無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。 作:流星の民(恒南茜)
よろしくお願いいたします。
「…ふあああ。」
起床、と共に出てくる欠伸。
正直、否めない睡眠不足感。
…マジで、休日も駆り出されて、夏合宿もどきなんて聞いてないって…。
端的に換言すると、今の僕は死んでしまいそうだということだよ。後輩。
それでも、トレーニングは待ってくれぬ。
「アンタっ!トレーニング、行くわよ!」
ほら来たよ、この娘。
最近、肌の艶もいいし、こいつ、マジで楽しそうだな、と言いたいところ。
さてさて、彼女が降臨したということ、それ即ち。
もう俺はこの布団にくるまって、至福の時間を過ごすことができない、ということ。
「ほら、お布団にくるまんないの!行くわよっ!」
うん、どうやら思ったことが直接ムーブに出てしまっていたようだ。
「やーだ!やーだ!」
もういい!こうなったらターボ、泣き落としするもん!
なお、俺の必死の退行も虚しく、数秒後には、既に布団から引き摺り出されてしまった模様。
まあ、そりゃそうなりますよね、と。
それでも、俺はまだ寝ていたい。
そう主張していきたい気持ちも強いことには、強いわけだが…。
まあ、引き摺り出されたらもう敗北だ。
服を着替えさせられ、髪を結ばれ、気づいたら出かける準備は万端。
というわけで、今日も出走です。
◆ ◆ ◆
「スタミナの補強…ね。」
軽くついた頬杖と共に、彼女は課題を口にした。
「どうしたんです?先輩。」
「いえ、アンタレスのローテーションを組んでいたのだけど…スタミナ面が心配で…。」
「へぇ…ちょっと見せてください。なるほど…となると確かに、ですね。それにしてもこのローテーション…結局はヴァーゴとの直接対決になると…?」
「…なるほど。確かあなた達も中央を目指してるのよね…でも、勝つのは私たち、だから。」
「先輩もだいぶ強気ですね。俺たちも負けませんからっ!」
「…あなたも言う様になったじゃない。そう言うところとか、本当に担当とそっくりよ。」
「…お褒めに預かり至極恐縮大歓迎、といったところですか?」
「いや、褒めてな…褒めてるわね…それじゃ、そろそろトレーニングといきましょうか。」
話を逸らすと、立ち上がって彼女は部屋から出て行く。
「…全く、強気なのはどっちですか…。」
ただ一人、残された部屋で彼はため息をついた。
◆ ◆ ◆
「おはよう、アンタレス。」
「おはようございますっ!トレーナーさんっ!」
もうこうなりゃヤケクソだ、と。
持ち前の空元気を発動させた挨拶をかます。
「…どうしたの?アンタレス…悪いものでも食べた?」
悪いところになら連れてかれたよっ!どっかの誰かさんになぁ!
と、言いたいところだが…俺はもう良い歳だ。
…良い歳なんだ。
嘘じゃないもん!ほんとだもん!
…おっと。
再び発動する幼児退行を鞘に収め、トレーナーの方を向く。
「…それで、やたらと神妙な顔をして、どうしたんです?」
「いえ、あなたのローテーションが決まったから、伝えておかないと、と思って。」
…なるほどな。
そいつは、確かに大切だ。
——ローテーション。
端的に換言すると、こいつによって、俺が今後どう身を振るかが決まってくると言うこと。
流石に今回ばかりは耳の穴かっぽじって聞かなくては、といったところだろうか。
「まず、根本的な方針として、中央を目指す、これは良いわね?」
「ええ。」
当然だ。“中央“で無敗の八冠を獲るわけなのだから、ここはまず必須だろう。
「まず、最終目標について、何だけど…『岩手ステークス』。ここで勝つのが私たちの今の目標、よ。」
…おー、と感心の一つでもしてみせる対面なのだろう、おそらくは。
ただ、悲しいかな、そんなレース、俺は聞いたことがないのだよ。
「…きょとんとしちゃって…。知らないって顔してるわね?自分でも勉強しておいてくれると嬉しいのだけど…。それは流石に酷…かしら?」
やめてくれ。そのダメなウマ娘を見るような…憐れむような瞳は流石に辛い、辛いよ?マジで。
「…冗談よ。…良い?耳の穴かっぽじってよく聞いといてね?」
かっぽじりたいところではある。あるのだが…頭頂部にあるから、いかんせんかっぽじりづらいというか、何というか…。
「まず、このレースは盛岡レース場、芝2400m。開催時期は2月上旬ってところね…。それで、なんでこのレースが最終目標かっていうと…“クラシック戦線に間に合わせるため“、よ。」
…クラシック戦線、と?
いや、流石に俺でも知っている。
クラシックの追加登録制度の是非、について。
本来、地方から来た馬や、外国産馬はクラシックへの追加登録ができない、と言うのは、某漫画においても取り上げられていた大きな問題だ。
結局は、後々制度が整備された、と言うのは聞いたことがあるのだが…。
今、俺がいる時代では、まだ追加登録ができないはず。
なのに何故…。
「どうして…ですか?まだ…追加登録はできないはずじゃ…。」
「…ええ。数年前まではそうだったわ。だけど、とあるマル外のウマ娘に関する一件で、見直されてね。追加登録に関する制度が整備されたの。…まあこの話は後々、詳しく説明するわね。」
…なるほどな。
いや、なるほどで片付けてはいけないのかもしれないが。
この世界は、恐らく俺が知っているどの世界線とも違う。
だからこそ、チャンスが平等に与えられている、と。
これは…正直、でかい。
クラシック時から、G1に出られると言うのは、八冠という目標を達成する上で、間違いなく大きいアドバンテージになるはずだ。
…それに、テイオーがルドルフへの憧れを明確に示したのは日本ダービーの時。
もしもその時、俺が強力な対抗バとして颯爽と現れたらどうなるだろうか?
…間違いなく、テイオーとのフラグが立つッ!
思わず漏れてくる笑み。
何なら声が出ちゃうまである。
…うん、このボイスでデュフッてやるの純粋に嫌だな。
「…聞いてる?ねえ!アンタレスッ!」
「…っ!すみませんっ!」
…っべー、完全に意識が飛んでいた。
「…良いかしら?芝のコースで、比較的長くかつ、格式のあるこのレースで勝利を収めることは、間違いなく大きいアドバンテージになる。…それも、中央からスカウトが来るぐらいには、ね。だからこそ、最初の一歩として次にあなたが出走するのは『桂樹杯』、よ。これは1ヶ月後のレースになるわ。」
「…1ヶ月後、ですか。」
「…ええ、コースは芝。距離は1700mね。今まで、あなたが走ったことがある距離と比較すると、最長…になるわね。だからこそ、まずはスタミナを補強することと、スパートのタイミングを距離に合わせてしっかりと見極められるようにすること。この2点を重点的に鍛えていくわ。…覚悟しておいてね?」
「…ハイ。」
…覚悟しておいてね?か。
まあ、何と言うか…不安と恐怖しかないと言うのが正直なところ。
待っているのは今までとは比べ物にならない、筋肉痛…だろうか?
…うん、今すぐ大逃げをかましてやりたい。
「それで、まず最初にやることなんだけど…。」
そこで、彼女は意味ありげに一呼吸を置くと、なかなかになかなかなことを言い放った。
「まずは私とレース、しなさい。」
後々、追加登録関連については、掲示板回などで補完していきます。
というわけで次回、トレーナーとのレースです。
次回もよろしくお願いします。
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