Fate/Grand Order『楽園常夏領域 アヴァロン・アエスタス -真夏の夢と南の島の一等星-』 作:ひゅーzu
この物語は、FGO第2部 第6章 『妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ』のネタバレを含みます。予めご容赦ください。
「こんなFGOの夏イベントが見たい!」という作者の願望を形にした作品となっておりますので、特に登場する水着サーヴァントは作者のオリジナルも存在しております。
物語は、全部で「九節」を予定していますが、物語の関係上、やむ無く分割し更新数が増える場合があります。その場合は筆が乗ってしまったということで、何卒お許しください。
更新の頻度は長くて一週間ごと。早くて3日後だと思っていただければ。不定期ですみません。
拙い文章ではありますが、お読みいただけますと、作者は大変喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。
一つ目の鐘は
二つ目の鐘は
三つ目の鐘は
四つ目の鐘で
五つ目の鐘には
六つ目の鐘とは
お空に響くは常夏の音色。
楽しむ心を忘れなければ、
楽園の花は咲くでしょう。
ほらほら仲良く想い出たくさん。
煌めく今日が続くのさ。
『プロローグ』/
「…なさい。…目覚めなさい。藤丸 立香。」
時は決戦前夜。最後の異聞帯の攻略を前に、わずかな時間だが休息を与えられた自分は、深い眠りについていた。/ …そのはずだ。
「マシュ……?」
誰かが自分を呼んでいた。確信はなかったけれど、自分を眠りから覚まさせてくれるであろう少女の名前を口にした。
「違います。女神からの有難いモーニングコールなのですから、ワンコールで瞼を開きなさい。」
「──────!」
勢いよく跳ね起きると、自室の中央には、自らを "カレン" と名乗るローマ神話における愛の女神───アムールが、それとなく…そして大胆に我がもの顔で立っていた。
「えっと、カレンさん? どうしたの? …もしかして、異聞帯がらみでトラブルが!?」
「ええ。トラブルはありましたが、異聞帯は関係ありません。まどろっこしいのは嫌いですので、単刀直入に言います。人類史におけるシミ、特異点の攻略に向かってください、藤丸 立香。」
自らが契約している神霊サーヴァント、カレンは端的にそう口にした。
「……いや、いきなりすぎて状況が把握できないんだけど、一体全体どうして?」
「理由を説明する必要があるのでしょうか。どちらにせよ、貴方は特異点の攻略に向かわなければならないというのに。…ですが、事情を何も聞かされずに向かわされるのは流石に理不尽ですね。では、お伝えしましょう。……とどのつまり、"夏" です。」
「─────────は?」
「慣れていますでしょう?こういうの。………既に同行するサーヴァントはこちらの独断と偏見で選出させていただきました。それでは」
「いや、それではじゃなくて!このこと、ダ・ヴィンチちゃんやマシュは知ってるの!?」
「もちろん知りませんが?必要ないので。それから、先ほどから抗議の眼差しを向けておいでですが、
うん。全くもって動機は不明だが、既に手遅れだということは理解できた。相変わらずハチャメチャな女神である。これはもう受け入れるしかない。
「……それで、俺は何をすればいいの?」
「さすがはカルデアのマスター。アポなしのハプニングには慣れっこですね。ですが今回はそう警戒する必要はありません。…貴方はただ純粋に、夏を楽しんでください。」
「──────え?」
「今回の特異点の攻略の鍵はそこです。詳細は特異点先でまたお話しましょう。……では。
指を鳴らす音と共に視界がぼやける。
世界は曖昧に。まるでティースプーンでかき混ぜられたラテアートのように歪んで、崩れていく。
──────ああ。今年も夏がはじまるらしい。
/『プロローグ』 -了-
第一節『それは熱い胸さわぎ』/
真夏の照りつける太陽が肌を焦がす。降りそそぐ陽射しは、溢れんばかりの熱を訴えているようだった。
「あの。起きてください。」
「……マシュ?」
反射的にその名前を口にした。
「…………」
返事はなかった。それもそうだ。だって目の前で自分を見下ろしている女の子は、"マシュ" という名前ではなくて──────
「──────あれ?」
辺りを見渡す。
照りつける太陽に、どこまでも澄んだ青い空と海。宝石のごとく細かく煌めく砂浜が足下に広がっていた。
「あ。ようやく起きましたね。あなた、よくこんなにも熱い陽射しの下でぐっすりと眠れてましたね。正直、最初は目を疑いました」
ひと回り大きな麦わら帽子にショートの白いセーラー服を身にまとい、
「えっと、君は?……もしかして、どこかであったことある?」
「…………」
再びの無言。それもそうだ。もし面識があるのなら、自分は今とても失礼なことを聞いているのだから。
「いいえ。わたしとあなたは初対面です。あなたが覚えていないんですから、間違いないかと」
返答は否定だった。そこにどこか違和感を覚えたが、それよりも先に聞くべきことを思い出した。
「初対面なら、はじめまして。俺は藤丸 立香。君の名前は?」
「丁寧なご挨拶ありがとうございます。藤丸くん。わたしの名前は───」
金髪の少女は、なぜかそこで言葉が詰まっていた。
「大丈夫…?」
「………はい。ごめんなさい、ちょっとぼーっとしてしまって。わたしのことは、
金髪の少女────ティターニアはそう名乗ると、微笑んで右手を差し出した。どうやら握手を求めているようだ。
「よろしく。ティターニア。さっそくだけど、ここがどこだかわかる?記憶喪失ってわけじゃないんだけど、どうも前後の記憶だけが曖昧で…」
握手をかえして、状況の把握を行なう。特異点の調査で散々やってきたことのひとつだ。
「相変わらずですね。いえ、今のは失言です。……ここは」
「そこから先は私が説明しましょう。」
ティターニアの言葉を遮るように、盛大な後光と共に白髪の女神がその後ろから舞い降りた。
「まぶしい──────!」
「ええ、女神ですので。グッドサマー、いいえ。ゴッドサマーですね、藤丸 立香。本日はお日柄もよく、特異点調査日和ですね。」
──────思い出した。このデタラメな神霊サーヴァント、カレンの指示で自分はこの特異点にやってきたのだった。
「……なにをすればいいのか、説明してくれるってことですよね、カレンさん?」
「もちろんです。そういう約束でしたから。…それと、私のことはカレンさんではなく、"真夏のカレンちゃん" と。そう呼んでください」
「…はい? 何を言ってるんですか、カレンさ」
「 " 真 夏 の カ レ ン ち ゃ ん " と。」
「はい!真夏のカレンちゃん!」
有無を言わさぬ気迫に押し負けた。
確かによく見たら、普段の女神らしい装いとは異なり、どこか南国風な格好に様変わりしていた。
「……よろしい。それでは、今回の特異点調査の概要を説明しましょう。貴方たちが今いるこの場所は、
「ロンディニウム……」
「これから貴方たちには、この島を拠点として "六つの島" を巡ってもらいます。それぞれの島には、その土地を
「──────なんて?」
圧倒的な情報量に脳が追いつかなかったが、まぁいつものことである。
「その…"純愛の鐘" を鳴らす意図はなんですか?」
ちょっと理解が及ぶのが速すぎるよ、ティターニアさん。
「良い質問ですね、ティターニア。"純愛の鐘" は、それぞれの島の霊脈と繋がっています。即ち、その島そのものの魔力が篭った鐘なのです。それを六つ全て鳴らすことで、この特異点を消し去る術式を起動できます。それこそが、今回の特異点解決のルートです。………それと余談ですが。"南国の島国で鐘を鳴らす" というのは、ブライダルの鉄板。とても胸が高鳴る催しかと♡」
明らかに余談の方が本命に見えるような口振りだった。頭が真っピンクなのでしょうか、この愛の女神は。
「"アイランド・クイーン" を負かすと言ってましたが、戦闘による解決をしろと?」
「またまた良い質問ですね、ティターニア。ですがその疑問は杞憂です。必ずしも戦闘を行なう必要はありません。どのような手段であれ、彼女たちを納得させることができるのならば、鐘を鳴らすことはできます。血を流さずに済むのなら、それに越したことはありませんから」
六つの島を巡って、六人のアイランド・クイーンを負かし、六つの純愛の鐘を鳴らす…大まかな流れは理解したが、ひとつだけ確認しなければならないことがあった。
「ちょっと待って。さっきからずっと
「はぁ。全く鈍感ですね藤丸 立香。その子は貴方のサーヴァントですよ。言ったでしょう?同行するサーヴァントは私の独断と偏見で選ばせていただいたと」
「──────え?」
隣にいるティターニアへと視線を向ける。
確かに意識を向けると、目の前の少女と自分には魔力の
すると彼女は、あはは と、話しそびれていたことを誤魔化すように視線を逸らして頭を搔いていた。
「…彼女いわく、貴方とは初対面のようですが、れっきとしたサーヴァントです。ですので、しっかりとコミュニケーションをとって、仲良く特異点解決に励んでください。もう質問はありませんね? では」
そう言い残すと、カレンは現れた時と同じように、鮮烈な後光に包まれて消えていった。
「いや、まだ話は終わってな──」
波と風の音だけのしばしの静寂。遠くでカモメが鳴いている。
そうしてティターニアと互いに目を見合わせて苦笑する。
「とりあえず、この島の中央にある街に向かいましょう。他の島を巡るには移動手段が必要ですから、気前の良い船乗りに会えるかもしれません」
「そうだね。向こうの方に建物が見えるから、そっちに行ってみようか」
砂浜の海岸を挟んで向こう側に雑多な街並みが見えた。情報収集もかねて、そちらに場所を移すことにしよう。
***
「情報収集といったら、やっぱり酒場だよね」
南国風の装いをした人々が数をなし、酒場はお祭りのように賑わっていた。
「すごい人の数ですね…」
「カレンちゃんの言っていたことが正しいなら、この島の人達は争いを好まないらしいし、思い切って聞いてみたら、色々教えてくれるんじゃないかな。……あの、すいませ──」
「ぐわああああああああ!!!!!!!!!」
空のビールジョッキを運んでいる従業員らしき人に声をかけようした時、思わぬ叫び声が酒場にこだました。
「なんだ───!?」
振り返ると、大テーブルを2つほど挟んだ向こう側で大男が腕を抑えて倒れ込んでいた。その周りには同じように大柄の男たちが集まって固唾を呑んでいた。
「やったぁー!!これで10連勝!約束通り、一杯おごってもらいますからね!あっ、ビールは苦手なので、ココナッツミルクでお願いします!」
大柄の男たちの中央、テーブルの向かい側には、一見して華奢な金髪の少女が腕を振って喜んでいた。
「すげえ。今の奴この店で一番腕っぷしが強いんだぞ…」
「ただの腕相撲で身体ごと叩きつけられるなんてことあるか…?」
「あの娘、さっきから見ていたが一度も休んどらん」
周囲の客たちが次々と感嘆の声を挙げていた。
そんな彼女に、自分はとても見覚えがある。
「ガレス……?」
自分が契約しているサーヴァント、ブリテンの英雄譚 アーサー王伝説おける13人の円卓の騎士の一人にして、第七席───ガレスが、そこにいたのである。
ただ、普段の重々しい鎧は身にまとっておらず、フリルのついたビキニとショートパンツ風の水着を身にまとっており、快活な少女の印象が強まっていた。
「ガレスちゃん、あんなに力持ちだったんだ」
同じく隣でティターニアも驚いていた。どうやら彼女もガレスとは面識があるらしい。
「あれ?マスターじゃないですか!おーい!」
主人を見つけた子犬のように、勢いよくこちらに手を振るガレス。どうやら向こうもこちらのことをしっかり覚えていてくれているようだった。
「どうしてこの特異点に?俺たちよりも早くここにやってきていたのか?」
「はい!アムール神──いえ、真夏のカレンちゃん殿から、お声がかかりまして。こうして一足先にマスターを待っていたのです!」
ガレスもどうやらカレンから呼び方を矯正されているらしい。
「その割には随分と目立った行動しているようだけど…」
ガレスの周りに並んだ空のジョッキを見ながらそう訊ねると、ガレスは照れ臭そうに頭を掻いた。
「えへへ。初めは情報収集のためにこの店で強そうな御仁から話を伺っていたんです。でも、とある御仁から "腕相撲で俺に勝ったら教えてやる"と挑発されたものですから… つい熱が入ってしまいまして… 面目ないです!」
「さっき聞いたかぎりでは、報酬は情報ではなくてココナッツミルクだったようだけど?」
ティターニアの鋭い指摘がガレスに突き刺さる。
それを聞いたガレスはギクッと、額に汗を滴らせた。
「ううっ仕方ないじゃないですかっ!私の腕相撲を眺めていた御老人の御方が、"お嬢ちゃん、気持ちのいいファイトだ。是非とも腰に手を当ててココナッツミルクを豪快に飲む姿を見せてほしい。なーに、お代は儂が奢ってあげよう。"…なんて言われたものですから、試しに飲んでみたのです。そしたらこのお店のココナッツミルク、大変美味でして!これはもうただで飲めるのなら、飲めるだけ飲んでやろうと、そう思い至りまして!」
開き直って、えっへんと胸を張るガレス。
「じゃあ、まだ情報はなしってことか…」
「そんなことはありません、マスター!後半はココナッツミルク欲しさに腕相撲をしておりましたが、前半はちゃんと情報収集をしていたのです!」
それはなんとも頼もしい。さっそく教えてもらいたいと思った矢先、ガレスはその視線を隣にいるティターニアへと向けた。
「お教えしたいところですがその前に。そちらの御仁、お名前を伺っても?」
ティターニアはしばらく目を丸くしていた。どうやらガレスは彼女と知り合いというわけではなかったようだ。
「…ティターニアと言います。訳あって、わたしも藤丸くんのサーヴァントとして特異点調査に加わっている者です。どうぞよろしく」
「こちらこそよろしくお願いしますティターニアさん。…それはそうと先ほど、少しばかり手厳しいお小言を仰っていましたが、マスターの御前ですので、不問にします。ですが。情報がほしいというのであれば、私と手合わせ願えませんか?」
「………え?」
どういう流れなんだ、これ。
「ちょっと待ってくれガレス。彼女は怪しいものじゃなくて、俺たちの協力者だよ。警戒する必要はな───」
「マスターはちょっと黙っててください!なに、簡単な "手合わせ" ですよ。刃を交えるわけではないです。貴女が信頼に足るサーヴァントなのか、その腕前を見せてほしいのです。
これは驚いた。サーヴァントの身とはいえ、大の男から怒涛の10連勝。憶測ではあるが、この店のココナッツミルクにはサーヴァントにも効果を持つ少量のアルコールが含まれていたのだろう。ようするに今のガレスは、かぎりなく
一体いつからこんなに脳筋になったのか、誰に似たのか。空には笑顔を浮かべるガウェイン卿の幻覚が見える。いや、ここ屋内だけど。
「───いいでしょう。その挑戦、受けて立ちます。もしわたしが勝ったら、情報の提供ならびに特異点の調査のために同行する従者となる。そういう条件でいいですね?」
挑発にあっさりと乗るティターニア。
もしかして貴公、負けず嫌いでいらっしゃる?
「話が早くて助かります。では、そこの向かいの席に座ってください。マスター!合図をお願いします。」
ティターニアも同調するようにこちらへ目配せをする。
もはやなるようになれ。である。
「………わかった。それじゃあ二人とも、位置について。」
右の手のひらを交差しあう金髪の少女が二人。お互い目を逸らさずに見つめ合う───もとい、睨み合う。
「レディ──────ファイッ!!」
***
「負 け ま し た ッ 〜〜〜!!!」
───戦いは十秒で決着がついた。
開戦の合図から五秒。
互いに拮抗して揺れることなく。
そこからさらに二秒。
勢いに乗っていたガレスの気迫が押す。
さらに加えて二秒。
固唾を飲んで静寂に包まれる外野で声がする。
『さっきの一杯で、ココナッツミルクもう品切れだよ』と。
その後の一秒を。
ティターニアは見逃さなかった。
僅かに気が抜けたガレスの隙をついて、一気に勝負をつけたのである。
悲しいかな。ガレスの敗因は欲望に
ようするに、勝負は戦う前から決まっていたのである。
「本当に先ほどはすみませんでした、ティターニアさん!私どうかしていて…」
「気にしないでいいよ、ガレスちゃん。わたしも一度でいいからガレスちゃんと正面からぶつかり合ってみたかったし」
何度も頭を下げるガレスに、逆にばつが悪そうに慰めるティターニア。ある意味、互いに打ち解け合えたのだろうか。
「そうはいきません!約束は約束!ここからは私も、ティターニアさんの従者として、特異点調査に同行いたします!」
ぐっと拳を握りしめて強く頷くガレス。
「ありがとうガレス。すごく頼もしいよ!…それで、場所を変えましょうってことで移動してきた訳だけど、今向かっているのは、一体どこなの?」
「街の北側にある船着場です!酒場で集めた情報によれば、"カルデアのマスターを探している" と言っていた人物が、そこを根城にしているみたいなんです」
「わたしたちの他に協力者がいるってこと?」
ティターニアとガレスの他にも、自分たちに協力してくれる人物がいるということなのだろうか。
「もしかして、ガレスと同じでカレンちゃんが招集したサーヴァントの一人なのかな?」
「それは私もわかりません。ですが、わざわざ居場所を伝え回っているのですから、敵ではないんじゃないかと。いつやって来るかもわからない標的を、アジトで寝ずの番というのは大変 重労働ですから」
それは確かにそうだ。仄かな期待を寄せて歩を進める。
「あっ!見えましたよ!そこの桟橋です!」
大海へと続く桟橋の周囲には何隻ものボートが泊まっており、その桟橋の根元に、船乗りたちが出入りすると思われる小屋が立っていた。
***
「失礼しまーす」
小屋の扉を恐る恐る開くが、別段 人が大勢いるというわけでもなく、船乗りらしき人々がまばらに休んでいた。
「休憩所、なのでしょうか。 本当にここにわたしたちの協力者が?」
「その割には少し質素というか…ボロい感じ…?」
休んでいる船乗りたちには聞こえないよう、小声でコソコソと話す。
「ボロくて悪かったね。ドックは船を
「──────!」
背後からの声に思わず驚き振り返る。するとそこには、
「ネモ船長──────!」
自分たちノウム・カルデアにおいて、シャドウボーダーやカルデアベースの整備、福利厚生を取り仕切る頼もしい艦長にして、シオン・エルトナム・ソカリスによって召喚された幻霊サーヴァント───ネモが皮肉げな笑みを浮かべて立っていた。
「この人が、話していた協力者?」
「うん、そうだと思う!ネモ船長は俺たちカルデアの移動船を管理する艦長───なんだけど、えっと、船長……その格好は?」
よく見るとネモ船長は、普段のターバンを巻いた海援隊のような装いとは異なり、七分丈のパンツに蒼色のパーカーを羽織ったラフな格好をしていた。
「これかい?こっちに来た時に勝手に切り替わっていたんだ。夏の霊基ってヤツなんだろう?正直、肌を晒すのはあまり好きじゃないけど、こればっかりはね。………………変、かな」
そう言いながらネモ船長は、少し照れ臭そうにパーカーのフードを二割増で深く被った。
「いえ!大変よく似合っています、キャプテン・ネモ!」
特にそのパーカーの猫耳フードとか。パーカーの後ろから出しているローポニーテールとか。ムニエル氏がいたらさぞ喜んだことでしょう。
「そ、そうか。ならよかった。……………コホン。真面目な話題を話そうか。キミたちがここに来るまで、僕の方でいくつか情報を収集してたんだ」
「六人のアイランド・クイーンと純愛の鐘について、ですか?」
「純愛の鐘……?そっちは初耳だけど、アイランド・クイーンについて調べてた。もっとも、その様子だとそちらも情報収集してきたようだけど。この手の調査はお手の物だね、立香」
「いえ。俺たちがカレンちゃん…えっと、アムール神から聞かされたのは、"この特異点を修正するには、六人のアイランド・クイーンを負かして、六つの純愛の鐘を鳴らす" ということだけで、詳しい詳細まではまだ何も掴めてはいません」
「アムール神? この特異点には神霊系のサーヴァントまで絡んでいるのか。…となると、思っていたよりも、大きめの規模の特異点のようだ」
ネモ船長はそう言って顎に手をあて、思考を巡らす。
「ちょっと待ってください。あなたはアムール神によって招集されたサーヴァントではないのですか?」
ティターニアが問いを投げかける。確かに、ネモ船長がアムール神に招集されたサーヴァントならば、彼女のことを知らないのはおかしい。
「いや。アムール神についても今が初耳だ。僕の場合は、
ネモ船長を引き寄せるに至った別の因果。もしかしたら、それがこの特異点の元凶なのかもしれない。
「それと。僕としたことが、大切なことをしそびれていた。そちらの二人には、自己紹介がまだだったね」
「はい、はじめまして!円卓の騎士 第七席、ガレスです!どうぞよろしくお願いします!」
「ああ。存じているよ、サー・ガレス。カルデアでの活躍は聞いているが、直接会うのは初めてだったね。僕はネモ。今はしがない船乗りさ。それから───」
「ティターニアといいます。おそらく完全に初対面かと。よろしくお願いします、キャプテン・ネモ」
「ああ。こちらこそよろしく、ティターニア。 …………それはそうと。キミのそのセーラー服、大変よく似合っているよ。やはり海を渡る服となればそれに限る。カルデア職員の制服をセーラーに変えようかと目下検討中だったんだ。良い参考になった」
キャプテン・ネモ、初耳なんですけど。
「さて。自己紹介も済んだことだし、さっそく本格的に調査へ取り掛かりたいところだけど、出発は明日の朝からだ。……というのも、船がまだ整備中でね。今夜中に最終メンテナンスを行なう」
気がつくと、外は既に太陽が半分 海に沈み出していた。
「移動用の船はしっかりと確保できたんですね!」
「もちろん。アイランド・クイーンについて調べたって話しただろう?上手いこと交渉材料に使ったら、気前よく貸してくれたよ。ここの船乗りたちは気持ちがいい。よく潮風を浴びて育った証拠だよ」
ネモ船長は我がことのように微笑んだ。それほどまでに友好的な人達と交流することができたのだろう。
「しかしキャプテン・ネモ。日が暮れてしまった以上、わたしたちはどこで寝泊まりをすれば良いでしょうか? わたしやガレスちゃんは問題ありませんが、藤丸くんは休息が必要な普通の
「身体を休める目的なら、この宿の二階を使うといい。まぁご存知の通り質素でボロいところだけど、戸締りはしっかりしている。ガレスやティターニアの部屋も用意できるし、今日ばかりはここで勘弁してよ」
そういってネモ船長は宿の左奥にある階段を指さした。
「いえ!寝泊まりができるところがあるのは助かります!行きましょうマスター、ティターニアさん!」
そういって、ガレスは一足先に子犬のように駆け出していった。
「何から何までありがとうございます、キャプテン・ネモ」
「構わないさ、これが僕の仕事だからね。……それと、少し話が変わるけど、ずっと "キャプテン" と呼ばれるのは、どうもむず痒いんだ。"ネモ" でいいよ、ティターニア。」
それを聞いて、ティターニアはしばらく目を丸くした後、
「はい、わかりました!それでは、"ネモくん" と。今日はおやすみなさい。良い夢を!」
「……………………………ネモくん?」
今度はネモ船長が目を丸くする番だった。
「…コホン。さあ、立香もゆっくり休んでくるといい。出発は夜明けだ。僕の方から招集をかけるから、身支度を整えておいてくれ」
ネモ船長の言葉に力強く頷きで返し、自分もガレスたちを追って二階へつながる階段の方へと歩を進めた。
***
部屋の電気を消す。辺りは昏く夜の静けさに包まれ、窓越しで波の音が部屋へと染み渡っていく。
──────眠れない。夜風を浴びに行こう。
波打ち際で腰を下ろす。
ほっと息を吐くと、それに応えるように潮風が頬に触れる。
「やあ。眠れないのかい?」
背後からの来訪者に思わず振り返る。
「
見知った顔がこちらへ歩を進め、同じく隣に腰を下ろした。
「船のメンテナンス、終わったんですか?」
「整備といっても動作確認と点検だからね。慣れたものだよ」
波が寄せて返す。その繰り返しを眺める。
「今回の特異点は、なんだか不思議な気分になります。まだ一日目だけど、心が落ち着いているというか… あんまり危機を感じていないというか…」
「さすがはカルデアのマスター。図太いね。…けれど、それぐらいがちょうどいいのかもしれない。夏に危険は付き物だけど、結局は楽しんだもの勝ちさ。楽観的、というと悪く聞こえるかもしれないけどね、重すぎる役割に、常に責任感を抱き続けるのは、息苦しくて仕方ないから」
だからこそ、程よく息抜きをした方がいい。そう語った。
「さて。明日からは本格的に特異点の調査が始まる。馬車馬のように働くことになるんだ。あまり夜更かしせずに、万全の調子で朝を迎えてあげないとね」
そう言って、隣から立ち上がり去っていく。
特異点の調査はまだ始まったばかり。眠りは浅くとも、終わりを目指して進み続ける。それこそが、自分の役割だと信じて。
/『それは熱い胸さわぎ』-了-
まずは、ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございました。この文章が皆さんに気に入っていただけたら幸いです。
さて。ここから先は設定面のお話をば。興味がございましたら、お読みいただけると幸いです。
物語はまだ序章。核心をつく内容は触れられませんが、勘のいい方はお気づきの通り、特異点先で最初に出会った女の子は"彼女"です。というかタグでモロバレ。
この物語はFGO第2部 第6章のアフター的な立ち位置となっているので、彼女は多大にネタバレを含む発言を口走りそうになります。
新規オリジナルで登場する予定の水着の女性サーヴァントは、全部で7騎。加えて、男性の水着霊衣サーヴァントは3騎 考えております。既に何名かは登場しましたね。
・星5 ムーンキャンサー 真夏のカレンちゃん
いやっほぉぉぉぉぉう!!カレンちゃんの水着だ!諭吉を溶かせ!(なお作者の幻覚です)
カレンには物語の導入を担当してもらいました。無論、重要人物ですのでこれからも引き続き登場いたします。
衣装については細かく言及しませんでしたが、黒のビキニにトロピカルなアロハシャツを羽織って
とまぁ、再臨によって大きく見た目が変わりそうな女神様ですが、クラスはなんとムーンキャンサー。その理由も作中で語られる予定ですので、悪しからず。宝具はクイック全体がやっぱり似合うよね。そしてなにより、ムーンキャンサーは "アイツ" によく刺さる。
・星4 セイバー ガレス
ガレスちゃんは大振りの大剣を携えています。ランサー時と同様に、マーリンから魔術で細工をしてもらった、爆発のブースト仕込みの特注の魔術剣です。(待て。本当にそれマーリンか?)
再臨姿によってはバルーンソードなんかもユニークでいいね。宝具はバスター全体かアーツ単体か、迷うね。なぁそう思うだろ、ガウェイン卿にランスロット卿。宝具そのものは後々登場致しますのでお楽しみに。
格好はショートパンツ風にフリルの水着と、だいぶ健康的なスタイルに。まさに渚の元気娘。再臨で日焼けしてどうぞ。
・星5 ライダー ネモ(霊衣)
みんな大好きネモ船長。今回は七分丈のズボンに上裸、その上に蒼いパーカーを直接 羽織るというスタイルに。
肌を晒すべきか考えた結果、「肌を晒さぬ海の男はいない」と脳内の分割思考に囁かれたので、脱がせました。ところでパーカーのフードには猫耳がついています。なんでかって?それは貴方の脳内の分割思考に聞けばきっと答えてくれる。
・星4 プリテンダー ティターニア(配布)
形式上、彼女は配布サーヴァントというポジションで物語の主軸として同行 致します。恰好は少女らしく、白が基調の短めの丈のセーラー服風の水着に、大きな麦わら帽子をかぶっています。髪型はおさげのツインテールということでひとつ。
本当の名前を名乗れていないのも理由がありますが、それに関しては物語の終盤で。ちなみにクラスは「プリテンダー」。これに関しても今はまだ秘密ということで。どうぞお楽しみに。
冒頭の前描きでお話致しましたが、更新は長くて一週間ごと。早ければ3日後となります。気長にお待ちいただけますと幸いです。
改めまして、ここまでご愛読いただき、誠にありがとうございました。