無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。   作:流星の民(恒南茜)

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今回ルドトレ視点多めです。


第32R 帰結

「…どうしたんですか…?」

 

…少々、鋭いですね、目つき。

 

俺の腕を掴んだ時の頼り甲斐のある表情はどこへやら。

まるで怖いものでも見たかのように、俺を射抜く視線は鋭い。

 

「…いや、なんでもないよ。」

 

しかし、目の前の男性は軽く首を振ると、再び眼下の川に視線を戻す。

絶対何もないわけないと思ったんだけどな…今の目つき。

もしかして、可愛いアンタレスちゃんにひと目ぼれしちゃったとか?

 

などときゃぴるんっとした思考で考えるが、表情から考えて流石にそれはなさそうだ。

 

「…そう…ですか。」

 

とはいえ、気になるものは気になるわけだ。

それに、何でもない、と言うような表情を彼はしていない。

 

…まあ、助けてもらった恩もあるわけだし…彼にとって、少しでも気が紛れればいい、と。

隣に立つようにして、俺も眼下の川に目を向けつつ、口を開く。

 

「…何か、悩んでいることでもあるんですか?」

 

◆ ◆ ◆

 

突然、隣に立った少女が発した言葉に俺は、ハッと目を見開いた。

 

「いや、本当に何でもないんだ。…それに、君にはわからないよ。」

 

隣に立つ少女は、未だ敗北を知らず、何なら年端も行かない少女だ。

そもそも、初対面でもあるわけだし。

 

彼女に相談してもわかってはもらえないだろうと、彼が再び首を振った時だった。

 

「そうですか?それでも、走りのこととかだったら、結構参考になるものがお見せできると思いますよ?」

 

これまた、唐突に。

彼女は己の走りを見せる、と言い出したのだ。

 

「…どうして、急に走りのことを…それにどうやって俺がトレーナーだって…。」

 

「そんなの簡単ですよ。胸元にトレーナーバッジ、つけてるじゃないですか。」

 

言われるがままに、胸元を見てみると、確かに月明かりに照らされ煌めくトレーナーバッジがそこにはあった。

 

…とはいえ、不思議だ。

初めてこれを手に入れた時はあれほどまでに高揚したと言うのに。

今は何だかこれすらも忌々しく思えてくる。

 

「…そっか、まあそうだよな。」

 

胸元のトレーナーバッジに軽く触れると、これまた不快なことに、己がトレーナーであることを強く実感させられる。

そしてまた、そんなことで不快感を感じている自分に嫌気がさしてくるのだ。

——何度も迷った。

本当にトレーナーとして復帰するか否か。

 

自分みたいな人間がいたら、ただ彼女たちの夢を潰すだけじゃないかって。

…それでも、俺は思っていたよりもずっと、自分に正直な人間だった。

 

再び、この世界に足を踏み入れたのだ。

その時に、覚悟は決めたはずだった。

 

しかし、俺は思っていたよりもずっと、自分に正直ではあったが…遥かに弱い人間だったということだろうか。

強がって、自分を無理やり大きくみせて、彼女たちを走らせた先に待っていたのは潰えた夢。

 

全く、小さいものだ。

しかし、そんな自分とは対照的に、隣に立つ少女の瞳は爛々と輝いている。

 

確か、彼女の夢は“無敗の八冠ウマ娘になること”だったか。

最初に耳にした時は大きすぎる夢だと思っていたが、そんな評価も覆すほどに、彼女の走りは力強かった。

 

そして今も…

 

「走りますか?走っていいですよね?走りますよ?」

 

妙な自信と共に、激しく主張をしている。

…全く、彼女は感傷に浸る時間すらくれない。

 

しつこい、と一蹴するのは簡単だった。

 

…しかし、俺の中で騒めいている何かが、そうすることを拒み。

 

「…ああ、それじゃ頼む。…一度君の走りを見せてくれ。」

 

代わりに漏れたのは、真逆となる言葉だった。

 

「わかりましたっ!それじゃ、行きますね!」

 

力強くそう答えると共に、彼女は体勢を前傾姿勢へと変え、強く、地面を踏み締める。

 

刹那——

 

ザッ!

 

力強くコンクリートを蹴り飛ばす音ともに、彼女は駆け出した。

 

月並みではあったが、確かに速い。

十数秒足らずで、往復し、彼女は戻ってきた。

 

「…ふぅ…どうです?速いでしょ!」

 

両手を忙しなく揺らし、軽く肩で息をするトレミアンタレス。

 

「…ああ、確かにな。ただ…」

 

確かに、彼女は速い。ただ、あくまでもこの橋の上のように、短い距離であれば、の話だ。

レースは持久戦。別にリードしていなくても、最終的に追い抜けさえすればいい。

 

「少し、前傾姿勢がすぎるかもしれない。確かに、スピードは出るけど…スタミナの消耗はだいぶ激しいだろ?もう少し上体を起こして、体の軸を真っ直ぐ保った方がいいような気がするな。」

 

「軸を真っ直ぐ…ですか。確かに次出るのは長距離ですし…。スタミナは温存したいし…。メモメモ…っと。」

 

メモと口ではいいながら、棒立ちしている彼女は置いておいて、だ。

 

…なぜ俺は、彼女にアドバイスをしているのだろう?

言ってみればこんなの、敵に塩を送るような真似だというのに。

と考えて、はたと気づく。

 

——結局、どんなに腐っても俺はトレーナーだということに。

 

思わず苦笑が漏れる。

己の担当ウマ娘だろうが、敵だろうが結局、走っている娘がいたら、声をかけたくなってしまう性分なのだろう。

 

..だからこそ、結局は帰って来た、ということだろうか。

 

「ありがとうございました、お兄さん!確かに良さげですね、この走り方!」

 

感傷から覚めて、ふと正面を見ると軽くステップを踏みながら、彼女はこちらに笑みを向けている。

 

「…そうか、だったら良かったよ。」

 

短くそう答え、再び川に視線を戻そうとしたが…不思議と、もうそうしなくてもいいような気すらしてきていた。

まだ、覚めたわけではないが、先ほどよりは全然マシだ。

 

一度、寮に戻って考えを整理しようか、と。

彼女に別れを告げ、歩き出そうとした時だった。

 

キキーッ!

 

すぐ近くでブレーキ音が聞こえ、一台の車が停まった。

その車を見て、駆け寄るアンタレス。

 

恐らくは彼女のトレーナーのものだろう。

まあ、門限も過ぎていることだ。トレーナーが迎えにくるのも特に不思議なことでもなかろうと。

 

背を向けようとした時だった。

 

ドアが開き、中から出てきたヒト——いや、ウマ娘を見た時…。

俺は、目を見開いた。

 

「…君は…」

 

驚きのあまり、漏れた声が掠れる。

 

「…トレー…ナー…?」

 

そして、彼女の表情にもまた、驚きが滲んでいた。

 

…全く予想だにしない形で、俺は過去の担当ウマ娘と再会したのだった。




次回はルドトレ×アンタレストレ回です。
さて、ここでお詫びを少々…。
まずは、遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
——定期考査には魔物が潜む。
その言葉に嘘偽りはなく、正しく僕は苦戦を強いられていたわけです。
さてさて、自分語りはこれぐらいにしておきまして…次回からはまた、いつも通りの3,4日ペースで投稿していきますので、よろしくお願いいたします。
それでは。
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