回復系聖女に憧れた子がバーン様みたいになっちゃった件について 作:リーグロード
主人公の話を書くか、魔王VS勇者の話を書くか迷ったんですが、ネタがある魔王VS勇者を書くことに決定しました。
かつては魔王城で相まみえた勇者と魔王が再び名も無き島で雌雄を決する時が来た。
「さあ、お喋りもここまでだ……。勇者と魔王が対峙した時、そこには争いが生まれるのが世の理というものだ!!」
戦闘前の会話は終わり、魔王は纏っていた漆黒のオーラを強めて戦闘態勢に入る。
ピリピリとひりついた場の空気が更に強くなり、肌を突き刺すような物理的な痛みすら感じられるほどのプレッシャーに変わっていった。
「どうやら、再びこの剣を振るう時が訪れたようだ。さあ、お前たちは早くこの場から去るんだ……!」
「そ、そんな……!? 俺も一緒に戦うよ師匠!!」
「バ……バカッタレ! お前なんかが敵う訳ねぇだろ!?」
対面する魔王に警戒して、こちらに対して目を向けずにこの場から去れと告げる勇者に食って掛かるリュウセイと、そのリュウセイをこの場から連れ出そうとホルンが説得する。
「そんなことない! 俺だって魔王と戦える戦力になるはずだ!」
「バカを言うな!! ガキの喧嘩じゃないんだ、数でどうこうの次元はとっくに超えている!! お前たちは足手まといの邪魔者でしかない!!!」
「──―っ!?」
「ほら、お師匠さんもああ言ってんだ! ここは信じて邪魔にならないように逃げるのが正解なんだよ!」
いつもの優しい言葉遣いをかなぐり捨てた乱暴な言い方に、驚愕と足手まといという現実に二の句が継げずに呆然としてしまう。
その隙をついて兄弟子にあたるホルンがリュウセイの腕を強引に引っ張ってその場から逃げていった。
(ありがとうホルン。せめて今から始まる戦いに巻き込まれない場所まで逃げてくれ)
「ふっ、弟子との最後の別れは終わったか?」
「……意外だな。魔王であった頃のお前であれば俺の弱点であるあの2人を巻き込む形で襲い掛かってくるものだと思ってたがな?」
「ふっふっふ、確かに魔王であった頃の俺ならばそうしていただろうさ。だがな、勘違いするんじゃないぞ!! この我があのガキ2匹をわざと見逃したのは可哀想などという甘い感情によるものではない。試してみたかったのさ、貴様に
握りしめる拳からタラリと青い血が滴り落ち、その眼光から魔王の言葉が本心であると納得させられる。
今のこいつは魔王でもなければ復讐者でもない。純粋なまでの力の求道者だ。
ならば、こちらも尚更に本気で挑まねばなるまい。
「そうか、だが覚悟しろ魔王バドスよ。この数年で強くなったのは貴様だけではないということを教えてやる!!」
「面白い! ならばその言葉が真実かどうか確かめてくれるわ!!!」
先制攻撃を仕掛けたのはバドスの方だった。
「まずは小手調べだ! 受けてみよ!!」
右手から凝縮されたオーラを弾丸のように放ち勇者にぶつける。
「ぬぅっ!」
目の前に迫る漆黒のオーラを凝縮された弾を高めた光の魔力を剣に集中させて受け止める。
「なにっ!?」
されど、受け止めたオーラ弾は勢いを落とすことなく、勇者はじりじりと足で地面を削りながら後ろへ押されていった。
やがて勇者の後ろに生えていた大樹に背中がぶつかり、魔王の放ったオーラ弾に押しつぶされる状況となった。
「ぬ……ぐぅ……、たぁっ!!!」
渾身の力を籠めてオーラ弾の軌道を上空へと逸らす。
そのオーラ弾が遥か上空に達すると、内包されたエネルギーが弾の形を維持できず、激しい爆発を起こした。
「ふっふっふ、この程度の児戯で死んでもらっては興醒めだったが、その心配は杞憂だったな」
「はぁ、はぁ、はぁ、……なるほど、かつて戦ったあの頃とは確かに違うようだな」
「それはこちらのセリフだと言っておこうか。昔の貴様では今の一撃を弾き返すことはおろか受け止めることすらできずにいただろうからな」
「ふっ、
勇者が皮肉をきかすも、今の一撃で現状の戦力差が魔王>勇者という図式が成りたってしまった。
勿論、戦闘中にこの図式がひっくり返るなんてことはザラにあることだが、現状で勇者が不利というのは変わりない。
「貴様のその強さ、こちらも出し惜しみは無しで全力を尽くしてお前を倒す!!!」
それでも諦めたり絶望せずに立ち向かう者のことを人々は勇者と称するように、勇者ディールの闘志に陰りは無く、剣に光の魔力をさらに注ぎ込み本来の姿である聖剣の輝きを取り戻させる。
「ほぅ、あの頃よりも洗練された眩い輝きだな」
「あの頃より成長したのは聖剣の輝きだけではないぞ!」
聖なる蒼い光を纏った聖剣を振ると、その輝きが飛ぶ斬撃となってバドスを襲う。
だが、その程度のことは過去に経験して分かっていたこと、バドスはこれに応戦して自身の纏っているオーラを巨大な手へと変化させて迎撃する。
当然ディールもこの程度のことが通じると思っておらず、バドスがオーラで斬撃を叩き潰したのと同時に爆発魔法を放つ。
「相も変わらずといったところか、コソコソと策を弄して立ち回るその戦い方はな……」
爆発魔法による一撃をまともに喰らったというのに、バドスはまるで無傷の姿で爆風の中から現れた。
だがそんなことは分かりきっていたこと、今の奴と自分との力の差は半端な不意打ち程度では覆らない程に離れてしまっている。
だからディールは足を止めずにバドスの致命的な隙を作る為に連撃を仕掛ける。
一撃目──―背後に回り込んで聖剣による斬撃を仕掛けるがオーラによって潰される。
二撃目──―高めた魔力によって聖氷魔法を直撃させて氷漬けに成功。しかし、数秒後に内部から氷を破壊されてしまい、飛び散った破片がディールを襲う。
三撃目──―高笑いするバドスに再び斬撃を仕掛けるも剣を振るう前にオーラで吹き飛ばされる。だが、それは囮で本命は注意の逸れたバドスの足元に投げ込んだ特製の爆発アイテムで、不意打ちによる足元からの突然の爆発攻撃にバドスが宙に吹き飛ぶ。
四撃目──―先に体勢を立て直したディールが空中で身動きの取れないバドスに全力の一撃をお見舞いする。
「油断したなバドス! 地水火風の精霊たちよ、今こそ邪悪を葬り去る力を与えよ!!!」
かつて魔王を倒す旅路の途中で契約した神霊級の4大精霊の力を借り受ける際の
聖剣に新たに赤、青、緑、茶、のそれぞれ4つの属性を表す色の光球が付与される。
「ぐぬぬぅぅ! 再び我にそれを撃つか、勇者最大最強の必殺技をっ──―!!?」
「貴様に再びこの技でトドメを刺す!
聖剣に付与された4つの色の光球が聖剣の蒼の光に混ざり合って黄金の輝きへと昇華される。
そのまま、黄金に光り輝く聖剣を宙を舞うバドスへと振り払い、斬撃というよりもビームと呼べるものを放出する。
「その技を真っ向から打ち破ってこそ我が汚点は
「なにっ!? 俺の技とそっくりだと!!」
バドスはその技を避けようとせず、真っ向から打ち破らんとオーラを集中させてディールの技とそっくりな漆黒のビームを放出する。
2つの光と闇の光線がぶつかり合うことで、巨大なエネルギーの余波が周囲を破壊する。
「「ぬぅおおおぉぉぉぉ!!!!」」
バドスは空中にいるため構えも万全ではなく、ディールの後に技を撃ちだしたために本来ならば実力が上のバドスの技が押し勝つことができず、両者の技は拮抗状態に入る。
「くっ、これでもまだ拮抗状態にするのがやっとか……」
「はっはっはっ!!! 随分と苦しそうな顔をしているではないかディールよ! それが全力か? ならこの勝負我の勝ちだな!!!」
バドスは空中で姿勢を正し、更にオーラの出力を上げて徐々にだがディールの技を押し返していく。
そしてついに、バドスの放つ漆黒のビームはディールの黄金のビームの大半を押しのけて目の前にまで迫ってきた。
「フハハハハハ! 貴様との因縁もこれまでだ。かつての我が汚点と共に消え去るがいい!!!」
トドメだと言わんばかりにオーラをさらに強めた一撃を加えてきた。
それが本当にトドメとなってディールの放ったビームは完全に搔き消えてしまい、聖剣でバドスのビームを受け止める。
「くぅっ……うぉぉぉぉ!!!」
「ほう、まだ足搔くか。だが、その無駄な足搔きもいつまで続くか……。見世物として存分に見物しておいてやる!」
必死になって喰らいつくディールを笑い者にしながらじっくりといたぶるように攻撃を続ける。
「まっ……だだ……! 俺は世界を救う勇者なんだ!! 例えこの命を燃やし尽くすことになろうとも、悪を滅する正義を貫く剣となるんだ!!!」
聖剣に纏っていた黄金の光がディールにも纏わりつき、それは炎のように燃え上がる。
それはディールの持つ光の魔力と命を削って捻出する生命エネルギーが混ざり合った奇跡の1つであった。
「まさか、この土壇場で奇跡を起こすというのか!?」
「はぁぁぁぁ!!!! 再び俺に力を貸し与えよ精霊たちよ!
押し負けたあの技を再び放つと、今度は先程とは逆にバドスの漆黒ビームを押し返していった。
その力は凄まじくみるみるうちにバドスのビームは押し負けていき、ついにはバドスの目の前までディールのビームが迫っていった。
「ば……バカな!? 死にぞこないの踏ん張り程度でこの我の必殺の技を押し返すだと!? ならん! ならんぞ!! 二度の敗北など我にあっていいはずがないわ!!!」
そこには笑い者にしていた余裕は一切なく、切羽詰まったような必死さがあった。
だが、その必死さを出すのが如何せん遅すぎた。ディールの再び放った
「ぐはああああああああ~~~ッ!!!!」
魔王バドスの断末魔の悲鳴と共に黄金の光のビームは天高くに消えていった。
それを見届けるとディールは今の必殺技に使ってしまった生命力の代償が一気に襲い掛かってきた。
「ぐぅ……」
手に持っていた聖剣を杖代わりにしながら片膝をつくディールの背後で自身を呼ぶ声が2つ聞こえてきた。
「師匠~!」
「お師匠さん! やっぱり、勝ったのはお師匠さんだったんですね~!!」
片膝をつきながら顔だけ後ろを振り返ると、涙を流しながら喜色満面の笑みで駆け寄ってきた。
それは本来ならば微笑ましいのだが、ディールは苦虫を嚙み潰したような顔で2人を見つめる。
「お前たち……、無事だったのは嬉しいが早くこの場から去るんだ!」
「えっ? なんでだよ師匠。さっきのあの魔王とかいうのは師匠が倒したんだろ?」
「そうだぜ! あのスゲェ光の魔力による技を喰らって無事で済むわけねぇって!」
確かに、あの雲をも貫く光の奔流をその目で見てあれを耐えられる存在がいないと疑わないのは無理ないだろうが、その技を撃った本人である勇者ディールはバドスが吹き飛ばされた方角を睨むと、空の彼方からキラリと何かがコッチへ近づいて来るのが見えた。
「……やはり!」
「え? どうしたの師匠?」
「な……なんだよお師匠さん。その表情とかさっきの去れとか言う言葉だって、あれじゃまるで魔王の奴がまだ生きているみたいじゃねぇか?」
ホルンの焦ったようなセリフがフラグとなったのか、ディールの目の前にズドン!! と何かが飛来してきた。
「…………流石はかつて一度我を打倒した奥義
そこには全身が傷だらけで光の魔力によって酷い火傷を負いながらも、しっかりと自身の足で立つ魔王バドスの姿があった。
「う……噓だろ!!? あのお師匠さんの技を喰らって生きてやがった!!!」
「そんな……!? これが、魔王バドスの力!?」
「…………」
魔王バドスの生存に驚愕するホルンとリュウセイはその事実に心の中に恐怖と絶望が湧き上がった。
そんな2人を安心させるかのように勇者ディールは立ち上がって2人を後ろに隠し、再び聖剣を構えて魔王バドスを睨む。
「ファッハッハッハ──ッ!! この我を二度も打ち負かした貴様の力は本物だと認めよう。だが、奇跡の代償は随分と重かったようだな? 今の貴様に我と戦う力が……いや、我と戦う
「ふっ……、流石だな。既に見抜かれていたか……」
ディールは剣を構えていたポーズを解いて地面に剣を刺す。
「ちょっ……!? どうしちゃったんだよお師匠さん。魔王が目の前にいるのに武器を手放すなんて!!?」
「……っは! まさか師匠!?」
ホルンはディールの行動に意味が分からず困惑し、逆にリュウセイは地面に刺された聖剣を見て何かに気が付いたようだ。
「ふん、そこの勇者の弟子よ。今の絶望的な現状を分かっていないようなら教えてやろう!」
そう言うとバドスはディールに向かって最初に攻撃したようにオーラを凝縮した弾を撃ち込む。
「はっ!!」
それをディールは即座に地面に刺さった聖剣を引き抜いて弾き返す。
「な、なにが教えてやるだよ!? そんな不意打ちでお師匠さんを倒せるなんて思うなよ!!」
「……違うよホルン。見ろ! 師匠の剣を!!」
リュウセイが指差した聖剣にはヒビが入っており、それは悲鳴のようにビキリと音をたてながら広がっていき、やがてはその刀身が粉々に砕かれていった。
「はぁ!? 今のでお師匠さんの聖剣がぶっ壊れるとか噓だろ!!?」
「違うよホルン。師匠の剣は俺たちが来た時から限界だったんだ」
「その通りだよ。俺の
「そのお陰で我もこうしてまだ生きていられるのだがな!」
「そ……それじゃ、お前が生きているのはお師匠さんの聖剣が壊れかけていたから!?」
「ご明察と言っておこうか。それでどうするんだ? 肝心の勇者はボロボロの状態に加えて武器である聖剣も壊れて使い物にならない。我も無視できぬダメージを負ったが貴様らゴミ共を片付けるのは訳ないぞ!!」
論より証拠とばかしに漆黒のオーラを全身から放ち攻撃してきた。
「「「ぐああぁぁぁぁ!!!」」」
3人共が飛んできたオーラに何もできず吹き飛ばされてしまい、無様に地面を転がっていく。
「さて……、お遊びも過ぎてしまったな。そろそろ終わらせるとしよう」
無用な手心や遊び心が思わぬ窮地を招いてしまうということを先の出来事で再確認したバドスは確実に命を絶つ為に首を斬り飛ばそうと、右手にオーラによる疑似的な剣、通称オーラブレードを作り出す。
「貴様の首を魔神様への手土産にしてやるわ!」
勇者にのみターゲットを絞ったバドスは右手に構築したオーラブレードを構えて真っ直ぐに飛びかかる。
「……魔王バドスよ。貴様は俺に戦う
立ち上がったディールは再びその命を燃え上がらせて黄金の炎を身に纏った。
『閃光破邪拳』
「ぐわっ!?」
その直後にディールの姿が搔き消えて、バドスの右肩をすれ違いざまに拳で撃ち抜いたのだ。
「す……スゲェや! 聖剣を失ったっていうのに、あの魔王に一撃かましちまったぜ!!」
「それにあの動き、後ろから離れて見てたっていうのにまるで見えなかった!?」
今の一連の動きが見えなかったことや魔王バドスに一撃を喰らわせたことに今日何度目かの驚きを口にするホルンとリュウセイだったが、技を喰らったバドスは殴られた右肩を押さえながらも不敵な笑みを浮かべていた。
「フ……フフッ、そういえば貴様のパーティーには武神と呼ばれていたあの不快な爺さんがいたな。今のも奴に教わった技か?」
「ああその通りだ。貴様を倒した後に役に立つなどと言われ、文字通り血の滲むような特訓の末に覚えた格闘技の1つだったが、まさか本当に役立つ日が来るとはな。あの人の先を見る先見の明にはいつも感謝させられっぱなしだ……」
「随分と冷静だな。今の攻撃も我の右手のオーラブレードを警戒したが故に、意識の薄い右肩を狙ったのだろう? 正解だ! もし他の箇所を攻撃していたならばすれ違いざまに貴様の首か心臓を刺し貫いていただろうからな!」
実際にその通りだ。もし仮に頭でも狙っていたのならば、オーラブレードで防いでそのままディールの体を切り刻んでいただろう。
だが、右手にオーラブレードという強い力を持ってしまったせいで、右側への注意が疎かになってしまい、その為に意識していない右肩を撃ち抜かれてしまった。加えてすれ違いざまに一撃を加えようにも右手を動かす右肩がやられてしまったが為に動けないでいたのだ。
「冷静だと? それはこっちのセリフだな。かつての貴様なら俺の
「そんな短絡的な弱点は既に克服しているわ。我は一度魔神様に復活させてもらった際に愚かにもその力を欲さんと牙を剝いたのよ。まあ、結果は今こうして新生魔王軍の総司令官をやっている時点で理解出来るだろうがな。とにかく! その時の愚かさを教訓に、我は肉体強化だけではなく、精神力をも鍛えていたのだ」
「そういうことか、本当にこの数年で厄介な相手に成長したものだ」
(俺が接近戦も充分に戦えると知ってオーラブレードを解いた。威力がデカイぶん隙に繋がりやすくカウンターで諸刃の剣になることをよく理解しているな)
冗談抜きで肉体的にも精神的にも数段もパワーアップして目の前に現れたバドスに悪態をつきたい気分だが、それと同時に感嘆の声を上げたい気分でもあった。
よくぞここまで自らを鍛え上げ成長したものだと。同じ戦いの世界に生きる者として誇りに思いたくなるほどの強さだ。
惜しくらむのは、それを正義ではなく悪に利用してしまっていることだ。もし少しでも良い方に考え方を変えることができたならば、きっと自分よりも勇者にふさわしい人物になったであろうと思わずにはいられなかった。
「とはいえ、そんなタラればを考えている暇はないか……」
「なにをブツブツと言っている?」
「お前の倒し方を考えていたのさ!」
「ほざけぇ! 既にその状態を保つだけで精一杯な分際で、この我を倒せると思っているのか!?」
ディールの挑発を受けて飛びかかるバドスだったが、それでも頭の方は冷静なのか打ってくるパンチやケリの動きは最小限に抑えつつ、的確に急所となる場所を狙ってきている。
「フハハハハハッ!! 必殺技の撃ち合いには負けてしまったが、どうやら格闘技に関しては付け焼き刃! それもこの我よりも未熟のな!!」
「ぐっ!! がはっ!!」
即座に倒されることはないが、それでもバドスの攻撃はディールの防御をすり抜けて体に命中し、逆にディールの攻撃は避けられるか防がれてしまう。
このままいけばディールが負けるのは目に見えているが、それでも殴られ続けているディールの眼からは一切の闘志が揺らぐことは無く燃え続けていた。
(なんという眼をしている! 勇者を相手に余裕をみせては返り討ちにあう危険がある。次の一撃で完全に終わらせてやる!!)
「これで終わりだ勇者ディール!!!」
「その一撃を待っていた!!!」
ドゴォォン!!!
「な……なに……!?」
ディールはバドスの攻撃を防御を捨てて無防備にその身で受けてみせた。
その代償は大きく、バドスの腕はディールの腹部を貫通しており、誰の目から見てもそれが致命傷だと分かるものだった。
「き……貴様!? なぜ無防備に受けた。貴様ならば避けることは無理でも耐えることはできたはずだ!!」
「ゴフッ……!! 確かに、俺なら今の攻撃を耐えることは出来るだろう。だがそれは俺の両腕を犠牲にしてだ。そうなれば後は詰め将棋のようにお前になぶり殺しに合うだけだ。ならばいっそのこと、
「未来にだと……!? ぬぅ!!」
ディールの腹を貫いたバドスの腕が引き抜けなくなっている。
どうやら、ディールが最後の力を振り絞って抜けないようにしているようだ。
「うぐぐぅぅ……!! 最後まで悪足搔きをしよって!!」
「俺は確かにお前よりも格闘技に関しては未熟者だ。だがな、戦闘の
自身に残った魔力と生命力を全て右手の拳に集中させて最後の一撃を決める!
「お前はもう逃げられない! これが俺の勇者としての最後の一撃だ!!」
『聖刻印章』
「なっ……がああぁぁぁぁ!!!」
バドスの胸に叩き付けられた拳から、地水火風に加えて光の魔力によって出来た5種の属性によるルーン文字による紋章が刻み込まれた。
これは一種の封印術にも似たような効果で、5種類の属性がお互いの力を増幅しあって、まともな方法では解除することは不可能となっており、その強すぎるエネルギーが胸に刻み込まれたせいで体内のエネルギーがまともに練ることが出来ずに魔法はおろか普通の者ならば歩くことさえ困難になるレベルになってしまう。
「ただしこれには欠点があってね。強すぎるが故にかなりのエネルギーを溜めなければ発動できないし、直接相手に叩き込む必要があるんだ」
「こ……こんなふざけた紋章を俺の胸に刻み込むとは……!!」
「ははは……、紋章のデザインの文句は俺に言うなよ。この技を開発したのは武神ラガン様と4大精霊たちなんだからさ……。がはっ!!」
ディールは腹に風穴を開けられた上に全エネルギーを使用して聖刻印章を発動させたのだ。もう既にその命は風前の灯火となっており、その金髪の髪も真っ白に色を失っていき、肌も蠟人形のような色へと変わっていく。
その姿を見てバドスの頭の中に湧いた怒りの感情が消えてゆき、落ち着いた雰囲気を取り戻してゆく。
「……勇者ディールよ。貴様の命もこれまでだが、もし貴様が我らが新生魔王軍に加入するというのであれば、魔神様にお願いしてその傷を治してやる。どうだ? 悪い話ではなかろう」
「…………断るよ」
小さく首を振って優しい声で断りの返事を返すディールに、バドスも納得したように目を閉じる。
「そうか、貴様ならそう言うだろうな。ならばこれ以上の会話も無駄だな。せめてもの慈悲だ。そのままここで朽ちるがいい……」
もはやバドスの腕を拘束し続ける力も無くなり、するりと呆気なくディールの腹部から腕を抜くことが出来た。
だが、ディールが力尽き欠けようとも胸に刻まれた紋章は消えることなく効果を発揮し続けていた。
「ぐぬぬぅぅっ、はぁ、はぁ、厄介な紋章だが、新生魔王城へ帰ることくらいは問題なさそうだな」
バドスがディールの死を見届けることなく背を向けて城へ帰ろうと足を踏み出したその時──―
「待て!!」
「ん?」
ディールの弟子であるリュウセイが短剣を構えてバドスの前へと立ち塞がった。
「あああ……、何やってんだよリュウセイ! し、死んじまうぞ!?」
「そこの小僧の言う通りだ。大人しくそこら辺の草むらで怯えて震えながら身を隠していれば、貴様らガキ共の命くらい見逃してやったものを……」
「ふざけるな! 師匠を殺されて黙って見逃す筈がないだろ!!」
「っ! 見逃すだと……? この魔王バドスに向かって貴様のようなガキ風情に見逃される筋合いはないわ!!」
「ぐあっ!」
「リュウセイ~っ!!」
リュウセイの見逃すという発言に腹を立てたバドスは、弱体化していながらもそれを感じさせない動きでリュウセイの鳩尾に蹴りを叩き込み吹き飛ばした。
「ぐふっ! かっはっ……!!」
「おい! 大丈夫かよ。無茶だぜリュウセイ! あのお師匠さんでも歯が立たなかった相手に俺らがいくら束になって襲い掛かっても無駄だって!!」
吹き飛ばされたリュウセイを抱き起すと、身悶えしながら呼吸が安定してきたリュウセイに戦いは無謀だと言うと、リュウセイがホルンの胸ぐらを掴みあげる。
「そんなことない! ホルンは聞こえなかったのかよ!? 師匠があの魔王に向かって言った言葉を……!!」
「…………もしかして未来に希望を託そうって言葉か?」
「ああそうだ。その未来ってのは誰に向けて言った言葉だと思う? 魔王かそれとも見知らぬ誰かか? 違うだろ! 俺たち勇者の弟子に言った筈だ!!」
「リュウセイ……」
「もしホルンがここから逃げ出したいって言うのなら俺は止めたりはしない。でも、俺は師匠の意思を……未来を託された者として戦うよ!!」
「―――っだ~もぉ~!弟弟子にそこまで言われてはいそうですか! って逃げ出せる訳ねぇだろ!! 俺様だってお師匠さんから修業を受けた弟子の1人だ。魔王ぐらいやってやんぜ!!」
「ほぉ~お~、随分と生意気な口を利くではないかガキ共が!! いくらこの我が弱体化していようとも、貴様らのようなちんけなカス2つを消すのに10秒とかからんぞ!!」
ほぼ初となる実戦が魔王との戦いなど歴史上でも未だかつてない不幸な初戦闘を送ったのはこの2人が初めてだろう。
そんな絶望的な状況だが、勇者ディールの教えと託された未来を胸に秘めた2人の眼には戦う闘志が湧いており、その姿は勇者ディールに重なるものがあった。
「ほう、最初はただのゴミ掃除かと思ったが、……気が変わったぞディールの弟子たちよ! 貴様らは1人残らずこの世から消し炭にしておいてやろう」
「やれるものなら―――」
「―――やってみやがれ!!」
リュウセイが短剣を持って突撃し、ホルンが後ろから魔法で援護射撃を行う。
「……その意気やよし。だが、この我を相手に遅すぎる!」
果敢に攻めるリュウセイの剣戟も、後ろから放たれる火や氷や風といった多彩な魔法も全て片手で凌ぎ切り、空いた片手でリュウセイの腕を掴むと地面に向かって叩きつけた。
「ああっ! ぐわっ! うえっ! がはっ!」
「リュウセイ~っ!」
何度も何度も雑巾を振り回して遊ぶ子供のようにリュウセイを叩きつけ、そのリュウセイが魔王バドスに掴まれているため魔法も使えずただ叫ぶことしかできないホルン。
やはり、いくら弱体化しようとも魔王に子供2人が敵うはずもなく、未来への希望は呆気なく崩れ落ちそうになった。
「ふん、やはり貴様らではどれだけ意気込んでみたところで、到底奴の跡を継ぐには実力が足りんわ……」
ボロボロになったリュウセイを投げ捨てると、確実に殺す為に両手に魔力を溜める。
「くっ、この紋章のせいでたかがこの程度の魔法を撃つにも時間がかかる」
魔王バドスがトドメの魔法を放つ前に、ホルンが投げ捨てられたリュウセイを揺さぶり起こす。
「おい! おいしっかりしろリュウセイ!! お師匠さんから未来を託されたんだろ? なら、こんな所で突っ伏して倒れてんじゃねぇよ!!!」
「……っぐ! 分かってる。俺はまだ……師匠の教えを何もいかせちゃいない!!」
フラフラになりながらも立ち上がったリュウセイに、涙を拭いてホルンも魔王に向き直る。
「正直言っちまえば後悔半分に期待半分な気持ちなんだぜ! さっきは手も足も出せずにボコスカにやられたけどよ。あれはお前の全力じゃねぇって俺様は知っているからな」
「もしかして俺が師匠の勇者選別試験に見せたっていうあの隠された力ってこと……?」
「そうだ! あれをお前がここで使えば必ず勝てる! 俺様はそう信じてるぜ!!」
「でも……」
ホルンからの信頼に肩が重くなるリュウセイはつい弱気なことを口走りそうになる。
それをホルンが今まで見せたことのない凄い顔で怒鳴り散らして止める。
「ふっざけんじゃねぇぞ! でももヘチマもあるか!! お前がお師匠さんから未来を託されたから戦うって決めたんだろ!! 男なら自分で言ったことの責任ってものを取りやがれ! お師匠さんはそれを見事にやってみせてきたんだぞ!!!」
「──―っ!? そうだね。俺が間違ってたよ。例え俺にその力があろうがなかろうが、師匠の意思を継いだ者として全力で戦わなくちゃいけないんだ!!」
ホルンからの厳しい言葉にリュウセイの心と体に魔王を倒せそうな勇気とパワーが湧き上がってきた。
「くっくっく、友情という三文芝居はお終いか? なら、こちらの準備も終わったことだ。2人纏めて仲良く地獄に落ちるがいいわ!!!」
『サタンフレイム』
激しい炎の渦が一直線にリュウセイたちに向かって迫ってきており、とてもではないがこれをどうこうする
このままでは2人共が炎の奔流に飲み込まれてしまい、骨すら残らずに燃え尽きてしまうのが容易に想像することが出来る。
だが、諦めない者に希望が舞い落ちるように、リュウセイの必ず勝つという意思が眠れる力を奇跡的に呼び起こす。
ディールが巻き起こした奇跡が黄金の炎ならば、リュウセイが巻き起こした奇跡は紅い紅蓮の炎のオーラだった。
「これが俺の全力だぁぁぁぁ!!!」
『ドラゴンブレイク』
龍を模った紅蓮の炎のオーラが魔王バドスの放ったサタンフレイムにぶつかりあい、鍔迫り合いになる。
「ぬぅ!? 我がサタンフレイムを止めた? ……いや! あのオーラの色はまさか!!?」
自身の放つ魔法の向こう側から見えるリュウセイの纏うオーラの色に驚愕して目を見開く。
「よっしゃー! やっぱりお前はスゲェぜリュウセイ!! そのまま魔王の魔法なんざ跳ね返しっちまえ!!」
「──―っ! ごめんホルン。このままじゃちょっと勝てそうにない」
最初は互角に打ち合っていたように思えたが、それでもまだ力は足りておらず、目に見えて魔王の魔法がリュウセイの技を押し切っていく。
「はぁ!? ちょっと待てよ。お前が負けたら……クソぉ!! 俺も力を貸してやるから負けんじゃねぇぞ!!」
『ゴクマフレア』
ありったけの魔力を炎に変化させたホルンの魔法で再び拮抗状態へ戻る。
このままではジリ貧になってしまい、戦いに時間を掛けて不利になるのはバドスの方だ。
故に、バドスは予測も出来ない攻撃に出る。
「やはりガキとはいえ勇者ディールの弟子か……。これを使えば新生魔王城へ帰るのも危うくなるが、将来の天敵になり得る貴様らをここで殺すことが出来るのならお釣りがくるわ!!」
ビッ!
「なっ!? があっ……!」
魔王バドスの奥の手という程のものではないが、自身のエネルギーを眼に集中させて放つ怪光線を使用し、リュウセイの胸を貫いたのだ。
「──―っ! リュウセイ!!?」
「これで本当にお終いだ! 骨ごと残さず消え去るがいい!!」
「クソったれぇ!! ──────」
最後にホルンが何か言っていたようだが、残念ながら魔王の魔法による破壊音で誰の耳に入ることなく2人は獄炎の渦の中に消えていった。
「ふっふっふ、ようやく終わったか。……ごほっ!?」
勇者ディールによって刻み込まれた紋章によって体を滅茶苦茶にされたというのに、その状態で最上級魔法に加えて無理矢理に怪光線を出したものだから、体内のエネルギーの枯渇に凄まじい疲労が襲い掛かってきた。
「さっきあのガキが見せたあのオーラはまさか……、いや、我の炎によってそう見えただけの見間違えか。そうでなければ今ここで死んでいたのは我の筈だからな……」
重症を負ってズタボロになった体を引きずりながら、魔王バドスは新生魔王城へ帰っていった。
──―リュウセイたち、勇者ディールの弟子の生存を確認せぬままに……。
第2話で最終回並みの激闘を繰り広げましたが、正直言って疲れました。
この話を書くためにわざわざ古本市場にいってダイ大の2巻を買いましたよ。
魔王さまの一人称を我にして、勇者の一人称を俺にしたんですけど、書いている途中でダイ大に引っ張られて一人称がオレ、私になっていることに気がついて修正するというのが何回もあって大変でした。
2話以降の続編を
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続けて
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しない
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さっさと主人公を出せ!