回復系聖女に憧れた子がバーン様みたいになっちゃった件について   作:リーグロード

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異世界で魔王を助けてみた

 昨今のラノベでは冒険ファンタジーだけではなく、悪役令嬢転生やオタクとギャルの恋愛モノを描いた作品も数多く存在する。

 他にも勇者という華々しい職業だけではなく、聖女や賢者といった2番手だけでなく生産や補助の職業にもスポットが当てられてきた。

 

 そして、最近の私の愛読書は『異世界転生したら回復チートの聖女でした!?』という通称『回聖』という作品だ。

 物語の始まりはお決まりのテンプレで神様から戦闘系チートではなく回復系のチートを貰って異世界に転生するんです。

 そこから異世界の王国の王子様やイケメン商人やイケメン騎士なんかとラブコメを繰り広げながら敵国との陰謀に立ち向かったり、同じ異世界転生者と直接対決したりなんかとハラハラドキドキの展開のオンパレードで、今の私の一押しなんです! 

 

 そんな私なんですが、学校からの帰り道で赤信号を無視して突っ込んできた黒のワゴン車に跳ね飛ばされて地面に頭から逝ってしまいご臨終してしまったのです。(いや、そこはトラックじゃないんかい!)

 唯一の救いは即死だったので痛みをあまり感じることなく死ねたことぐらいですかね? 

 

 それから気がつくと目の前に神様が御光臨して異世界転生へのチャンスをくれたのです。(ちなみに、神様は白髪細目の超イケメン)

 

 何故くじ引きだったのかは今でも疑問ですが、私は前世の分の幸運を全てつぎ込む勢いで箱の中に入っているクジの1つを取ったら、異世界転生&特典2つという私的に超大当たりを引いて神様からおめでとう! とクラッカーを鳴らされました。

 

 さて、ここで私が引いた特典2つは何を望んだか大体の人ならば予想出来ているんじゃないですか? 

 

 そう! まずお願いしたのは回復チートだ。具体的には生命停止から3分以内の蘇生から、同時に1000人まで重症レベルの傷の治癒に、私から100km以内の対象の干渉という、まさにチートと叫ぶに相応しい内容を願ったらあっさりとOKして貰った。

 2つ目は悪い人なんかに利用されない程度の強さもとりあえず欲しいです! とお願いすると、これまた二つ返事でOKを貰えた。

 

 そうして異世界転生する前の準備は完了し、私は新たな人生を歩むこととなった。

 

 

 

 私は神様からチートを授かり魔法陣で見知らぬ森の中へと転移させられた。

 

「さ~て、とりあえず異世界っぽい場所に転移したけど、ここ何処だろう?」

 

 何やら遠くで城のような物も見えるし、ひとまずはあそこに行けばいいのだろうか? 

 ラノベの展開的にはああいう城に行けば何らかのイベントが発生するのがお決まりだが、この世界でもそうなるのだろうか? 

 

「まあここで考えてもしょうがないし、なんたって私にはチートもあるから大丈夫よね♪」

 

 こんな何もない場所で考えるよりも城を目指して歩いた方がいい!という結論に達した私は城を目指して歩き出した。

 そのまま城を目指し始めて10分もしないうちに自らの異変に気がついた。

 

「全然疲れないし、体が浮くように軽い!?」

 

 普段のアスファルトで舗装された道と違ってガッタガタな砂利道を歩いているのに苦労するどころかスキップしてしまうくらいに余裕に感じられる。

 

「まさか!? これは2つ目の特典の効果なのでは!!」

 

 そう言えば悪人に利用されない程度の強さという抽象的な表現だったから具体的に自分がどれ程強くなったかのかは分からないままだ? 

 

 そもそも悪人の定義によって強さが変わるのではないだろうか? 

 例えば、チンピラなら街で強い程度だが、もしこれが魔王なんかが悪人とすれば今の私の強さは勇者並みに…………

 

「はは……、まさかね……」

 

 乾いた笑みをこぼしながら道を歩いていると、なんと道端に倒れている人を発見してしまった。

 慌てて近寄ってみると、まだうめき声を出しているので死んでいる訳ではないようだ。

 だが、地面にはかなりの血だまりが出来ており、素人目でも危険な状態だと分かる。

 

「ぐっ……おのれ……我が……野望が……」

 

 何か喋っている様だが、こんな状態の人を今まで見たことがないから私はパニックになって気が付いていなかった。

 もしこの時に少しでも冷静さがあったならば、私の未来はきっと変わっていただろう。

 

「えっと……、どうすればいいんだろう? 回復魔法なんてまだ使ったことないし、え~い! やらずに後悔よりもやって後悔! 回聖の主人公の技お借りします!」

 

 我が祈りは救済の光(ナイチンゲール・ヒーリング)

 

「ぬっ!? おおっ──―!!!」

 

 私の体から緑色の眩い光が出たと思えば、その光が倒れているおじさんに纏わりついて傷口がきれいさっぱり無くなっていった。

 さっきまで乱れていたおじさんの呼吸も安定しだしてゆき、ついには自分の力で立ち上がった。

 

「し……信じられん!? あの勇者に斬られた傷がこうも一瞬で回復するとは……」

 

 驚きの表情で自身の体を確かめるおじさん。どうやら、傷は完全に治っているようだ。

 

 ―――じゃない!!? えっ、今なんて言ったの? 勇者に斬られた傷? 

 まさか、もしかしてこのおじさん魔王的な存在……みたいな? 

 

 確かに青白い怖そうな顔で耳もなんか尖っているし、着ている服装もなんか魔王っぽい法衣って感じの服だ!!! 

 

 私が自分のやらかしに驚愕している間に傷が治った魔王のおじさんがこっちを見つめていた。

 

「ふっふっふ、一体どういう意図で我を助けたかは知らんが小娘! その力を我の野望の為に利用させてもらうとするぞ!!!」

 

 恩を仇で返さんとばかりに、クワァ! っと両手を広げて禍々しいオーラを纏って襲い掛かってきた。

 

「ッッッッ!!? ……あれ?」

 

 突然の事に声も出せず思わず目をつぶってしまったが、いつまで経っても何も起きないから恐る恐る目を開けてみると、魔王のおじさんは確かに私に襲い掛かってきていた。

 

()()()()()()()()()()()()()() 

 

「えっと……、もしかしてこれも転生した時の特典かな?」

 

 後にしっかりと分かるのだが、どうやら今の私はスポーツなんかでいう所のゾーンに入っており、脳がピンチだと思った瞬間に周りのスピードがゆっくりに見える現象が起きているのだ。

 更に、その状態の私は肉体のリミッターが解除され100%の能力で動けるようで、とりあえずこのまま黙って突っ立っていても仕方ないので、正当防衛ということで小中の頃に親に習わされていた空手の技の1つである正拳突きを無防備である腹に一発本気で喰らわせてみた。

 

 すると──―

 

グッボォォォォォ!!!!?

 

 魔王のおじさんの断末魔が辺り一面に響き渡り、私の拳が当たったお腹にはデカイ風穴がポッカリと開いていたのだった。

 

「うわっ!? 汚い!!」

 

 断末魔と同時に口から飛び出してきた青い返り血をヒョイと避けると、魔王のおじさんは膝から地面に倒れ落ちた。

 

「ぐ……がぁっ……、回復能力だけでは……なかったというのか……」

 

「うわぁ……」

 

 最初に出会った時と変わらない量の血反吐を地面に吐きながらブツブツと呟く様子はちょっとしたホラーである。

 

 自分で自分のしたことにちょっとドン引きしてしまうが、流石に魔王といえど初対面の人を殺すのはちょっとないので仕方なしにもう一度回復魔法で回復させる。

 

「まさか……!? 一度牙を剝いた我……いや、私を二度も救っていただけるとは……」

 

 あれ? どうしようなんかメッチャ感謝してるんだけど。

 もしかしてこれなんかのフラグが立っちゃた? なんか跪いて忠誠心が芽生えてるような感じなんですけど!? 

 

「貴方様の偉大なるお力に感服いたしました。この魔王バドス!!これより貴方様の忠臣としてこの命を捧げとうございます。よろしければ貴方様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

 

「えっと……、マジ?」

 

「マジ……とは……?」

 

「ああ、本気って意味ね」

 

「おお! それでしたらこのバドスの言葉に噓偽りはございません!」

 

 ヤバイ! この人本気だよ。だって最終的に土下座のポーズもしてきたし、声に本気の圧が掛かりまくってるもん。

 どうしよう? 乗った方がいいのかな? 

 でも、私の名前ってバカ親が何を思ってつけたか分からないキラキラネームだし、……ってここ異世界だしあまり違和感がないかもしれん。

 ええーい! 女は度胸と肝っ玉だ。

 

「そ、そうか! なら、私の名を聞かせましょう。私の名は希星(キララ)と言うわ! よく覚えときなさい!!」

 

「はっはぁ~。鬼羅羅(キララ)様、今日この時より、この魔王バドスは全身全霊を持って鬼羅羅(キララ)様に仕えさせていただきます!」

 

 なんか私の名前のルビが間違って捉えている気がしなくもないが、これ以上この魔王のおじさんに付き合っていると頭痛が痛いな状態になりそうだから、さっさとこの場から消えたいしどうでもいっか。

 

「それじゃ、私はとある目的があるのでここでおさらばしますね♪」

 

「お、お待ちください。私は……私はどうすれば?」

 

 いや、知らんがな!? 適当にお家に帰ればいいんじゃない? 

 って、それは流石にマズいか……。コイツの家って言えば魔王城だろうし、そこに死んだはずの魔王が帰ってきたらどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

 

「そうだな。お前には私の野望を叶える駒になってもらおうか。だが、貴様の今の実力ではまるで足らん。しばらくは秘境かダンジョンの最奥なんかで自らの実力を伸ばすのだ!」

 

「私が自らを鍛える……? そういえば、我は生まれてこのかた今まで一度たりとて訓練などというものをしたことがなかった。……やるぞ! やってやりますぞ!」

 

 あっれ~? なんか復活なされたフリーザ様みたいなことになってるんですけど。もしかしてこれゴールデンに変身して超絶パワーアップのフラグが立ったのでは? 

 もう私どうなっても知~らない。未来のことは未来の私がどうにかしているでしょう(自暴自棄)

 

「では、私は行くとしよう。私の野望を叶えるその日までに精々腕を磨くのだな」

 

 とりあえずカッコつけた言い回しでその場は煙に巻き、転生特典の身体能力任せで全力疾走で逃げてやった。

 

 なんかちょっとしたスポーツカー以上の速度が出たけど気にしない。

 っていうか、今更ながらにあの遠くに見えていた城って魔王城だったんじゃ……。

 

 普通こういう転移させる場所って序盤の街の城とかで、間違ってもラストダンジョンの城じゃないでしょ神様!!? 

 そもそも、私が期待していたイベントってのはイケメン王子様とかカッコイイ騎士様との遭遇イベントであって恐ろしい魔王との遭遇などでは決してない! 

 

「というか私強くなりすぎでしょ!? 何なのさっきのパンチは!!! 一撃で魔王の腹に風穴ができたんですけど!!!!」

 

 誰もいない森の中で自分のトンデモパワーに叫び声を上げる。

 

 だがまだ希星(キララ)は知らなかった、この出来事が後の未来を大きく変えることになることになるとは……。

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 数年後のとある島……

 

 

 

「この禍々しいオーラは……まさか!?」

 

「ふっふっふ、流石は勇者ディールだな。この我の接近に気がつくとは」

 

 背後から気配を殺して接近していた魔王の存在に感づいた勇者は剣を抜き、背後から迫ってきた存在に対して警戒を飛ばす。

 

「ど、どうしたんだよ師匠!?」

 

「待てホルン! 確かに感じる。言われなければ気がつかなかったけど、この肌を刺すような強烈なプレッシャーは!?」

 

「ほう……。まさか、そこのガキも我の気配を察知するとは、中々いい素材を育てているようだな」

 

「やはり……。いい加減に姿を現せ魔王バドス!!!」

 

 何もない空間に闇が広がると、そこから闇よりもなお暗い漆黒のオーラに包まれた巨漢の漢が島の大地に足を踏み入れる。

 

ズシンッッッッ!!!! 

 

 大地が沈み込むのではないかと思わんばかりの衝撃がその場の全員に走った。

 

 たった一歩足を踏みしめただけでここまでの衝撃を生み出す魔王バドスに過去の奴とは別人レベルに違うと剣を持つ力を強める。

 

「──―っ随分と見違えたじゃないか。目的は私への復讐か?」

 

「ふっ、確かにかつての魔王だった頃の我ならばそうしていただろうな」

 

「では、今は違うとでも?」

 

「ああそうだ。今の我は魔王ではない! 新生魔王軍の総司令官バドス様だ!!!」

 

「新生魔王軍!?」

 

「総司令官!!!」

 

 勇者ディールの弟子であるホルンとリュウセイの2人が驚きの声を上げる。

 

「つまり、新生だとつけてはいるが、結局は貴様がトップとなって肩書きだけ変えた魔王軍というわけか!」

 

「ふっふっふ、それは違うなディールよ。確かに我は総司令官という肩書きを持ってはいるがトップではない。我はあくまであの御方の雑務を処理する雑用係にすぎんわ」

 

「はぁ!? 魔王が只の雑用係だって!! 冗談だろ!!」

 

 ホルンが魔王の言葉にアゴが外れんばかりの驚愕に陥るなか、勇者ディールは冷静に魔王が言うあの御方という存在に考えを張り巡らせる。

 

 かつて自分はあの魔王と死闘を繰り広げた間柄だ。それもたった1度だけとはいえ、両者の争いはかなりの年月を経てのことだった。

 うぬぼれではないが、魔王の性格はよく知っているつもりだ。奴はプライドは高く噓偽りとはいえ自分の上に誰かを持ってくる筈がない。

 

 ならば、奴の言う御方とはそんな奴にプライドを捨てさせることが出来るほどに強力な力の持ち主ということなのだろうか!? 

 

 頭の中に浮かんだ最悪の想像に、額から一筋の冷や汗が流れ落ちる。

 

「貴様が今こうして生きているのもその御方とやらの力のお陰か?」

 

「察しが良いな。そうだ! 我は死の瞬間、異世界の偉大なる魔神様の超魔力によって一命を救われたのだ……!」

 

「「「──―!!!?」」」

 

 その驚愕の事実に勇者ディールたち3人は声も出さずに固まってしまう。

 

 再び相まみえたかつての強敵である魔王。それも過去の頃よりも遥かにパワーアップして舞い戻ってきたというのに、そんな絶望を塗り替えてしまうかのごとく、その魔王以上の存在が控えているという事実に、さしもの勇者ディールもその胸中は穏やかではいられなかった。

 

 そしてそれは、あの人物も──―

 

 

 

そこは新生魔王城のとあるカーテンで区切られた一室。

そこに住まうことが許されているのはこの世でただ1人のみ、魔王を超えたる魔の神たる存在である希星(キララ)のみ、

 

「なんか転生して道端に倒れていたおじさんの怪我を治療したらバーン様みたいなポジションに着いちゃったんだけど―――

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

誰もいない一室で今の自身の地位に心ぶっ壊れたように叫び声を上げる希星(キララ)の胸中は今日も穏やかではなかった。

 




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