無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。   作:流星の民(恒南茜)

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筆が乗りましたので。
ここで、アンケートを取っていた理由について説明しますと、近々拙いながら、アンタの挿絵でも描こうかなと思っておりまして、決まらない部分をアンケートにしていたといった形です。
ご協力ありがとうございました。


第15R ”ライバル”とのレース…か。

「…行ける…かしら…?」

もうすでにアンタは行ってしまった後みたいで。

 

一人取り残された地下バ道で、私は呟いた。

 

——アンタは強い。

それは、模擬レースからも、メイクデビューでの走りからもひしひしと伝わってきていた。

 

全身がピリピリするような感覚。

そして——既に彼女の赤い瞳は、覚悟を決めていた。

 

あの日、あそこまで大口を叩いておいて、怯えていたのは、もしかしたら私の方だったのかもしれない。

 

…それでも、私は覚悟を決めなくちゃいけないんだ。

桂樹杯。

 

中央に行くための大事な一歩。

そして——私の夢を叶えるためには、もうあまり期間は残されていない。

 

「…行けるか、じゃない…勝つから、アンタにっ!」

誰に聞かせるともなく、絞り出した声が、空洞に反響する。

 

覚悟は決めた。

 

あとは…全力で走るだけ。

 

「…よし。」

拳をぎゅっと握り締めると、私は光照らす地上へと、一気に駆け抜けていった。

 

◆ ◆ ◆

 

「えーと…今日のアンタレスは、1番人気…か。」

「へえ…ヴァーゴはっと…2番人気ですね。今日は負けませんよ?」

 

自身ありげな後輩の言葉に思わずふぅとため息をつく。

 

「それでも、アンタレスだって、今日のためにしっかりトレーニングを積んできたんだから。そう簡単には負けないわよ?」

「…そうですか。それじゃ、にんじんでも賭けます?」

 

「にんじん!?フッ…望むところよ。」

 

「全くチョロいんだから…。」

小声で呟いた後輩の声を優れた耳が拾うが、あえて黙っておく。

 

それよりも…だ。

 

——今は、目の前のレースに集中しなくては。

そう考え、彼女はターフに視線を落とした。

 

その隣で、

「アンタレスさんのレース…楽しみだな…。」

「当然だっ!アタシのライバルが負けるわけがないからなっ!」

「ほんとほんと。アンタレスさんが負けるわけないっ!頑張れーっ!アンタレスさんっ!」

やたらと賑やかな少女が声を張り上げた。

 

◆ ◆ ◆

 

ゲートの中ってのも意外と広いもんだ、と。

改めて考える。

 

スズカさんと同じ理由かはご存知でないが。

まあこんなことを考える余裕ができてきた、と考えるといいこと…なのだろうか?

 

だが、こんな呑気なことを考えていても、数十秒後に待つのは苛烈な勝負の世界。

 

気を…引き締めねば。

あの日、俺は覚悟を決めたはずだ。

 

この世界に身を投じる覚悟を。

 

だから、全力で、俺はトレーナーに…そしてヴァーゴに…

 

応えるっ!

 

 

ガコンッ!

 

 

『各ウマ娘、一斉にスタートしました。』

いつも通りスタートダッシュは決まった。

 

芝1700m枠番は7といったところ。

若干、内側に入りづらい出だしではあるが、それよりも…気になるのはヴァーゴの動きだ。

 

一瞬、ちらりと後ろを見てみると、彼女は内番だったこともあり、するりと内側に入れたようだった。

ただ、かなりのローペースだ。

 

位置としては最後方に近く、俺との距離は5バ身ほどといったところ。

とまあ、そんなことを考えている間に、大分ブロックが緩くなってきた。

 

——ここを逃してはならない。

間を縫いつつ、内ラチ側へと向かっていく。

ある程度の好位置といったところか。

 

先頭との差もあまり開いていなく、前方の様子を伺うには絶好の位置だ。

少し余裕ができたため、もう一度後方を向いてみると、ヴァーゴは相も変わらず最後方近くを走っていた。

 

…恐らく、何かしらの作戦があるはず。

だが、俺は俺自身のペースを守らねばならない。

 

『各ウマ娘、第3コーナーを回りました。』

 

そして、俺だけのペースを、爆発させるのは——

 

——今だ。

 

躊躇いを捨てて、ザッと地面を踏み締め。

 

突き放すように蹴り上げる。

 

切り替わる前傾姿勢。

跳ね上がるスピード。

 

『ここで追い上げてきました7番トレミアンタレス!一気に3番手まで上がっていきます!』

 

風切り音が、耳を掠め、幾つもの影が、後ろへと沈んでいく。

 

——行ける。

 

俺はさらに深く地面を踏み締めた。

 

◆ ◆ ◆

 

(いいスパートね。)

己の担当ウマ娘の決めたほぼ完璧ともいっていいスパートのタイミングに思わず胸を撫で下ろす。

 

だが、その反面、まだ一つ不安があった。

 

「…ヴァーゴが動かない…?」

 

その言葉を聞いた後輩が口の端を上げたのを、彼女は確かに目にした。

 

「ここからですよ。()()()()()は。」

 

◆ ◆ ◆

 

アンタがスパートをかけた。

 

それでも、私は()()()()()()

まだ、飛ばす時じゃない。

 

最後方付近。

ここが私の立ち位置。

 

『最終直線に入りました。3番手の7番トレミアンタレス、一気にスパートをかけます!』

 

もうアンタが先頭に立つのは時間の問題。

 

そして、コーナーでのインコースからアウトコースへの移動。

準備は完全に整った。

 

「行っけぇぇぇぇぇっ!」

 

追込

 

これが、私の作戦。

 

ザッ!

 

爆発音にも似たような豪音が響き渡る。

 

足元の土が一気に抉れ、体は前傾姿勢へと。

 

『ここで4番マロンヴァーゴ、後方から一気に追い込んできました。』

ガラ空きになった目の前を見据え、捉えたのはただ一人——

 

——アンタだけ。

幾つもの影が後ろへと過ぎ去っていき、靡く白髪が視界に入る。

 

あと一歩ッ!

 

更に強く地面を踏み締め、加速。

跳ね上がるスピードは今まで体感したことがないほどだ。

 

飛び散る汗が見え、息遣いまでもが聞こえてくるほど近くに。

 

——勝負よ。アンタ。

 

◆ ◆ ◆

 

『トレミアンタレス、ここで先頭に立ちました!』

 

最後の影を追い抜き、先頭に立ったことを教えてくれる実況。

既に最終直線も半ばといったところ。

 

その時、俺は確かに聞いた。

 

背後から聞こえてくる息遣いと確かな足音を。

——来たか。

 

視界の端に映る栗毛は間違いない。

ヴァーゴだ。

 

爛々と輝く橙色の瞳は真っ直ぐ前しか見つめていないようで。

首筋を滴る汗が、見えるほどに。

 

既に、近づいている。

これじゃ、並ぶのも時間の問題だ。

 

——突き放さないと。

脚に力を込め、もう一度、加速をかけようとした時だった。

 

ザッ!

 

轟音が鳴り響き、一歩前へと、ヴァーゴが出た。

もうレースも終盤。

 

それも慣れていない距離のはずなのに、どこにあそこまでの力が…と考え…思い出した。

 

追込。

…そうか。彼女は、ずっと脚を溜めていた。

 

だからこそ、あそこまでのスタミナと爆発力が…。

 

一瞬、遠ざかる背中。

 

だが…だがっ!

 

俺も…ここで、負けるわけにはいかないんだッ!

 

もうここから先は、ロジカルじゃなくてフィジカルだ。

 

そして——決意の強さがモノをいうはず。

 

俺には、夢がある。

 

 

無敗で八冠を獲るという夢がッ!

 

 

それを思い出させてくれたのは、覚悟を決める手助けをしてくれたのは...彼女だ。

 

だからこそ、諦めたくない。

 

こんなところでッ!

 

『ゴールまで残り50を切った!ここで7番トレミアンタレス、加速するっ!』

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

迫る背中とゴール板。

 

白く染まった視界が、ゆっくりと時を進めていく。

 

そして——

 

『トレミアンタレス、マロンヴァーゴ、同時にゴールイン!トレミアンタレス、体制有利か!?』

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

「おめでとう、アンタ。…全く、勝ったんだから、いつまでも転がってないで立ちなさいよ。」

差し伸べられたヴァーゴの手を掴み、立ち上がる。

 

「ありがとう、“私のライバル“。」

 

健闘を讃える念を込め、そう声をかける。

 

「ライバル…ふふっ、ありがとう。いい勝負だったわ。」

 

そのまま、交わす握手。

柔らかくも力強い手がしっかりと握り返してくる。

 

瞬間、湧き上がる歓声。

 

陽の光に照らされ輝く、彼女の瞳に俺は、確かに運命的な何かを感じた。

 

◆ ◆ ◆

 

「まだ…足りないッ…!」

 

深夜。

公園に響く声。

 

「…アンタに追いつくには…ライバルとして走るには…これぐらいじゃ…。」

 

そう呟くと、まるで焦燥感にでも駆られているかのように、声の主は、再び、夜の街へと駆け出した。

 




次回は掲示板回です。
素敵な仲間が増えますよ。
それでは次回もよろしくお願いします。

アンタの耳

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