無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。 作:流星の民(恒南茜)
第25R タイチョーとカイチョー
「はっ…はっ…」
一定のペースを保ちつつ、足を動かしていく。
若干眠気混じりの早朝トレーニングというわけだが中央に来たばかりの時は、そもそも起きることすらできなかったのを考えると、大きな進歩だろう。
何せ、もうすぐ1ヶ月以上は経つのだ。
そろそろ独り立ちしないとやばい時期であることは明白だったので、とにかくたくさん目覚まし時計は購入してきた。
これで、レースに負けても安心だね!というわけではないが。
そんなことを考えつつ、真っ直ぐ、真っ直ぐと河川敷を走っていたわけだよ。
そしたらね、小さなシルエットが俺の右を全速力で駆け抜けていったわけだ。
体躯的に見ると、子供だろう。鹿毛のロングヘアが、朝日に照らされ、鮮やかに輝いていた。
それにしても、あれは中々に将来有望だろうな、なんて。
相当な上から目線で考え事をしつつ、少々後ろを走っていた時だった。
突然、目の前の少女の上体がぐらりと傾いた。
考えるまでもない。このままじゃ彼女は転ぶ。
そりゃ、子供が転ぶのはよくあることではあるが、相当にスピードが出ているのだ。
あの状態で転倒したら、ただの怪我じゃ済まないだろう。
一気に地面を踏み締め、強引にギアを上げて接近。
そのまま、スライディングをするようにして、彼女の体をガッチリとホールドする。
取り敢えず、これで前途有望なウマ娘の未来は守られた、と。
少々、鼻を擦りつつ、未だ呆然としている彼女を立たせる。
「ねぇ君、転んだら大変だからね?次からは気をつけるんだよ?」
全く、こちらの世界に転生してからの自分と比べると、中々な物言いである。
本当に…ヴァーゴには感謝してもしきれないな、と思い出しつつ、一応注意はしておく。
その時だった。
「…タ…タイチョー…?」
目を輝かせながら、口を開いた彼女の声がとんでもなく聞き覚えのあるものであることに、俺は気づいた。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「いやーびっくりしたよー。まさか、タイチョーがトレセン学園に通ってただなんて…!」
というわけで、芝生の上に座って休憩、と。
「編入したのは最近だけどね。だけど私もびっくりしたよ。まさか、また君と会えるなんてね…。」
というわけで、夏合宿の時の名は知らぬ少女とまさかの再会を果たしたわけではあるが…。
もうね、感無量というか、なんというか…。ちょっと俺、涙出てきそうだよ。
「タ…タイチョー!?どうしたの!?そんなうるうるして!」
「…いや、なんか、キミとまた会えたのが嬉しくてね…。」
考えてみると、ヴァーゴやらフォルテやらともずっと会っていないわけだし、モリオカ時代から面識があったウマ娘と再会したのはトレーナーを除いてこれが初めてということになる。
そりゃ、涙も出るよ、うん。多分ね。
とはいえ、そろそろ学園に行かねばならない時間であるのも確かだ。
「ごめんね、そろそろ私、学園に行かないと、遅刻しちゃう。また今度、ね。」
と立ち上がって手を振りつつ、駆け出そうとした時だった。
「…タイチョー?今日…休日だよ…?」
取り敢えず、すんと、立ち止まり、ポケットからスマホを取り出し、確認する。
うん、確かに。
デカデカと土って書いてあるね。
「っしゃァァァァァァ!休むぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
急に訪れる休日に勝るものなし、と。
職質される危険性すら頭から抜け落ちるぐらい、今の俺は無敵だった。
◇ ◇ ◇
「んもう、タイチョー、もう叫ばないでよね。ボクも恥ずかしかったんだから…。」
顔を赤らめつつ、そう注意してくる少女に、ごめんと、ペコペコ頭を下げつつ、取り敢えず河川敷から降りて、歩いていた時だった。
「やったぁ!はちみーだぁ!ボク、走った後にはちみー飲むの大好きなんだよね!」
と、唐突に彼女が声を上げた。
いや、お前も急に叫んどるやないかい、と。
注意できる立場には当然俺はいないため、まずは相槌を打つ。
しかし、はちみーか。
冷静に考えてみると、この世界にやってきてから、未だに飲んだことがなかったな。
ここは、挑戦してみるのも良いかもしれない。
「ちょっと待っててね。」
と、声をかけ、列に並ぶ。
数分後、やってくる俺のターン。
いざ、決め台詞を発動する時!
「はちみつ、硬め、濃いめ、多め、二つで!」
◇ ◇ ◇
「…タイチョー…財布はせめて持っててよ…。」
「ごめん、本っ当にごめん!」
公園のベンチにて、はちみーを啜りつつ、ひたすらに続く謝罪。
奢るつもりが、逆に奢られるとは。
本当に恥である。
「今すぐ、寮からお金持ってくるから、ちょっと待っててもらっても…。」
「ううん、今日はタイチョーに助けてもらったから、そのお礼ってことにしといて。」
「いや、それでもはちみー結構高いし…」
「それだったら、ボクの悩み、聞いてもらってもいい?」
途端に、彼女の声音が少し暗くなり、耳が垂れる。
「…わかった。私で力になれるかはわからないけど、聞くよ。」
「ありがと、タイチョー。実はね、ボク…目標が見つからないんだ…。走るのは大好きだし、トレセン学園にも入りたい。それでもね、その先が見えなくて…。」
そうポツリ、ポツリと語るいつもは明るい彼女の暗い声音を聞いていると、少し、心が痛くなる。
俺も、ヴァーゴに相談した時、こんな感じだったのかな、なんて考えつつ。
解決方法を練る。
とはいえ、『目標が見つからない』というのは、俺に何とかできる問題なのだろうか、という疑問がよぎる。
だが、解決したい。
この悩みを。
目の前で悩む少女がいるのに、放っておく気は甚だないわけだ。
考えろ、考えろ、と。
思索を巡らせていた時である。
“あの姿がずっと忘れられなくて…私、憧れてるの。“
ふと、あの時のヴァーゴの言葉が脳裏をよぎった。
それと同時に、“ボクはシンボリルドルフさんみたいな、強くてカッコイイウマ娘になります!”と。
我が最推しの発したセリフがフラッシュバックする。
そうだ、テイオーの無敗の三冠という目標も、ヴァーゴの日本ダービーを勝ちたいという目標も。
その根底には“憧れ“という感情があった。
であれば…
「次の皐月賞ね。私、出るんだ。だから見ててよ。すごいレース、魅せるから。」
「…タイチョー…?勝つの…?」
そう、目を丸くして聞く少女の問いに、ふふんと軽く鼻を鳴らしてから、答える。
「うん!キミの憧れに…目標になってみせるからっ!」
すると、それまで目を丸くしていた少女の表情が緩み、顔中に笑みが広がる。
「…そっか、タイチョーがボクの憧れに…か。あははっ!」
うん、笑み通り越して笑ってんな、こいつ。
「ううん、何だか、タイチョーがはっきりと言い切ったのがカッコよかったからさ。わかった!ボク、皐月賞絶対見にいく!だから見せて!最高のレースを!」
そこまで言い切ると、小指を突き出してくる少女。
「だから指切り、しよ!」
俺が、彼女の憧れになれる器かはわからない。
だけど、彼女の前では何だか強がりたくなるのも事実だ。
であれば、精一杯強がってやる。
強がった先に、誰かの憧れになれるのならば。
——絶対に勝つ。
そう決意を固め、俺は、小指を絡ませた。
◇ ◇ ◇
「はぁ…はぁ…」
…というわけで、再びトレーニングである。
石段を駆け上がり、一息ついて、また駆け出す。
そのセットを繰り返し、少し境内で休んでいた時である。
「…アンタレス君か。」
聞き覚えのある声を耳が拾い、後ろを向くと、そこにはルドルフが立っていた。
「スプリングステークス、見事な走りだったよ。そして皐月賞、君も出るんだろう?」
「…うん。ねぇ、ルドルフ。」
「…どうしたんだい?」
「皐月賞、絶対に私が勝つから。覚悟しておいて。」
そう宣言し、彼女をまっすぐ指差す。
「…ふふっ、そうか、だけど…それはこちらの台詞だよ。」
そう呟きながら、こちらに近づいてくるルドルフ。
得体の知れない恐怖を感じ、全身が一瞬、粟立つ。
そして、彼女は俺の隣に立つと、耳元で一言囁いた。
「あまり、私を舐めるなよ?」
というわけで、次回、皐月賞対策です。
それでは次回もよろしくお願いします。
追伸:バフドラにケツ版ガンダゴウザください!お願いします!サイゲさん!