無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。 作:流星の民(恒南茜)
第21R これが——夢のゲートっ!?
「おお…。」
思わず漏れる声。
窓の外を見ると、立ち並ぶ高いビルに、色とりどりの看板。
元々東京に住んでいたので、転生後からカウントすると、約1年ぶりの東京ということになるのだろうが…。
やはり、ウマ娘たちが広告塔となって街並みを彩っている様子が、今の俺には新鮮だった。
そうやって、少々食い気味に…というか…ちょっと興奮してた節はあるのだろう。
思わず身を乗り出して、窓の外を眺めていたら見事に感じる視線。
隣を向いてみたら、座っていた女の子と目があった。
ここは、淑女の嗜みとして、優雅に挨拶の一つや二つするのが礼儀なのだろうが、残念ながらそんな余裕、俺は持ち合わせちゃいない。
すん、と。
急に大人しくなるというムーブをかますことで、一旦はこの場を避けねば。
…取り敢えずはこれでいいか、と。
ジーっと向かいの窓を見て、やり過ごしていた時である。
「トレセン学園に行かれるのですか?」
あ、これ俺に話しかけてるのか、と。
理解するまでカンマ0.3秒。
選抜レースの時のスタートよりは早いよ。やったね!と、喜べるのも束の間。
隣を見ると、先ほどの女の子の母親らしき人物が、こちらにニコニコと、微笑みかけていた。
…取り敢えず何かしら応答しておくのが吉だろう、うん。
「…は、はい。」
「どちらから、来られたのですか?」
「…モリオカの方から…少し。」
少しってなんだよ。少しって。
己のコミュニケーション能力の低さにより、進展しない会話に唸っていた時であった。
「お姉ちゃん、この間テレビで見たよ!」
女の子が、急に声を上げた。
「あら?そうなの?」
「うん!何とかアンタレスさんって人が、大きなレースで勝って、すかうとされたんだって!」
…そういえば、一回取材は受けた気がする。
地方のローカルニュースだけでなく、ここでも放送されたのはびっくりだが。
少々嬉しいような、恥ずかしいような、感情が胸中を渦巻いたその時、
『——府中——府中』
車内アナウンスが鳴り響いた。
っぶねー、乗り過ごすところだった。
「すみません、私、ここで降りますので。」
最後に軽く頭を下げ、立ち去ろうとした時だった。
「がんばってねー!お姉ちゃん!」
と、女の子が応援と共に、手を振った。
「応援ありがとう…頑張ってくるね。」
自分への奮起も込め、そう口にすると、噛まずに言えたことに感謝しつつ、俺は、府中の大地——夢を叶える場所へと、一歩、踏み出した。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「夢のゲート開いて〜♪」
さてさて、取り敢えずスペちゃんノルマは達成しておかねば、と。
鼻歌を歌いながら、スキップしていたら、見事に改札に引っかかった。
うん。意外と飛ぶな、集中力。
「お嬢ちゃん!駄目だよ!切符入れないと!」
すぐさま、飛んでくる駅員さんによる指摘。
…ってか、とんでもない既視感を感じつつ。
「す、すみません!」
と、謝罪を挟んでおく。
「まあ…気をつけてね。ところで、お嬢ちゃんはトレセン学園に?」
「はい、明日から通うことになって…」
「…だったら、次の駅だね。もしかして…間違えた?」
「ここって、府中なんじゃ…?」
「東府中だね。」
…東…府中…?
…そういえば、府中ってところしか聞いていなかったような?
「どうするんだい?トレセンまでは結構かかるよ?」
「…そう…ですね…。」
と、考えるのも束の間。
ここまで、スペちゃんムーブをかましたら、とる手は一つしかあるまい。
「…走っていきます!私、走るの、大好きなのでっ!」
そう口にすると、タッタッタとステップを踏みつつ、駅の外へと躍り出る。
「ありがとうございました!それではっ!」
ゲンキ、ダイジ、オボエタ。
精一杯の元気を振り絞り、挨拶をすると、俺は学園に向けて駆け出していった。
「…大丈夫かな…あの娘、地図も見ないで行っちゃって…」
少女が去った後で、一人残された駅員がポツリと呟いた。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「…でっか…」
さてさて、元気よく駆け出していった後、俺は気づいたわけだ。
地図見てねぇし、スマホはバッテリー切れてんな、と。
そうして、路頭に迷っていた俺は気づいた。
東京レース場に行ってしまえば、関係者もいるのでは?と。
幸い東京レース場は滅茶苦茶目立っていたし、正直、中央のレースにも興味があった。
…と言うわけで到着、である。
にしても、にしても、だ。
——広い。
いや、語彙力が崩壊しているわけだが、正直崩壊するのも仕方がないと言えるレベルだろう。
モリオカレース場とは比較にならないレベルだ。
ほら、あそことかすっごくマブイ銅像が立ってるし。
ただ、ぼーっと呆けていても、何も始まらない。
気づけば腹は鳴り出している。
取り敢えず…っと。
食料を求めて、まずは出店へと。
俺は軽やかにステップを踏みつつ、駆け出した。
◇ ◇ ◇
「…ふむ…これは中々…ですなぁ…」
その辺でお買い上げしてきた、たこ焼きを頬張りつつ、一言呟く。
と言うわけで、スタンドまでやってきたわけだが…。
…とんでもない人混みだ。
中々、モリオカでは見ない景色であったため、しばらく呆けていたわけだが…。
まあ、こうしていても埒が開かない。
人混みを分けつつ、何とかターフのそばまで出てみると、ちょうどレースが始まるところだった。
『今、スタートしました!』
パドックでの紹介は残念ながら見られなかったようだが、まあレースを最初から見られただけでもヨシ!といった具合だ。
それにしても、初手から響く赤坂さんボイスは俺の耳にダイレクトアタック。11点疾走。無謀なる戦といったところ。
まあ、0になった俺自身の体力は置いておいて、だ。
…約1名、見覚えのあるウマ娘がいるような…気がする。
数秒後、その予感は、見事に当たっていたことが判明した。
『第3コーナー回って最終直線へ、ミスターシービー!一気に抜け出した!先頭はミスターシービー!』
「…あら?中央のレベルに驚いてるの?」
——その時、俺は確かに感じた。滅茶苦茶マブイオーラを。
慌てて、後ろを振り向くと、そこにいたのは…。
滅茶苦茶、見覚えのある鹿毛と、激マブオーラを纏うウマ娘——。
「…しっかりと焼き付けておきなさい。これが——“中央“よ。」
と言う声とともに、前を向かされる。
『ミスターシービー、どんどんと後続を引き離す!その場は5バ身、6バ身——一切、先頭を譲る気配がない!』
何だよ…あの末脚…。
端的に換言すると、バケモンだと。
そう言いたくなるような光景がそこには広がっていた。
『——ミスターシービー、今、1着でゴールイン!』
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「…どうだった?中央のレースは。」
「…もう、ヤバい…の一言です…。」
レース終了後、見覚えのあるウマ娘ことマルゼンスキーと、俺は話していた。
ただ、気になることが一点。
「ところで、なんでそんなに中央を強調するんです?」
「あなた、モリオカから来たトレミアンタレスちゃんでしょ?」
「…どうして、私の名前を…。」
名前を覚えていただいて、至極恐縮大変歓迎…といった感情よりも、真っ先に。
湧いてきたのは疑問であった。
そりゃそうだ。不意打ちに初対面の人から、名前を呼ばれたら、誰だって困惑するわな。
「ルドルフに頼まれたのよ。…アンタレスちゃんを連れてきてって。」
…なるほど?
と、納得しかけるも、まだ引っかかるな?
「…ところで、何で私がここにいるって…わかったんです?」
「あなたのトレーナーさんが、GPSで見てたからよ。とにかく、ルドルフもトレーナーさんも、生徒会室で待ってるから…早く向かうことをオススメするわ。あとこれ、地図ね。」
…トレーナーと、ルドルフが会長室に二人っきり、か。
想像してみると、シュールっちゃシュールだが…。
そんな余裕ぶっこいていられる状況ではないだろう。どう考えても今迷惑をかけているのは俺だ。
「すみません、マルゼンスキーさん、ありがとうございました。私、今すぐ向かいますっ!」
「…別にいいのよ。あたし自身、ルドルフが目をつけた娘って言うのがどんな娘か気になってたしね。それじゃ、ライブを見ていかないといけないから…通りすがりのお姉さんはこれで失礼するわね。バイビー♪」
死語を残しつつ、去っていくマルゼンスキー。
っと、悠長に背中を眺めている場合じゃないな。
地図を片手に、俺は学園へと向かうことにした。
◆ ◆ ◆
その頃、生徒会室では...。
「…ごめんなさい、ウチのアンタレスが…。」
「…いえ、東京に初めて来たとなれば…迷うこともあります…。頭を上げてください。」
...気まずい空気が充満していた。
と言うわけで、中央編開幕です。
掲示板回は、先送りになりました。ごめんなさい。
なお、シービーら辺の史実は若干改変していますが、ご了承ください。
それでは、次回、ルドルフとの邂逅です。
よろしくお願いします。
追伸:シャドバコラボのテイオーさん、マジで強いですね。
取り敢えずネクロ握ります。対戦よろしくお願いします。