無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。 作:流星の民(恒南茜)
「ねえ…ここどこ…?」
「…わっかんないわよ…。」
すぐさま返ってくる返事。
てかそりゃそうだ。この状況でどこかわかる方がびっくりだねって感じである。
だったら、聞くなって?うるさいやい。
かれこれ、歩き続けて1時間ほど。
ウマ娘の体力量をもってすれば、屁でもない距離っぽいため、まだ疲れはあまり感じないが、精神的に疲労してきているのか、ヴァーゴも少し不機嫌である。
まあ、それは置いておいて。
進む先は、森、森、森…。
どうすんだ、これ。
状態は完全に遭難してるようなもん。
要するに詰み。
頭を抱えて、その場で縮こまりたくなる気持ちを抑えつつ、歩みを進めるも、目の前は木、木、木…。
いや、マジでどうすんだ、と。
見えない
「ねぇアンタ、あれ…。」
ヴァーゴに肩を叩かれ、そちらを向いてみると、一筋の道…獣道のような一本道が広がっていた。
「この先に人がいるってことよね、これ…。」
「…だろうね。」
見てみると、スペース自体はかなり狭い。
子供一人が辛うじて通れるぐらい…だろうか。
ただ、大事なのはこの先に人がいると言う事実だ。
「…よいしょっと…。」
狭いスペースを無理やり押し広げるようにして進んでいく。
…進んでいくこと3、4分ぐらい、だろうか。
少し開けた場所に出たかと思うと、そこで道は途切れていた。
「誰もいない…わね。」
「…うん。」
おかしい。道は途切れている筈なのに、誰もいないなんて…。
それよりも…だ。
ぴょこんと、頭上の耳が揺れる。
…何なんだ、このさっきから聞こえてくるカサカサカサって音は…。
音が聞こえてくる方を向くと、さっき来た道からだ。
しかもだんだんと大きくなってくる。
咄嗟に構えた時だった。
「伏せなさいっ!アンタっ!」
と、ヴァーゴの叫び声が聞こえたかと思うと、
ガサガサッ!
と一際大きな音を立てて、茂みから何か長いものを持った小さなシルエットが飛び出してきた…かと思うと、頭上に、何かが覆いかぶさった。
「ひでぶっ!」
と、思わず悲鳴をあげると同時に。
「やった、ボク…遂に、クマを捕まえたんだ!これでたくさんのはちみーが…。」
甲高い声をあげ、ちっこい頭がこちらを覗き込んでいるのが見えた。
「…ってお姉さん、クマじゃなくってウマ娘!?」
ああ、そうだよウマ娘だよ悪かったなぁ!
と、叫びつつ、頭の上に覆いかぶさった虫とり網を剥ぎ取ってやりたい気持ちが強いが、俺ももういい歳だ。
それに、YESロリータ、NOタッチというセリフだって熟知している。
目の前に立っている少女の手前、ここは穏便に済ませたいところ。
ゆっくり、ゆっくりと虫とり網を剥ぎ取りつつ、立ち上がる。
…とまあ、立ち上がって先ほどのシルエット…というか、少女の姿を視界に収めたわけだが…。
なんか、見覚えがある。
まずまあ、頭でぴょこりと揺れている耳。
彼女もウマ娘、と。
そして、鹿毛、流星、長い髪。
この3点の特徴を持つ、ウマ娘を俺は知っている。
…俺が敵視している何ボリルドルフさんだろうな。
まあ、ただシン何とかルドルフさんは、デビューしている筈。
よって、彼女が幼少期のシンボリ何とかさんである、ということは考えにくい。
まあ、大方、血縁関係がある、とかそんなところだろう。
で、ここにいるということは、だ。
「ごめんね、単刀直入に聞くよ?もしかして…君も道に迷ってる?」
そんな俺の問いに対して、少女は、目を丸くし、少し耳をぴょこぴょこと揺らしたかと思うと、
「うん!」
と、元気よく返事をした。
◇ ◇ ◇
「…なるほど…クマを探しに来たわけね…。でも、この辺りにはいないと思うわよ?」
「ヴァーゴ…何真面目に取り合ってるのさ…。」
「アンタだってこのぐらいの歳だった時は、結構こういうこと言ってたじゃない!変わらないわよ!」
即座に帰ってくる中々に強めの指摘。
ってかアンタとヴァーゴのお二人さん、幼少期からの仲なんですか…。
というのは置いておいて。
「…それで、この後どうする?」
「「…え?」」
見事なまでのシンクロ。
片方はチューナーといった形か。
「…取り敢えずさ。来た道戻ろっか。」
◇ ◇ ◇
…でもって、到着っと。
戻ってきたは先程いた場所。
丁度、獣道というか、少女が作った道が残されていたため、割とサクッと帰ってこれた。
それで、どうやってここから出るか、ということだが…。
「ふふっ…諸君、これを見よ!」
そう宣言し、ポケットから取り出すは輝ける一対のスマートフォン。
マップを使えば、下山なんて余裕ってわけよ。
…まあ、今のいままで、忘れていたわけだが。
「カ…カ…カッコイイ!」
歓声を上げるは先ほどの少女。
まあ、何だ?不思議と悪い気はしない。
「お姉さん、タイチョーみたい!」
…チョッロ。
テイオーもこんぐらいチョロけりゃいいのに。
まあいい。
机上の空論を提唱しても仕方がない。
テイオーがこの幼女ばりにチョロイ分けがないのだ。
ポリポリと頭を掻きつつ、スマホの電源ボタンを…。
「…へ?」
押しても画面がつかない。
「アンタ、朝、それ…充電してなかったような気がするんだけど…。」
「…あえ?」
詰んだ。
完全に詰んだ。
頭を抱え、その場で屈み、外界から己をシャットアウト。
ただひたすらに絶望する。
と、その時だった。
「タイチョー、大丈夫?」
よしよし、と頭を撫でてくれるは、先ほどの少女。
…何だ?天使か?
思わず、涙が滲んでくる。
我が恋敵のルドルフと見た目が似ている点を除けば、だが。
「そう…だよね。」
地面に手をついて、立ち上がる。
そうだ、俺は八冠を獲るウマ娘。
これぐらいでへこたれている場合ではないっ!
「タイチョーの名にかけて、二人とも絶対に帰してみせる!」
「それでこそ、タイチョーだよっ!」
出会ってまだ数十分で何がそれでこそ、なのかよくわからんが、可愛いからok。
脇でこめかみを押さえるヴァーゴから目を逸らしつつ、俺は一歩踏み出した。
…はずだったんだ。
歩き出して数秒経った時、茂みが再び音を立てたと思うと、
「良かった!二人とも!」
トレーナーが、ご顕現なされた。
…って何でトレーナー君が!?
すぐさま飛んでしまうくぅ疲構文。
まあ、それは置いといて、だ。
本当になんで…。
「アンタレス、すぐどっか行っちゃうから…この間ストラップ渡したでしょ?あれで位置情報見れるようにしてあったのよ。それにしても…本当によかったわ。二人と…もう一人のお嬢さんも無事で。」
…そういうことか。
安心からか、全身を襲う脱力感。
思わずへなへなと、その場に膝をつく。
「タ、タイチョー!?」
悪りぃな、あんなにカッコつけて、俺は君にどんな顔をすればいいのかわからないよ…。
わからないよ…
わから…
◇ ◇ ◇
「この度は、本当に…ありがとうございました。」
「…いえ、そんな…私も偶然発見しただけですので…。」
トレーナーが応対する中、俯くは俺。
いやだってね?恥ずかしいじゃない?
で済めばいいのだが…まあ、カッコつけた手前、中々に萎えているというのが正直なところ。
首の角度は90度とは言わないが、まあ、曲がってる。
「ほら、あなたからもお礼を言いなさい。」
「うん!ありがとうね!タイチョー!」
…え。
一瞬、誰に向けられた声なのかわからなかった。
それでも、数秒後、俺は気づいた。
…嗚呼、これは俺に向けられた声なのだと。
「…どうして…?私は…何もしてないのに…。」
「でもカッコよかったもん。ちょっと元気が無くなってたけど、タイチョーのおかげであの時、元気が出てきたし。だから、ありがとね!タイチョー!」
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「…よかったじゃない、アンタ。」
「..う…ん。」
やべぇ、ちょっと涙出てきた。
どんどんと離れていく少女を乗せた車を見送る中で、もう俺の涙腺は決壊寸前だった。
「そういえば、あの娘…名前、聞いてなかったわね。」
「…確かに。」
言われてみれば、あのルドルフ似のナイスガイは、何という名前だったのか、気になるところではある。
「…でも、アンタも、トゥインクルシリーズに出るようになって有名になったら、きっとまた会えるわよ。」
「…そう…だね。」
「さ、寂しがってないで、トレーニングしましょ。トレーナーさんも付き合ってくれるって言ってるし!」
「ええ、もうすぐ秋のシーズンも始まるしね。張り切っていこー!」
俺、思うんですよ。
癒しは大事だって。
再び、少女と再会できるその日を願って、俺は、夕日の下、駆け出した。
というわけで、次回、掲示板回(予定)です。
よろしくお願いします。
あ、あとテイオーが髪を結ぶのはこの後です。
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