Fate/Grand Order『楽園常夏領域 アヴァロン・アエスタス -真夏の夢と南の島の一等星-』   作:ひゅーzu

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 第四節目の更新です。
 引き続き、この物語はFGO第二部 第六章「妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ」のネタバレ及び、FGOの過去イベントの話が登場致しますので、何卒よろしくお願いいたします。
 時間の許すかぎり、お読みいただけますと幸いです。
 


第四節『ステレオ邪竜族』

 

 

 

 "佳景"の島、

 ノリッジの鐘は鳴りました。

 

 美しい花火を見ました。

 

 わたしがしたことなんて大してありません。

 終始 絶景に息を飲んでいたし。あはは。

 

 けれど。

 彼女が描いた景色たちは、

 本当に素晴らしいものばかりだったのです。

 

 あの島に溢れた絶景は、

 もう消えてしまったけれど。

 

 あの島に本来ある景色は、

 今もまだ残っています。

 

 彼女は、それを描くと言いました。

 ありのままの景色を描くと言いました。

 

 ───なので。

 本当はこんなこと、

 言ってはいけないとわかっているけど、

 

 

 あの絶景。

 もう一度見たかったなあ。

 

 

 

 

 第四節『ステレオ邪竜族』/

 

 

 ──────燃えるように暑い昼下がり。

 

 

 「村正のおじいちゃん、ニンジンこっちの方が大きくない?」

 

 ロンディニウムにある商店街の市場で、わたし───ティターニアは村正にニンジンを手渡す。

 

 「…いや、駄目だな。軽すぎる。確かに見た目は大きいが、人参(にんじん)ってのは水分が多くて重い方が味がいい。茎の芯も大きすぎる。側根の白線も疎らに並んでいるし、食った時の舌触りが悪くなるぞ」

 

 そう言って、村正は私が渡したニンジンを却下した。

 

 「むむ。……村正、本当に刀鍛冶なの?」

 

 「ああん?ったりめーよ、鍛冶師は力仕事だ。少しでも良い(メシ)を食って体力つけねぇと、まともに仕事ができねえんだよ」

 

 村正の意見には一理あるが、納得がいかないものである。

 

 「わりぃな、市場の嬢ちゃん。今日もただで食材を譲ってもらって」

 

 「いえいえ、どうぞ持って行ってください。皆さまのおかげで、行方知れずだった私の兄が帰ってこれたのですから。これからも遠慮なくこの店の食材を使っていってください!」

 

 この市場の女性の兄は、昨日 鐘を鳴らした二つ目の島、ノリッジに行ったっきり行方不明だったようで、昨晩 久しぶりの再会をすることができたらしい。

 この人以外にも、行方不明だった人々の帰還に喜んだ島の人達から手厚く感謝され、行方知れずだった人の空き家ではなく、本格的に無人の家をひとつ好きに使っていいと貸し与えたりもしてくれた。

 

 「この島の連中は気さくで気前もよくて、過ごしやすいことこの上ねえ。嬢ちゃん、顔も別嬪(べっぴん)だし、さぞ良い伴侶(はんりょ)に巡り会えるだろうぜ」

 

 「そそ、そんな別嬪だなんて…!御上手ですね、村正さんは…」

 

 ───ん?

 今さりげなく口説きませんでしたか?この人。

 

 「謙遜(けんそん)するこたぁねえよ。事実を伝えたまでだ。飯を作るのも上手そうだしな。なんなら、今度この島の連中がよく食べる料理のレシピでも教えてくれ。毎日 飯をつくってると、献立(こんだて)に困って仕方ね………あ(いた)っ!?」

 

 しまった。思わずサンダルのコルクヒールで村正の足を踏んづけてしまった。

 

 「っ───!おい、何しやがるティターニア、」

 

 「……別に。村正の足の小指が踏んづけてくれと(ささや)いている気がして。今のはわざとですので、謝りません」

 

 呆気にとられた村正を置いて、てくてくと家を目指して歩いていく。

 

 「なんかお前さん、(オレ)にだけ当たり強くねえか?……もしかして、儂の知らねえ儂(・・・・・・・)が、過去にお前さんに何かやっちまったのか?」

 

 村正がわたしの背中を、買い物袋を抱えて小走りで追いかけてくる。

 

 「そんなこと……あるけど!それとこれは別の……」

 

 こと、と言いかけたところで足を止めた。

 

 「おい、今度はどうした慌ただしいヤツだな……、ん?」

 

 わたしが見つめていた酒場の外の窓に貼られたチラシ(・・・)に、村正も気づいたようだった。

 

 

***

 

 

 「さて。…次に向かう島はどうしようか」

 

 そう言いながら、ネモ船長は島の住民から譲り受けた、この特異点全域を記しているとみられる地図を眺めながら、ポトフ(・・・)を口に運んだ。

 その地図には既に、グロスターとノリッジの二つの島にチェックマークが付けられていた。

 

 「残りはあと四つか……」

 

 そう呟きながら、自分───藤丸 立香は、ネモ船長が眺める地図を横目で見ながら、同じく村正とティターニアが作ってくれたポトフを食べる。

 

 「ん……、美味い」

 

 ジャガイモやニンジンに、よくコンソメの味が染み込んでいた。

 

 「だろ?ティターニアのヤツが、柄にもなく料理を教えてほしいなんて言うもんだから、思わず気合いが入っちまった」

 

 「柄にもなくは余計です!……はじめて作ったので、藤丸くんが気に入ってくれてよかったです」

 

 ティターニアはそう言って、照れくさそうに笑った。

 

 「ポトフが美味で私も大変喜ばしいのですが、村正殿とティターニアさん、買い出しが普段に比べて随分と時間を要されていたように感じたのですが、何かあったのですか?」

 

 「さすがガレスちゃん。鋭いね。実はそのことで……、」

 

 ティターニアはテーブルの下から一枚のチラシを取り出し、全員に見えるようテーブルの中央に置いた。

 

 「"冒険の島、ソールズベリー(・・・・・・・)。島の中央にある()に辿り着けた者には、聖杯を贈呈………?"」

 

 そのチラシに書かれていたことは、目を疑うようなことばかりだった。

 

 「これが、街の酒場の外に貼られていたんです」

 

 「これ。酒場の店主には聞いたの?」

 

 酒場に貼られていたのであれば、店の店主がなにか事情を知っているのではないだろうか。そう思って訊ねた。

 

 「当然 聞きました。でも、誰が貼ったものなのか、いつから貼られていたものなのか、誰も知らなかったんです」

 

 「この内容、村正はどう思ったの?」

 

 「当然、"罠" だろ。きな(くせ)えことありゃしねえ。儂たちが必要とするものしか書いてねぇからな」

 

 村正の指摘は正しく、このチラシはまさしく自分たちをおびき寄せようとしているような内容だった。

 

 「それでも。ソールズベリーにはどの道いずれ向かわなければならない。だからこのチラシを見せたんだね、ティターニア」

 

 「…はい。ここに書かれていることの真偽は置いておいて、ソールズベリーに純愛の鐘があることは確かです」

 

 「どうしましょうか、ネモ殿」

 

 ネモ船長はチラシをじっくりと眺め、深く考え込んだ後───、

 

 「……わかった。次の島はソールズベリーにしよう。信じてはいないけど、もしここに書かれている通り、ソールズベリーに聖杯があるのなら、重要な魔力リソースにもなる。上手いこと活用することができるかもしれない」

 

 そう言って、ネモ船長は地図に描かれたソールズベリーの島にチェックを付けた。

 

 「出航は一時間後!各自、次の目的地は戦闘が予想される。不足なく支度をし、再びこの食事場に集まること。いいね?」

 

 

***

 

 

 大海をかき分け、タイニー・ノーチラス号は今日も突き進んでいく。

 

 

 「間もなくソールズベリーの近海にはいる!みんな、上陸の準備をしてくれ」

 

 ネモ船長の言葉を聞いて、各々が船首に集まる。

 

 「ん───? ちょっと待った、何だあれは?」

 

 視界の先に見えたソールズベリーの島は、その中央に大きな山が(そび)え立ち、その頂点にはインド・イスラム文化の象徴的な建築物ともされている "タージ・マハル" を模した黄金の建物が見えたのだ。

 

 

 「──────!なんだ!?」

 

 全員が呆気にとられていると、唐突に船が大きく傾いた。

 

 「何があった、キャプテン!?」

 

 「 "渦潮(うずしお)" だ!全員、しっかりと船に捕まっていてくれ!」

 

 そう言って、ネモ船長は大きく舵を切り、渦潮からの離脱を試みていた。

 

 「さっきまで何事もなかったのに、どうして急に!?」

 

 渦潮はソールズベリーの近海にはいった途端、唐突に出現したように見えた。

 

 「くそ───!やっぱり罠だったのか!?」

 

 「っ───!ダメだ、離脱できない!みんな!絶対に離れるんじゃないぞ!」

 

 渦潮はさらに勢いを増して船を飲み込んでいく。

 もはや絶体絶命だと危機を感じたタイミングで、激しく強い波に押し流される。波は船をまるごと包み込んだ。

 

 

 ──────そうして。

 自分たちは為す術もなく意識を失った。

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 視界には、一匹の小さなカニが上から下に歩いていた。

 

 

 「──────!ネモ船長、みんな!?」

 

 倒れ伏した砂浜から起き上がり、辺りを見回す。

 

 見ると周りには、自分と同じように砂浜にうつ伏せで倒れているみんなの姿があった。

 

 「よかった!ちゃんと全員いる」

 

 「っ───、酷い目にあった。なんだったんだ、ありゃあ」

 

 「とりあえず誰もはぐれてはなさそうだね…」

 

 「身体のあちこちが砂だらけです……」

 

 「ガレスちゃん、頭の上にサンダル乗ってるよ…」

 

 そうして全員が目を覚ました。

 

 

 「……状況を整理しよう。まず、タイニー・ノーチラス号は横転して砂浜に停泊。こっちは多少の不具合はあれ問題なく動かせそうだ。一方で、近海の渦潮はいまだに健在。これがどういう意味かわかるかい?」

 

 「わたしたちはこの島から出られないってことですね…」

 

 ネモ船長の問いに、ティターニアが髪についた砂を払いながら答えた。

 

 「そうだ。あの渦潮はやはり、作為的に生み出されたものと見て間違いないだろう。これは明らかに罠だ。僕らを島から逃がさないためのね」

 

 ネモ船長は悔しそうに、そう事実を伝えた。

 

 「ネモ船長に責任はないですよ。俺たちはこれが罠だとわかっていてここに来ることを選んだんです」

 

 「そうだな。寧ろこれで、向こうの出方がはっきりとわかったんだ。やりやすいじゃねぇか。正面から相手をしてやればいい」

 

 村正は望むところだ、と拳を鳴らした。

 

 「きっとこの島の"アイランド・クイーン"を負かせば、あの渦潮も取り除かれるはず。気を落とさずに行きましょう!ネモ殿!」

 

 ガレスも同じように闘志に満ちていた。

 

 「……ああ。みんな、ありがとう。そうと決まれば、目指すは島の中央だ!あの墓廟(ぼびょう)のような建築物に、本命がいると判断する!」

 

 そうして、島の中央を目指して探索が始まった。

 

 

***

 

 

 「あ、暑い………」

 

 鬱蒼(うっそう)と茂る木々を掻き分け、自分たちは深いジャングルを突き進んでいた。

 

 「思っていたよりも長いですね、この森……」

 

 「みんな、足下に気をつけて。ぬかるんでいる所があるからね」

 

 ガレスを先頭に、ネモ船長、自分、ティターニア、村正の順に一列で並んで、木々の隙間から僅かに顔を覗かせる山を目指して歩いていく。

 

 「藤丸くん、水分補給は大丈夫ですか?」

 

 ティターニアから水の入ったボトルを手渡される。

 

 「ああ、ありがとう。……本当に暑いね、ここ」

 

 まさにブラジルに名高い、アマゾンの熱帯雨林を彷彿とさせるような見た目が、永遠と続いていくようだった。

 

 「山には少しずつ近づいているんだ、このまま北に向かって進めば、必ず僕らは目的地にたどり着───ガレス、危ない!」

 

 「へ?───っと、うわぁ!?」

 

 間一髪のところでガレスの手を掴んだネモ船長が、勢いよくガレスを引き上げる。

 

 「これは、川だね……」

 

 「ありがとうございました、ネモ殿。まさか唐突に崖になっていたとは……私の不注意です」

 

 自分たちが突き進んでいた道は唐突に途絶え、崖となって遥か下降に川が流れているのが上から見えた。

 

 「……どうする、向こう岸に渡るには結構な距離があるぞ」

 

 村正の指摘通り、向かい側の崖は、およそ人間の脚力の跳躍では厳しい位置にあった。魔術による肉体強化ができればその限りではないが、生憎と自分にはそれができない。

 

 「村正が僕らを抱えて飛ぶっていうのはどうだい?」

 

 「一人ずつ運ぶならできないことはねえ。……だが、この距離の跳躍だ。そこそこの踏ん張りが必要だからな。儂がというよりも、足場がもたねえだろうよ」

 

 運んでいる最中に足場が崩れるリスクは、確かに高かった。

 

 「他に方法はないかな……?」

 

 左右を見回す。しかし崖はその先にも続いており、とてもじゃないが渡れるルートがあるとは思えない。

 

 「───!ひとつだけ案を思いついたよ」

 

 ネモ船長が何かに閃いたようだった。

 

 「そこの木に引っかかっている "(つる)" を使うんだ」

 

 いや。ちょっと待った。ネモ船長それは。

 

 「なるほどな。ジップライン(・・・・・・)って、ヤツかい」

 

 「ああ。ロープウェイ、ターザンロープとも言うね。見たところ、向こう岸の木に繋がっているあの蔓は、少なくとも七つある。僕ら全員が渡れる分はあるよ」

 

 ネモ船長は軽々しく言っているが、中々に度胸が試される挑戦ではある。けれど───、

 

 「他に方法はない、か…」

 

 自分の心に覚悟を決める。

 

 「え?ちょっと待って。藤丸くんも賛成なの?わたし、こんなのやったことないから、絶対失敗するよ…」

 

 ティターニアは珍しく弱音を吐いていた。

 

 「…わかった。ならティターニアは最後に村正に担いで飛んでもらおう。一人くらいなら足場も問題ないだろう」

 

 そう言ってネモ船長は蔓の張りを確かめて、飛ぶ準備をする。

 

 「言い出したのは僕だ。責任をもって先陣を切るとも」

 

 そうして、躊躇いなく蔓にしがみつき崖を渡っていく。

 

 「──────っと、うん!問題ない!これなら行けそうだ!」

 

 向こう岸でネモ船長が手を振る。

 

 

 「いっきますよ〜〜〜!──────って、うわわわわ!」

 

 少々危なげではあったが、ガレスも問題なく崖を渡り切り、自分の番になった。

 

 

 「……本当はさ、ティターニア。俺もとんでもなく怖いんだ」

 

 

 「え───?」

 

 飛ぶ前に、思わず本心を吐露する。

 

 「それでも。やらなきゃ前に進めないのなら、震えたままの足でも歩きたいんだ。……そうするとさ、ほんのちょっとだけ景色が変わって、気づいたら足の震えが止まっていたりするんだよ」

 

 そうやって。

 何度も困難を乗り越えてきたのだから。

 

 「藤丸くん……」

 

 「せーのっ───!!!」

 

 勢いよく蔓に捕まり、向こう岸を目指して風を切る。

 そうして───、

 

 

 「ナイス ターザンです!マスター!」

 「ナイス ターザンだったよ、立香」

 

 ありがとう。二人とも。

 って、ナイス ターザンってなに?

 

 

 「…さあ、次は(オレ)らの番だな。ちゃんと捕まっておけよティターニア」

 

 村正が手を差し出す。

 

 

 「──────、いえ」

 

 

 「ティターニア……?」

 

 「わたしも。震えた足のまま歩きます。……わたしだって、ずっとそうしてきたんですから。大切なことを忘れるところだった。」

 

 村正にぺこりと頭を下げ、ティターニアは蔓に捕まった。

 

 

 「───そうかい。なら儂は止めねえよ」

 

 

 「ふぅ───、」

 

 震える手の汗で蔓は湿っていたが、ティターニアはその蔓を絶対に離さないように強く握り締めた。

 

 

 「ちょっと待った。なんだ、この音───?」

 

 

 村正が背後を見据える。するとその方角から───、

 

 『キシャァァア─────────!!』

 

 全長8メートルを超えるほどの巨大な大蛇(・・)が、勢いよく崖に目掛けて突っ込んできていた。

 

 「まずい、村正!ティターニア!」

 

 

 「村正!?」

 

 ティターニアが背後を振り返る。

 

 「儂の心配はいらねえ!いいから、早く跳べ!ティターニア!」

 

 「っ──────!」

 

 ティターニアは僅かに躊躇う。

 

 「いけ──────!」

 

 「このぉぉぉお!!!二度とやるかぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 半ばやけくそ気味の声をあげ、ティターニアが駆ける。

 

 「ティターニア!手を─────!」

 

 大蛇と激突するすんでのところで飛び出したティターニアへと、自らの手を伸ばす。

 

 「藤丸くん──────!」

 

 辛うじてその手を掴み、全員で引き上げる。

 

 

 「ナイス ターザンだったよ、ティターニア」

 

 「……あはは、藤丸くんには負けられませんから」

 

 やっぱり。彼女は負けず嫌いのようだった。

 

 

 「───って、村正は!?」

 

 

 見ると向こう岸には、真っ二つになった先ほどの大蛇の死体と、その中央で刀を肩に担いだ村正の姿があった。

 

 「おう。この程度 大したことねえ。(なまくら)で十分だ」

 

 得意げに村正は鼻を鳴らした。

 

 「さすが村正殿!惚れ惚れする刀さばきです!」

 

 

 そうして村正も崖を渡り、誰一人欠けることなく、一つ目の難関を突破した。

 

 

***

 

 

 「おいおい、この島の気候は一体どうなってやがんだ…?」

 

 村正の指摘は正しく、先ほどまで生い茂っていたジャングルの木々を置き去りにするように、眼前には砂の海───砂漠(・・)が広がっていたのだ。

 

 その砂漠を乗り越えた向こう側に、今度こそ山の麓が見えた。

 

 「先ほどのジャングルとは訳が違う。暑さに耐えて突き進みさえすれば、問題なく向こうにたどり着けるよ」

 

 今度はネモ船長を先頭に殿(しんがり)は変わらず村正が務め、列を組んで進むことにした。

 

 

 「藤丸くんは砂漠を渡った経験はあるのですか……?」

 

 「あるよ。…その時は、ダ・ヴィンチちゃんお手製の砂漠移動車…オーニソプターに乗って渡ったんだけどね」

 

 「へぇ!私も乗ってみたいです、ダ・ヴィンチ殿の作った砂漠移動車!」

 

 ティターニアとガレスが目を輝かせた。

 

 「ダ・ヴィンチは昔も今も相変わらずだね…と、」

 

 ネモ船長は前方で何かを見つけたようだった。

 

 「ん───?これは?」

 

 「死体だな───、さっき襲ってきた大蛇と同じもんだ」

 

 砂漠の砂に埋もれてわかりづらかったが、見ると先ほどの大蛇と同じ種類の魔獣が、両断された死体として転がっていたのだ。

 

 「俺たちの他にも、誰かこの島に来ているのか…?」

 

 「明らかに自然に死んだ状態じゃない。しかもまだ白骨化していないところを見ると、つい最近やられた個体だ」

 

 「味方…ってことは考えられないですか?」

 

 自分たちよりも先にこの島を訪れた誰かが、島の魔獣を駆逐してくれている…と考えるのは、さすがに都合が良すぎる話だろうか。

 

 「ありえない話じゃないけど、警戒はしておいた方がいい。無差別に殺して回っているだけかもしれないからね」

 

 「───ああ。どうやら、別の警戒も必要みてえだけどな」

 

 そう言って村正は刀を手にする。

 見ると自分達の周囲には、その死んだ大蛇と同種の魔獣が、三体(・・)取り囲んできていた。

 

 「皆さん、構えてください。来ます!」

 

 ガレスの声に鼓舞され、全員が戦闘態勢にはいる。

 

 

 しばしの静寂。それを引き裂くように、

 

 『キシャァ、キャアア──────!!!』

 

 一体目の大蛇がその大顎を開いてこちらに飛びかかってきた。

 

 「……鈍いんだよ、竜もどき!」

 

 村正が跳躍で回避し、そのまま大蛇の脳天から刀を突き刺し口を閉じさせる。

 

 「村正───!後ろ───!」

 

 その背後で大きく首をもたげた二匹目の大蛇による強襲が村正を襲う。

 

 「いいえ!させません───!」

 

 大蛇の後方に回り込んだガレスが、その尻尾を掴み大きく引き戻す。

 そのまま反対側の大地へ叩きつけようとしたタイミングで───、

 

 「今です、ティターニアさん───!」

 

 「うん!ガレスちゃん!…もってけ、ヘビ野郎──────!」

 

 ガレスの掛け声に合わせ、ティターニアが砂漠に仕掛けた爆薬を起爆する。

 爆風とともに、二匹目の大蛇の身体が吹き飛んでいった。

 

 「ひゅー、ド派手な爆薬だな、相変わらず」

 

 そう言った村正の足の下で、口を開けずもがいている一匹目の大蛇が、村正を払い除けようと大きく尻尾を薙ぎ払う。

 

 ───が、その尻尾も村正のこめかみを前にして、瞬時に捌かれる。

 

 「……悪ぃな。刀、一本だけかと思ったかい?出そうと思えば "いくらでも出せる" んだな、これが」

 

 そう言い放ち、村正は上空に出現させた数十本の刀を、砂漠へ縫い付けるように大蛇の身体へと撃ち放つ。

 

 

 「敵性個体 二体の沈黙を確認。さすがの実力と連携だね、三人とも」

 

 ネモ船長と同じく、自分も三人の技量に目を奪われていた。

 

 

 「………いえ、まだです。先ほど目視した時、大蛇は三匹いました!」

 

 そうだ。ティターニアの指摘通り、先ほど大蛇は三匹確認した。

 しかし辺りには、元からここにあった大蛇の死体と、今仕留めた二匹の死体しか見当たらなかった。

 

 「恐れをなして逃げたのでしょうか……?」

 

 ───僅かな地響き(・・・)が、辺りに伝わった。

 

 

 「……………いや。()だ!!」

 

 

 『キシャァァアア"ア"───!!』

 

 砂漠を開き、勢いよく大地から "三匹目" の大蛇が飛び出してきた───!

 

 「っ──────!」

 

 その勢いに呑まれ、全員で中空を舞う。

 

 「僕に捕まるんだ、立香───!」

 

 ネモ船長の手を取る。

 

 圧倒的なまでの無防備状態。

 地中からの攻撃が可能な敵だとわかった以上、姿を見せた今仕留めなければ、同じことを繰り返される。

 

 故に。この危機をチャンスと捉え利用せずして、この局面を乗り切ることはできない──────!

 

 「っ───!この中空でケリをつける(・・・・・・)ぞ!ティターニア、村正の行く先に障壁の魔術で足場の道をつくってくれ!ガレスは村正を、可能なかぎりあの大蛇よりも高く打ち上げる(・・・・・)んだ!……村正は!一番斬れ味のいい(・・・・・・)ヤツを頼む!」

 

 「「───! 了解した、マスター!」」

 

 ───合図を合わせる。

 

 「いきますよ───!村正殿!そぉれ───っ!!」

 

 ガレスは大剣の魔力放出で村正の真下へと移動し、その勢いのまま大剣で村正を打ち上げる。

 

 「場所、不規則でいい───!?」

 

 「構わねえ、三つあれば頭上まで届く───!」

 

 ティターニアの魔術で、不規則に障壁による簡易的な足場を設ける。

 

 村正はそれをパルクールの用法で駆け上がる。

 

 「ティターニア!ついでに爆薬も投げろ───!」

 

 「要望が多いぞ、村正ァ───!!」

 

 村正の無茶ぶりに、ティターニアは携帯している細身の魔術剣の鞘をバットのようにして、爆薬の入ったビンを打って飛ばした。

 

 「サンキュー! ……んじゃ、派手に散らすか───!」

 

 『キシャァ──────!!?』

 

 困惑は大蛇の瞳から。

 それはそうだ。先ほど周囲に弾き飛ばしたはずの獲物が、己の頭上でニヤリと笑っているのだから───!

 

 「──────あばよ、」

 

 爆薬の入ったビンを刀に括り付け、深く閉じた大蛇の口へ目掛けて投擲する。

 投擲した刀は、大蛇の硬い外皮を豆腐のように容易く貫いた。

 

 

 ───そうして、三匹目の大蛇が花火のように爆散した。

 

 

 「本物の花火を見た後じゃ、どうにも盛り上がりに欠けるなこりゃ」

 

 難なく着地した村正が、三匹目の大蛇の結末に悪態をつく。

 

 「おいこらぁ!巻き込まれたらどうするつもりだったんだ村正ァ!なに考えてんだ村正ァ!」

 

 爆風に飛ばされて、砂漠に尻もちをついたティターニアが村正へと激しく抗議をする。

 

 「わりぃわりぃ、爆風の範囲はさっき見たんで、いけるかと思ったんだ!でも元気そうでなによりだぜ、ティターニア!」

 

 向こう側で満面の笑みで手を振る村正。

 完全に反省していませんね、これ。

 

 「このぉ…、いつか絶対復讐してやるからなぁ……」

 

 「まあまあ、村正殿も悪気があったわけではないのですよ、きっと…」

 

 ご立腹なティターニアをガレスがあやす。

 なんというか。今日は色々と大変な目にあっているせいか、いつも以上にティターニアは感情的だった。

 

 「けれど全員無事でよかった。立香も怪我はないかい?」

 

 「…少し情けなかったでしたけど、おかげさまで怪我はないです。ありがとうネモ船長」

 

 「むむ。…身長はどうあれ、これでもサーヴァントなんだ。必要とあればマスターをお姫様抱っこくらいするとも」

 

 なぜか少し拗ねるキャプテン・ネモ。

 

 「まあいいさ。…さあ。あと少しで山に到着だ。このまま、進もう」

 

 

***

 

 

 そうして、砂漠を超えた時には既に日は落ち、辺りは暗くなり始めていた。

 

 「夜の活動は危険だ。山の麓に砂漠からのオアシスがある。あそこで野営をして、今日はやり過ごそう」

 

 ネモ船長の提案で、キャンプ地を設営することとなった。

 

 

 今回の島の調査は長期の戦闘が予想されたため、キャンプの設営に必要な資材はあらかた船に積んでいた、……のだけど、

 

 「あれ………?」

 

 「どうしました、マスター?」

 

 「いや。用意してきたはずの携帯食料が減ってるんだ」

 

 よく見ると、色々と足りてないような。

 ここに至るまでに使用した記憶はないのだけど。

 

 「もしかしたら、行きで渦潮に巻き込まれた時になくしてしまったのかもしれないね」

 

 「そう、なのかな……」

 

 「まあ、今ある分で賄うしかねえだろ。(オレ)たちは食事が必須ってわけじゃねえんだ。藤丸の食い扶持(ぶち)が繋げられりゃそれで問題ねえよ」

 

 村正はそう言って、焚き木に火をつけた。

 

 「うん。ここからは明け方まで、立香を除く僕、ティターニア、ガレス、村正の四人で、二時間おきに交代しながら周囲の見張りを行なう。眠れるタイミングの時はしっかりと休息を取ること。いいね?」

 

 

 そうして、ソールズベリーでの深い夜を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────眠れない。夜風を浴びに……行こうとして、見張りの担当のティターニアが、焚き火を見つめて丸太に座っているのに気がついた。

 

 「見張りは問題なさそう? ティターニア」

 

 「藤丸くん……起きてきたんですか?」

 

 ティターニアは、はっと目を見開いてこちらに気がついた。

 

 「みんなに見張りをしてもらって、自分だけずっと眠りこけているのは、ちょっと申し訳なくってさ」

 

 「ふふっ、藤丸くんらしいですね」

 

 「この時間の見張りは付き合うよ。独りで二時間も起きているのは、退屈じゃない?」

 

 ティターニアの隣に腰を下ろす。

 そのついでに、焚き火に追加の(まき)をくべた。

 

 

 そうして二人揃って沈黙の中、赤く燃える焚き火を眺めた。

 

 

 「えっと……、こういう時って、何話したらいいのか迷いますね!あはは」

 

 ティターニアは居心地が悪そうに笑った。

 

 「ごめん!迷惑だったならやめておくけど…」

 

 「いえ、迷惑とかそんな。単純にこうやって時間を過ごすのに、わたしが慣れていないだけです」

 

 ティターニアの目はどこか遠くを見つめていた。

 その瞳を横から眺めていると、

 

 「藤丸くんの話、聞かせてくれませんか?」

 

 そう訊ねてきた。

 

 「俺の話?あんまり愉快な話ばかりじゃないけど…それでもいいなら、いくらでも」

 

 「……さっき砂漠を歩いた時、砂漠を車で渡ったことがあるって言っていたでしょう?どんな気持ちなのですか、砂漠を車で駆けるというのは」

 

 「ああ、あれはダ・ヴィンチちゃんの運転がスゴくて……」

 

 

 そこからは、色々な思い出話を語った。

 今日みたいな砂漠や密林を探索した話。

 アメリカ大陸を横断した話。フランスやローマ、あらゆる都市を巡った話。荒唐無稽(こうとうむけい)な特異点を調査した話。

 

 楽しかったこと。辛かったこと。

 泣きたくなったこと。嬉しかったこと。

 

 ──────そして。大切な人たちのこと。

 

 

 「ごめん、なんか自分のことばっかり話しちゃってたね…」

 

 気づけば時間はあっという間に過ぎていた。

 終始 自分の話ばかりをしてしまって、退屈ではなかっただろうか。

 

 「いえ!藤丸くんの話、本当に興味深いものばかりでした。たくさん聞けて良かったです」

 

 ティターニアはそう笑って、丸太から立ち上がった。

 

 「もうすぐ交代から二時間ですので、次の番のガレスちゃんを起こしてきます。今日はありがとうございました、藤丸くん」

 

 ティターニアがぺこりとこちらに頭を下げた。

 

 「いや、礼を言うのはこっちの方だよ!ありがとう、時間いっぱいまで話を聞いてくれて」

 

 その言葉を聞いて、ティターニアはガレスを呼びに行った。

 

 「……さて。あんまり夜更かししていると、明日に響くし、俺も今度こそ寝ないとな…」

 

 そうして。再び眠りにつく。

 明日は本格的にこの島の中央に乗り込むのだ。

 

 夜明けの光を待って、自分の瞼を閉じた。

 

 

***

 

 

 「…本当にこれ、頂上の建物に繋がってるのか?」

 

 疑問は村正の口から漏れた。

 

 自分たちは今、灼熱の溶岩が底深くに溜まった溶岩洞窟(・・・・)を歩いているのだった。

 

 「少しずつではあるけど、上に登っていっているよ。…あの建物を建てた人物は、この自然に作られた洞窟を通路として利用していると見ていいだろう」

 

 一夜明けて、山の外観を手分けして見て回ったが、外側はとても登れるような形状ではなかったのだ。

 その一方で、ティターニアの探知の魔術で見つけた、この山の麓に大きく空いた洞窟は、どうやら上へと繋がっているらしい。

 

 「にしても暑すぎますね……、見下ろせば溶岩とか、さすがの私も肝が冷えます……いや、この場合は肝が燃える…でしょうか?」

 

 ガレスは暑さのあまり思考が定まっていなさそうだ。

 

 「ティターニア、お前さん、辺りを涼しくする魔術とか覚えたりしてねえのか?」

 

 「覚えてるわけないだろ!わたしをなんだと思って………あ、でも暖房の魔術ならあります」

 

 「いや、暖房はあるのかよ!」

 

 「それ、なんとか応用して温度を下げたりできないかな?」

 

 「……む。藤丸くんに頼まれたら断れないですね…わかりました。やってみます」

 

 ティターニアがその場に止まり、しばしの沈黙の後、魔術を発動させる。

 すると、ほんのりと辺りの気温が下がったような気がした。

 

 「おお!やればできるじゃねえか!見直したぞティターニア!」

 

 村正はティターニアの頭を撫で揺する。

 そしてそれを払い除けるティターニア。

 

 「…ところで、あの穴、なんでしょう?」

 

 ガレスが指さした前方に、大人が一人通れるくらいの高さの丸い通路があった。

 

 「どうやら道はそこだけのようだね。もしかしたら目的地が近いのかもしれない」

 

 この長かった溶岩洞窟も間もなく終わると思うと、幾ばくか気が楽になった。

 

 

 いつもと同じように、ガレスを先頭に最後尾を村正が引き受け、列を組んで通路を進む。

 本当であれば相当な蒸し暑さをもつであろうこの通路も、今はティターニアの魔術でかなり楽になっている。

 

 「…そういえば、この島のアイランド・クイーンがもっている常夏領域は、どのようなものなのでしょうか?」

 

 思い出したように、ガレスが話題を口にした。

 

 「BBが使っていた"恐怖心の増幅"のように、島にいる間、常に適応されるものもあれば、ゴッホの"空想の強制化"のように、任意で発動するパターンもあった。……今のところ、僕らには何も被害が出ていないところを見ると、恐らくこの島の常夏領域は、後者だろう」

 

 「この島には、人が住める場所は愚か、魔獣が蔓延ってやがる。……ゴッホの時と同じように、この島の在り方を丸ごと捻じ曲げたっていう線はどうだ?」

 

 この島の常夏領域は、"人が住まわぬ魔獣たちの島への変貌" だと、村正は考察した。

 

 「いや、その可能性は低い。僕の方でもソールズベリーについては調べていたけど、この島は元から人が住んでいなかったそうだ。この環境は、この島独自のものとみて間違いないだろう」

 

 「なるほど。では、やはり今回の常夏領域はゴッホさんのケースと同じで任意に発動───ちょっと待って、なんでしょう?この音…」

 

 ティターニアに指摘され、全員で耳を澄ます。

 すると、自分たちよりも後方の方で ゴポゴポ(・・・・)と、何か液体のようなものが溢れる音がした。

 

 「──────! まさか!」

 

 振り返ると、自分たちの後方、先ほどまで歩いてきた通路に少しずつマグマ(・・・)がせり上がってきていたのである。

 

 「な──────!?」

 

 「まずい、みんな走れ───!」

 

 狭い通路であるため、全速力とはいかずとも全員で列を組んだまま走り出す。この速度ならば、あのマグマとは問題なく距離を置くことができるだろう、と思った矢先───、

 

 「な、なな、なんですかこれ──────!?」

 

 困惑の声は先頭のガレスから聞こえてきた。

 

 「ガレスちゃん、どうしたの───!?」

 

 「()です!ちょうどこの通路を埋め尽くすサイズの"岩の玉"が、上から転がってきたんです──────!」

 

 「なんだって……!?」

 

 「っ───、"前門の岩玉に後門の溶岩" ってか!」

 

 前方からこちらを潰そうと転がり落ちてくる岩の玉と、後方からこちらを飲み込もうとする溶岩。

 逃げ道はなく、絶対的な死によって前と後ろを挟まれた状態に陥っていた。

 

 「ティターニア、障壁の魔術で玉の勢いを止めろ!儂は後ろの溶岩をなんとかする──────!」

 

 「もうやってるってば───!」

 

 ティターニアはガレスの前に立ち、障壁の魔術で岩を押し留めようと必死に詠唱(えいしょう)を唱えていた。

 対して後方の村正は、迫り上がるマグマを前に、後方の通路へと無数の刀を、円を描くように打ち付け、即席の蓋を作り出していた。

 

 「こっちは何分もつかわからねえ、そっちは!?」

 

 「もう、無理、かも、──────!」

 

 設置した前方の障壁にヒビがはいる。

 

 「まずい───!…ガレス、岩を砕こう(・・・・・)!君の大剣でなんとかできるか!?」

 

 「───! お任せあれマスター!」

 

 「令呪を───、ネモ船長!?」

 

 令呪を切ろうとしたタイミングでネモ船長からその手を止められる。

 

 「残り二つだろう?ここはまだ切り時じゃない。……今は僕に任せてくれ」

 

 そう言ってネモ船長は、ガレスに "旅の導き" のスキルを施した。

 

 「僕のスキルは本来、水辺で真価を発揮するものだが、味方の火力を補助するだけなら問題ない。ましてやその相手が、ただの石ころならね」

 

 「感謝いたします!ネモ殿!──────いきますよ、下がっていてください、ティターニアさん!!」

 

 ネモ船長のスキルによる補助も加えて、勢いよく魔力放出で突貫するガレス。夏の霊基となっている今の彼女は、ネモ船長のスキルとの相性がすこぶる良いようだった。

 その勢いは破れかけていた障壁の魔術を貫き、前方の岩の玉を粉々に粉砕してみせた。

 

 「へへ、どんなもんだい!」

 

 「よくやったよ、ガレス!村正、後ろをありがとう、もう大丈夫だよ!」

 

 「おう、ささっとこの通路を抜けるぞ!」

 

 全員で通路を駆け上がる。

 その前方に、外の日差しと思われる光が見えた。

 

 

***

 

 

 「いよいよだね。覚悟はいいかい?」

 

 ついに。この島のアイランド・クイーンがいると思われる場所。島の中央の山、その頂上に聳え立つ黄金の建築物へとたどり着いた。

 

 「ったく、手こずらせやがって」

 

 「皆さん、気を緩めずに行きましょう!」

 

 「…………よし。心の準備、できました」

 

 各々がこれから待ち受ける戦いに覚悟を決める。

 

 「うん。みんな、行こう───!」

 

 勢いよく、豪勢な両開きの扉を開く。

 

 「ソールズベリーのアイランド・クイーンに会いに来た!ここに居るか───!」

 

 ネモ船長の言葉とともに、中へとはいる。

 すると、入口からまっすぐに続いた赤い絨毯(じゅうたん)の向こう───玉座と思われる椅子に誰かが腰かけていた。

 

 

 よく見るとそこには──────"右手でテレビのリモコンをもち、左手で葡萄(ぶどう)の果実を一粒口に運ぼうとしたところで硬直した、ヴリトラ(・・・・)の姿" があった。

 

 

 「─────────、」

 

 あまりの意味不明な光景に、しばし呼吸を忘れていた。

 

 「──────き、ひ、ひ!よくぞ此度()ここまでたどり着くことができたな。褒めてしんぜよう、冒険者ども」

 

 ヴリトラは何事もなかったかのように、葡萄を玉座の横に置いたテーブル上の果物かごに戻し、ピッとテレビを消して玉座の脇へとずらす。

 というか、まさかのテレビ直置きである。

 

 「───コホン、あまりの状況で呆気にとられてしまったが、キミがこの島のアイランド・クイーンかい?」

 

 ネモ船長が気を取り直して、真面目に訊ねる。

 

 「──────いかにも。わえ(・・)がこの島のアイランド・クイーンなるものじゃ。此度()全員 健在なようで大変めでたいのう」

 

 自分たちの目の前にいるのは、かつて一度対立したこともある、古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』や『リグ・ヴェーダ』などで語られる"障害"の竜。インドラ神に敗れ、その度に何度も現れる堰き止めるため(・・・・・・・)の邪竜。サーヴァントとしては、女性の肉体をもって現界した、堰界竜(いかいりゅう)───"ヴリトラ" に相違なかった。

 

 彼女は今までのアイランド・クイーンと同様に、その霊基を夏のものへと変貌させており、深く黒い水着に、ムガル絵画で描いた花のような柄の黒いベールを羽織った姿をしていた。

 その長い髪は左のワンサイドにまとめられ、まるでとぐろを巻く蛇のようにカールを巻いていた。

 

 「君の目的はなんだ?…どうしてわざわざ、こんなチラシを使ってまで俺たちをおびき出したんだ?」

 

 ヴリトラへ、ロンディニウムの酒場でティターニア達が見つけたチラシを見せる。

 

 「ああ、それな。貴様らがなかなか現れぬので、少しばかり意匠を凝らしたのじゃ。わえながらナイスアイデアだったじゃろう?」

 

 いや。完全に罠だとわかってましたけど。

 

 「………というか、もうこの(くだり)聴き飽きた(・・・・・)。もっと面白い話題を話さんか。…例えばそうさな、今回の冒険(・・・・・)の思い出話が聴きたいのう」

 

 先ほどから、ヴリトラの発言にはどこか引っかかるところがあった。

 

 「待て。お前さん、さっきから "此度も" だの、"聴き飽きた" だの、何を言ってやがるんだ?」

 

 自分と同じように、村正も同じことに引っかかっていたようだ。

 

 「ん?……なんじゃ。また説明せねばならんのか。億劫(おっくう)よのう。これで三回目(・・・)じゃ。もう次からは説明せんからな」

 

 ちょっと待て。今、ヴリトラはなんと言った?

 

 「わえはな。わえ以外が頑張る様を眺めるのが好きじゃ。故に、貴様らには、数多の冒険(・・)を乗り越えてほしい。何度も何度も障害に直面し、その度に仲間と協力して乗り越える。…き、ひ、ひ!素晴らしい絆じゃ!」

 

 堰界竜ヴリトラは、障害の竜だ。しかしそれは単純に"嫌がらせ"が目的なのではなく、そうして危機に直面した神々や人々が、慌てふためき、そして乗り越えようと努力する様を見るのが好きなのだ。そのことを、自分はもう知っている。

 

 「それ故な。一度きりの冒険ではつまらん。何度も繰り返し、その度にまた新たな障害を用意する。そうすることでのう? さらに素晴らしい姿を眺めることができるのじゃ。貴様らの顔を見ればわかる。今まで(・・・)で一番良い顔をしているからのう?」

 

 「…くどいよ、ヴリトラ。結局、キミの常夏領域は一体なんなんだ───!」

 

 ネモ船長が珍しく声を荒らげる。

 おそらく彼は、その答えに行き着いた。それ故に、自分の不甲斐なさに苛立っているのだろう。

 

 「……き、ひ、ひ。わえの常夏領域はな、経験の没収(・・・・・)じゃ」

 

 「──────!」

 

 経験の没収。ということはつまり。

 彼女が先ほどから言っている、不可解な言動は───、

 

 「この場所へたどり着く度に、わえが任意で発動させるものじゃ。貴様らはな、既にここに二度(・・)たどり着いている。そして、今回は "三度目" じゃ」

 

 では、まさか。

 砂漠で見つけた、両断された大蛇の死体。

 使った覚えのない携帯食料の喪失。

 あれらは、自分たちが───?

 

 「そ、そんなはずはありません!だって私たちは、この島に来てからのことを最初から最後まで覚えています!タイニー・ノーチラス号に乗って、渦潮に飲まれて、それで───、」

 

 「"気がついたら、島の砂浜に倒れていた"。……なるほど、記憶のつなぎ目はそこかい」

 

 「そうじゃ。察しが良いのは、今までと同じよのう?…わえの常夏領域によって、貴様らはこの島で過ごした記憶と経験を全て忘れる。こうしてここまで何の疑いもなくやってきたのが何よりの証拠じゃ。……なんなら、()としての証拠が見たいかのう?」

 

 そう言って、ヴリトラは、玉座の後ろから 村正が作ったと思われる刀(・・・・・・・・・・・・)を取り出し、その刀身を舌で舐めた。

 

 「──────!」

 

 「き、ひ、ひ!これではっきりしたじゃろう。さあ、足掻いても無駄なのじゃ。故にせめて、わえの役に立て。……貴様らの此度の冒険はどうだったのじゃ? 楽しかったかのう? 聴かせるがよい」

 

 ヴリトラは愉快そうにそう訊ねる。

 

 冗談ではない。何度も何度も冒険を繰り返させ、その度にそれを乗り越えた自分たちの顔を眺めて楽しむ……だって?

 そんなことを繰り返せば、いずれは体力が擦り切れて力尽きる。記憶や経験を失ったところで、体に蓄積した痛みや疲労は変わらずに残り続けるのだ。

 それ故に、彼女の求める夏は破綻している───!

 

 「君の娯楽に付き合っている時間はない…!悪いけど、今回で最後にさせてもらうぞ!」

 

 自分の言葉を聞いて、村正とガレスが走り出す。

 

 

 「再び常夏領域を使われる前に、貴方を仕留めます───!」

 

 ガレスが大剣を大きく振りかぶる。

 

 

 「──────つまらん。二度目(・・・)の時と同じ反応じゃ」

 

 

 そう呟いたヴリトラの後方から、建築の窓や扉が一斉に開き、尋常ではないほどの大量の洪水が溢れ出てきた。

 

 「な──────っ!?」

 

 とてつもない勢いに、ガレスと村正がこちらまで押し流される。

 

 「……もうよい。貴様らの顔を見ただけで、良き旅であったことは察したわ。故に、次の冒険 (・・・・)に出るがよい」

 

 「まずい……!常夏領域を使われるぞ───!」

 

 

 「───我が身、堰界の竜なり。さあ雷霆神(インドラ)よ。遥か天より睨む怨敵よ。その(いなな)きでこの身を屠るがよい」

 

 

 「くっ──────!」

 

 ティターニアが咄嗟に障壁の魔術を使うも、きっとこれは無意味なのだと全員が悟る。なぜなら一度目も二度目も、この方法が頭に浮かばなかったはずがないのだから───!

 

 「───金剛杵(ヴァジュラ)は至り。

 咆哮は猛る雌牛の如く、雲山を拓き大海へ帰れ!

 『水よ、雲の牛群を創れ(ヴァーダロン・キー・ガイン)』───ッ!!」

 

 

 ──────失敗した。

 そうして自分たちは今までと同じように、この洪水に飲まれあの砂浜まで押し流されるのだ。ここで過ごした、全てのことを、忘れ、て──────

 

 

***

 

 

 視界には、一匹の小さなカニが下から上に歩いていた。

 

 

 「──────!ネモ船長、みんな!?」

 

 倒れ伏した砂浜から起き上がり、辺りを見回す。

 

 見ると周りには、自分と同じように砂浜にうつ伏せで倒れているみんなの姿があった。

 

 「よかった!ちゃんと全員いる」

 

 「っ───、酷い目にあった。なんなんだ、あの宝具(・・)は」

 

 「───はい、驚くべき水の量でした。あれが堰界竜ヴリトラが堰き止めていたとされる洪水の力なのですね……」

 

 「いてて、身体中びしょ濡れです……」

 

 「純粋に、宝具としての火力が段違いだ…どう対処しようか…」

 

 そうして全員が目を覚ました。

 ──────って、ちょっと待った。

 

 「俺たち………ヴリトラのことを覚えてる……?」

 

 「え………?あっ、本当だ」

 

 「ヴリトラの話では、ここでの経験は全部忘れるって言っていたけれど───、」

 

 経験の没収。このソールズベリーにおける常夏領域によって、本来忘れるはずのこの島での経験と記憶。けれど今の自分たちは、それを失くしていなかったのだ。どういうことなのだろうか?

 

 「ヴリトラ殿は私たちに常夏領域を使わなかったのでしょうか?」

 

 「あの会話の流れから、それはねえだろうよ」

 

 

 「──────うん。君たちは紛れもなく、あのアイランド・クイーンに常夏領域を使われたよ。この()が、証人さ」

 

 

 「──────!」

 

 振り返るとそこには、見覚えのない少女… / …いや、自分が契約しているサーヴァントの一人、ガレスと同じくブリテンの英雄譚で語られるアーサー王伝説 その栄光ある円卓の騎士の中でも最強(・・)と謳われる騎士─── "ランスロット" が、堂々と立ち尽くしていた。

 

 「ランスロット様──────!」

 

 勢いよくガレスがランスロットに飛びつく。

 

 「またか!わわ、ちょっと、いきなりなんだい───!?」

 

 ランスロットはあわあわとガレスを引き剥がす。

 

 「す、すみませんランスロット様、久々にお会いしたので、つい気持ちが昂ってしまって…えへへ」

 

 「……まったく。君はランスロット卿に会うと毎回こんな感じなのかい?」

 

 ランスロットはそう言って、ぱたぱたとガレスから付いた砂浜の砂を服から払った。

 

 「サー・ランスロット!キミまで召喚されていたとは!……今の口ぶりから察するに、キミが僕らを助けてくれたのかい?」

 

 「ん?…ああ。そういうこと。────改めて、自己紹介を。僕はランスロット、"常夏(とこなつ)騎士(きし) "ランスロットだ」

 

 ん?今、なんと言った?

 

 「(オレ)は千子村正。こっちがキャプテン・ネモで、ってまあ知っているとは思うが、藤丸とガレスだ。それから───」

 

 「ティターニアです。………はじめまして」

 

 ティターニアはなぜか気まずそうな表情を浮かべていた。

 

 「ティターニア………?君が……?」

 

 

 しばしの無言。

 ランスロットとティターニアは互いに見つめ合ったまま、何も口にしなかった。

 

 

 「──────なるほど。陛下(・・)が介入したわけだ。お互い、自分の役割に徹した方がよさそうだね」

 

 「はて、わたしには…なんとも」

 

 そう言って、あははと目を逸らして笑うティターニア。

 

 「それで、ランスロット。まずは助けてくれてありがとう。君がいなかったら、俺たちはまた、この島での冒険を繰り返す羽目になっていたよ」

 

 「礼には及ばないよ。これが僕の役割だからね」

 

 「そういえばお前さん、先ほど妙なことを言ってなかったかい?……確か、"常夏騎士" とかなんとか」

 

 村正と同じく、自分もその言葉が気になっていた。

 英霊 ランスロットにそんな異名があると聞いたことはない。

 

 「ああ。これはこの特異点で活動を行なう上で、僕に与えられた "祝福(ギフト)" のようなものでね。これがある限り僕は、この特異点におけるアイランド・クイーンたちの常夏領域の影響を受けない(・・・・・・・・・・・・)んだ」

 

 「すごい!凄すぎますランスロット様!」

 

 ガレスが目を輝かせてランスロットに顔を寄せる。

 

 「なるほど。その能力のおかげで、キミはこの島で問題なく活動できているわけだね。……それじゃ、僕らが常夏領域の影響を受けずに助かっているのは、その祝福(ギフト)の副効果かい?」

 

 「半分正解だけど、半分不正解。この"祝福(ギフト)"は本来、僕にだけ適応されるものだ。…けれど、"一度だけ" なら、この保護を周囲の者たちへも付与することができる」

 

 「じゃあ、その一回限りの範囲効果を、俺たちのために使ってくれたってこと?」

 

 「そうさ。だから次はない(・・・・)。もう一度あのアイランド・クイーンに常夏領域を使われたら、その時こそ君たちは、この島での記憶と経験を失うだろう。……当然、今ここで出会った僕のことも、ね?」

 

 つまり、チャンスは今回かぎりということか。

 

 「今までと同じやり方では、私たちは二の(てつ)を踏む……いえ、四の轍を踏むことになりますね…」

 

 ガレスが、むむむ、と頭を抱える。

 

 「正直、使えるものなら何度でも使ってあげたいところだけど、この祝福(ギフト)は僕にとっての生命線(・・・)でもある。二度目以降の範囲使用は、祝福(ギフト)そのものの喪失につながる。…力になれなくて申し訳ない」

 

 ランスロットが申し訳なさそうに謝罪する。

 

 「いや。たった一度きりの範囲効果を、俺たちのために使ってくれたんだ。ランスロットがくれたこのチャンスを、絶対に無駄にするわけにはいかない」

 

 「ああ、立香の言う通りだ。必ず次で決着をつける。……だからこそ、キミにも協力してほしい、ランスロット」

 

 「───え?いいのかい?…今話した通り、僕にはもう祝福(ギフト)の範囲効果は使えないんだよ?」

 

 「…関係ないよ。君は俺たちの仲間だ。なら、一人でも多い方が心強い。……それに、円卓の騎士最強のランスロットが味方にいたら、怖いもの無しさ」

 

 そう言って、握手を求めて右手を差し出す。

 

 「──────仲間、仲間か。…そうか。それは確かに良いものだ。君の言った通り、僕は最強だから、戦闘面なら任せてくれ!」

 

 ランスロットは嬉しそうに握手を返してくれた。

 

 

 「───よし。そうと決まれば作戦会議だ。さっきの(くつろ)ぎっぷりを見るに、向こうはきっと今回も油断してやがる。その隙をつくぞ」

 

 村正に鼓舞され、打倒ヴリトラの作戦会議がはじまった。

 

 

***

 

 

 「……ほうほう、トロッコかぁ。悪くない移動手段じゃ。二択の選択を迫らせて、ハラハラどきどき…、き、ひ、ひ!右はマグマで左は落とし穴にしようかのう」

 

 そう言いながら、意地の悪い笑みを浮かべるのは、この島のアイランド・クイーン───ヴリトラだった。

 彼女は島の霊脈を利用した電力によって、テレビの画面で"映画鑑賞"をしている。

 

 「き、ひ、ひ。にしても、この "イソディ・ジョーソズ" とやらは大変(おもむき)深い映像じゃ。"汎人類史の冒険とは何かが学べます"と言って、あのローマの女神が渡してきた時は、何をほざいておると思っておったが、意外と(そそ)るではないか!」

 

 そう言って、ヴリトラは葡萄を一粒口へ運んだ。

 

 「…ほほう!宇宙人!そういうのもありか!き、ひ、ひ!五周目(・・・)はこれで行くかのう?」

 

 

 「いや───!"五周目"なんて、ない───!」

 

 

 「なんじゃ──────!?」

 

 大きな地鳴らしとともに、テレビが倒れる。

 

 「─────────、()か!?」

 

 天井を貫いてネモ船長とガレス、村正とともに真上からヴリトラの(もと)へと突っ込む。

 

 「はぁ──────!!」

 

 ガレスの大剣が勢いよくヴリトラへと直撃し、玉座を砕いて建物の後方の壁へと斬り飛ばす。

 

 「うぐっ──────!!」

 

 「こいつも貰っていきな──────!」

 

 後方の壁に激突したヴリトラに対して、そのまま壁へと縫い付けるように村正が彼女の服の端や両手のひらに刀を飛ばした。

 

 「ほほう………やってくれたな、カルデア」

 

 ネモ船長に抱えられて着地する。

 既に状況はこちらが優勢だ。

 

 「………人間ども。思っていたよりも四度目は早かったのう。さて、今回は説明してやろうか否か」

 

 「その必要はありませんよ、ヴリトラ!」

 

 「──────!」

 

 縫い付けられたヴリトラの後方からティターニアが飛び出す。

 

 「貴様、いつからそこに──────!?」

 

 「"不意打ち"の魔術。……ですが、今回は"爆薬"の魔術とのコラボレーション、ということで。──────セット!」

 

 ティターニアの合図とともに、建物の周囲の窓や扉が爆薬によって壊されていく───!

 

 その中に込められていた大量の洪水が、建物を飲み込んでいく。

 

 「うぐっ、もが、水浴びは好きじゃが、溺死(・・)させるつもりか!貴様ら──────!」

 

 壊れた玉座を足場にして、自分たちは沈みゆく黄金の建物の中を浮かぶ。

 

 「お前さんが負けを認めたら、助けてやらねえこともねえぜ?」

 

 村正が挑発の笑みを浮かべた。

 

 「くっ───!舐めおって。この程度の刀、自らの力で引き抜いてみせるわ───!…………っ、重すぎぬかこれ!?」

 

 「…悪いね、僕のスキルで強化してある。生憎と、今ここは水場(・・)なんだ。一人で抜くのは、至難の業だと思うよ」

 

 ネモ船長が得意げに鼻を鳴らす。

 

 

 「──────────はあ。わかった。負けを認める。この刀を抜いてくれ」

 

 

 ヴリトラの言葉を聞き、村正が刀を消し去った。

 

 「じゃあこれで、"純愛の鐘"の場所へ案内してくれるね?ヴリトラ」

 

 洪水の中から顔を出し、ふよふよと漂うヴリトラへ手を差し伸べながら、そう訊ねる。

 

 

 

 「─────────、」

 

 

 

 「ヴリトラ──────?」

 

 ヴリトラは下を向いたまま黙っていた。

 

 

 「ほーんに、"お人好し" ばかりよのう。カルデアは」

 

 

 「っ───!藤丸、下がれ───!!」

 

 「──────!」

 

 溢れ出る洪水の底から、巨大な大蛇が勢いよく飛び出してきた。

 

 「ぐあっ──────!」

 

 それぞれが散り散りに、水の中へと落ちる。

 

 

 「愚か、実に愚かじゃ。わえは()ぞ。"邪竜" ぞ?……たった一度の命乞いで、改心すると本当に思ったのかのう?」

 

 ───水が再び逆巻いていく。

 ヴリトラを中心に、まるで渦潮のように水がうねりだした。

 

 曰く、障害の竜ヴリトラは、幾度にもわたって人々や神の前に立ちはだかったという。彼女は何度も敗北を繰り返しても、その度にまた蘇り再び障害として現れる。もはや、超えるべき壁(・・・・・・)そのもの、障害という現象に他ならない。

 その化身である彼女が、たった一度の敗北(・・・・・・・・)だけで諦めるはずがなかったのだ。

 

 「まずい───!前回と同じで、また宝具を使われるぞ──────!!」

 

 「き、ひ、ひ!……なぜ貴様らが不意打ちに精を出したか検討はつかぬが、何はともあれ五周目じゃ。次の冒険(・・・・)も、楽しんでくるがよい」

 

 勝ちを確信したヴリトラは、再び宝具を使用すべく両手を広げて天を仰ぐ。

 

 「───我が身、堰界の竜なり。さあ雷霆神(インドラ)よ。遥か天より睨む怨敵───よ?」

 

 

 できるのならば。

 先ほどの降伏で決着がついてほしかったけれど。

 

 

 「こうなった以上は、次の作戦(・・・・)だ」

 

 

 天を見上げたヴリトラの目に映ったのは雷霆神にあらず。

 そこに在るは清廉(せいれん)たる湖面の騎士。"サー・ランスロット" の姿である───!

 

 

 「悪いね。………こんななりでも、不意打ちは身に染みるほど得意だったりするんだ」

 

 ランスロットの右手のバンカーが、無防備であったヴリトラの腹部を勢いよく殴打する。

 

 「き───さま、誰、だ──────!?」

 

 「常夏騎士 ランスロット。………贖罪(・・)のため、一人の少女の夢を護るべく遣わされた騎士だ」

 

 ランスロットはそのまま片手で、凄まじい膂力によりヴリトラの身体を持ち上げる。

 

 「………けれど、ここだけの話。私も竜(・・・)でね。君には、親近感が湧いているんだ」

 

 「なっ──────!?」

 

 耳元で囁いたランスロットの言葉に、ヴリトラは困惑の表情を浮かべた。

 

 「でも惜しいなあ。……君は障害の化身。

 世界を堰き止めるため(・・・・・・・・・・)の堰界竜だろう?

 けれど私は、境界を切り開くため(・・・・・・・・・)の、最後の竜。……ようするに君にとって僕は、ため息が出るほど、相性が悪い───!!!」

 

 青白く神々しい魔力が、ランスロットの右手に収束する。

 

 

 「沈め───ッ!

 『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』───ッ!!!」

 

 

 ──────湖光の剣が、堰界竜を貫いた。

 

 

***

 

 

 「ほーんに、哀れよのう、わえは……」

 

 大の字になって倒れ伏したヴリトラは、吹き抜けになった建物の天井を見上げながら、そう呟いた。

 建物内を埋めつくしていた洪水は、既に全て海へと流れ去り、辺りには所々に水溜まりが残るだけだった。

 

 「君、自己を省みるタイプだったのかい?」

 

 隣に座っていたランスロットがそう訊ねる。

 

 「当然じゃ。油断をした上で不意打ちを浴び、白旗をあげた上で騙し討ちをし、あまつさえ慢心し再び不意打ちを喰らうなどと……穴があったら入りたいくらいの哀れっぷりよ…」

 

 「ああ、わかるよ。竜だもんね。僕もたまに入りたくなるよ、穴」

 

 イマイチ話が噛み合っていない気がしたが、ヴリトラはあえて言及はしなかった。

 

 「そんなことよりも貴様、先ほどの一撃、手を抜いたな?わえの霊核をわざと外しおっただろう」

 

 「ん?当然だとも。君にはまだ鐘の場所を聞いていないしね、カルデアのマスターからそう言われた」

 

 「本当にそれだけか?含みがあったような一撃に感じたがのう…」

 

 それを聞いたランスロットはヴリトラから目を逸らして、

 

 「…ああ。さっきのは建前。本当は、君に思うところがあってね。……同じ竜仲間ってのもあるけど、このソールズベリー(・・・・・・・)の女王でありながら、自由奔放な姿が目に余ったのさ」

 

 「……………知人に似ておったか?」

 

 「まあそんなとこ。今の君みたいに、周りの考えに耳を貸さず無自覚に色々と巻き込んで、我が身可愛さで、好きなことだけをして生きてるような、迷惑極まりない女の子でさ。……………でも好きだった。僕にとっての光だったんだ」

 

 ランスロットは懐かしむように遠くを見据える。

 

 「なんじゃ。なら、わえとは似ても似つかんだろうに。わえはその女とは違って、自分が滅んだって構わぬからのう」

 

 「……え?あんな命乞いからの騙し討ちをしておいて、君は自分の命が一番大事だとか考えたりしていないのかい!?」

 

 「そんなに驚くことか、今の!………まあ、わえはそういう在り方(・・・・・・・)の竜じゃ。故に、恥じてもおらぬし、誇りを抱いているわけでもおらぬ。ただ"そう在る"だけじゃ」

 

 ランスロットは目を丸くしてヴリトラを見つめた後、仄かに苦笑して空を見上げた。

 

 「やっぱり、君には親近感が湧くなあ」

 

 「……ならせめて本当の名を教えよ。他の者どもは偽れても、わえの目は誤魔化せぬぞ」

 

 「ああ、教えてあげたいところだけど、生憎とそれはできない契約なんだ。僕は君たちとは違って罪人(・・)でね。本当の名を明かしただけで、爪弾(つまはじ)きにされてしまう。ここはそういう場所(・・・・・・)なんだ」

 

 それを聞いたヴリトラは残念そうな目をうかべる。

 

 「なんじゃ。つまらんのう……」

 

 「……でも。何かの縁でまた君に会えたら、その時は()の本当の名を伝えるよ。約束する。」

 

 そう言って、ランスロットは立ち上がり、見下ろしたヴリトラに手を差し出す。

 

 ヴリトラは、そんな彼女の麗しい顔を、夕焼けの空を背景に見上げた。

 

 「ふん、生意気な顔をしおって。腹を貫いた相手に見せる顔か。ほーんに、憎らしい奴よのう…」

 

 そう悪態をつきながらも、ヴリトラは彼女の手を取った。

 

 

***

 

 

 「ランスロット!無事───!?」

 

 水が引き、ランスロットとヴリトラのいる場所へと駆け寄る。

 

 「ああ。僕は問題ない。見ての通り、"無傷" さ」

 

 ランスロットはどんなもんだ、と胸を張る。

 

 「さすがランスロット様です!素晴らしいアロンダイト捌きでしたよ!型を変えたのですか?」

 

 「むむ、まあそんなとこ、かな…? 君がいると少しやりづらいな、ガレス……」

 

 ランスロットは居心地が悪そうに頭をかいた。

 

 

 「それで、ヴリトラ。今度こそ正真正銘、敗北を認めるね?」

 

 「ふん。まあこれ以上、往生際の悪い真似をしても同じことの繰り返しじゃろう。わえもさすがに腹を括ったわ」

 

 ヴリトラは降参とばかりに両手をあげる仕草をした。

 

 「では。純愛の鐘の場所を教えてください」

 

 「ここ(・・)じゃ。」

 

 「──────え?」

 

 ヴリトラがそう言った途端、先ほどまで玉座があったと思われる場所の床から、透けるように純愛の鐘がその姿を現した。

 

 

 「まさかこんな近くに隠してあったとはな…」

 

 「最も大事な(かなめ)じゃぞ?自らの寝床に隠さずしてどう守り通すつもりよ。……まあインドラなら、建物ごと壊してほじくり出しかねんがのう」

 

 なんて脳筋なんだ、インドの雷霆神は。

 

 「じゃあ、やりましょうか藤丸くん」

 

 「───ああ。鐘を鳴らそう」

 

 ティターニアと二人、鐘の前で錫杖を掲げる。

 

 

 思い浮かべるのは、

 ここに至るまでの数多くの冒険と、その道のり。

 忘れてしまった旅もあるけれど、

 きっとそれも。得がたい旅路だったと信じて。

 

 

 ───鐘の音が、

 ソールズベリーの島に響き渡る。

 

 

 

 「「──────あ、」」

 

 

 

 途端、自分たちの脳裏にはこの島で体験した "忘れ去ったはずの二周分の旅の経験" が蘇ったのだ。

 

 

 「俺、一周目の時に携帯食料 食いすぎ……!?」

 

 「村正ァ!あの落とし穴の時はよくもやりましたね───!」

 

 「待て待て待て!それを言うならお前さん、地雷探知代わりに、(オレ)を魔獣の巣穴に蹴り飛ばしたりしただろうが───!」

 

 「立香にお姫様抱っこされた…だと…?なぜそんな最重要 機密事項の案件を僕は忘れていたんだ──────!」

 

 「ああ───!!私、もしかしてランスロット様に過去に二度この島でお会いしていたんですか!?ごご、ごめんなさい、忘れてしまっていて!」

 

 「うん!初対面風に挨拶した僕が非常に恥ずかしいから、どうかそれは忘れていてもらえるだろうか──────!!?」

 

 ヴリトラの常夏領域が解かれ、それぞれが忘れていた記憶と経験を一斉に思い出す。…そこには。恨みつらみもあったけれど。

 

 

 「──────き、ひ、ひ!…なぁんじゃ。今までで一番、良い顔(・・・)をしておるではないか、貴様ら」

 

 

 堰き止めなければ生まれぬ勢い。

 それはまるでダムのように。

 堰き止められた冒険の記録が、

 輝かしい思い出となって吹き出したのだった。

 

 

***

 

 

 そうしてソールズベリーの海岸まで戻る。

 帰り道はヴリトラによる水流のスライダーを使って、ほんの数刻で船のあった場所まで戻ることができた。

 

 「渦潮が消えてる……」

 

 「当然じゃ。わえがつくったんじゃからのう」

 

 何故か得意げに胸を張るヴリトラ。

 

 「…にしてもよ、ヴリトラ。お前さんはどうして儂たちにあんな回りくどいやり方で冒険をさせたんだ。ほら、もっとこう、"永遠にゴールへたどり着かない迷宮をつくる" とか、そういう方法があっただろ?」

 

 村正はヴリトラへ今回の件の理由を訊ねた。

 

 「永遠にたどり着かなかったら、意味がなかろう。わえは貴様らに "たどり着いてほしかった" んじゃからのう」

 

 「は──────?」

 

 「何度も言っておっただろうに。わえはな、お前たちに多くの困難を乗り越え、切り開き、そして目的地にたどり着いてほしかったのじゃ。わえが見たいのは貴様らがもがき苦しむ様(・・・・・・・)ではない。足掻こうと努力をする姿(・・・・・・・・・・・)じゃ」

 

 ヴリトラが堰界竜たる所以(ゆえん)

 数多の障害に直面し、それでも(なお)それを乗り越える人や神の勇姿。彼女が望むものはそういう光景だった。

 

 その手段は、だいぶ自分勝手で独りよがりで、己の欲望だけに忠実な奔放さではあるけれど、紛れもなく彼女は人や神が好き(・・・・・・)なのだ。

 だからこそ憎めない。そしてそうした存在は、人類を成長させる上で必要不可欠な存在に他ならなかった。

 

 「………なるほど。お人好しはお互い様だったってことか」

 

 「でも、もしも僕らが途中で挫けて倒れてしまっていたら、その時はどうしていたんだい?」

 

 「………愚問よな。わえは既に貴様らカルデアをよう知っておる。貴様らは何が起きようとも挫けない(・・・・)。だからこそ、わえはあのような常夏領域を使ったのじゃ」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 彼女は誰よりも、自分たちカルデアのことを信用しているサーヴァントの一人に他ならなかったからだ。

 

 「………ところで。このチラシに書いてあった、報酬の聖杯(・・)は?」

 

 隙をついて、ネモ船長がヴリトラにチラシを突き出す。

 

 

 「──────、き、ひ、ひ!」

 

 

 ヴリトラは逃げ出すように水流を使って山の方へと帰っていく。

 

 「おい、話が違うだろこの邪竜──────!」

 

 「…知ったことか!わえは()ぞ!貴様らで遊ぶのは今回はこの辺にしておいてやる!それだけでもありがたく思うことじゃのう!き、ひ、ひ!!」

 

 そう捨て台詞を吐いて、ヴリトラは自らの住処へと去っていった。

 

 「ったく、都合が悪くなると()を理由に逃げやがって…」

 

 まあ。正直 聖杯はないと思っていたので、全員そこまで落胆している様子ではなかった。

 

 「…まあいい。なにはともあれ、僕らはソールズベリーの鐘を鳴らした。無事に任務達成だよ、みんな!あとは全員揃って、ロンディニウムへ帰還だ!」

 

 ネモ船長の言葉とともに、ソールズベリーへ別れを告げた。

 

 

***

 

 

 

 「───!見てください、皆さん!()です!」

 

 ガレスに促され、船首へ出て全員で空を見上げる。

 

 見るとそこには、美しい夕焼けの空を彩るように、七色の虹が空を結んでいた。

 

 「綺麗だ──────」

 

 思わぬ絶景に、時間を忘れる。

 

 その向こうで──────、

 

 

 「……ランスロット。一つ聞いてもいいですか?」

 

 ティターニアがランスロットと何かを話しているようだった。

 

 「──────、なんだい?」

 

 「わたしはこのソールズベリーの一つ前の島で、たくさんの絶景を見たんです。……本当に。息を飲むほどの絶景でした」

 

 ランスロットはティターニアのその言葉を無言で聞いている。

 

 「…けれど。その絶景は、別の誰か(・・・・)の犠牲の上で成り立っていた美しさだったのです」

 

 「──────、」

 

 「(よこしま)なものだと。そうわかった上で。それでもなお、わたしは "もう一度その絶景を見たい" と思ってしまった。これって、間違い(・・・) なのかな……」

 

 ティターニアの問いに、ランスロットは目を丸くしてから、

 

 「それ。よりにもよって、僕に聞くのかい…?」

 

 その視線を虹へと向けた。

 

 「あ、やっぱり答えづらい質問でしたよね、すみません、変なことを聞いて……」

 

 「─────────、いや」

 

 「え………?」

 

 「いいんじゃない?美しいと感じたものは、そのままでも。…だって僕らは、自分の気持ちに嘘はつけないから」

 

 ランスロットは虹を見つめながら、僅かに微笑む。

 

 「君に、"自分は間違っているんじゃないか" って思える心があるなら、それだけで上出来ってこと。だからそのままでいい。……答えが出るのは、もう少し先、でしょ?ティターニア」

 

 ランスロットの言葉に、ティターニアも何か心の棘が取れたように微笑みを浮かべた。

 

 「ええ。ありがとうございます、ランスロット」

 

 

 ──────そうして。

 冒険の島、ソールズベリーを後にする。

 

 夕焼け空はやがて星を描き、美しい夜の海を映すだろう。

 

 

 

 

 ─────────、三つ目の鐘が鳴った。

 

 

 

 

 /『ステレオ邪竜族』-了-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕間『裏方ジェーン』/

 

 

 

 ───時は二つ目(ノリッジ)の鐘が鳴らされた夜に遡る。

 

 

 「はあ? "追加の人員がほしい" ですって?」

 

 ■■■■の思わぬ要求に、BBは露骨に嫌そうな顔を浮かべた。

 

 「わかっているんですか。ここは普通の特異点とは訳が違います。貴方の能力とわたしの能力(チート)、カレンさんの発想、そしてなにより彼女(・・)の "力" があってはじめて形を成している、イレギュラーだらけの特異点なんですよ。それを踏まえた上で、なおその要求をするんですか?」

 

 

 "─────────、"

 

 

 「本来の筋書きとは変わってきている、ですか。…ええ。まあゴッホさんの件はわたしもおかしいとは思いました。ですが、今カルデアから追加の戦力を引っ張ってくるのはかなりのコストが…」

 

 

 "──────、───、"

 

 

 「……は?追加の戦力はカルデアからじゃない?終わりの狭間(・・・・・・)にいる者、ですか?」

 

 

 "────────────、"

 

 

 「……確かにそれなら。偽りの情報をこの特異点用に上書きして、上手いこと認識に障害をかければ、なんとか……って無理無理!とんでもないブラックボックスばっかりの人たちじゃないですか!?」

 

 

 "──────、"

 

 

 「そうは言っても貴方。自分も同じ立場(・・・・)だって、わかっているんですか?どうしてそこまでして彼女に……」

 

 

 "──────、──────、"

 

 

 「いえ。今の言葉だけで十分です。……わかりました、なんとか呼んでみせましょう。ですが手懐けるのは貴方の仕事です。上手いこと首輪を付けてくださいね?……得意でしょう、そういうの」

 

 

 "─────────、"

 

 

 「───ええ。ですがお忘れなく。彼女らを扱うということは、向こう側も異変に気づくということ。この結果が吉と出るか凶と出るかは、もう誰にもわかりません。……それほどの相手(・・・・・・・)だと、わたしも判断して動いていいのですね?」

 

 

 ■■■■は、無言で頷いた。

 

 

 ───そうして、幕間は閉ざされる。

 この密会は誰の目にも留められることはなく、密やかに、世界から忘れ去られていく。

 

 

 

 

 /幕間『裏方ジェーン』-了-

 




 
 
 まずはここまでの長文をお読みいただき、誠にありがとうございました。今回も長いお話になってしまってすみません。反省しています。本当です。
 ですが物語が進むにつれて、重要な人物や話題も多く出てきます。故に文量も多くなってしまう… 誠にジレンマ。

 さて。ここからは今までの後書きと同じく、今後のネタバレなしの今回のお話の補足説明をしていきたいと思います。興味がありましたら、お読みいただけると幸いです。
 
 
 今回のテーマは "冒険"。夏といえば山や森、そして洞窟と、普段行かない未開の地へと探索したくなる……そんな冒険心を唆られる季節ともいえます。
 宝の地図を片手に、深い奥地を目指して突き進む。たとえお宝は見つからずとも、そこに至る "過程" がなによりの宝となる。
 そんな青臭い青春のような一幕が、今回の物語の主題となりました。
 
 ・星4 ライダー ヴリトラ
 
 来ました水着のヴリトラさん!イカしたクロスデザインの黒ビキニに、インドらしくムガル絵画風な花の柄をあしらったベールを羽織っています。髪の毛はロングをワンサイドにまとめた蛇のようなカールスタイル。
 ヴリトラは水に関わる逸話が多いサーヴァントですので、水着にした時の宝具なども、すんなりとまとまりました。
 物語中で彼女が使ったオリジナルの宝具、
 『水よ、雲の牛群を創れ(ヴァーダロン・キー・ガイン)』は、インドラに滅ぼされた際に解放される水が雌牛の咆哮に似た音を立てて流れ出るという逸話が昇華されたものとなっています。高火力の宝具だけど、使用後にデバフがかかる、的なイメージ。ちなみに綴りはヒンディー語で "雲の牛群" を意味します。そのまんまですね。

 今回の舞台はソールズベリー。自分勝手で自由気ままな女王が、訪れた藤丸たちを好き勝手弄ぶ。そんなコンセプトのお話となりました。作中でも言及されていた通り、FGO 第二部 第六章において、"自己愛"の権化だった風の氏族長───オーロラとの対比を込めたエピソードとなりました。
 ───が。ヴリトラは決して我が身可愛さで周りを巻き込んでいるのではなく、その根底にあるのは "他者愛" に他なりません。そうした違いを描ければなと悪戦苦闘しました。
 また、ランスロットと同じく竜繋がりということで、これは是非とも絡んでもらうしかねえとなったわけです。世界を堰き止める壁として現れる堰界竜(いかいりゅう)と、境界をつなぐ霊墓または霊洞として在り続けるアルビオン。この対比は書いててなんとも楽しかった。FGO本編のマイルームで特殊セリフとか出してくれてもいいんよ?
 
 ・星5 ランサー 常夏騎士 ランスロット
 
 この夏でもっとも美しい騎士。ランスロット卿だ!……ということで、登場した謎の常夏騎士。その正体は皆さんお気づきの通り、彼女となります。霊衣じゃないし、水着サーヴァントでもないよ!ごめんね!
 しかし、そこにもしっかりと理由があり、物語中で彼女の口から何度か匂わせた発言をしているので、勘のいい方ならきっと気づく…かも?

 ところで、物語中、ティターニアに対しては露骨に反応を示しているのに対し、他のメンツに対しては反応薄くね?なんで?と思ったそこの貴方。鋭い。
 理由としましては、終盤に記憶を取り戻したガレスが話していたように、彼女は何度かカルデア一行と遭遇しているのです。その一部始終を(つまび)らかにしたいが、清廉たるランスロット卿の名誉のために、ダイジェスト形式でお教えします。(──────なんて?)
 
 
 [カルデア一行、渦潮に飲まれソールズベリーの砂浜で気絶]

 ラン子「(むむ。カルデア発見!陛下の(めい)でカルデアとティターニアという()を護衛するように言われたが、ぶっちゃけ僕は部外者だし、深入りしない方がいいのでは?最強だし。というか、よく見たら、フジマルにムラマサ、ガレスに■■■■■………知り合いばっかりじゃん!正体がバレないとはいえ、気まず!……ここはさりげなくアシストしよう。最強だし。)」

 [カルデア一行、ジャングルにて大蛇の強襲に遭い川底へ転落]

 ラン子「(まずい!ここは華麗に助けなければ!僕は清廉たる湖面の騎士、空中飛行も何のそのだ!)」

 藤丸「き、君は───!?」

 ラン子「僕は通りすがりの常夏騎士、名乗るほどの者ではないよ…さらば!ばびゅーん(ジェット移動の音)」

 [カルデア一行、ヴリトラのもとへ到着(一周目)]

 ラン子「(ふぅ。無事にたどり着けたか。全くヒヤヒヤする旅路だった。とりあえず今日の任務達成ってことで、形の良い穴で眠ろっと!)」

 [カルデア一行、常夏領域を受け砂浜へ(二周目開始)]

 ラン子「(あれ。昨日ヴリトラのとこ行ってなかったっけ。なんでまた向かってるんだ。とりあえず聞いてみようか)」

 ラン子「やあ君たち。僕は常夏騎士ランスロット。また会ったね。ところでなんでもう一回向かっているのかな?忘れ物?」

 藤丸「き、君は───!?」

 ガレス「ランスロット様───!!!(がばっ)」

 ラン子「(うわあああ!なんだ何事)!?」

 [カルデア一行、ヴリトラのもとへ到着(二周目)]

 ラン子「(ふぅ。驚きのあまり名乗るだけ名乗って思わず逃げ出してしまったけど、なんだかんだ、たどり着けたじゃないか。よしよし)」

 [カルデア一行、常夏領域を受け砂浜へ(三周目開始)]

 ラン子「(え?マジで何してんの、彼ら。誰か僕に説明してください、僕は今 思考を放棄しようとしています)」

 [カルデア一行、ヴリトラのもとへ到着(三周目)]

 ラン子「そ、そういうことだったのか〜〜〜!!!(建物の影から聞き耳を立てて)」

 ラン子「(これ。僕が深入りしなきゃこの島でゲームオーバーでは?カッコつけている余裕ないのでは?もうやるしかない!)」

 [カルデア一行、ランスロットの祝福(ギフト)により常夏領域を受けずに砂浜へ(四周目開始)]

 ラン子「───君たちは紛れもなく、あのアイランド・クイーンの常夏領域を使われたよ。この僕が証人さ。キリッ(なお、三周目まで気づきませんでした)」
 
 
 ───と、まあこのような経緯でしたので、ガレスへの反応はこういった理由で。そしてティターニアのことは別の人物として認識していたので、名前を聞いた時に、あのような反応をしたわけです。え?常夏騎士じゃなくて、ポンコツ騎士?どうやら切開され(しに)たいようだね、君。
 
 
 今回の補足説明は以上となります。
 改めまして、ここまでお読み頂きまして誠にありがとうございました。次回の更新もお待ちいただけますと幸いです。
 
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