『半分の月がのぼる空』二次小説。
 大晦日のイチャコラ話。
 行為の描写はないですが、それなりの内容なので一応R指定。

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林檎酒

 ……どうしてこんな事になったのだろう。

 新年早々、部屋の中に響き渡る金糸雀の声に僕は呆然とした。

「アハハ、アハハハハハハ」

「り……里香? その、大丈夫か?」

「アハハ、な~に? あたしはへ~きだよ~?」

「いや……どう見ても大丈夫じゃ……」

「なによ~? あたしのゆーことがおかしいっての~? ゆ~いちのぶんざいで~」

「いや待て、別にそう言う意味じゃ……って痛い痛い! 蜜柑を投げるなって! 何か懐かしいけど、痛いって……ってかこっそりデコポンや八朔を混ぜるなぁ!」

 

 時は大晦日の夜。たった今、新年を迎えた。場所は僕の部屋。で、部屋の中には僕と里香の二人。

 まあ要するに、僕の部屋で二人っきりの年越しをしようとした訳だ。

 里香は『エッチな事しないでよ?』とか釘を刺しながらも、嫌がる事なく応じてくれた。

 エッチな事? いやまあ、多少の期待がなかったかと言えば嘘になるけど? でもまあ、無理だ。だって、今晩は里香と一緒におばさん……つまり里香の母親もウチに来てるのだから。

 おばさんも、里香と二人だけの母子家庭。里香が僕のウチに泊まると、たった一人の年越しになってしまう。だから、僕の話を聞いた母親が気を利かせておばさんも招待したのだ。

 勿論、おばさんまで僕の部屋にいる訳はなく。下の居間で僕の母親とお茶を飲みながらアハハオホホとお喋りしている。僕の母親も、こんな賑やかな年越しは何年振りとかで、実に楽しそうだ。

 で、同年代は同年代同士と言う事で。年越し蕎麦を食べた僕と里香はそそくさと部屋に引っ込んだと言う訳だ。このまま、まったり里香と初日の出を……とか企んだのだけど。実際は……。

「アハハハハハ、ほら、ゆーいちもたべなさいよー」

 いや、どうしてホント。こうなった?

 まあ、原因はハッキリしてる。

「ほらほらほらー」

「分かった、分かったから! 押し付けるなって!」

 コレ。さっきから里香が押し付けてくるケーキ。甘くて蠱惑的な林檎酒の香り。カルヴァドス・ケーキだ。年末年始の休暇で里帰りした司が、お土産として持ってきた。あっちで修行を始めて、初めてお店に出す事を許された品らしい。

「まだ、懇意のお客に試供品でって言う形だけど……」

 そう言う司の顔は誇らしげで、随分と大人びて見えた。

 ああ、そう。しっかり、みゆきもくっついて帰って来た。ずっと司に寄り添って。片時も離さず手を繋いで。

 何かもう、本当の意味での『つがい』って感じだった。

 雪の中を連れ立って帰路につく二人の背を、僕はずっと見つめていた。

 里香も、一緒に。

 司のケーキは、美味しかった。以前のアイツのモノよりも、明らかに一段階上の次元に行っていた。

 皆、ゆっくりと。けれど、確かに先へと進んでいく。

 ああ。僕は、どうなんだろう……?

 

「アハハハハハ! ゆーいち、なにむずかしいかおしてるの? バッカみたい!」

 ……まあ、現状の問題はそんなおセンチなもんじゃなくて。明確にこの荒ぶるメス虎な訳だけど。

 司が作ったカルヴァドス・ケーキ。里香に特攻だった。それこそ、狙って作ったんじゃないかと思えるくらいに。

 おかしいな。このカルヴァドス、そんなアルコールキツかったかな? 悪ふざけでウイスキーとか飲んだりした事あるけど、そんなのに比べたら全然……。

「うぃ……ひっく、アハハ。へんなの……」

 どうも、里香はアルコールに弱いらしい。それも、かなり極端に。覚えとこう。今後の為にも……。

「あらら、こっちも大変みたいねぇ」

 部屋の戸が開いて、顔を覗かせた母親が苦笑いをする。

「こっちも、酔い潰れて寝ちゃったわ。缶チューハイ一本空けただけなんだけど、お酒に弱いのは親譲りみたいね」

 どうやら、おばさんもダウンしたらしい。もっとも、大人だけあって娘みたく乱れないみたいだけど。

「話し相手もいなくなっちゃったし、わたしも寝るわ。里香ちゃんの事、ちゃんと面倒見なさいよ?」

「分かってるよ」

「ま、酔っ払いのお世話は心得てるものね。お互いに」

 やめてくれないかな。里香をあんな馬鹿と一緒にしないでほしい。

 撫然とする僕の思いを知ったか知らずか、母親は肩をすくめると『おやすみ』と言って引っ込んでしまった。

 『おやすみなさ〜い』などと言って、ケタケタ笑う里香。さて、どうしたものか。と言うか、コレ大丈夫なんだろうか? 経験者として言わせてもらうと、酒による酩酊なんてのは決して良いモノじゃない。身体は酷く熱を持つし、頭は朦朧とする。感情の制御は外れ、血圧も脈も乱れる。多分、心臓にだって負担が……。

 不安が加速度的に大きくなってきた所で、またケーキを口に運ぼうとする里香の姿が目にする入った。

「おい、もうやめろって!」

 次の瞬間、僕は彼女の手からケーキを取り上げていた。

「ちょっと〜、なにするの〜? かえしてよ〜」

「駄目だ、ちょっと酔い過ぎだぞ!? これ以上食べたら、二日酔いになっちまうぞ!?」

 駄々をこねる様な顔と口調。普段とは違う可愛さにグラリとするけど、辛うじて踏み留まる。駄目だ駄目だ。甘い顔ばっかりじゃ。〆るべき所は、〆ないと。

 そう考えて、僕は改めて『駄目!』と言い放った。

「む〜〜〜」

 見る見るむくれる里香。そして。

「よこせー!!」

「え!? うわぁ!!」

 突然飛びかかって来た彼女に押し倒されて、僕達は後ろのベッドに倒れ込んだ。

「イテテ……って、うわ……」

 気づくと、手に持っていたケーキが頬から首筋にかけてベットリと張り付いていた。倒れた拍子に、潰れたらしい。

 酒精を含んでシットリと濡れた生地。砂糖と混じり合ったその感触が、ベタベタと気持ち悪い。

「参ったなぁ……」

 ぼやいてティッシュを取ろうとした時、耳元で『もったいない……』と囁く声が聞こえた。

 途端。

「うひぃ!?」

 僕は思わず変な声を出して、硬直してしまった。

 柔らかくて、熱くて、濡れた感触。それが、僕の頬をヌルリと撫ぜたのだ。

「んん、おいしい……」

 里香だった。僕に覆い被さる形になった里香が、張り付いたケーキの残骸を舐めていた。

 状況に気がついて、滅茶苦茶焦る。

「な、何やってんだよ!? 里香!」

「動かないでぇ……」

 押しのけようとした僕を、押さえつける様にしがみつく。やたらと力を強く感じるのは、酔いでリミッターが外れてるのか。それとも僕の身体が弛緩してるせいか。

「よ、よせって!」

「おいしいよ?」

「いや、そうじゃなくて! 汚いだろ!?」

「ゆーいちは、きたなくないもん」

 さらりと投げられた言葉に、動揺する。返す言葉に困る間にも、里香の舌は動き続ける。頬から首へ。そして鎖骨へ。

「いや、何処舐めて……ソコは駄目……って、もうケーキ取れてるだろ!?」

 そう。張り付いていたケーキ屑はとっくに全部舐め取られ、里香の舌は僕の肌を直に舐っていた。

 肌に滑る里香の唾液の甘い香が、濃密に意識を犯していく。

「あー、そっか。美味しいのは、裕一かぁ」

「え……?」

 声の調子が変わったと思った瞬間、口を塞がれた。

 首に回された腕が、離さないと言う様に締め付ける。里香の舌が、唇をこじ開けて入ってくる。強い酒精と蕩ける甘味。上質の洋菓子のソレが、里香自身と混じり合う。

 その甘美さは、まるで媚薬。

 じっくりと僕の中を堪能し、堪能させて。彼女はゆっくりと口を離す。

 漏れる熱い息。

 僕のソレと混じった糸を、細い指がツと拭った。

「……美味しかった?」

「里香……お前……」

 喘ぐ様に息を吐く僕を、妖しくほくそ笑みながら眺める顔。紅潮したその火照りが、決して酔いの為だけではない事に気づく。這う様に動いた手が、僕の左胸を弄る。

 高まった鼓動と籠る熱を満足そうに確認すると、僕の耳へ口を寄せる。

「みゆきちゃん、綺麗になってたね……」

 囁く声は、酷く甘い。

「女の人の顔になってた……」

 さっきまでの、胡乱な酔いの気配はない。けれど、いつもの里香でもなかった。

「あの二人、今頃何してるのかな……?」

 思いもしない言葉に、ギョッとする。

「あたしも、もっと……」

「里香、何言って……」

 また、口を塞がれた。さっきよりももっと深く、粘っこいキス。頭が、クラクラする。

「お前……酔っ払ってる……」

 段々と、熱に染められていく空気。ソレと里香にむせ込みながら、絶え絶えの声で言う。

「そうだよ。酔っ払ってるの。だから、裕一も酔っ払って」

 

 ――あたしに――。

 

 三度目のキス。もう、溺れるだけ。

 ベルトに手を伸ばす里香に、最後の抵抗を試みる。

「おばさんが……」

「ああ、裕一は知らないものね……」

 夢魔の様な微笑みで返す。

「ママはね、お酒で寝ちゃうと、起きないんだよ……」

 最後の望みの綱が切れた。覚悟を決める僕に『良い子だね』と言って四度目のキスをすると、ベルトの止め金をカチャリと外す。

「ね……裕一……」

 囁きながら、自分の服の胸元にも手を伸ばす。

 外すボタン。彼女の香りが、溢れだす。

「何したい……? 何して、欲しい……?」

 息を吐いて、腕を伸ばす。抱き寄せて、抱き締める。子猫の様に、里香が鳴く。

 

 夜明けまでには、まだしばし。


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