無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。 作:流星の民(恒南茜)
「…でっか…。」
もうここについてから何度目になるのかわからないため息。
んでもって目の前に広がるのは、バケモンみたいな広さの学園、と。
…いや、本当に何だこの広さ。
アニメで見た時は特に何とも思わなかったけど、いざこうして実際に目の前にしてみると、パッケージ詐欺にも程があると言った具合である。
そんでもって、校門前に立ってくれている緑の帽子には、とんでもなく見覚えがある、と。
「おはようございます…いえ、こんにちはの時間ですね。こんにちは、トレミアンタレスさん。」
「こんにちは、たづなさん。」
駿川たづな、別名緑の悪…。
…なんだ?動悸が…おさまらない。心拍数までどんどん上がって…。
落ち着け、俺。この世界にガチャはない。お迎えしなきゃいけないテイオーなんてここにはいないし、完凸しなきゃいけないサポカなんてここにはない
んだ。
——ガチャがない。
その事実は、少なからず俺を落ち着かせた。
おさまってくる動悸と、段々と安定してくる心拍数。
よし、これでようやくお話ができると、顔を上げ、彼女の顔を直視する。
「大丈夫…ですか…?アンタレスさん。」
心配しているような声音で話しかけてくる彼女に、「大丈夫です」と返し、話を続けてもらう。
「それでは、生徒会室までご案内いたします。ついてきてください。」
そう告げるとこちらに背をむけ、歩き出すたづなさんに、とてとてとついていく。
…にしても、歩くの速いな…。
若干ついていくためのペース作りに一苦労といったところではあるが…。
まあ、何とかなるだろうと。
俺も彼女に合わせて歩幅を刻み始めた。
◇ ◇ ◇
…というわけで、やってまいりました。
生徒会室の前にやってきたわけだが…。
放たれているのは、負のオーラ。
というか威圧感…か?
どちらにせよ、かなり恐怖を感じるのは間違いなし、といったところ。
…まあ、でもここまで来たら行くしかない。
「ありがとうございました、たづなさん。」
「いえいえ。何か困ったことがありましたら、気軽にお声がけくださいね。」
そう告げると、去っていくたづなさん。
取り残された俺は完全に一人。
この状態で、生徒会室に殴り込まなければならない…と。
——いや、俺は…とまらねぇからよぉ!
勢いに任せ、バーン!と、擬音が鳴るぐらいの勢いでドアを開ける。
瞬間、俺は感じた。
明らかに異様な空気を。
発生源はすぐにわかった。
…トレーナーだ。
んでもって、彼女が発している気まずい的な負のオーラにカイチョーの威圧感が混じって、独特なハーモニーを醸し出している。
まあ待て、どう考えても、この空気が醸造されるきっかけになったのは俺。
そして、ぎろりとこちらを見つめるカイチョーとトレーナーの視線は中々に鋭い。
こうなったら、取れる択は一つだろう。
「遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでしたっ!」
◇ ◇ ◇
さてさて、俺の十八番こと、“土下座“で何とかこの場は許してもらえたようだ。
…え?カイチョーは意外と寛容だぁ?
うるさいやい。カイチョーが許しても、トレーナーが許してくれたかわからないんだもん。
さてさて、トレーナーの隣の席に腰を下ろし、見つめるのはカイチョーの瞳。
先ほどの威圧感は、既に鞘に収めたのか、だいぶ落ち着いた様子で、こちらを見つめている。
やはり、土下座には効果があったのだろう。多分。
こうして、静寂に包まれること数秒、先に口を開いたのはカイチョーだった。
「さて、こんにちは、トレミアンタレス君。この度は、私のスカウトに応じてもらえて大変嬉しく思う。どうだい?中央は。」
「そう…ですね…。」
端的に換言しようとしたが、結局答えは一つしか出てこなかった。
「何というか…大きい…です。」
「…そうか。他に感想は…?」
「いえ、今のところは特に。」
「わかった。早く慣れてくれることをこちらとしても願っているよ。さて——主要な手続きは、全て君のトレーナーさんが済ませてくれたから…私からは、我が校のスクールモットーについて話しておこうと思ってね。あれが読めるかい?」
そこで彼女は壁にかかっている文字を指差した。
ふむ。スクールモットー…か。任せておけ。英語を読むことぐらいなら、俺にだってできるもん。
「えくりぷすふぁーすとざ…れすと…のーうぇあ…ですか…?」
「その通り。eclipse first the rest nowhere。意味はわかるかい?」
カイチョーの発音と、俺の発音の比較、と。
うん。地獄かな?というのは置いておいて。
意味は…何だっけ…?うん。テイオーの可愛さが脳のリソースの8割を占めている以上、ちょっと出てきませんね。
「すみません、わからないです。」
「“唯一抜きん出て並ぶ者なし”。君にも、そんなウマ娘を目指して努力してほしいと思う。いいかい?」
ここで、若干鋭くなるカイチョーの瞳。
ボク、オーラに弱いんだよね。だって、カイチョーの目、鋭いんだもん。
さて、テイオーぶってエンペラーオーラから逃れようとはしたが…まあ、無理だ。
ここは、睨まれたんだし、睨み返しとこうぜ!と思うも、そんな度胸、俺にはない。
大人しく睨まれながら、返事するとするか。
「わかりました。頑張りますっ!」
せめてもの抵抗として、いつもの元気は見せつけつつ、だが。
「その意気やよし、だ。こちらとしても期待しているよ、アンタレス君。君と戦える時を、ね。」
…そうだ。
改めて、理解する現実。
俺は、今後ルドルフと戦っていかねばならない。
それも、先ほど見たミスターシービーや、まだ見ぬ敵の数々もプラスした、“中央での戦い“に身を投じていかねばならないのだ。
今、俺が属しているのは、そういう世代なのだから。
——だが、俺はテイオーをデレさせなければいけない。
だったら、目の前のこの敵に、負けるわけにはいかないんだ。
最後に、精一杯の抵抗を込めるように、瞳を釣り上げると、カイチョーの瞳を見つめる。
そうすること、数秒。
沈黙に耐えかねるように、再びルドルフが口を開いた。
「それでは、私から伝えることは以上だ。…ああ、あと君の寮が同室になる生徒について、だが…。」
同室になる…生徒…?
ここで思い出す中央のルール。量は二人部屋。
嘘だ。おい待てカイチョー、俺のコミュ力でそんな同室だなんて…。
「君と同室になる生徒は、今のところいない。どうしても、人数の関係で…君だけ余ってしまってね。だが、安心してくれ。編入生が来た時には、晴れて君も二人部屋の住人になる。そして、その編入生には当然…地方から来た生徒も含まれる。」
まずは、一人部屋であることに感謝。
そして、もう一点…地方から生徒が来た時…ということは…。
「ヴァーゴが、仮に中央に来れたとしたら、同じ部屋になれる可能性がある…と?」
「…まあ、あくまでも可能性の話だよ。当然、こちらも精一杯配慮はするつもりだ。…だから、君も邁進してくれたまえ。これで以上…だな。何か質問は…?」
粋なことを…してくれるじゃねぇか。
まあ、あくまでも可能性の話、というのは理解しているつもりだが、正直、それは俺を奮起させるには十分すぎた。
「…いえ、特にありません。ありがとうございました。会長さん。」
そう最後に挨拶し、トレーナーと共に、部屋を出て行こうとした時だった。
「ああ、あと最後に伝えておかねばならないことがあった。私のことはルドルフでいいし、敬語も使わなくていいよ。アンタレス君。仮にもこれからトゥインクルシリーズで互いに競い合う仲なのだからね。」
「...わかったよ。ルドルフさん。それでは、これにて、私は…。」
っベー、慣れねぇ、慣れねぇよ。流石に非敬語は。
…まあ、とはいえ、同級生なのだし、これぐらいの距離感が正しいの…かな…?多分。
そんなことを考えつつ、扉を閉めると、ほっと一息つく。
「それじゃ、アンタレス。トレーニングは明日から始めるから、次回は遅刻しないように。いいかしら?」
そして、最後に頂戴するトレーナーからのありがたい一言。
…まあ、流石に二日連続で迷惑をかけたらヤバい。主に俺の命が。
「…了解しました。」
「ならよし。それじゃ、お互い寮に戻りましょうか。」
軽く挨拶をし、俺たちはそこで別れた。
◆ ◆ ◆
「…トレミアンタレス君…ふふ、やはり面白い娘だ。果たして、彼女が私のライバルとなり得るのか…。今後が楽しみで仕方ないよ。」
二人が去り、誰もいなくなった生徒会室で、誰に聞かせるともなく、ルドルフはそう呟いた。
◆ ◆ ◆
◆ ◆
◆
…というわけで、初めて部屋にやってきたわけだが…。
広い。
というか、元々二人部屋での運用を想定されていたのだ。
流石に一人では広すぎるだろう。
時間を見てみると、もう大分遅い。
消灯するか、と。
電気を消す前に、髪留めを解いて気がつく。
…そっか。もう毎朝起こしてくれるヴァーゴは、いないんだ。
別れたのは今朝のはずなのに、もう随分と長いこと経った様な気がする。
…それでも、俺はこの程度で落ち込んでいるわけにはいかない。
彼女との約束を果たさなければ…“無敗の八冠ウマ娘”にならないといけないのだから。
「…よし。」
軽く声を出して、気合を入れ直すと俺は、目覚まし時計をセットして、横になった。
胸中に広がる寂しさを振り払うように、軽く寝返りを打ちながら。
というわけで次回、ローテの発表です。
それでは次回もよろしくお願いします。
追伸:テイオーに勝てません。守護ビショップでも、進化ネクロでも、バフドラゴンでも無理です。
取り敢えずプレイングを磨いてくることにします。ありがとうございました。