無敗の八冠?だったら、俺が獲ってやるよ。   作:流星の民(恒南茜)

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第3R 無敗の八冠?デレよりは安いぜ!

「それじゃ、おやすみなさい。くれぐれももう騒がないようにね。」

「うん、おやすみ。」

と言うわけで、一日過ごしたわけだが…口調にはだいぶ慣れてきた。

 

まあ、未だにこの体には慣れないわけだが…。

 

というか、そう簡単に慣れてたまるか、と一言言ってやりたい気分である。

なんの因果でここに来ることになったのかはわからないが、少なくともテイオーと学園生活を送れる可能性が俺にはあるわけだ。

 

そう思うと、喜びのあまり全身がむずむずしてくる。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!俺はテイオーと学園生活を謳歌するんだぁぁぁぁぁぁ!」

「だから、うるっさいって言ってるでしょっ!」

 

バァンと、大きな音を立てて、少女が入場。

あっやべ、と。

 

慌てて口をつぐみ、警戒体制へ。

わりぃ、俺、死んだ。

 

と、死を覚悟した時である。

 

「…全く。どうしたのかわからないけど…取り敢えず、これでも食べて黙ってなさい…。」

彼女は何故か、そっぽを向いたまま、俺に新聞でくるんだ何かを渡してきた。

 

その場で開封してみると、中身はなかなかに可愛らしいクッキー。

何か変な薬でも入ってないよな?と一瞬警戒するも、タキオンじゃあるまいし、それもないだろう。

 

「…は?」

 

「…は?って何よ、アンタが前、また食べたいって言ってたクッキーよ!とにかくありがたく受け取っておきなさいよね!」

 

…なるほど。

 

どうやら、トレミアンタレスちゃんは、元から、この少女と仲が良かったようだ。

 

と、ここで思い出す。

 

そういえば、名前まだ聞いてねぇな、と。

 

「….ありがとう、ごめん、ところでさ、名前を聞いても…。」

 

「…はぁ、何か今日は名前で呼ばないから、そう言うことだろうと思ったわ…。」

と、こめかみを抑える少女。

 

「マロンヴァーゴよ。もう2度と、忘れないでよね。」

 

「…ごめん、本当にありがとう。」

 

「…もう叫ばないでね。それじゃ、おやすみ。」

そう最後に念を押すと、少女は帰っていった。

 

それにしても、だ。

 

何か情報を得ないと。

 

…そうか、この新聞、使えるぞ。

ぼーっと考え事をしながら、包みとなっていた新聞をちらと見ていた時である。

 

コラムのような欄に、「シンボリルドルフ、選抜レース一着!」と。

ちんまりと書いてあった。

 

よく見ると、中央のレースの記事ばかりだ。

なるほど、マロンヴァーゴの中央への想いはそれだけ強いんだな、と考えていた時である。

 

「シンボリルドルフ」「選抜レース」この二つのワードが妙に頭の中で引っ掛かった。

 

“シンボリルドルフが選抜レースで一着。”

 

ふんふん。

 

“シンボリルドルフ”が“選抜レース”で一着…と。

 

…え?

 

状態を見る限り、古新聞というわけでもないようだった。

 

つまるところ…つまるところ…だ。

 

 

『俺は、ルドルフと同世代である』と言うことか。

 

 

…え?嘘でしょ?

 

テイオー、まだ中央のトレセン学園にいないじゃん。

 

嘘でしょ?

 

…もう、普通に地方のウマ娘として過ごして、テイオーのレースだけ全部見に行こうかな。

不意に脳裏にチラつく考え。

 

…そうだ、それでいい。

わざわざ歩む必要なんてどこにも…。

 

どこかぼんやりとした頭で考えつつ、クッキーを齧る。

 

うん、美味い。ありがてぇ。

 

今食ったのが1枚で、あと7枚あって…計8枚、か。

 

…8?

 

待てよ?まだルドルフが選抜レースで…ってことは、デビューしてないわけで、まだテイオーもルドルフに憧れてないわけで…?

 

…あれ?俺がルドルフの代わりに七冠どころか八冠…なんなら、無敗で取って、ルドルフ越えちゃえば——

 

 

——テイオー、俺にデレデレになるんじゃね?

 

 

「…ぁぁ…ぁぁ…」

 

我ながら、天才的な発想に、体が震えてくる。

 

漏れ出てくる声を止める余裕は、もう今の俺にはなかった。

 

 

 

「待ってろよぉぉぉぉ!中央っ!俺はっ!無敗の八冠ウマ娘になるんだぁぁぁぁっ!」

 

 

 

その時、再び大きな音を立て、開かれたドア。

 

 

不思議なことに、俺の記憶はそこで途切れた。

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

目が覚めると、見知らぬ天井だった。

 

まあ、使い古されたネタだが。

数分困惑した後、己がウマ娘になったことを思い出す。

 

——そして、昨晩無敗の八冠ウマ娘になると宣言したことも。

もう修羅の道どころの騒ぎじゃないだろう。

 

完全に選んだ道は混沌。前人未到だ。

 

…だけど。

 

——テイオーをデレさせる。

 

この願いのためならば。

 

俺は、できるっ!

 

「よしっ!」

 

鏡の前に立ち、長い髪を後ろで結え、ポニーテールにする。

赤い流星もあいまって、髪型だけはテイオーに近づいた。

 

「行くわよっ!アンタ!」

 

バァンと開くドアと共に部屋に入ってくるマロンヴァーゴ。

 

…ってかアンタってアンタレスの略称だったんっすね。

ってのは置いといて。

 

今の晴れやかな気分の前ではそんなのどうでもいい。

 

「うん!」

 

 

頷くと、俺は外に向かって一歩、踏み出した。

 




と言うわけで、プロローグ終了です。
次回より、選抜レース攻略編に入ります。

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