回復系聖女に憧れた子がバーン様みたいになっちゃった件について   作:リーグロード

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長らくお待たせしました。1月に投稿してからかなりの時間が過ぎてしまいました。


新生魔王軍幹部登場

 勇者とその弟子たちとの戦いを終え、傷だらけになりながらも魔王城への帰還を目指していると、待機させておいた部下の鳥獣型のキメラモンスターが運良く心配して迎えに来ており、なんとか無事に魔王城へ帰還する事が出来た。

 

 今の新生魔王城は、かつてバドスが根城にしていた場所ではなく、キララが1から場所を選んで作り直した新たな城で、その外観は邪悪さとは無縁なキララが前世でお気に入りだった小説の主人公が住まう白亜の城をイメージして建てられたものだ。

 

「はぁ、はぁ、なんとか魔王城へは帰れたか……」

 

 傷を負った体を引きずりながら、勇者討伐の報告と傷の回復をしてもらおうとキララがいるであろう玉座の間に向かおうとするハドスに声をかけられる。

 

「おやおや、新生魔王軍総司令官ともあろう者が何とも無様な姿だな」

 

 馬鹿にしたような声が聞こえると同時に、城を支える柱の影が膨らみ、吹き上がる。

 そんな影が空気に溶けるように薄れていき、やがてその中から薄黒い肌と特徴的な長く尖った耳をした外見は20歳ぐらいの闇妖精(ダークエルフ)が姿を現した。

 

「なんだ貴様かアウラよ」

 

「なんだとは随分な言い草だな。それにしてもその様子、どうやら勇者の実力は想定以上だったようだな」

 

 馬鹿にはしていてもバドスの実力を認めていたアウラはその傷だらけになった体を見て、勇者がどれほどの強敵であったのかを知る。

 

「ん? おお!! バドス様そのお怪我は一体?」

 

「面倒なのに見つかったな」

 

 耳が痛くなるような大声でやってきたのは下半身はワニ、胴体はクマ、腕はゴリラ、尻尾はトカゲのような作りで、頭部はライオンのキメラ型モンスターだった。

 その姿を見て耳に手を当ててアウラがさっさとその場から去っていった。アウラのようなエルフ種は物静かな森で暮らす為、大きな音を苦手としており、大声が標準装備なこいつが嫌いなのだ。

 

「……っち、消えよったか。まあいい、お前もそう声を出すなアルダートよ。我の体の傷に触れるな!」

 

「おお、これは申し訳ございません!」

 

 アルダートは元バドスの配下である魔王軍四天王のウチの一体だった。

 当時は勇者ディールに敗れたものの、キメラタイプのモンスターは生命力が強く半死半生のまま巣穴で眠りについていたら、既に勇者側の勝利で戦争が終わっており、目的もなくふらついていたところをキララを襲って返り討ちにあい保護されたのだ。

 

「その傷はもしや勇者の奴に……?」

 

「それ以上は口にするな。なに、奴は確実に我が始末した。問題はない」

 

「うおおおおぉぉぉ!!! 流石はバドス様ですな。あの勇者をたった1人で始末なされるとは!!」

 

 苛立たしい表情でアルダートの言葉を遮ったバドスは不敵に笑みを浮かべて勇者討伐を教えてやると、アルダートは雄たけびのような声で歓喜する。

 

「ンフフフフ……、この新生魔王城でその様な下品で耳障りな声を出すとは、少~しばかし常識がないんじゃありません?」

 

「なんだと!?」

 

 奥の通路から呆れたような声が聞こえる。その相手を見下さんといった感情を含んだ声音に、ムカッ! としたアルダートは敵意を剝き出しにして奥からやって来る者を睨みつける。

 通路の奥から姿を見せたのは、ピエロのメイクと中国の暗殺者のようにダボっとした暗器を隠しもったような服装の妖しさ全開の男だった。

 名をヒルキアといい、アウラやアルダートが新生魔王城の幹部だとするならば、ヒルキアは情報や暗殺などの裏の幹部といった立ち位置に属する者だ。

 

「それはそうと、バドス君は早くキララ様にお会いになった方がいいんじゃないかい? その傷もそうだけど、お胸の方にも~っと厄介な爆弾を抱えてるようだしね♡」

 

 指で円を作り、望遠鏡のようにしてバドスの胸をじっくりと見つめる。

 

 服で覆い隠して見えないようにした上で、少ないながらも魔力で細工したはずの聖刻印章を即座に見破るとは、流石は情報に関する分野については新生魔王軍で随一の実力者と認めざるを得ないだろう。

 

「ふん、貴様に言われんでも分かっておるわ。それよりも、我が貴様に任せた仕事は──―」

 

「勿論、完璧に終わらせておいたよ。その詳細は既に報告済み。今はキララ様からのご命令を遂行中さ♪」

 

「なに、キララ様のだと……?」

 

「そうだとも。ボクもキララ様にお願い事をされててね。新生魔王軍幹部を全員招集せよとの命令を下されたのさ」

 

「っということは、俺もお呼び出しされたということか!?」

 

 突然の招集命令にアルダートが驚くがバドスはこの招集命令の狙いがなんなのか薄々とだが勘づいている。

 既に新生魔王軍は世界を支配出来るほどの莫大な戦力を有している。

 

 つまり、この招集命令は世界征服の合図でもあるということだ。

 

「くっくっく、なるほどな。アルダートよ、貴様は少し後から来い。どうせ他の者がやって来るまで時間はかかるだろう。それまで貴様にはヒルキアの手伝いでもしておけ」

 

「ワァ~オ☆ボクにも助手が出来るなんて。それじゃ一緒に皆を呼びに行こうかアルダート君♡」

 

「ぐっ……、バドス様からの命令ならば仕方ないな。それではバドス様! また後でお会いしましょう」

 

 嫌そうな顔をしながらアルダートは渋々とヒルキアの後について行った。

 それを見送ったバドスはキララが待っているであろう玉座の間へと足を運ぶ。

 

 謁見の間への道すがらにバドスは過去の事を思い出す。

 

 キララ様と初めてお会いしてから早数年の月日が経った。

 初対面の我の印象は最悪の一言に尽きるだろう。命の恩人であるキララ様に、あろうことか敵意をもって襲い掛かってしまった。

 

「フッ……、今となっては己の愚かさに溜息すら出るな。──―うぐっ! 傷が酷く痛む。早くキララ様の元に行かねば我も勇者の後を追ってしまいかねんな」

 

 ジョーク混じりに笑うと痛む体を引きずってキララの元へ急ぐ。

 

 

「失礼いたしますキララ様! 至急お目通りをお願い致したいのですが!」

 

 玉座の間の大きな扉の前で中に声が聞こえるように大声で謁見の申し出を行う。

 それに対して、中からの返答は無言ではあるが、玉座の間の扉が独りでに開きだした。

 これはつまり、バドスにキララへの謁見の許可が下りたということだろう。

 

 視界に飛び込んできたのは広く豪華な造りの部屋で、幻想的という言葉以外は見当たらない神秘さすら感じるような調度品や宝石で作られたシャンデリアが吊るされており、ここが魔王城であるなどと思えないほどの美しさだった。

 

 だが、本当に目を引くのは、この部屋の中心に設置されている黄金と水晶でできた玉座に座す、冬の夜空を思わす腰まで伸びた黒髪ロングに雪のような色白さに、その瞳は万人を魅了せんがほどの妖しい色香を含んだ、まさに女帝と評するような印象のとびきり美人であろう。

 

「……来たか。無事ではないとはいえ、こうして私に会いに来れたということは勇者の討伐は成功したということでいいのだな?」

 

「はっ! キララ様。かなりの深手を受けましたが勇者めを打ち倒すことが出来ました」

 

 なんと、驚くことに玉座に座る女性はキララだった。僅か数年の月日でかつては学生の少女が大人の女へと成長したのだ。

 そうなった理由は神の転生特典による内包されたエネルギーが体に影響を及ぼしたのが1つと、新生魔王軍を結成するまでの激動の日々が関係するのだが、その話はここでは割愛させてもらおう。

 

 そんなことより―――

 

(え~、勇者を倒せるレベルまで成長してるとは思ったけど、なんやかんや主人公補正とかで生き延びたりして失敗報告になると思ったのに!!!)

 

 顔には出てはいないが、心の中では顔面蒼白レベルで驚愕しており、バドスの体の傷を見てそれはもう激しい激闘があったんだろうな~っと現実逃避気味に勇者とバドスの戦いを想像する。

 

 バドスは深々と頭を下げて勇者討伐の報告を済ますと、キララは表情1つ変えずに昔を懐かしむようにバドスに語り始める。

 

「そうか……。そういえばあの日、貴様は勇者に敗北して死に掛けていたところを私が助けたのが切っ掛けだったな」

 

「そうですな。その頃の私は愚かにもキララ様に歯向かい返り討ちにあってしまい腹に風穴を開けられてしまいましたな」

 

 クックックと笑いながら自らの過ちを懐かしむが、普通は腹に風穴を開けられればトラウマになるだろう。

 しかしながら、魔王であったバドスにとってその程度のことは笑って水に流すくらいの器を持ち合わせている。

 

「うっぐっ……!? はぁ、はぁ、はぁ、昔を懐かしむのもそろそろ限界のようですな」

 

 懐かしい思い出話を語っている途中、思い出したかのように口から血を吐くバドスは、胸を押さえながらその身を一歩前に差し出し、キララに自身の身を任せる。

 そこに戸惑や躊躇などは一切なく、その様子からこの傷を治してくれるという全幅の信頼をキララに置いていることが分かる。

 

 そしてその信頼通りにキララは手をかざすだけで、傷だらけのバドスを一瞬で完全回復させる。

 

「おおっ! 勇者から受けた傷が一切消えて無くなった!?」

 

 体中にあちこちあった傷がカサブタの1つすら残らず綺麗さっぱりと消えて無くなった。

 この世界にも回復魔法はあるにはあるのだが、並の者で切り傷1つすら癒すのに数分はかかり、最上級者と呼ばれるような聖人や聖女ですらこれほどまでの重症を癒すのにはおおよそ2週間以上はかかるだろう。

 

 だが、そんなキララの回復チートをもってしてもハドスの胸に刻み込まれた聖刻印章は消えてはいなかった。

 

「ふむ、傷の方は全て癒すことは出来たが、その胸に刻み込まれた奇妙な物は取り除くことは出来なんだか……」

 

 小癪なと言わんばかりに、バドスの胸に刻まれている紋章を睨みつけるキララだったが、どうしたものかと少し考えると、よし! と声を出して手に魔力を込めてバドスに声を掛けようとしたその時だった。

 

「遅ればせながら、キララ様。ご命令通りに新生魔王軍全幹部の招集を完了させました!」

 

 天井からヌルリといった感じで登場したのは先程廊下ですれ違って別れたヒルキアだった。

 

「ふん、貴様かヒルキアよ。随分と早かったではないか」

 

 折角の2人きりという状況を早々に壊された為に、バドスは少し不機嫌そうにヒルキアに対して言葉を吐く。

 

「ンッフッフ、あんまりモタモタしているとバドス君がやまし~い気持ちでキララ様に何をするか分かったもんじゃないからね。大急ぎで幹部の招集を終えたのさ」

 

「んなっ!?」

 

 心外だと言わんばかりに顔を歪めるバドスだが、2人きりで話したいという思いも無かった訳ではなかったので反論は出来ずにいた。

 

 そのすぐ後、ヒルキアの後ろから続々と新生魔王軍の幹部たちが姿を現してきた。

 

「ぶあっはっはっ!! バドス様、このアルダート! ご命令通りに全幹部を招集しましたぞ!」

 

『新生魔王軍“6大魔将” 混獣王アルダート』

 

 ヒルキアの後ろから一番最初に現れたのは招集を手伝うようにと命じたアルダートだった。

 どうやら相当にヒルキアと一緒に行動するのが嫌なようで、バドスの思いを汲み取ることなく文字通り全力で幹部招集をやり遂げたのだろう。

 

「キララ様と2人きりになろうと企んでいたようだが、狙いが裏目に出たな。アルダートの奴め、自分の部下をかき集めて速攻で俺達を呼びに来たぞ」

 

『新生魔王軍“6大魔将” 影の支配者アウラ』

 

 更にアルダートの後ろから先程別れたアウラが姿を見せる。

 その顔にはしてやったりといった感情や貴様1人だけにおいしい思いをさせてたまるかといった心情が読み取れる。

 

「やれやれ、仲間うちで喧嘩とはな。キララ様の機嫌を損なわれぬ範囲でするならばよいが、もしキララ様をご不快にさせるような事態にまで発展すれば──―ッ!!!」

 

『新生魔王軍“6大魔将” 邪光龍デオドラン』

 

 強烈かつ凶悪なまでの殺気で脅しをかけてくるのは、新生魔王軍でも屈指の戦闘力を誇る世界でも数少ない龍種のウチの1体。

 本来は褐赤の鱗を纏った巨大な龍の姿をしているのだが、魔王城の室内ということもあり、現在は魔法で赤黒色の髪をした男に変身している。

 普段は太陽を思わせる温厚さを見せる性格ではあるが、恩人であり敬愛するキララの事になるとその態度は豹変し、邪龍並の殺意と悪意で襲い掛かって来るのは幹部の中では常識であった。

 

「デオドラン! 貴様もいちいち熱くなって殺気を漏らすな。キララ様の御前だぞ!!」

 

『新生魔王軍“6大魔将” 竜殺しの魔槍士リョーマ』

 

 イライラを隠そうとせずに床に自慢の魔槍を叩き付けながら不愉快な殺気を放ち続けているデオドランに悪意をぶつけるのは、龍という生物に対して相性最悪とも呼べる存在。

 かつて龍と人とが混じり合って生まれし神に愛された神秘の一族である竜人族の里を壊滅させた恐るべき男。

 その手に持つ槍はかつては竜人族の秘宝と崇められし神聖な物であったが、幾人もの竜人族の血と悲鳴を吸込み魔槍と化したものだ。

 

「リョーマの言う通りだ。キララ様の為とはいえ、その殺気は少々考えなしの愚行と吐き捨てねばなるまい」

 

『新生魔王軍“6大魔将” 裏切りの英雄エピタス』

 

 炎と牙を模した大剣を背負った色黒の優男のような風貌だが、その身に秘められた力はこの場にいる誰よりも力強く禍々しさを放っている。

 その反面、常に人当たりの良い笑みを浮かべているのが逆に恐ろしさを醸し出している。

 

「我らが女王たるキララ様の元に強者であれど愚物は不要、いっそのこと死んでみますか?」

 

『新生魔王軍“6大魔将” 堕ちた魔精霊ラーク』

 

 その見た目は童話に登場する湖の女神のような容姿だが、その目は毒々しく、美しい髪もその色は灰をかぶせられたかのように色褪せたような色をしていた。

 とはいえ、その姿が逆に妖艶さを醸し出しており、そこいらの男どもなら一目で心奪われてしまうだろうが、その口から発せられる茨のごとく棘のある言葉に撃沈されるだろう。

 唯一の例外と言えば彼女の今の生き甲斐であり、崇拝の領域に立つキララぐらいだ。

 

「ふふ、こうして見ると壮観だな。この世界で指折りの実力者たちが一堂に会して私の前に立っているのだからな」

 

「光栄なお言葉をありがとうございますキララ様。ですが我々などが束になっても敵わない強さと美しさの頂点にあらせられるキララ様のお姿と比べられたら雲泥の差でございましょう」

 

「しかり、エピタスの言う通りですな! 我ら程度の集まりなどキララ様の至高のお姿と比べられたならばとてもとても!!」

 

「そ、そうか? そう言ってくれるのは嬉しいところだが、あまり持ち上げすぎるな恥ずかしい///」

 

 エピタスとアルダートの褒め言葉の返しに他の幹部たちもウンウンと無言で首を縦に振って肯定し、キララも周りからの賛美に困惑しながらも赤らめた照れ顔を腕で中途半端に隠す仕草に、その場にいた全員が無意識に微笑みを浮かべる。

 

「おっほん! 私を褒めて持ち上げてくれるのは嬉しいが、そろそろ本題の方に移ろう。……の前に、バドス貴様の胸につけられたそれを外すとしようか」

 

 誤魔化すように話題を変えるようにバドスの胸につけられたソレを指さす。

 

「あれ~? バドス君まだその胸のやつをどうにかしてもらってないんだ~?」

 

 ん~? っと覗き込むようにしてくるヒルキアを鬱陶しそうに睨みつけるバドスだが、それを無視してバドスの胸につけられた聖刻印章を解除しようと動き出したキララに待ったをかける。

 

「お待ちくださいキララ様! そのお心遣いに感謝の意を捧げたいとございますが、この胸の聖刻印章を消すのは少しばかしお待ちくださいませぬか!?」

 

「「「「「「──────」」」」」」

 

 バドスがキララからの善意を拒絶した瞬間に、6大魔将全員から凍てつくような殺意を向けられる。

 あのバドスに忠誠を誓っているアルダートですら他の5人と変わらない殺気を送ってることから、それが新生魔王軍にとってどれだけの無礼な行為かは見当がつくだろう。

 

「はぁ、これお前たち少しは殺気を押さえんか。息がつまってしまうわ」

 

(いや、皆の殺気が怖いんだけども~)

 

「「「「「「も、申し訳ございません!!」」」」」」

 

「──―っ」

 

 キララの鶴の一声によって6大魔将全員が謝罪と共に殺気を引っ込める。

 

 だが、6大魔将全員の殺気によって針の筵となっていたバドスはそのことに安堵するどころか、その顔色を悪くする。

 もしキララ様の機嫌を損ねたということで見限られでもしたらと脳裏にチラついた最悪な未来を想像し、殺気を向けられても微動だにしなかった手足が震えだす。

 

「──―そう震える必要はない。私はお前に対して失望や落胆といった想いは抱いてはない。だが、1つ聞くべきことがある。これは私はあまり気にはしてはいないが、他の者達が気にしているだろうからな……」

 

 キララはバドスを取り囲む6大魔将を見渡しながら、また先程のように殺気を放たないか、あるいは抑えきれずに飛び掛からないか不安になりながらバドスに問い掛ける。

 そして、肝心のバドスは失望や落胆していないというキララの言葉に内心で安堵し、ホッと息を吐いて手足の震えを止めてキララからの次の言葉に耳を傾ける。

 

「では聞こうか、その胸に刻まれし聖刻印章を消すのを何故止めた? それは貴様は当然として我らにとって百害あって一利なしの代物だ。そんなものを捨て置く理由を聞かせよ」

 

「──―こ、これは、我がライバルである勇者が残した最後のもの。私はかつて奴に1度敗れました。続いての再戦は必殺技の撃ち合いに負けて2敗し、最後は奴を討つこと敵いましたが、私と奴との戦績は1勝2敗と負けております。これは、私のプライドの問題。いかような処分もお受けします。ですから、この奴が残した聖刻印章は私の手自らで解除したいのです!!」

 

 そう言って顔を上げるバドスの覇気にキララは納得がいったが、キララ以外の全員は納得した様子は見せず、先程よりもずっと重圧的なまでの殺気がバドスを襲う。

 

「──―っぐ」

 

 先程とは桁違いの殺気に物理的な圧さえ感じて体が軋みを上げる。

 こちらも対抗しようとすれば殺気如きで苦悶の声を上げることは無いのだが、逆の立場ならば自分も同じようにしただろう。

 それ故に抵抗らしいものは一切せず、6大魔将全員からの制裁代わりの殺気を甘んじて受け入れている。

 

「もうよせお前たち…………」

 

「しかしキララ様!? 奴は軍よりも自らを優先させている! 仮ではございますが、キララ様の代わりを務める男がその責任を放棄してプライドを優先するなぞ言語道断かと!!」

 

「しかり!! エピタスの言う通りかと!! いくらバドス様といえどその責任の放棄は厳罰を受けなければありますまい!!」

 

「俺も2人の意見に賛成です。組織よりも個を優先する者をトップに立たせる気はこの場にいる全員が許しません。なにより、キララ様の善意を己のプライドが理由と言うだけで拒否することが何よりも許せん!!」

 

「ああ、そうだな。罰ならば我が牙で刺し貫いてやろうか!」

 

「まったくだ。俺様の槍で串刺しにして吊し上げも一興だろう」

 

「貴様の首を跳ね飛ばし○○○(ピー)した後に○○○(ピー)に漬け込んで○○○(ピー)してくれようぞ!!!」

 

 6大魔将全員がバドスの厳罰を望んでいるようで、殺気と怒気の入り混じった声でバドスを非難しながらキララに意見する。

 特に口の悪い魔精霊のラークは思わず伏せ字にしなければいけない罵詈荘厳を並べ立てており、いくらキララといえどちょっとやそっとの弁護ではどうにもできそうにない雰囲気であった。

 

「ンンン! ならボクちゃんにいいアイデアがあるよ」

 

 この悪い雰囲気を断ち切るようにいつの間にかバドスの頭上の天井に逆さまに張り付いていたヒルキアが声を出して皆の注目を集める。

 

「確かに今のバドス君の発言はちょ~っとばかしの騒ぎじゃないくらいに不忠義なものだったよね。でも、そのプライドの高さがバドスのいいところの1つじゃないか。それを皆で寄ってたかって攻めたてるのは可哀想だよ~」

 

 そう言って天井から飛び降りてバドスの目の前に立つと、サーカスのピエロのように目立つYのポーズで再びその場の全員の注目を集める。

 そして、指を1本立てて厳罰代わりの代案を提案する。

 

「皆ももうすでにこの場に集められた時からなんとな~くこの場に集められた理由を察したんじゃない?」

 

「「「「「「ッッッッ!!!!」」」」」」

 

 その言葉の意味をその場にいる全員が理解する。

 

「そうか、気づいていたか。なら後にしておく理由もなし、皆をこの場に招集した訳を話すとしようか。バドスが勇者討伐に成功したのは既に皆が知るところだろう。これによって私たちの世界征服の最大の障害は排除できた!」

 

「「「「「「おお!! それではついに!!」」」」」」

 

「ああ、本日をもって我ら新生魔王軍の存在を世に広め、世界征服を実現する!」

 

 キララの号令に拳を握る者、武器を掴みあげる者、自らの魔力を高め上げる者、それぞれ口には出さないがやる気に満ちているのは確かだった。

 

「そ・こ・で♪ 少し前の話に戻るけど、バドス君への罰のお話しなんだけどね? 彼には単独での国堕としを達成してもらうとしよう」

 

 ヒルキアはニッコリと微笑みながらバドスへの罰を提案する。

 だが、その提案した内容は過酷と評せざるを得ないだろう。

 

 勇者討伐前の万全な状態ならばその程度と鼻で笑い飛ばせていただろうが、勇者につけられた聖刻印章が重すぎるハンデによって達成できるか怪しいものとなっている。

 

 しかも、ヒルキアは指を2本立てていることから、堕とす国は1つではなく2つという意味だろう。

 

「なるほど、いい提案だな。皆もヒルキアの提案に賛同でよいな?」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

 流石にキララからヒルキアの提案を受け入れろと言われれば多少の不満はあれど首を縦に振らざるを得ないだろう。

 皆は納得がいかないながらも、仕方なしの折衷案として無言でその提案を受け入れる。

 

「ふふふ、私の我儘を受け入れてくれてありがとう。皆にもそれぞれ言いたいことはあるかもしれないだろうが、その思いは全てが終わってからにしてくれないか?」

 

「我らの思いなど、キララ様の為なれば幾らでも蓋をする所存でございます」

 

「そう言うなエピタス。私の我儘を無理に聞く必要などない」

 

 慈母のように微笑みを浮かべてエピタスの言葉を否定する。

 

「それじゃあ、皆が征服する国の指示は後で使いを向かわせる。それでは解散ね♪」

 

 ニッコリと笑みを浮かべてパン! と手を叩くと、次の瞬間にはキララの姿が玉座から消えていた。

 それはつまり、この場にいた誰もがキララの動きを目で追えていなかったということになる。

 

「ンッフッフ♪ 流石はキララ様だね。今のはどうやって移動したんだろうね? 一瞬凄い風を感じたから魔法じゃなく物理的な移動をしたとは思うけど、ボクの目からじゃ影すら捉えることが出来なかったよ」

 

「当たり前だ。キララ様は異世界より参られし神のような御方だ。我ら程度の存在があの方の力量を推し量ることなど不敬ですらある」

 

「だな。さて、これ以上ここにいてもしょうがあるまい。俺は自らの部屋で指示を待つ。お前たちもいつでも出撃が出来るように部下に準備でもさせておくんだな」

 

 そう言うとアウラは影に沈んでいきこの場を去っていった。

 

「俺もアウラの言う通り部下に進軍の準備をさせておこう。万が一の事態に合わぬように万全の備えをしておいて損はないからな!」

 

 それに続いてアルダートも自身の部下に指示出しをするべく歩いて去っていった。

 

「なら私ももう出ていくわ。キララ様がいなくなったこの場に用はないもの。けどバドス!! あんたがした事は絶対に忘れないからね。もし次あんな事をすればテメェの○○○(ピー)○○○(ピー)した後に○○○(ピー)するからな!!」

 

 とても字に記すことが出来ないほどの罵詈荘厳を並べ立ててラークは自身の体を霧のように変えて消えていった。

 

「ふん、俺もとっとと帰らせてもらおう」

 

「まっ…………」

 

「…………? なんだ、何か言いたいことでもあるのかバドス?」

 

「…………いや、何でもない。忘れてくれ」

 

 リョーマにあの時殺した勇者の弟子のガキが纏っていたオーラの事を伝えようかとしたが、わざわざ殺した見間違えかもしれない相手のこと等を話しても意味はないと考えて口を閉ざした。

 

「そうか。俺からも言う必要はねぇと思うが、キララ様にあんな大口を叩いたんだ精々その体で国2つを堕としてみせるんだな」

 

 そうやってリョーマなりの皮肉混じりの激励を飛ばして去っていった。

 

 そして最終的にこの場に残ったのはバドスを含めて3人のみとなった。

 

「ンッフッフ♪ ボクは情報&暗殺を担当する部隊だから国盗りの為に準備する必要はないけど、君たちは戻って準備しなくていいの?」

 

「儂は配下の竜には既に念話でいつでも動けるようにと号令を飛ばしておいたわ」

 

「俺は部下を持ってはいないからな。それに、いつでも常在戦場の心得で生きている。問題はない」

 

 どうやらデオドランとエピタスの2人の準備の方は既に万全のようだ。

 こうなると後この場に残るはただ1人のみ──―

 

「こうなると残る心配はバドス君のみだけど…………」

 

「ふっ、我の心配か? 貴様ごときが随分と舐めた口を叩くものだ!」

 

 ヒルキアの心配を鼻で笑うように、ハッ! とバドスが闘気を爆発的に高める。

 すると、胸に刻まれた聖刻印章が光輝いてゆき、高まるバドスの闘気をかき乱さんとする。

 

「コォォォォォ──―」

 

 そんな聖刻印章に対抗して、バドスは高めた闘気を全身に霧散させるように薄く張り巡らせながら、かき乱される箇所には闘気を受け流すように操ってゆく。

 が、それだけでは聖刻印章を完全に攻略したとは言いづらい。現に、闘気を全体に広げてしまった為に、紋章の力がバドスの全身を侵食せんと広がろうとする。

 

「ハァァァァァ!!!」

 

 っが、その程度のことはバドスも理解できている。それに対抗するために、闘気と同時に紋章を押さえつける為の魔力を解放する。

 すると、紋章はバドスの闇の魔力を押さえつけんと侵食を止めて刻まれている胸へと集中する。

 

「ほぉ……、なるほどなるほど、あの紋章の効果は対象のエネルギーを5種類の属性エネルギーの力技で抑え込んでかき乱す代物。とはいえ、所詮はただ高性能なだけの力技なだけで、刻み込まれた部分を中心にしか効果は発揮できない。ならばこそ、全身に高めた闘気を張り巡らせつつ、その闘気をかき乱されぬように緻密な操作で紋章の効果が出る箇所を避けてゆきながら、紋章の力は魔力で封じ込める。口で言うのは単純だけど、闘気と魔力の2つの力を完璧にコントロールしてみせるなんて、世界でも出来る奴らを数えるなんか両手の指の数だけで事足りる難易度だよ」

 

 バドスがしてみせた事を丁寧に解説しながら、そのやってみせたことの難易度の高さに驚愕の声を上げる。

 

「我を誰だと思っている。かつては世界を侵略せんとした元魔王にして、キララ様の右腕たる存在であるぞ!」

 

 不敵に笑みを浮かべるバドスは拳を強く握ってヒルキアを睨み上げる。

 

「確かに、これならボクが心配する必要性は無いようだね。無粋なことをしてしまって謝罪するよ」

 

 ヒルキアは舞台の俳優がするかのように優雅に頭を下げて謝罪を行う。

 

「ふん、貴様から出てくる薄っぺらい謝罪の言葉などいらんわ!」

 

 そう言うとバドスはそうそうにこの場から去ってゆき、自身に与えられた一室でドカリと高級そうな椅子に座り込む。

 

「ふん、ヒルキアにああは言ったが、この状態を戦闘中も維持できるほどの技量はまだ我は持ち合わせてはおらぬ。それに、これでは解除とはとてもではないが言えぬしな」

 

 更なる強さを得ねばならない。そう思いながら部下が侵略予定の国の情報を持ってくるまで勇者との戦いで滾った感情を落ち着かせようとゆっくりと目を閉じて眠りにつく。

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 元魔王と新生魔王軍の幹部である6大魔将たちとの会議──―というより謁見かな? が終わり、速攻でその場から物理的に走って……いや、飛んでの方がピッタリくるか。

 まあ、なんやかんやあってあの場から一目散に逃げ帰った大魔王様ポジションの私なんですが…………、一言だけ言わしてください。

 

「本当にどうしてこうなったなよぉぉぉぉ!!!!」

 

 自分の部屋にあるベッドの上で枕に顔を埋めながら自身の心情を大声で叫び散らかす。

 今の彼女の心情はまさか本当に勇者を倒しちゃうなんて! という思いと、生きて帰ってきてくれて本当に良かったという思いだった。

 

 当初は魔王なんていう厄介な存在には近付きたくはなかったのが、この世界に来て数年の月日が経ち、この世界のアレコレを知った今となっては新生魔王軍なんてものを建設し、世界各地で知り合った強者と呼べる彼らを幹部という立場を用意して加入してもらった。

 

 当初はこの世界をひっくり返す為のお手伝いをしてくれないかな~っていう気持ちでお誘いをしたのだが……。

 

「「「「「「そのお言葉お待ちしておりました!!!」」」」」」

 

 まさか、全員が全員ともこっちがちょっと引いてしまうくらうの忠誠を誓ってくるのだから驚きだ。

 ねぇ~神様ちょっと聞いていい? 貰った2つの特典以外にもなんか別のチート能力授けてません? 具体的にはチャームだとかカリスマ(笑)みたいなものを。

 ここまでくると自分が他にもそんな精神干渉系のチートを持っているじゃと疑いたくなってくる。

 

 まあ、今では彼らは自分にとってかけがえのない大切な仲間だ。

 ただ、多少その高さすぎる忠誠心に心労を抱かせられるのが難点だ。

 

「はぁ~」

 

 とはいえ、それはそれこれはこれと言った感じで、どの国に誰をぶつけるかが問題だ。

 溜息をついてゴロゴロと無駄に広いベットの上を転げまわりながら部下の事とこれからのことで悩みながらウ~ンウ~ンと唸り声を上げる。

 

「まったく、これから世界を征服しようとする者が、ベッドの上で唸り声を上げてゴロゴロと転がるのはおやめください」

 

 私が1人だと思って、普段の皆には決して見せられないような行動をしていると、耳の痛いお小言が飛んできた。

 

「あっはっは、なんだ居たの?」

 

「居たの? ではありません。いつまでもお呼び出しが来ないから、どうせまた1人で考え込んでいるのだろうな~っと思って来てみれば……。はぁ、想像の3倍はだらしない格好でお悩みになって……」

 

 この今の私のだらしない格好にため息を吐いて眉間を押さえるメイドの名前はアイシャ。一見すると人間に見える風貌だが、悪魔の尻尾に小さな羊の角が生えた立派な魔族である。

 ちなみに、補足を付け加えると、ボンキュッボンのナイスバディのサキュバスなのだ。

 

「ほら、どうせ幹部の皆様方をどの国へ攻め込ませるか悩んでらしたのでしょ」

 

 懐から取り出したのは各国の情報とそれに適した幹部と侵略作戦がまとめられた書類だった。

 ここに書いてある通りにすれば数年と言わずに数ヶ月もあれば世界征服を成し遂げられるのではないかという内容だった。

 

「流石アイシャだね。これなら問題ないよ」

 

「ちょ、ちょっとキララ様!?」

 

 ベットから飛び起きて優秀なメイドさんに感謝のハグをする。それに困ったような声を上げるアイシャだったが、その赤く染まった顔を見る限り嫌がってはいないようだ。

 とはいえ、このまま抱きつき続けていると威厳が無い! と雷が落ちるのは目に見えているのでそろそろ離れた方がいいだろう。

 

「さて、もうおふざけは終わり! それじゃあ始めようか、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自信満々に天に拳をかざして物語の始まりを告げるに相応しいセリフで世界征服の開始を宣言する。

 




次回予告 ついに恐るべき新生魔王軍の世界征服が幕を開けた。果たして、人類に対抗できる希望は残っているのか?

次回『希望の勇者の後継者』乞うご期待!


2話以降の続編を

  • 続けて
  • しない
  • さっさと主人公を出せ!
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