテッシモ、内側から先頭を目指していきます。』

 

あいつ、速い!?

やべぇとばかりに足に力を込めそうになるが、まあ待て。

 

奴の作戦はおそらく逃げなのだろう。

であれば、彼女の動きはあれで正解。

 

別に併走してるわけじゃない。これはレースなのだ。

無理に合わせる必要なんか、微塵もない。

 

さて、まず躱すべくはブロック。

目指すは内側。

 

とはいえ、まだ序盤。

 

そこまでブロックも激しくなく、スーッと内側に入り込める。

 

『5番手には6番トレミアンタレス…』

 

5番手、か。

先頭は全然見られる位置だ。

 

であれば、ここがある程度の好位置だと見ていいのだろうか。

一旦、速度を少し緩め、呼吸を安定させていく。

 

『各ウマ娘、三コーナーを回っていきます。』

 

『ここで、2番フォルテッシモ一気に先頭に踊り出た!後続との差をどんどんと引き離していきます!』

 

——仕掛けてきたか。

 

今回の距離は1000m。

 

大して、長いわけではない。

 

であれば俺も——

 

——ここで、仕掛けるっ!

 

地面を踏み締めた瞬間、ザッ!という爆音と共に、一気に上がるスピード。前のめりになる身体。

 

少々、危険を感じないでもないが…むしろ、これぐらいがちょうどいい。

 

「行っけぇぇ!」

 

ターフに響く俺の声。

声をあげることによって、士気が上がってきたのか、それとも体が温まってきたからか。

 

更に、速度は上がっていく。

 

『ここで、6番トレミアンタレス!一気に前方を抜き去り、2番手に立ちました!』

 

ここで、俺が上がってきたことに気づいたのか、先頭を走っていたフォルテッシモが後ろをチラリと見て、血相を変えた。

 

と、同時に更に上がる先頭のスピード。

 

やはり、一筋縄ではいかない。

 

『各ウマ娘、第4コーナーを周り、最終直線に入りました!』

 

ここから先は一本道。

見据えた目の前にはゴールのみ。

 

——行けるっ!

もうここから先は、スパートをかけるのみだ。

 

もう一度、足に込めるは力。

更なる加速が、身体を更に熱くする。

 

照りつける太陽も相まって、全身まさに焼けるような熱さ。

 

——だが、これぐらいがちょうどいい。

 

無敵の帝王も——絶対の皇帝をも超える伝説の一ページ目を、ここに——

 

距離が縮まり、フォルテッシモに並ぶ。

 

——焼き付けるっ!

 

そして——

 

彼女の表情が歪むのが見えた時。

 

『トレミアンタレス!今、一着で!ゴールインッ!』

 

実況の声が、響き渡った。

 

◇ ◇ ◇

 

「…良いレース…でした。ありがとうございました。」

レース終了後、肩で息を整えていた俺のところに近づいてきたフォルテッシモが頭を下げてくる。

「…うん、ありがとう。えーと…フォルテッシモさん…だっけ?」

「はい!あと、フォルテでいいです…。」

訂正。フォルテっと。

 

「それでっ!トレミアンタレスさん、前回、選抜レースで見た時から、応援していました。目標もすっごい大きくて…これからも応援してます!そしていつか、あなたに勝ちますっ!!」

 

何だ、いい子じゃないか。不審者だの、何だのと呼んで悪かったな、多分あれは悪夢だ。うん。

俺も頭を下げねば、と彼女の方を向いた時である。

 

「だから…覚悟しとけよぉ!?トレミアンタレス!次は、アタシが勝つからなぁぁぁ!!」

 

うん、こいつと発狂するのは楽しそうだ。

 

愉快な奴め。

 

俺も今度やってみるか、と呆れ半分で、ぶっきらぼうに突き出された手を握る。

 

瞬間、湧き上がる歓声。

 

…まあ、数は少ないが。

 

 

それでもいつの日か、絶対の皇帝を超える、俺の凱歌として、それは素晴らしいものだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

「お疲れ様。いいレースだったわ。」

控え室で、労いながら、タオルで汗を拭いてくれるトレーナーに軽く頭を下げる。

 

「…いえ、これも日頃のあなたの指導の賜物ですよ。」

 

「…そう、だったらよかった…。」

 

そう呟くと、ため息をつくように、息を吐くトレーナー。

 

「それで、この後って…」

 

「ん?ウイニングライブよ。」

 

…ウイニングライブ?

 

ウイニングライブ。

 

ウイニングライブ…。

 

「...はぁ!?私、ダンスのやり方とか習ってないですよ!?」

「…ごめん、忘れてた…。」

 

「ええ!?」

「ごめん!今、即興で教えるから!」

 

そう手を合わせるトレーナーと共に始まったダンストレーニング。

 

数十分後、何とか棒立ちせずに踊り切れたことを、俺は神様と、テイオー様に、感謝するのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

◆ ◆

 

 

『シンボリルドルフ、今、ゴールイン!メイクデビューを一着で走り抜きました!』

 

テレビに映るのは、歓声に応えるように、片手を振っている鹿毛のウマ娘。

 

その姿を見て、

 

「か…かっこいい!」

 

長い髪を揺らし、一人の少女が、目を輝かせた。




リアルが忙しくなるので、二週間ほど投稿を停止します。
それで、次回についてですが、テイオー書きたい欲がそろそろ爆発してきたので、次回はテイオー初登場回+少し早いですが、夏合宿回になります。
それでは、次回もよろしくお願いします。

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