Fate/Grand Order『楽園常夏領域 アヴァロン・アエスタス -真夏の夢と南の島の一等星-』   作:ひゅーzu

7 / 12
 
 
 
 
 第七節目の更新となります。
 今回も引き続きFGO 第二部 第六章「妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ」のネタバレを含む内容となっています。
 予めご了承の上で、お読みいただけますと幸いです。また、今回は過去一の文量です。お暇な時間にお読みいただけますと幸いでございます。
 
 


第七節『人気女帝で行こう』

 

 

 

 

 

 そこは何もない場所。

 "無" と形容するのが相応しい暗闇の中で、

 三人の罪人(やくさい)が集められていた。

 

 

 「どこ……ここ……私は…えっと、」

 

 「(わたくし)は、確か "円卓の騎士" たちに…」

 

 「……………、」

 

 これは崩壊の地続き。

 咎人(とがびと)である彼女たちには、その罪を忘れることは許されない。

 

 「あれ…なんで、オマエらがいるの……?」

 

 「それはこちらの台詞だ。おまえは大穴へと落ちたと聞いていたが。いや、そもそもなぜ私はこうして…」

 

 「は…?意味わかんない…んだけど。私はお母様のためにずっと、ずっと……あれ…私」

 

 「────いや、僕らは死んだ(・・・)。これはきっと…」

 

 そう一人の少女が呟いた言葉を遮るように、別の女の声がこの空間に響き渡った。

 

 

 『────そう。お前たちは死んだ。厄災へと変生(へんじょう)し、我が(・・)妖精國(ようせいこく)を滅ぼしたのだ。"バーヴァン・シー"、"バーゲスト"、"メリュジーヌ"。』

 

 

 「「「──────!」」」

 

 その声を、彼女たちが知らぬはずがなかった。

 はぐれ者でしかなかった自分たちへ、居場所をくださった恩人。かつて忠誠を誓った、本当の意味で妖精國を愛していた陛下の声を。

 

 「お母、様!?ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい私、また、お母様の望みを───」

 

 「お詫び申し上げます、陛下。私が愚か者でございました…」

 

 「合わせる顔が、ありません。陛下……」

 

 赤髪の王女は、どこにも見えぬ母へ縋り付くように膝をついた。

 金髪の淑女は、膝を折り、ただただ(こうべ)を垂れてその首を差し出した。

 銀髪の少女は、強く自らの拳を握って、ただ奥歯を噛み締めていた。

 

 

 『─────もうよい。あの結末(・・)は、もはや覆らぬ。なるべくしてなった "終わり" だったのだ』

 

 その陛下の声色には、どこか後悔があるようにも聴こえた。

 

 『故に。これよりお前たちに言い渡すことは、罪状ではない。私からの、最後(・・)の命令だ』

 

 

 「最後の………」

 

 

 『これよりお前たちには、時間より隔絶した変異(・・)特異点なる場所へと向かってもらう。その目的は "カルデアとティターニア(・・・・・・)を名乗る少女の護衛" だ』

 

 

 「……は? なんで私たちがアイツらなんかを」

 

 『バーヴァン・シー、お前は私の指示が聞けぬというのか』

 

 「い、いえ!いいえ!……必ず、必ず守ります!」

 

 彼女の声は、どこか悲痛なものであった。

 

 『ならばよい。…その特異点は、お前たちにとっては "立ち入ることを禁じられている地" だ。故に妖精國と同じく着名(ギフト)を授ける。よいな?その地では決して、本当の名(・・・・)を名乗ってはならぬ』

 

 「はい。では我々は妖精國と同じく、"妖精騎士" として任務に当たればよいのですか」

 

 『いいや。貴公(・・)らに授ける名は "常夏騎士" だ。これは着名(ギフト)でもあるが、同時に "祝福(ギフト)" でもある。この力があるかぎり、貴公らはこの地の影響を受けない』

 

 「常夏───、騎士───?」

 

 『そして。お前たちの正体を偽る障壁でもある。お前たちを知るものが現れた時、その者たちの認識に映るのは、その与えた名に由来する人物だ。"認識の改竄(かいざん)" ともいえよう。この力は常夏領域(・・・・)と呼ばれている』

 

 「僕たちは、その常夏領域というのを纏った状態で、任務に向かうということだね?」

 

 『そうだ。そしてお前たちと同じく、特異点先には、島全土に常夏領域を敷く女王───アイランド・クイーンがいる。全部で六人。うち二人は既にカルデアが退(しりぞ)けた』

 

 「その残りの調査の護衛を、私たちに任せるってこと?お母様…」

 

 『その通りだ。彼らの任務は、女王を退け、それぞれの島の霊脈と通じる "純愛の鐘" を鳴らすこと。…お前たちはそれを支援しろ。一度のみであれば、お前たちの祝福(ギフト)をカルデアの者どもへの保護としても使えよう。だが二度目は(ひか)えろ。効力が失せ、存在が保てなくなる』

 

 「…………、」

 

 『──────不服か?バーゲスト』

 

 「いえ、そのようなことは!…しかし私にはわかりません。なぜ陛下はカルデアに対してそのようなことを?」

 

 

 『それは、その地へ向かえばお前たちにもわかろう。…そこは夢をかたどった楽園。妖精のいない島だ。島の人々はみな、女王を敬い、そしてなにより夏を楽しむように "つくられている"。きっとお前たちの目にも、違うモノが映るだろう』

 

 

 「陛下……、」

 

 

 『では。…常夏騎士トリスタン、常夏騎士ガウェイン、常夏騎士ランスロット。二度も(・・・)、この私を失望させてくれるなよ』

 

 

 そうして暗闇は崩れ去る。

 観測宇宙では決して起こり得ぬ邂逅(かいこう)

 記録宇宙より(つま)み上げられた罪人たちは、

 最後の贖罪(しょくざい)を果たすために常夏の島へと向かうのだった。

 

 

 

 

 /『世に厄災の花が咲くなり』-了-

 

 

 

 

 

 

 

 第七節『人気女帝で行こう』/

 

 

 

 オックスフォードの鐘を鳴らしてから、二日間。

 自分───藤丸 立香たちは、ネモ船長の判断により待機命令(・・・・)が出ていた。

 

 

 「()、ですね」

 

 窓から外を眺めていたティターニアがそう呟いた。

 

 「この特異点に来てから、雨を見るのははじめてだっけ?」

 

 「いや、ソールズベリーの調査をした時にも、何度か雨が降ってたぜ。…もっとも、忘れちまってた二周目の記憶なもんだから、あんまり実感は湧かねえがな」

 

 村正からの指摘で自分も思い出す。

 夏の雨は湿気が多く、なんというか普段のからっとした天気を知っていると、余計にどんよりとした気持ちになってしまう。

 

 「ネモ殿とクー・フーリン殿、大丈夫ですかね…」

 

 「予定では、今日中に帰ってくると言っていたけど」

 

 この天気だ。船を渡らせるのは一苦労だろう。

 心配ではあったが、ネモ船長の腕を信用しているため、そこまで大きな不安はなかった。

 

 

 「なんだ?今日は随分と元気がなさそうだね、君たち」

 

 自分たちがいた部屋のリビングへと、ランスロットとガウェインがやってくる。

 

 「姉様にランスロット様、もしかしてもう出来たのですか?」

 

 「まあ、"冷やし中華" だからな。麺を茹で、切った具材と汁をかけるだけの手軽な料理だ。昼食にはちょうどよいだろう?」

 

 「オックスフォードでの調査以来、僕も少し料理に興味が湧いてね。具材は僕が切ったんだぞ」

 

 「はじめ小刻みに切りすぎて糸状になったキュウリを見た時は肝を冷やしたがな…、何はともあれ無事に完成した」

 

 そう言って、ガウェインが盆に乗せた料理をテーブルに並べようとした時───、

 

 

 「ただいま、立香。みんな」

 

 「よう、ひでぇ雨だったぜ」

 

 ネモ船長とクー・フーリンが玄関の扉を開けて帰ってきた。

 

 「二人とも!おかえり!……と、あれ?」

 

 見るとその二人の後ろには、思ってもいなかった人物が二人(・・)いたのである。

 

 

 「エヘへ、お邪魔します…マスターさま」

 

 「わえが自ら出向いてやったのじゃ。喜んで咽び泣いてもよいぞ、貴様ら」

 

 「ゴッホ!それに、ヴリトラ!?」

 

 

 

 

 ──────そうして。

 思わぬ再会とともに、なぜ彼女らを連れてきたのかについて、ネモ船長はゆっくりと話しはじめた。

 

 

 

 「最後の鐘を鳴らしに向かう前に、改めてこの特異点について整理しておこうと思ってね。彼女たちを呼んだのは、そのためだ」

 

 ネモ船長は、そう言ってテーブルの上に地図を広げた。

 

 「確認しておきたいことというのは、この特異点の女王たちとアムール神についてだ。これは、エウリュアレの話がいい参考になってくれた」

 

 そう言って、ネモ船長はオックスフォードの島を指さした。

 

 「エウリュアレは、自分がオックスフォードに召喚されたのは数ヶ月前だったと言っていた。そうだね?ガウェイン」

 

 「ああ。私もそう聞き及んでいた」

 

 「不慣れな召喚方法や危険地帯に野放しにした点、説明が不足されていたというエウリュアレの話を考慮するに、おそらくアムール神が最初に呼んだアイランド・クイーンがエウリュアレだったのだろう」

 

 ということはアムール神は、自分たちがこの特異点にやってくる数ヶ月も前から下準備をしていたのか?

 

 「…けれど。僕らが召喚される直近の記憶を思い出すに、エウリュアレらが数ヶ月前からカルデアを失踪していたという報告はなかった」

 

 「つまり、この特異点の中は、現実世界とは時間の流れが違う?」

 

 まず、アムール神はエウリュアレたちアイランド・クイーンを先にこの特異点へ呼んだ。それは事実だろう。しかしその後、自分たちがこの地へ召喚されるまでの間に、既にそれぞれの島は在り方が出来上がっていたのだ。

 それを踏まえると、ここだけが隔絶した時間の流れをもつことになる。

 

 「そういうことだ。アムール神は僕らよりも先に女王たちを呼んで、舞台を整えたのだろう。この特異点内の時間が、外と隔絶しているのならば、容易に可能なことだ。…そしてエウリュアレの次に召喚されたのは、グロスターのBBだと僕は思っている」

 

 そう言って、ネモ船長は次にグロスターの島を指さした。

 

 

 「なぜなら彼女は、この特異点の内情に詳しい様子だったからね。どうだい、村正?」

 

 「その通りだぜ、キャプテン。BBは確かに、数ヶ月かけてあのテーマパークを作ったと(オレ)に自慢してやがったしな。…けど、儂が召喚されたのはだいぶ後だ。おそらく藤丸たちと同時期だろうさ」

 

 村正が自分たちと同時期に召喚されたのは、島の女王ではなかったからだろうか。

 

 

 「うん。そしてその次に召喚されたのが、ソールズベリーの女王──ヴリトラ、キミじゃないのかい?キミは "島の霊脈の魔力を電力にかえて" ビデオを見るという行為をしていた。その使い方は、BBのテーマパークの電力と同じものだ」

 

 「そうじゃ。わえが召喚された時、アムールなる者から "汎人類史の冒険について学ぶため" にアレを渡された。島の趣向(しゅこう)だけを聞かされて、やり方はわえの自由でよいとヤツは言うたぞ?」

 

 おそらくアムール神は、BBの霊脈の使い方を見て、ヴリトラへの方針の伝え方を思いついたのだろう。

 説明不足がちな彼女にとって、手軽に方針を教えることができるビデオという媒体は、とてもやりやすかったのかもしれない。

 

 

 「ああ。ヴリトラの言う通り、ここまで(・・・・)の彼女は、アイランド・クイーンたちに "自由" を許していた」

 

 常夏領域を知らなかったエウリュアレ。

 自分の野望を叶えるための領域を敷いたBB。

 自分の趣味を優先した領域を敷いたヴリトラ。

 

 ここまでの三人は、確かに自由な在り方を許されていた。

 

 

 「けれどこの後より、"何か" が変わった。ノリッジの女王──ゴッホ、キミはアムール神に会っていない(・・・・・・)というのは本当かい?」

 

 「え…?でも、確かゴッホは水着をカレンから貰ったって…」

 

 「いいえ、マスターさま。確かに、ゴッホはそう言いました。ですがその話は、カレンさま───アムール神 本人から聞いた話ではないのです」

 

 アムール神から聞いた話ではない…?

 

 「私にアイランド・クイーンや常夏領域、純愛の鐘、夏の霊基について説明してくださったのは、別の人(・・・)なんです。姿は朧気(おぼろげ)で、よくわからなかったんですけど、間違いなくアムール神ではなかったです…エヘへ、ちゃんと覚えてなくてすみません…ゴッホは役立たずです…」

 

 ここにはいない、別の誰か(・・・・)が介入しているのか。

 

 「けれど、その人物がゴッホにしたのは説明だけ(・・・・)で、既にゴッホは常夏領域を与えられていた。…このことを踏まえると、アムール神は一度ゴッホに会ってその力を与えているが、なにか理由があって、その時の記憶を消し、別の人物に説明だけを委ねた、ということになる」

 

 「記憶を消す必要があるような会話をしたってことか?」

 

 「うん。多分ね。ゴッホ本人は忘れているから、細かな真相まではわからないけど、きっとアムールにとって都合の悪いことがあったんだろう。…そして、その時に助けを求めたゴッホが、僕を召喚した(よんだ)んだと思っている。僕は立香たちよりも早い段階で召喚されていたからね。タイミングでいえば、そのくらいの時期だよ」

 

 ネモ船長は、自分たちよりも先に召喚され、ロンディニウムで情報を集めながら、島の船乗りたちと信頼を結ぶまでの関係性を構築していた。確かに、時期は一致する。

 

 

 「そして五人目。オークニーにメイヴが召喚された。彼女は、情欲で溢れた島をつくるというアムール神の要求を蹴って、その結果 無理やり常夏領域を敷かさせられた。だったね、クー・フーリン?」

 

 「おうよ。もっとも、オレが召喚されたのはそこの村正と同じで、お前さん達が呼ばれたのとほぼ同時期だろう。オレがアムール神に呼ばれた時、既にエディンバラの街は出来上がっていた。…島の霊脈と数ヶ月の時間があるなら、メイヴにはつくれる規模だ」

 

 メイヴはアムール神の要求を拒否した結果、強引に常夏領域を敷かされ、そしてそれを覆すために数ヶ月かけてあの街を作ったのだ。

 

 「だが、ゴッホを召喚して以降のアムール神の不審さを踏まえると、なんでオレが "メイヴのおもりをさせられたのか" がなんとなくわかったぜ。……おそらく、メイヴが余計なことをしないよう釘を打つため(・・・・・・)だ」

 

 「監視とストッパーの役割、ということですか」

 

 「ちょっと待った、じゃあ村正のおじいちゃんがBBのところにいたのはどうして?」

 

 確かに。村正はアムールがBBのところへ配属したのではないのか?

 

 「あー…、それはおそらく、BBはアムールと対等な契約を結んでたんだろうさ。"協力する代わりに手足となる小間使いを一人よこすように" ってな。散々 "別の人にすればよかった" って悪態つかれてたからわかるぜ…」

 

 その時のことを思い出して、村正は少し居心地が悪そうな表情を浮かべていた。

 

 「うん、そういうこと。…話を戻そうか。今のゴッホとメイヴの件を考えると、このタイミングでアムール神は、絶対に常夏領域を敷かせる方針へとシフトしている。前半の三人に自由を許していたのとは、対称的にね」

 

 比較的アイランド・クイーン本人に方針の自由性を許したエウリュアレ、BB、ヴリトラの島と、方針通り強制的に常夏領域を敷かせたゴッホ、メイヴの島。

 あまりにも正反対すぎる。

 

 「……ここで重要なのが、なぜ強制させる(・・・・・)必要があったのか、ということだ」

 

 「それは、"純愛の鐘を鳴らさせないため" …ですか?」

 

 島の女王に自由性を与えてしまえば、自分たちに容易(たやす)く鐘を鳴らされてしまう可能性がある。だから無理やりにでも領域を敷いて、場を整えたのだろうか?

 

 

 「そこから先は、まだわからない。だがアムール神は、ゴッホへ説明をさせた謎の人物も含めて、なにか僕らでは知りえない動きをしているように思える。そこで次に気になっているのが、キミたち(・・・・)だ」

 

 ネモ船長はそう言って、ガウェインとランスロットを見据えた。

 

 「………僕らがその "謎の人物" の関係者だと、君は言いたいのかい?」

 

 「確証はない。だが、ゴッホに呼ばれた僕、カルデアから招かれた立香、ガレス、村正、クー・フーリン、そしてティターニア。…僕ら六人とは、明らかにキミたちの召喚タイミングが異なる。加えて常夏騎士(・・・・)という能力。気にならない方がおかしいだろう?」

 

 ガウェインとランスロットは、しばし沈黙した。

 

 「姉様、ランスロット様………?」

 

 「不安にさせてすまないな、ガレス。だがそれは杞憂だ。確かに私たちは、おまえたちとは召喚されたタイミングが異なる。時期でいえば、おまえたちが二つ目の鐘を鳴らしたすぐ後だ。…しかし、私たちの目的は "カルデアを護衛すること" だ。敵ではない」

 

 「それを聞いて安心したよ。では、単刀直入に、核心をつく質問をしようか。…キミたちにそれを命じたのは誰だ?」

 

 ネモ船長は真剣な眼差しで二人を見つめた。

 

 「………僕たちの陛下(・・)さ」

 

 「──────!」

 

 ランスロットとガウェインの陛下。ということはつまり、ブリテンにて語られる伝説の騎士王が───?

 

 

 「……やはり。そうか」

 

 「ネモ船長…?」

 

 ネモ船長は深く息を吸ってから、

 

 「これより我々が向かう、最後(・・)の純愛の鐘が眠るとされる場所。…その島の名は、"キャメロット(・・・・・・)" だ」

 

 覚悟を決めたように、そう告げた。

 

 

***

 

 

 雨は止み、灰色の雲の切れ間から日が差してきた。

 ゴッホとヴリトラを帰すために、ノリッジとソールズベリーの島を立ち寄ったタイニー・ノーチラス号は、そのまま大海をかき分けて最後の島を目指していく。

 

 「本当に。あの島に最後の鐘があるのでしょうか」

 

 ティターニアはどこか納得がいかなそうにそう言った。

 

 「でも、残る島はあそこだけだよ。実際、四つ分の鐘を鳴らした後、"五つ鐘を鳴らしてから来い" と警告までされたしね」

 

 ネモ船長は前回 島の住民から言われた言伝を思い出しながらそう言った。

 

 

 「ガウェイン、ランスロット。キミたちの陛下は、自分が六つ目の鐘を保有しているとは言っていなかったのかい?」

 

 「いや、陛下からそのようなことは言われていない…、最後の島がキャメロットだと聞いて、私たちも動揺している」

 

 ガウェインとランスロットは、どう立ち振る舞えばよいか悩んでいるようだった。それもそのはずだ。これから対峙しようとしている陛下は、彼女たちにカルデアを護衛するよう命じた人物なのだ。

 

 

 「間もなく上陸する。全員、準備はいいかい?」

 

 

 

 ──────そうして。

 自分たちは黄昏(たそがれ)空を背にキャメロットへとたどり着いた。

 

 「随分と大きくて賑やかな街だな……」

 

 呟いたクー・フーリンの言葉が霧散しそうなほど、街には人が溢れ、あちこちで和風な音楽が鳴り響いていた。先ほどまでの緊迫していた空気感を消し去るように、昼も夜も関係ないと言わんばかりの賑わいようである。

 

 「おっと、これは失礼した」

 

 「ネモ殿、こっちです!はぐれないように!」

 

 呆気に取られて立ち尽くしていたネモ船長は、周りの道行く人達にぶつかりそうになっていた。

 

 「村正、この音楽って…」

 

 「ああ。"祭囃子(まつりばやし)" だ。まさかこんな南国の島々の特異点で、日本の風習を目にすることになるとはな」

 

 「まつり、ばやし…?」

 

 「今この街に流れている音楽のことだよ。笛や和太鼓、()(がね)を使った、日本の夏祭りなんかでよく耳にする演奏なんだ」

 

 「ふーん、ユニークだけど、心地の良い音楽だね」

 

 ティターニアやランスロットは、珍しい音楽に関心を抱いている様子だった。

 

 「む、あの大柄の男どもが担いでいるものはなんだ…?」

 

 ガウェインが物珍しそうに指を指す。

 

 「ああ!あれは、御神輿(おみこし)だよ!」

 

 「神輿には、神さんが乗っててな。ああやって街を巡回して、災厄や穢れを吸収して清めたり、人々の豊作、大漁を祈願する目的があるんだ」

 

 「へぇ、ケルトでいうサウィン祭みてぇなもんか?」

 

 「ああ?……まあ、豊作を願うという意味じゃ近しいかもしれねぇが、こっちは悪霊を追い回したり、神輿の中に生贄をいれたりはしてねぇよ」

 

 「いや、追い払う(・・)だけで追い回して(・・・)はいねぇからな!?というか、祭りの度に生贄も用意してねぇよ!」

 

 クー・フーリンの言っていたサウィン祭というのは、今でいう "ハロウィン" の原型となった祭りのことだろう。

 なんでも、現代でお化けのコスプレをするようになったのは、本来は悪霊を追い払うことが起源なんだとか。

 

 「とりあえず、街を見てまわろうか」

 

 

 そうして、一通り街を散策する。キャメロットの街はいくつもの大通りに分かれ、その左右には様々な店が建ち並んでおり、それらの大通りはひとつの建物に通じていた。

 あまりの街の広さと大きさに、その場所へたどり着くまでに日は暮れてしまっていた。

 

 「あとは、あのでかい建物だけだな…」

 

 「明らかに和風の建築物じゃないね。残すはあそこだけだ。向かってみよう」

 

 ネモ船長に促され、街の中心となるドーム状の建物へと向かった。

 

 

***

 

 

 そこはダンスホール(・・・・・・)だった。

 

 ドーム状の会場に集まっていた人々は、その中心で照らされる "一人の少女" に釘付けになっていた。

 

 

 ──────たった一人の舞踏会。

 

 響き渡るクラシック音楽とともに、

 少女は儚げに、しかして楽しそうに踊っていたのだ。

 

 くるくる、と。

 

 ひらひら、と。

 

 

 まるで、優雅に舞う蝶のようだった。

 

 

 『お集まりの皆様、本日()お越しくださいまして、誠にありがとうございました。本公演の夜の部はこれにて終了となります。どうぞお足元にお気をつけて、ご退場いただけますよう、よろしくお願いいたします』

 

 

 少女の丁寧な終わりの挨拶とともに、会場には万雷の拍手が鳴り響いていた。釣られて、自分も思わず拍手をする。

 

 

 「下に降りて、彼女に会いに行こうか」

 

 ランスロットがそう提案する。

 

 「ランスロット様……?」

 

 「ようするにもしかして…」

 

 「ええ。彼女が最後の、三人目(・・・)の常夏騎士です」

 

 

 

 会場の人々が退場していった後、自分たちは中央のステージへと向かう。少女は中心でしゃがみこんで、ヒールの靴紐をほどいている様子だった。

 

 

 「やあ、常夏騎士トリスタン(・・・・・)。今までの島にいなかった以上、ここにいると思っていたよ」

 

 話しかけたランスロットの言葉に、少女は振り返った。

 

 「ランスロット?…それにガウェインまで。って、ああそう。後ろにいるのはカルデアね?なんだ、もう五つ鳴らしてきたんだ」

 

 靴紐を締め直して立ち上がった赤髪の少女に、自分は見覚えがなかった… / …いや、今話したランスロットやガウェイン、そしてガレスと同じく円卓の騎士に名を連ねる "嘆きの子"───トリスタンに間違いなかった。

 

 

 「どうだった?鐘を鳴らす旅は?…吐き気がしそうなほど、しんどかったなら嬉しいんだけど!」

 

 「みんなが協力してくれたおかげで、楽しい旅だったよ。よろしく、トリスタン。それとさっきのダンス、すごい良かったよ!」

 

 「…………チッ、わかってはいたけど、やりづれぇな。はいはい、よろしく。で? "ティターニア"って子はどれ?」

 

 そう言って、トリスタンは自分たちの顔を一人一人確認する。

 

 

 「えっーと、わたしです……」

 

 

 「は────────────?」

 

 それを聞いたトリスタンは頭の整理が追いつかないと言わんばかりに、硬直する。

 

 「………ぷっ、あは、あははははははは!!!」

 

 「ん?どうした、アンタ」

 

 唐突に笑い出したトリスタンに、クー・フーリンは困惑する。

 

 「そりゃ笑うでしょ!ティターニア?オマエが?なんの冗談よ!」

 

 「トリスタン、自分の身を省みなさい。そうすれば事情はわかるだろう?」

 

 「あ?んなこと、わかるに決まってんだろ。余計なお世話なんだよガウェイン。……それで、ちゃんと鐘は五つ鳴らしてきたの?オマエ」

 

 「え?…はい。藤丸くん達のおかげで、なんとか」

 

 先ほどからティターニアはどこか気まずそうだった。

 

 「ちょっと待った。もしかして、ロンディニウムの島へ言伝をしたのはキミなのかい、トリスタン」

 

 「ああ、そうだぜ。適当な島の人間をパシリにして、伝えてもらったの!ナイス・アイデアだっただろ?」

 

 トリスタンは上手くいって上機嫌とばかりに笑う。

 

 「そいつはなんでだ?この島の鐘を六つ目にしなきゃならねえ理由でもあんのか?」

 

 「は?命令じゃなきゃこんなメンドくせぇことしねーよ。それに、鐘を五つも鳴らしてねぇ身でお母様(・・・)に会えるとか、思うなよ」

 

 お母様…?

 

 「ん?この島のアイランド・クイーンは、キミの母親なのかい…?」

 

 「はぁ……」

 

 なぜかガウェインが、頭痛を感じたように眉間を押さえた。

 

 「あっ、えと、お母様っていうのは敬称に決まってんだろ!母親のように尊敬してるってコト!…だろ?ランスロット!」

 

 「僕はノーコメントで。」

 

 「おいッ!!」

 

 トリスタンは梯子(はしご)を外されたのか、ランスロットに対して頬を膨らませる。

 

 「…まあいいや。とりあえずさ。私と一回ここで勝負しろよ」

 

 そう言って、トリスタンはティターニアを指さす。

 

 「え?トリスタン、どういうこと?」

 

 「テメェには言ってねぇよ、カルデアのマスター。私が聞いてんのは、オマエ」

 

 「………どういうつもりだ、トリスタン」

 

 「トリスタン。僕たちが陛下に言い渡されたのは、カルデアの護衛だったはずだろう。忘れたとは言わせないよ」

 

 「わかってるよ。…わかった上で、一発 決着をつけねぇと納得がいかないワケ。いいだろ、ティターニア」

 

 そう言うトリスタンの目は、とても真剣な眼差しだった。

 

 「───わかりました。その挑戦を受けます」

 

 「あはっ!そうこなくっちゃ!ほら、他のヤツらは下がってな。楽しい舞踏会のはじまりはじまり……ってね?」

 

 トリスタンはそう言って、自分たちをはけさせ、ティターニアを連れてホールの中心へと誘った。

 

 

***

 

 

 ──────闘いは、一方的だった。

 

 

 「あは、あはははははははは!!!……なんだよ、オマエ。メッチャクチャ弱くなってんじゃん!あーあ、本気出して損した」

 

 ティターニアは、トリスタンの前で膝をつき、携帯している魔術剣を杖代わりにして、立ち上がろうとしていた。

 

 「ティターニア───!」

 

 「大丈夫です、藤丸くん!手は出さないでください…!」

 

 そう言ったティターニアは、肩で息をして辛そうな表情を浮かべている。

 

 「なに強がってんの、オマエ。好きな男の前だから、カッコつけちゃってるワケ?…ウザいからさ、もう潰れちゃえよ!」

 

 トリスタンの鋭利なヒールがティターニアのこめかみに襲いかかる。

 

 「っ──────!」

 

 咄嗟の判断で、魔術剣を振るい、ティターニアはそれを払い後方へと下がる。

 それと同時に、爆薬の魔術を施したビンをもう片方の手でトリスタンへ目掛けて投げつけた。

 

 「んな小細工(こざいく)もう知ってんだよッ!」

 

 トリスタンも後方へと下がりながら、指先から魔弾を放ち爆薬を範囲外から爆発させた。

 激しい爆音とともに、あたりに煙がただよう。

 

 「あーあ、せっかくのダンスホールが台無しじゃん。お母様に言って直してもらわないと…」

 

 そう言って、トリスタンは煙の向こうに見えるティターニアの影を見据える。

 

 ──────しかし、

 彼女が見ていた影は、気がつくと()の形に変わっていたのだ。

 

 「──────!」

 

 「引っかかりましたね、トリスタン!」

 

 背後に回り込んでいたティターニアは、持ち前の不意打ちの魔術でトリスタンに一撃浴びせようとして───、

 

 

 「バーカ、わざと(・・・)誘ったに決まってんだろ?」

 

 

 「なっ──────!?」

 

 トリスタンの華麗な回し蹴りが、ティターニアの腹部へとはいる。

 

 「あ"、っ──────!」

 

 ホールの端の壁まで蹴り飛ばされたティターニアは、そのまま激突して床に倒れた。

 

 

 「ティターニア──────!」

 

 もう限界だ。彼女の助けに入ろうとして、

 

 「え───?」

 

 村正にその肩を掴まれた。

 

 「儂たちが手を出していい闘いじゃない。…安心しろ、トリスタンはティターニアを殺す気はない。本気なら今ので()れていた」

 

 そう言って、肩を押さえる村正の手は、本当は今にも加勢してやりたくてたまらなさそうに、力が篭っていた。

 

 

 「オマエの魔術は初見殺しの手品(てじな)。私はもう今までとは違う。いつでも正面から戦えるように、ちゃんと準備してきてんだ。…予言の子(・・・・)としての力を持たない状態のテメェなら、相手にすらなんねぇよ」

 

 そう言って、瞳に手を添えたトリスタンは、魔術で視力を強化しているようだった。鞘の擬態を見破ったのは、そのおかげか。

 

 「くっ、まだ、です───!」

 

 そう言ってティターニアは、純愛の鐘を鳴らす際に用いている錫杖(しゃくじょう)を取り出す。

 

 「ふーん、それが鐘を鳴らすための錫杖ね。……ま、私と一緒で負けず嫌いだもんな。オマエなら、追い詰められたらその力に頼ると思ったよ」

 

 「え──────?」

 

 その言葉とともにトリスタンは、パチン、という指を鳴らす音で、どこかから張り巡らせていた糸を使って、ティターニアを拘束する。

 

 「──────!?」

 

 「あはっ!(なっさ)けなーい!まんまと引っかかってやがんの!…じゃあ、コイツは私が貰っていくから。おつかれさま、ティターニア」

 

 そう言ってトリスタンはティターニアから錫杖を奪い取った。

 

 「何をしているんだ、おまえは───!」

 

 駆け寄ろうとしたガウェインたちの前に糸によるバリケードが張り巡らされる。

 

 「なに──────!?」

 

 そしてそのバリケードは、同じく自分たちの前にも張り巡らされた。

 

 「返してほしかったら追いかけてきな!」

 

 そう言ってトリスタンはダンスホールを抜け、島のさらに奥へと飛び去っていく。

 

 

 「この程度───!」

 

 トリスタンが張り巡らせた糸をガレスとランスロットが切り裂き、全員でティターニアのもとへと駆け寄る。

 

 「ごめん、なさい、わたし、負けちゃった…」

 

 ティターニアは申し訳なさそうに謝罪した。

 

 「いや。ティターニアはよく頑張ったよ。村正、お願いしていい?」

 

 「おう、ほら掴まんな」

 

 そう言って、村正は立ち上がる余力がなかったティターニアのことをおぶる。

 

 「よし、すぐにトリスタンを追うよ。彼女の狙いはわからないが、冗談にしてはやりすぎだ」

 

 ネモ船長の指示で、トリスタンを追いかける。

 向かう先はダンスホールのさらに奥、この島の中心地に位置する建物だった。

 

 

 

 「やはり、()があるのか」

 

 ガウェインの呟きとともに、視界には今駆け抜けている森には不釣り合いなほど豪勢な城が映りこんだ。

 

 「正面突破だ。一気に突っ込むよ」

 

 「はい!私もお供致します!」

 

 先陣を切ったランスロットとガレスを筆頭に、勢いよく城門を開いてエントランスを駆け抜ける。

 

 「そこまで大規模な城ってわけじゃねぇな。おそらく真っ直ぐ進んだあの部屋が玉座の()と見た」

 

 クー・フーリンの考察を参考に、エントランスから正面に続いていた大扉を開く。するとそこには、

 

 

 「ほら。ちゃあんと追いかけてきた。ホントにわかりやすいヤツらだな、オマエら」

 

 入った玉座の間には使用人や従者はおろか、女王の姿すら見当たらず、トリスタンだけが部屋の中央で佇んでいた。

 その向こう、女王が腰を下ろしているはずの玉座には、既に先ほどトリスタンが奪い取った "純愛の鐘を鳴らすための錫杖" が添えられていた。

 

 「トリスタン、なんのつもりだ。陛下の命令に背くのか」

 

 「だ・か・ら、これがお母様が私に与えた命令だって言ってんだろ?戦闘能力しか取り柄のねぇオマエやランスロットとは違って、私は賢いから、あの場所でカルデアを待ち構える仕事をもらってたってワケ」

 

 そう言って、トリスタンは得意げな笑みを浮かべる。

 

 「つまり、君は最初からこのキャメロットに召喚されて、僕たちを迎え撃つための門番を任されていたと?」

 

 「そう。私の居場所(・・・)はキャメロットだもの。当然だろ。で、キャメロットに召喚された私は、真っ先にお母様に会いに行ったわ!そしたらお母様の従者からの伝言で、お母様は私にだけの特別な仕事を与えてくれたの!」

 

 「それがあのダンスホールで、五つの鐘を鳴らし終えた俺たちを罠にかけることだった。…そういうことか」

 

 「数週間だけの舞踏会だったけど、お母様は私のためにあのダンスホール "ダーリントンのケイリー" まで作ってくれたわ!ウザい妖精共もいないし、島の人間(ニンゲン)は私のことを褒めてくれるし、言うことはなんでも聞くし、もう最っ高よ!」

 

 トリスタンは、心底から楽しそうな表情を浮かべる。

 

 「…だから、アナタたちにはもう少しだけゆっくりしてから来てもらいたかったけど、もうお母様の命令に背くわけにはいかないもの。その指示通り、"鐘を鳴らす錫杖" を回収させてもらったワケ」

 

 なるほど。彼女はランスロットやガウェインと同じく、自らの(あるじ)の命令をしっかりと遂行したわけか。

 

 

 『いや、よくやった。褒めて遣わすぞ。トリスタン』

 

 

 すると玉座の間には唐突に、ここにはいない第三者の声が響き渡った。

 

 「へぇ、ようやくお出ましってわけか」

 

 戦闘態勢に入ったクー・フーリンにつられ、自分やガレス、ネモ船長も警戒を強める。

 

 「ティターニア、場合によっちゃ壁際に下ろすぞ。構わねぇな?」

 

 ティターニアをおぶっていた村正は、背中の彼女へそう確認した。

 

 

 「お母、様?…お母様なのね!聞いて、お母様!私ちゃんと命令通り錫杖を回収しました!そこに、そこに置いてあります!」

 

 「ランスロット。ここからは陛下次第だ。…情は今のうちに捨てておけ」

 

 「…言われなくとも分かっているよ、ガウェイン。はぁ、結局こうなるのか」

 

 ガウェインとランスロットはそれぞれ覚悟を決めていた。

 

 

 ──────そうして。

 玉座の裏から、身を潜めていたこの島の女王がついに姿を現した。

 

 

 「よくぞ、五つの鐘を鳴らしここまで辿り着いた。…我は女帝。この祭祀(さいし)の島 キャメロットの女王にして、(なんじ)らが立ち向かうべき、最後(・・)のアイランド・クイーン───"セミラミス(・・・・・)" である」

 

 

 

 「「「─────────(だれ)っ!!?」」」

 

 

 

***

 

 

 自分たちの目の前に現れたのは、かつて汎人類史において世界最古の毒殺者として名を馳せ、数多の戦争を引き起こし数十年にも及ぶ暴政を敷いたとされる "アッシリアの女帝"。

 カルデアにおいてはアサシンクラスのサーヴァントとして契約を交わしている、セミラミスに他ならなかったのである。

 

 彼女の容姿は、今までのアイランド・クイーンたちと同じく、その姿を夏の霊基へと変え、髪型はそのままに、ダークブラウンのワンショルダービキニを身にまとっており、下には同色の透けたレースのパレオを巻いていた。

 

 「アーサー王じゃ、ないのか…?」

 

 ランスロットやガウェインが陛下(・・)と呼んでいたため、勝手にそう思い込んでいたが、こちらの勘違いだったのだろうか。

 そう思い、彼女たちの方を見ると、同じく彼女たちも困惑した表情を浮かべていた。というか先ほど、彼女たちの口から "誰?" と言っていなかったか?

 

 「トリスタン、君。ちょっとこっち来て」

 

 「えっ、ちょ、なに!?」

 

 部屋の中央にいたトリスタンの腕を掴んで、ガウェイン共々三人で密集し、ランスロットはこちらに聞こえないくらいの声でヒソヒソ話をはじめた。

 

 

 (…君、いつの間に戸籍(こせき)変えたんだい?)

 

 (はぁ!?変えてねぇよ!私のお母様は世界で一人だけだっての!)

 

 (じゃあ、あれ(・・)は誰だ?君、さっきまでお母様って呼んでたよね? 申し訳ないけど、僕にはあれが陛下には到底 見えないぞ)

 

 (えっーと、その……)

 

 (さては貴様。ここに召喚されてから、この島の女王と一度も(・・・)顔を合わせていなかったな…?)

 

 (ああ、そういえば女王の従者から指示をもらったと言っていたね、君。……………バカなの?)

 

 (うるさいッ!だってキャメロットだぜ!?その島の女王だぜ!?絶対にお母様だって思うだろ!)

 

 (陛下は自分が六つ目の鐘をもっているなどとは、一言も言ってはいなかっただろう。なぜ顔を確認しようとしなかった?)

 

 (っ…だって!私、これでも色々と迷惑かけてきたから。…ホントは会いたかったけど、命令を最優先しなくちゃ、って思って…)

 

 (なんだ、迷惑をかけてる自覚はあったのか)

 

 (死にてぇのか、ランスロットッ!)

 

 

 なんというか。おそらく壮絶な勘違いが巻き起こってしまっていたような気配がする。

 

 

 「……ふむ。承知していたことではあるが、いざ直面すると(いささ)か居心地が悪いな」

 

 そんな常夏騎士 三人衆の様子を見て、セミラミスは気まずそうにそう呟いた。

 

 「…ちょっと待った。つまりキミは、わかっていながらトリスタンを利用したのかい?」

 

 「──────!」

 

 「ふふっ、当然だ。そうでもなければ、わざわざ顔を伏せ、従者越しに指示など送らぬよ。……もっとも、そこな娘が我が島に召喚されることは我も想定外ではあったがな」

 

 そう言って、セミラミスは邪悪な笑みを浮かべた。

 

 「っ───!私は、また…利用され…」

 

 それを聞いたトリスタンは、俯いて奥歯を噛み締める。

 

 

 「────そうだ。汝は、我に利用されたのだ」

 

 

 「なぜ錫杖を奪わせた。アンタの目的はなんだ?」

 

 「無論。この特異点の支配(・・・・・・)だとも」

 

 「なんだって─────?」

 

 「汝らは知らぬだろうがな、この錫杖はただ鐘を鳴らすために用いる儀式用の杖ではない。…鐘を鳴らした島がもつ霊脈。それらと結合し、その土地の魔力を自由に引き出すことができる魔術礼装に他ならない」

 

 鐘を鳴らした島の魔力を、自由に引き出すことができる。そのようなことをアムール神は一度も言っていなかった。

 けれど、トリスタンと闘った時、確かティターニアはその杖を使おうと…

 

 「アイランド・クイーン、純愛の鐘、常夏領域、そして宣誓の杖(・・・・)。我はこれらのことを、他ならぬ女神アムールから教わった。…そして。そのような事実を知った以上、我が為すことは一つだろう?」

 

 セミラミスはそう言って、錫杖を掲げる。

 

 「我が所有する島と、汝らが束ねてきた、五つの島を支配する力。この双方をもって、我はこの特異点全土に恒久の楽園を敷いてやろう。故に、大人しく従うがよい」

 

 恒久の楽園。おそらくセミラミスは、この特異点全土を自らの支配下に置き、女帝として君臨するつもりなのだ。常夏領域と錫杖の力をもってすれば、実現不可能なことではない。しかしそれは───、

 

 

 「───村正のおじいちゃん、もう大丈夫です。降ろしてください」

 

 「ん、おう。足もと気ぃつけろよ」

 

 村正から降りたティターニアが、一歩前に出てセミラミスを見据える。

 

 「あなたは、アムール神に指示をされて、このような行動をしているのですか?」

 

 「いいや。きっかけは確かにアムールだとも。だがこれは我が望み、我が実行に移したことだ」

 

 「わかりました。ならば、こちらも全霊をもってわたしの意思(・・・・・・)であなたを止めます。あなたの描く楽園は、あなただけ(・・)が笑う世界だ。…そんな場所に、あなたに支配された世界に、わたしは居たいとは思えない」

 

 そう言い放ち、ティターニアが魔術剣を引き抜く。

 

 「───ああ。その通りだ、ティターニア。俺たちはそんな目論見(もくろみ)に大人しく従うほど、利口じゃない!」

 

 自分たちのその言葉に頷くように、村正とガレス、そしてクー・フーリンがセミラミスへと駆け出す。

 

 

 「愚か者どもめ。汝らは何も理解していない。"この島がなんなのか"。そしてこの我が錫杖を手に入れたということが、一体 "何を意味するのか" をな」

 

 

 「っ──────!?」

 

 唐突に、尋常ではない地響きが大地に駆け巡った。

 

 「何をした、セミラミス───!」

 

 「当然、錫杖の力を "宝具" に使ったまでだとも。ちょうど、この規模の魔力だけ(・・)が足りていなかったのでな?」

 

 

 「な、に──────!?」

 

 「っ───!ガレス、キャプテン!ティターニアと藤丸を連れてこの島を出ろ(・・・・・・)!今起動した魔力の波は、この "島全体を覆う規模" だ!」

 

 セミラミスへ目掛けて疾駆していた村正は振り返って、自分たちにそう言った。

 

 「村正殿!それは一体!?」

 

 「この島にいる限りは、あの野郎(ヤロウ)の射程圏内ってことだ!オレもルーンで撤退を援護する、気張って走れ!」

 

 クー・フーリンのルーンによる障壁が自分たちの周りに生成される。

 

 「なるほど…そういうことか。立香、今は撤退だ!非常にまずい事態になったぞ…!」

 

 ネモ船長に促され、戻ってきたガレスとともに、城の入口へと(きびす)を返す。

 その背中に───、

 

 「大人しく逃がすわけがなかろう。痴れ者が」

 

 セミラミスの背後に展開された無数の魔方陣から、魔力砲が放たれる。

 

 「させるか──────!」

 

 「ガウェイン──────!?」

 

 放たれた砲撃をガウェインが防ぐ。

 

 「いけ!藤丸──────!」

 

 「でも、ガウェイン!君は───、」

 

 「問題ない!あれは私たちの陛下ではない!故にこそ、私は陛下から与えられた使命を全うする!…ランスロット!藤丸たちを船まで援護しろ!」

 

 「言われなくてもそうするとも!殿(しんがり)は僕に任せろ、振り返らず走れ───!」

 

 セミラミスの魔力砲を迎撃しながら、ランスロットが後方を飛ぶ。

 

 「ちょっと待ってください、ティターニアさんがいません!」

 

 「なんだって───?」

 

 

***

 

 

 盛大な地響きとともに、魔力砲が飛び交う城内で、トリスタンは呆然と俯いて立ち尽くしていた。

 

 「私、またお母様に、迷惑をかけたの……、また私のせいで、全部 台無しにしちゃ…」

 

 

 「トリスタン──────!」

 

 

 そんな彼女のもとへ、ティターニアが駆けつける。

 

 「アナタ、何しに───、」

 

 「逃げるんです!"諦めるのはまだ早い" でしょう!ほら、急いで!」

 

 ティターニアはトリスタンの手をとって走り出す。

 

 「ちょ、離し────」

 

 離して、とは言えなかった。トリスタンにとってその言葉は、なによりも必要なことだったからだ。

 

 

 「ティターニア!どこに行っていたんだい!早く船に向かうんだ!」

 

 「ランスロット、ごめん!後ろ任せても大丈夫!?」

 

 「はじめからそのつもりだ。トリスタン、君も一緒に彼女と逃げるんだ。セミラミスは、ガウェインとムラマサ、クー・フーリンが食い止めている」

 

 「ランスロット、私……」

 

 「何も言わなくていい。なんだかんだ、僕も同じ穴の(むじな)だからね。…過去を悔やむのなら、まだあるこれからを変えよう。その方が君らしい(・・・・)だろう?なんたって僕らは、三人揃って "負けず嫌い" だからね」

 

 「───────、ええ、そうだった!」

 

 

 そうして走り出す。目指すはこの島の端、タイニー・ノーチラス号が停泊している船着場だ。

 

 

 「島の住民がいない──────?」

 

 先ほどまでお祭り騒ぎをしていたはずの人々は、既に女王の指示で屋内へと撤収していた。しかし、それは一般人を巻き込みたくない彼女たちにとっても都合がよかったのだろう。

 迷うことなく真っ直ぐに船着場を目指す。

 

 

 「見えた!ティターニア、こっちだ!」

 

 船の甲板から藤丸 立香が手を振る。

 

 「あと少しだ、これなら間に合う!」

 

 キャプテン・ネモは、それを見て船のエンジンをいれる。

 

 

 "()はそれを、我が宝具内ゆえに知覚する。"

 

 

 「───では、抗ってみせろ。『驕慢王の美酒(シクラ・ウシュム)』」

 

 発動場所は、この "キャメロット島の船着場"。

 この一箇所に絞る。

 

 「なっ──────!?」

 

 「っ、()だ──────!」

 

 藤丸 立香がもつ対毒スキルは並大抵のレベルではない。おそらく我が宝具も致命傷には至らないだろう。しかし、それは他の英霊にまで当てはまるわけではない。

 

 

 「ティターニア──────!?」

 

 息を切らして走ってきたのが仇となった。

 唐突に湧いた毒の霧を、彼女は肺いっぱいに呼吸をして死に至る。

 この結末を覆すことはできない。彼女は眼前に芽生えた死の香りを吸って、この旅を終えるのだ。

 

 

 「っ───、…ここまで来て、諦められっかよ!」

 

 

 「──────!?」

 

 ティターニアの後方から光が放たれる。

 それは歪な呪いを封じる贈り物。この地においてただ一度(ひとたび)のみ許された、他者を守護する偽りの祝福(ギフト)

 

 「──────、トリスタン」

 

 輝きの(みなもと)は赤髪の少女から。

 彼女は己の責務を果たすために。そしてなにより、譲れないプライドのために、カルデアとその仲間たちを守ったのだ。

 

 「話は後だろ!次は守ってやらねぇんだから、今は早くここを出んだよ!」

 

 既知のことでは、あったが。

 瞬きのみ放たれた輝きは、彼女の羽織った偽りの(ころも)(めく)り、我はその境遇を理解した。

 

 

 「─────────それでよい(・・・・・)。」

 

 

***

 

 

 

 振り返った後方の景色を見て、自分───藤丸 立香はただ絶句することしかできなかった。

 

 

 「なんなのでしょうか、あれは…」

 

 自分たちは全員、()を見上げていた。

 

 「…アッシリアの女帝 セミラミスが誇る第一宝具、それは現実の素材を、一定期間の下準備を要して組み上げる虚栄の(その)だ。だが今僕らが目にしているものは、その『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』とはわけが違う。これほどの規模は、今まで見たことがない」

 

 それはまさしく、"空に浮かぶ島" だった。

 自分たちが先ほどまで地に足をつけていた祭祀(さいし)の島キャメロット。その島そのもの(・・・・・)が、空に浮いていたのである。

 

 

 「ありえるの…こんなの…」

 

 「これが、この特異点におけるキャメロットか…」

 

 トリスタンとランスロットも、同じようにこの光景の歪さに息を飲んでいた。

 

 「村正のおじいちゃんがわたしたちに逃げるよう言ったのは、この島そのものが、彼女の宝具だったから…」

 

 自分たちを逃がすべく城に残った村正たちは無事だろうか。

 

 

 『─────聴こえるか。カルデアの者どもよ』

 

 

 「──────!」

 

 こちらへと語りかけるように、島から女王セミラミスの声が響き渡る。

 

 『汝らが先ほどまで足を踏み入れていた地は、我が宝具そのもの。…我はこの数ヶ月を要して、小さな小島(・・・・・)にすぎなかったキャメロットをここまでの規模にまで築き上げた』

 

 アムール神に召喚されてからの数ヶ月、セミラミスは自身の根城となる宝具をこれほどの規模にまで拡張させていた。その大きさは、"庭園" と呼ぶにはあまりにも桁違いだ。

 

 『しかしな。ここまでの巨大な宝具を組み上げることはできても、肝心の動力源が我には不足していた。(いち)アイランド・クイーンとしての力と権限だけでは、この宝具を完全に起動させ続けるのは困難だった。それゆえな、汝らの旅路で得た成果を利用させてもらった』

 

 鐘を鳴らすための錫杖───宣誓(せんせい)の杖を求めたもう一つの理由。それは、この宝具を起動し、絶対的な支配者として空に君臨することだったのだ。

 

 

 『これこそが、天に(そび)える我が新たなる宝具、

  『虚栄の天空聖島(レイニングアイランド・オブ・キャメロット)』である───。』

 

 

 「っ──────、」

 

 『この宝具内にいる者は、どこにいようとも我は知覚することができ、同時に始末もできる。先ほど身をもって知っただろう?…そして、この宝具が保有する魔力量は、この特異点の六つの島を総括する』

 

 息を飲む。今の自分たちには、この島の女王を打倒する手段が果たしてあるのだろうか。

 

 『汝らを逃がすべくこの宝具内に残った三人のサーヴァントは、既に始末した(・・・・)。もう無駄な抵抗はよせ』

 

 「そんな──────、」

 

 パチン、という指鳴らしの音とともに、十三(・・)基の迎撃術式のプレートが天空島から出現する。

 おそらく彼女の本来の宝具である空中庭園に備わっている迎撃術式───『十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)』の強化版なのだろう。

 

 『我はこれより、この迎撃術式 "十と三の白卓(ラウンド・サーティーン)" を用いて、汝らの拠点 "ロンディニウム" を落とす。…猶予は一時間だ。それまでに降伏しないのであれば実行に移そう。よく考えることだ』

 

 

 その言葉を言い残して、天空島は静寂となった。

 あの島の上にいた最初の頃の賑わいが、嘘のような静けさだった。

 

 「ネモ船長……」

 

 「ひとまず、ロンディニウムに戻るしかない。考えるのはそれからだ」

 

 圧倒的な力量差を見せつけられた自分たちは、やるせない感情を押し殺して、撤退を選んだ。

 

 

***

 

 

 キャメロット脱出から約20分ほど。

 自分たちは自らの拠点 ロンディニウムにて、対セミラミスの作戦会議を始めた。

 

 「まず彼女に勝つためには、どうあってもあの宝具内に入り込んで、錫杖を奪い返す必要がある」

 

 ネモ船長は地図を広げ、キャメロットの島からこの最南の島ロンディニウムへと矢印を引く。

 

 「向かうだけ、なら問題はない。僕の魔力放出による飛行を使えば、あの迎撃術式を回避しながら乗り込める。ただし連れて行けるのは二人までだ。それ以上は速度が落ちて(とら)えられる。」

 

 「島に乗り込むのは、セミラミスの術式による攻撃が始まってからが安全だろう。ロンディニウムへの攻撃にあのプレートが集中している隙に乗り込むんだ。…何名かがここへ(おとり)として残り術式を迎撃。一方で残りのメンバーが島へと向かう」

 

 「わかりました。なら、錫杖が使える俺とティターニアが島に向かえばいいですか?」

 

 これまで五つの鐘を鳴らしてきた自分たちには、グロスター、ノリッジ、ソールズベリー、オークニー、オックスフォードの支配権を有しているということになる。

 

 「錫杖の使用権限は、この特異点のどこかの島───(くさび)となる地の支配権をもっているのか否かだと思われます。藤丸くんとわたしにはそれがあります。わたしたちなら、錫杖を宝具の動力から切り離せる」

 

 「いや、立香にはロンディニウムで待機してもらうのが最善だ。どこからでも攻撃がされる危険性のある場所へ、僕らにとって(かなめ)である彼を送り込むわけにはいかない。…だが錫杖を奪い返して島の動力から切り離すには、錫杖を使用できる人物は必要だ」

 

 「でもティターニア一人に向かわせるわけには…」

 

 セミラミスはティターニアにとって致命傷となる毒の宝具を有している。あれを再び使用されてしまったら、たどり着くことすらできない。

 

 「───────なら、私が一緒に行く」

 

 「トリスタン…?」

 

 それは思わぬ申し出であった。

 

 「私には高ランクの対魔力スキルがある。先陣を私が走って、毒を弾く道をつくればいい。そう長くは続かねぇけど、ティターニア一人だけを守る目的なら、さっきみてぇに祝福(ギフト)に頼るまでもねぇよ」

 

 「でも、いいのかい?キミは彼女に…」

 

 「関係ない。今は止めることが最優先だろ?…なら私が行く。ランスロット、オマエさっき二人までなら運べるって言ったよな?」

 

 「ああ。必ず僕が送り届けてみせよう」

 

 「……わかった。キャメロットへの突入はティターニアとトリスタンに託そう。しかしそうなると、残りの問題はロンディニウムへの攻撃をどう食い止めるのか、だけど」

 

 ネモ船長はそう言って、顎に手を当て熟考する。

 

 「それなら私に任せてください。この島は皆さんとの思い出の場所。絶対に傷一つ付けさせたりはしません!」

 

 ガレスはそう言いながら、力強く自分の胸を叩いた。

 

 「キミの宝具で彼女の攻撃を食い止める…か。不可能な話ではないが、僕によるスキルの補助を施しても、いつまで保つかわからないよ?」

 

 「いいえ、ネモくん。その心配なら、きっと大丈夫です。この島(・・・)でのガレスちゃんは、普段以上の魔力を発揮できると思います。それに彼女なら、絶対に島を守ってくれる。わたしはそう信じています」

 

 「──────、」

 

 「ティターニアさん……!」

 

 ティターニアは全幅の信頼を寄せた笑顔をガレスへと向けた。

 

 「わかった。彼女を信じよう。…ただ念には念をいれて、僕は島の住民の避難誘導を行なう。島の船乗りたちにも協力してもらい、ノリッジとオックスフォードへと避難してもらうよ」

 

 「わかりました。じゃあ俺は、極力ガレスのそばで待機します。魔力のパスを切らすわけにはいきませんから」

 

 「そうしてもらえると助かるよ、立香。…これより残り猶予の一時間までの間に、僕を筆頭に可能なかぎり島民を避難させる」

 

 ネモ船長の言葉に全員が頷く。

 

 「そしてセミラミスがこちらの島へ到着後、ガレスと立香は彼女の攻撃を迎え撃ち、その隙をついてランスロットの飛行で、ティターニアとトリスタンを島へと運んでもらう。彼女から錫杖を奪い返し、宝具を停止させることができれば僕らの勝ちだ」

 

 そう言いながら、ネモ船長は一人一人の顔を見据える。

 

 「僕らは彼女には降伏しない。必ず錫杖を取り戻し、最後の鐘を鳴らそう!…では、作戦開始だ!」

 

 

 「「はい───!」」

 

 

 

***

 

 

 そうして。時は訪れる。

 自分たちは最後の鐘を鳴らす決戦のため、ロンディニウムの海岸で接近するキャメロットの天空島を眺めていた。

 

 

 『間もなく刻限だが、その様子では、死ぬ覚悟ができたということでよいな?』

 

 ロンディニウムの島の近くへと接近したセミラミスの天空島から、最後の警告が響き渡る。

 

 「っ──────、」

 

 眼前に迫ったセミラミスの宝具を前にし、無意識に手が震える。

 そんな自分の手を、ティターニアが優しく握った。

 

 「大丈夫です、必ず錫杖を奪い返してきますから」

 

 その笑顔に救われる。

 たとえ強がりだったとしても、今必要なのは、そうしたちっぽけな優しい強さだったのだから。

 

 「……ああ。俺たちはあなたには屈しない!錫杖は返してもらうぞ、セミラミス!」

 

 力強く、そう伝える。

 

 

 『────そうか。残念だ。では、死ぬがよい』

 

 

 「っ──────!」

 

 とてつもない規模の魔力が天空島の先端へと集約する。

 それを取り囲むように、十三の純白のプレートが回転していた。

 

 『"十と三の白卓(ラウンド・サーティーン)"、起動』

 

 「ランスロット!手筈通り頼んだよ!」

 

 「任せてくれ!…いくよ、トリスタン、ティターニア!」

 

 「藤丸くん!ガレスちゃん!こっちは頼んだよ!」

 

 ランスロットが二人の腕を抱えて飛び立つ。

 

 「任せてください、ティターニアさん!」

 

 

 魔力の波が収束する。

 これから放たれる一撃は、間違いなくこの島を消し飛ばすことができるものだと肌で感じる。

 

 『では、灰となれ。』

 

 放たれる魔力砲、

 その渦の矛先で一人の騎士は己の覚悟を決めた。

 

 「宝具、模倣展開───!」

 

 収束する偽りの聖剣は、今再び夜の陰りとともに転輪(てんりん)する。

 

 「この剣は太陽の影絵。(ゆえ)に偽りなれば、沈みゆく日没の聖剣────!」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、自分たちを逃がすべく犠牲になった(ほまれ)ある己が姉君。その手向けと誇りを込めて、最大火力であの死の奔流に迎え撃つ───!

 

 

 「夜空に名残る(ほむら)影炎(かげろう)

 …姉様、その力をお貸しください───!

 『日没る詐勝の剣(サンセットカリバー・ガラティーン)』──────ッ!!!」

 

 

 我らの円卓を騙る虚栄の城門砲に、同じく偽りの聖剣がその勝利の証左(しょうさ)詐称(さしょう)する。

 

 

***

 

 

 迎撃術式は起動した。

 しかしその標的はロンディニウムの島 その一点のみ。

 

 「これなら問題ない!城へ直接は厳しいが、限りなく近くへと降ろそう!この先は頼んだ。君が頼みの綱だ、トリスタン!」

 

 「言われなくてもわかってるっつーの!ティターニア、離れるんじゃねーぞ!」

 

 「もちろんです!」

 

 ランスロットが島の森の中へと二人を下ろす。

 途端───、

 

 「もう毒か!索敵がはやい───!」

 

 あたりには先ほど脱出の際にも出現した、毒の霧が立ち込め出していた。そして、

 

 「ギシュァアアアア──────!!!」

 

 大地深くから巨大な毒蛇───バシュムの上半身が出現した。

 

 「チッ─────!ランスロット!ここは任せた!」

 

 「ああ!二人はそのまま城まで走れ───!」

 

 

 トリスタンの対魔力で弾いた道を通って、真っ直ぐに城門を蹴破って城の中へと飛び込む。

 

 「このまま玉座まで突っ切んぞ!」

 

 「はい!最短距離で玉座の間まで!」

 

 しかし、その城内にも先ほど森で出現した巨大な毒蛇が二匹出現する。

 

 「邪魔──────ッ!」

 

 トリスタンのヒールに仕込んだ斬撃の魔術が、毒蛇の首を問答無用で両断する。

 

 「はっ──────!」

 

 ティターニアは上空に爆薬の魔術をかけたビンを投げる。

 

 「ギシュァア──────!!」

 

 しかし、それはあくまでフェイント。

 ティターニアは本命である自身の魔術剣に強化の魔術を(ほどこ)し、滑り込むように(さら)された毒蛇の腹部を切り裂いて突き進む。

 

 「やるじゃん、オマエ!見直してやるよ!」

 

 「それはどうも!」

 

 

 軽い言葉を交わして、二人は玉座の間へとたどり着く。

 しかし、女王は玉座より不動。たどり着いた二人を、事も無げに見下ろしていた。

 

 「ほう。貴様ら二人だけでここまでたどり着いたか」

 

 「ロンディニウムは落とさせません。わたしたち二人であなたを止めます。セミラミス」

 

 「…そうか。汝もそのつもりでここまで来たのか?トリスタン。もしも、今 我に寝返るというのであれば、相応の地位と権利を貴様に譲渡してやってもよい。なにせ、この状況を築き上げたのは貴様の功績に他ならないのだからな」

 

 「え──────?」

 

 「トリスタン、だめです!彼女の甘言(かんげん)に騙されては…」

 

 「騙してなどいるものか。我は王として、働き者には相応の報酬を与えてやろうと言っているだけだ。どうだ?今ならまだ許してやろうトリスタン」

 

 トリスタンは黙って俯いていた。

 

 

 「…ええ。それは本当かもね。なんでかわからないけど、アナタからはお母様に似た匂いがするの」

 

 

 「トリスタン──────、」

 

 「……けど。似てるだけだ。私のお母様は世界で一人だけ(・・・・・・・)!そのお母様は私に、"カルデアとティターニアを守れ" と言った!なら、まず真っ先に私がするべきことは、その願いを叶えること!いつだってそうしてきた!私はお母様が望むことをする!」

 

 トリスタンは力強く一歩前へと踏み出す。

 

 「そのカルデアとティターニアがアナタに屈しない(・・・・)と言って、弱っちょろいくせに刃向かって、それで惨めに()られんならさぁ!…そうならないように手伝ってやんのが、今の私の役割なんだよ!」

 

 その言葉とともに、トリスタンは駆ける。

 

 「……よく吠えた。ならばお手並み拝見といこう」

 

 セミラミスの玉座の背後に魔方陣が展開され、魔力砲が放たれる。

 

 「っ──────!」

 

 それをトリスタンは、魔弾とヒールに仕込んだ斬撃の魔術を駆使して迎撃する。

 ティターニアはその裏を走る。目標は玉座の真上に保持された、この宝具の動力として機能している錫杖だ。

 

 「───見えているぞ」

 

 「なっ──────!?」

 

 目的を理解したセミラミスは、ティターニアへ魔力砲を集中砲火させる。

 

 「させっかよ──────!」

 

 しかし瞬時に、トリスタンは魔術で()んだ糸を用いて、その魔力砲の砲台となる魔方陣を弾き破っていく。

 

 「なに──────!?」

 

 「余所見すんな─────ッ!」

 

 間髪入れずにトリスタンが魔弾をセミラミス目掛けて撃ち放つ。

 

 「チッ────────!」

 

 セミラミスはすんでのところで顔を避け、魔弾を回避する。

 その周囲には、僅かに焼き切れた髪の毛(・・・)が落ちた。

 

 「今だ、ティターニア──────!」

 

 「これなら届く─────────!」

 

 力強く跳躍して、ティターニアは錫杖へと手を伸ばす。

 

 

 

 「─────────詰めが甘いわ。小娘ども」

 

 

 「「っ─────────!?」」

 

 どこからとも無く鎖が出現し、ティターニアとトリスタンを拘束する。

 

 「ぐっ、あ"あ"──────!」

 

 両腕を鎖に縛りつけられ、両者ともに身動きが取れなくなる。

 

 「さぞ痛かろう。その鎖は "驕慢王の美酒(シクラ・ウシュム)" そのもの故な。直接 肺に取り入れるのに比べれば致死率は低いが、その身を縛られるだけでも…」

 

 そこまで語って、セミラミスは異変に気がついた。

 

 「ほう。貴様、障壁による保護を限りなく薄くして、皮膚の上に纏わせているな…?」

 

 「くっ──────!」

 

 「だがいつまで保つだろうな。我はそれを(さかな)に果実酒でも飲もうか?……なぁ、"楽園の妖精(・・・・・)" よ」

 

 「えっ───────?」

 

 ティターニアの驚きようを見て、女王は不敵な笑みを浮かべる。

 

 「そう驚くことでもなかろう。アムールが口を滑らせただけのこと。我は全て知っておるぞ。貴様の正体(・・)も、そこなトリスタンを名乗る騎士についても……な?」

 

 「なん、だって──────?」

 

 

***

 

 

 ──────時は数ヶ月前へと遡る。

 

 

 「ようこそ、アッシリアの女帝。世界最古の毒殺者 "セミラミス"。喜びなさい。貴方はこの夏の女王、その最後の一人(・・・・・)に選ばれました」

 

 女神アムールはそうして我───セミラミスを、夏の陽光が照りつける島 "ロンディニウム" へと召喚した。

 

 「この我を呼びつけるとは、一体どういう了見(りょうけん)だ。つまらぬ児戯(じぎ)であれば、貴様の首をはねるぞ」

 

 召喚方法の歪さもあったが、こちらの了承もなく呼び出されたことに、我ははじめ不機嫌であった。場合によっては、この愚か者を消してしまいかねんほどに。

 

 「それは早計(そうけい)かと。なぜならこの特異点に召喚されたことは、貴方にとって、またとない好機だと思います」

 

 「なに──────?」

 

 そう言って、その女神は、この特異点の概要について我に説明をはじめた。

 

 

 

 「純愛の鐘、常夏領域…なるほど。道化(どうけ)が用意した催しにしては、よくできておるな。それで?我にその娘を迎え撃てと?」

 

 「ええ。貴方には "祭祀" の担当として、この島 "ロンディニウム" を盛り上げてもらいます。ですが、貴方には別の事情(・・・・)についてもお教えしようかと」

 

 「別の事情……?」

 

 そう言ってアムールが我に語ったのは、この島の成り立ち。そして "宣誓の杖" と呼ばれる錫杖がもつ機能と、異聞帯なる地で紡がれた妖精國(ようせいこく)の記録、その全て(・・・・)だった。

 

 

 

 「妖精國…、ようするに、この特異点は…」

 

 「それら全てを紡いだ結果生まれた、ある少女の夢(・・・・・・)です」

 

 「……わからんな。なぜ我にそれを教えた。情を(いだ)かせれば、協力を仰げるとでも?」

 

 「いいえ、まさか。貴方であれば、これほどのイレギュラーな地を知れば、 "自らのものにしたい" と考えるかと思いまして」

 

 アムールの言葉に、我は苦笑した。

 こちらの考えが、言葉にせずとも伝わっていたからだ。

 

 「…ふん、読まれておったか。だがそれも致し方なかろう。我は女帝だ。支配者として君臨できる可能性があるのならば、当然そちらに注力するとも。それでどうする?やはり危険だと判断して、我を切り捨てるのか?」

 

 その言葉を聞いて、今度はアムールが妖しく微笑んだ。

 

 「ふふっ、その必要はありません。どうぞ、貴方は貴方の望むような夏を築き上げてください。どちらにせよ、彼女にはこの島の鐘は鳴らせません(・・・・・・)から。貴方には期待していますよ」

 

 「──────確かに、その通りだな」

 

 「では、貴方はこの島にどのような常夏領域を敷きますか?」

 

 「いや。その前に一つだけ確認させてほしい。召喚されるその娘には、拠点となる島は存在するのか?」

 

 「あります。ですがそこまで大きな島ではありません。あくまで拠点ですので、島民も少なく最低限の物資を整えられる環境ですよ」

 

 「では、その娘はこの島に(・・・・)召喚しろ。我がその島へと向かう」

 

 「は?それは、なぜ───?」

 

 アムールは我の申し出がわからずに困惑していた。

 

 「彼奴(きゃつ)らが呼ばれるまでの間に、この特異点の資源を用いて我が宝具を組み上げる。その小島には土壌となってもらう。…ロンディニウムを放置することにはなるが、連中から錫杖を奪い取ってからのことを考えるのなら、その方が効率的だろう」

 

 「なるほど。"偽物の六つ目の島をつくる" ですか。さすがは生粋の女帝。考えることが違いますね」

 

 「無論だ。何事も抜かりなく行なうのが、我の流儀(りゅうぎ)ゆえな…?」

 

 そうして計画は実行に移された。

 約数ヶ月の時間を要して組み上げられた島 "キャメロット" は、その最後の要である、錫杖の力をもってして完成に至ったのだ。

 

 

***

 

 

 「ロンディニウムが、最後の島……!?」

 

 トリスタンが困惑の表情を浮かべる。

 

 「そうだ。この島に純愛の鐘は存在しない。…そんなことは、貴様が一番よくわかっているはずだ、ティターニア」

 

 そう言ってセミラミスは、玉座の前で両腕を拘束され捕縛されたティターニアの顎を持ち上げた。

 

 「そして、その六つ目の鐘は、貴様が "最も恐れるもの" だ。だからこそ、貴様は鐘の場所を知っていながらもこの島へとやって来た。…無様よな。自ら罠にかかりにきたというわけだ」

 

 「っ──────、」

 

 「だが案ずるな。もうじきロンディニウムは、島の女王である我 自らの手に落ちる。望み通り、最後の鐘は鳴らさずに済むぞ」

 

 「なんのために、自分の島を、」

 

 「ロンディニウムの島を消し去り、その内になる楔となる魔力をこの偽りの島 キャメロットが取り込む。そうすることで本当の意味でこの特異点全てを我がキャメロットの支配下に置けるのだ」

 

 確かに、ロンディニウムが落ちれば、この特異点の全てが彼女の支配下に置かれよう。…しかしその言葉には、どこか矛盾(むじゅん)が含まれていた。

 

 「────いいえ。ロンディニウムは落ちません。わたしは鐘を鳴らしたくなかったから、ここまで来たんじゃない。彼女(・・)を信じているから、ここまで来たんです」

 

 「なに……?」

 

 

 その言葉に応えるように、突然の地響き(・・・)が城内に伝わった。

 

 

 

***

 

 

 ─────────時は数刻前に戻る。

 

 

 「はぁ───、はぁ───」

 

 ロンディニウムの海岸で、一人の騎士が大剣を杖に息を切らしていた。

 

 既に四度(・・)

 天空島から放たれた魔力砲を、ガレスは自身の宝具で相殺している。

 

 「ガレス──────、」

 

 その激突の一部始終を、自分───藤丸 立香は背後から見ていた。

 作戦会議時にティターニアが言っていた通り、この島でのガレスの魔力量は桁違いだった。正確には、ガレスがもつ大剣に備わっている魔力量だ。

 既に四度も、偽りであれ聖剣の宝具を真名解放することができている。あと数発は撃てるほどの魔力を感じるが、おそらく、ガレスの体力がこれ以上はもたないだろう。

 

 「ガレス、令呪を───」

 

 「いいえ、まだです!ティターニアさんと約束しました!必ずロンディニウムを守り切ります!ですのでどうかマスター!もう少しだけ私を信じてもらえますか…?」

 

 ガレスはそう言って振り返り、額に汗を滴らせながもニッコリと笑った。

 

 「───ああ。でも限界だと感じたらすぐに言ってくれ!」

 

 

 大きな岩の擦れる音とともに、再び天空島のプレートが回転し出す。

 

 「来るか──────!」

 

 ガレスは再び、大剣を構え直しその内に眠る魔力を解放する。

 

 「宝具、模倣展開!姉様、今再びその輝きをお借りします!」

 

 凄まじい魔力収束とともに、五度目の

  "十と三の白卓(ラウンド・サーティーン)" が放たれる。

 

 「いくぞ───!!

 『日没る詐勝の剣(サンセットカリバー・ガラティーン)』──────ッ!!!」

 

 

 再びの衝突。

 灼熱の業火は、再びこの島を守るべくその焔を輝かせる。

 

 

 「ぐっ、あぁ─────────!!」

 

 しかし。その出力がブレる。

 詐称の聖剣が放つ炎の隙間から、魔力砲の一部が島の砂浜を焦がした。そしてその余波(よは)はこちらにも───、

 

 「くっ──────!」

 

 衝撃に吹き飛ばされる。

 まずい。ガレスのそばを離れてしまえば、ガレス本人の魔力維持に支障が出てしまう───!

 

 「マスター──────!?」

 

 僅かな動揺。

 その隙をつくように、一際(ひときわ)強く圧される。

 

 「こん、な、ところで──────!」

 

 なんとか踏みとどまるも、一度体勢を崩されたガレスはその魔力の奔流を抑えきれず、

 そのまま───、

 

 「諦めて、たまるか──────ッ!」

 

 

 

 

 

 「ああ、その通りだ──────ッ!!」

 

 

 折れかけたガレスの心を支えるように、ランスロット(・・・・・・)がその背後から刃を添えていた。

 

 

 「ランスロット、様──────、」

 

 ガレスは駆けつけたランスロットを見て、その瞳に涙を浮かべた。

 

 「僕は君に、そんな顔をしてもらえるような大層な騎士じゃない。……けれど。けれど、それでも!今この時は君の背中を支えよう!出力を切り替えるんだガレス!この魔力砲は、真っ直ぐにあの天空島へと続いているのだから───!」

 

 「 はい、ランスロット様───!」

 

 ランスロットの言葉で再びガレスの闘志が(みなぎ)る。

 

 

 「宝具 "換装"、模倣展開───!」

 

 

 灼熱の焔は、湖面の光へと。

 偽りは、さらなる偽装へと、逆しまに裏返る。

 

 「清廉たる湖面、月光を返す───!」

 

 ランスロットは、ガレスの換装した宝具に息を合わせ、

 

 「沼底に堕ちれど、輝きは最果てに至れ───!」

 

 ガレスは、ランスロットの剣にその鈍色の沼光を重ね、

 

 

 「「限界は、(とお)に超えた──────ッ!!」」

 

 

 魔力砲の中心に、その剣を突き刺す───!

 

 

 「『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』───ッ!!」

 「『譎詐全断・過重沼光(アロンダイト・オーバーポンド)』──────ッ!!」

 

 

 二つの光が重なり、真っ直ぐに魔力砲の芯を走る。

 やがてその過重な魔力は、魔力砲の根元へとたどりつき、盛大な魔力の乱れとともに爆散(・・)した。

 

 飛び散る光は、周囲に浮遊していた十三の迎撃術式のプレートを破壊していく。

 

 

 ──────そうして。

 二人の騎士によって、常夏の島 ロンディニウムは守られたのである。

 

 

 「……やったぁ!やりました!ランスロット様!」

 

 ガレスは喜びのあまり小さく跳ね、そのままランスロットに向けて手を掲げる。

 

 「む……、ふふっ、こうかい?」

 

 ランスロットはそれが何を意味しているのか理解し、

 

 「はい!大勝利、です!」

 

 二人は勝利のハイタッチ(・・・・・)を交わした。

 

 

***

 

 

 そうして。凄まじい地響きが城内に響き渡る。

 

 「なっ────!? 馬鹿な!?十と三の白卓(ラウンド・サーティーン)が破壊された、だと!?」

 

 その異変を、セミラミスは瞬時に知覚した。

 

 そしてその衝撃が生んだ隙を、わたし───ティターニアは見逃さなかった。

 

 「くっ──────!」

 

 衝撃によって緩んだ鎖の拘束を引っ張って、セミラミスへと手を伸ばす。

 

 「ふん、そんな鈍間(のろま)な手に捕まるか、たわけ!」

 

 セミラミスはわたしの手を難なく避ける。

 ───が、わたしの狙いは、はじめからそちら(・・・)ではない。

 

 「トリスタン!受け取って!」

 

 ()かした手を後方へと払う。

 その手の中からバラ蒔いたのは、先ほどトリスタンが魔弾で焼き切った、セミラミスの髪の毛(・・・)だった。

 

 「──────!」

 

 それが何を意味するのか、トリスタンは瞬時に理解し、魔術糸を用いてその髪を遠隔で束ねる。

 

 「ホント、ウザったいくらいに頭の回転がいいなオマエ!」

 

 髪の毛の束は、その形状を "小さなセミラミスの影" へと変質させた。

 

 「貴様、なにをするつもりだ───!?」

 

 トリスタンはそのまま、器用に手製の(くい)を糸で持ち上げる。その切っ先は、先ほど生まれたセミラミスの影に向いていた。

 

 「散々 踊らせてもらったから、足さばきには自信があってな?……ようするに! 私たちの勝ち(・・)ってコト!」

 

 持ち上げた杭を勢いよく蹴りつける───!

 

 「これが私の宝具、

 『痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)』─────────ッ!!」

 

 トリスタンの放った呪いの杭がセミラミスの身を内側から貫いた。

 

 「ぐっ、うぅ──────!?」

 

 セミラミスはその場に倒れ、同時に自分たちに繋がれていた拘束が解かれる。

 

 「ティターニア──────!」

 

 トリスタンの呼ぶ声に頷くとともに、宣誓の杖を掴み取る。

 そしてそのまま────、

 

 「宝具接続、カット──────!」

 

 

 この島の宝具と錫杖の接続を切った。

 

 

 ──────そうして。

 この島の宝具は停止したのだ。

 

 

***

 

 

 ガレスとランスロットによる迎撃から数刻、キャメロットの島は大きな音を立てて大海へと落ちていく。

 

 

 「やったのか!?ティターニア、トリスタン!」

 

 自分───藤丸 立香たちは、ロンディニウムの海岸より、その様子を眺めていた。

 

 「どうやら、もう島民の避難は必要なさそうだね」

 

 「ネモ船長!」

 

 振り返った先にいたネモ船長は、急いで避難を促していたからか、息を切らしている様子だった。

 

 「ですが、あのまま落下してしまえば、衝撃でキャメロットの島にいる人々が危ないのでは…!?」

 

 確かにガレスの言う通り、宝具としての機能を停止させた天空島が大海へと落ちた時、その衝撃で島の上の街が崩れるだろう。

 

 「まずい、どうにかしないと───!」

 

 何か策はないか思考を巡らす。しかし───、

 

 「…いや、その必要はなさそうだ」

 

 ランスロットは冷静に、島の上の街を見据えてそう答えた。

 

 

***

 

 

 街は、響き渡る地響きに怯え、慌てた住民たちの困惑と悲鳴の声があちこちで聞こえていた。

 

 その中心に、私───ガウェインは降り立つ。

 

 「上手くいったんだな…ティターニア、」

 

 約一時間半前、藤丸たちを逃がすべく島に残った自分と村正、クー・フーリンは、迎撃に対抗しながらこの街まで撤退していた。

 そのまま島を飛び降りる選択肢もあったが、そんな切羽詰まった自分たちに、この街の住民たちは自らの家に(かくま)うという選択肢をくれた。

 

 私たちはそれに甘え、結果として命拾いした。

 理由はわからなかったが、女王は島の住民に攻撃はしなかったのだ。

 

 「チッ、まだヤツから受けた傷は治っちゃいねぇが、黙って休んでいる状況でもねぇな」

 

 私と同じく、建物の外に村正もやってきた。

 

 「オレがルーンで、島そのものの衝撃を緩和させる!おい村正、こっちを手伝え!」

 

 島の大地へ杖を突きつけたクー・フーリンが後方でそう言っていた。

 

 「ああ?手伝うったって、儂にはそんな芸当できねぇぞ」

 

 「んなこたぁわかってる!テメェの刀にルーンを刻んで島の外周に突き刺すんだよ!そいつでルーンの共鳴効果を島の全域に促す!テメェは走り仕事だ、得意だろそういうの」

 

 「なるほど、確かに(オレ)向きだな。ほら、ありったけの刀だ。刻むだけ刻みな!」

 

 二人に島の保護は任せてよさそうだ。

 もう一つの問題は───、

 

 「あとは街の住民の保護だが…、」

 

 「…それならば、私に任せてくれ。この島の女王がどれだけの蛮行を為そうと、この島の住民は私たちにとって命の恩人だ。この身にかけて、必ず守るとも───!」

 

 島の大地へ、己の剣を突き刺す。

 

 「陛下よ。あなたが私に与えてくださったこの祝福(ギフト)、今この時、"無辜(むこ)の民のため" に使わせてもらう───!」

 

 対象は、"この島全域の人々" へ。

 我が身に纏う常夏騎士としての祝福、これもまた一つの常夏領域ならば、その効果は島全域にまで伸ばせよう───!

 

 「いくぞ、祝福(ギフト)範囲展開(オーバーレンジ)───ッ!」

 

 

***

 

 

 三人の奮闘により、転落する天空島は大海へと不時着する。

 

 キャメロットの城内には、わたし───ティターニアとトリスタン、そして倒れ伏して天を見上げるこの島の女王セミラミスの三者だけだった。

 

 「この祝福の範囲使用とルーンの加護は…、ガウェインとクー・フーリンだ!ということは、村正のおじいちゃんも生きてる!?」

 

 その言葉を聞いて、セミラミスは憎らしげに鼻を鳴らした。

 

 「…まったく。上手くいかぬものよな、いつも」

 

 

 そんな彼女のそばへ、わたしは歩み寄る。

 

 「女王セミラミス。あなたはひとつだけ嘘をついていましたよね?…本当は、"ロンディニウムの島を落とす理由なんてなかった"」

 

 「えっ───?アナタ、それどういう意味?」

 

 トリスタンは意味が理解できずにそう聞き返す。

 

 「簡単なことです。だって彼女は、"ロンディニウムの女王" なのですから。…わざわざ落とさずとも、もうあなたの手に全ての支配権はあったも同然だった。だというのに、島を落とすと(おど)し、実行したのは、別の理由があったからではないのですか?」

 

 「ふん、妖精眼(ようせいがん)だったか。くだらぬ事まで見透かすのだな」

 

 セミラミスはそう言って苦笑した。

 

 「我の目的は、この特異点の支配者となることだった。それは変わらぬ。…だが、恒久の楽園。争いのない島々。それは数多の苦痛を乗り越えた貴様にとっては、喉から手が出るほど欲しいものではないのか?」

 

 わたしはその言葉を聞いて、彼女が何について語っているのか理解した。

 

 「そう、ですか。つまりあなたは…」

 

 「すべて貴様たちのため(・・・・・・・)だ。我が支配者として錫杖を奪えば、貴様はもう "終わりを目指す旅" を続ける必要はなくなる。この特異点で恒久の平和を享受(きょうじゅ)できるのだ。それは貴様たちに必要な世界だ。我が君臨しがい(・・・・・)のあるな」

 

 セミラミスは、アムール神から妖精國について聞いていた。あの世界で起きた数多の悲劇を目にした。しかし、彼女がこのような行動をとったのは、決して "情が移ったから" ではなかった。

 ただ必要だ(・・・)と感じただけ。自らの支配下で生まれる安寧の世界こそが、わたしたちに必要なものだと感じ取ったのだ。

 

 「ロンディニウムをわたしたちの拠点にさせたのも、最後の鐘を鳴らさせないようにするためですね…?わたしが、苦痛から目を背けやすくするために」

 

 「ふん、鳴らしたくもない鐘を鳴らす必要などなかろう。…だが貴様はそれを拒否した。この旅を終わらせようとした。それはなぜだ?」

 

 セミラミスは理解ができぬと、わたしを見上げる。

 

 「───さあ、なぜでしょうか。正直わたしにもまだわかりません。けれど。わたしはずっと走り続けてきたから。多分止まり方がわからなかったのかも。…あはは」

 

 その言葉を聞いて、セミラミスは目を丸くした。

 

 「なんだ、それは。まったく理解できんな」

 

 そうして、セミラミスはどこか遠くの空を見つめる。

 

 

 「これは、我の個人的な話だがな。以前、一人の愚か者の夢を一緒に追ったことがあった。その男はな、"怒りも嘆きもない、誰もが幸福な世界" を実現させようとしたのだ」

 

 「誰もが幸福な世界───、」

 

 「くだらぬだろう?……だが、笑い話にはできなかった。我はその男が夢見る世界を見たいと思った。その世界でなら、支配者として君臨するのも悪くはないと思ってな」

 

 ここではないどこか。

 多くの感情を切り捨てて、ひとつの星に手を伸ばした男の話。

 

 「けれど。その夢は(つい)ぞ叶わぬまま、男は我の腕の中で死んだ。…ああ、その時に理解したとも。我が見たかったのは、その男の夢見る世界などではなく、その夢見た世界で笑う男の顔だったのだと」

 

 「セミラミス───、」

 

 「だがこうして、その男と似た野望を追って、我も理解した。…道理で敗北するわけだ。そも叶えたがっていた相手は、そんなことを望んですらいなかったのだからな」

 

 夢はいつでも独りよがりだ。

 叶えた夢は、その本人を中心にしか回らない。

 

 彼女の野望が叶ってほしいと望んでいたのは、その(じつ)、彼女本人しかいなかったわけだ。

 

 

 「ねぇ、アナタ。どうして、私を受け入れたの?」

 

 自分と同じくセミラミスのもとへと歩み寄ったトリスタンは、その近くでしゃがみ込んでそう訊ねた。

 

 「さて。なんのことやら。我は貴様を利用しただけだ。前にもそう言っただろう」

 

 「ええ。結果的にはそうかもね。なら、どうしてあの "ダンスホール" を造ってくれたの?わざわざ島の資源を使ってまで、必要なものじゃなかったでしょう?」

 

 セミラミスは黙り込む。

 

 

 「答えて。言葉にしなきゃわからない(・・・・・・・・・・・・)ことでしょ。私は知りたい」

 

 トリスタンの真剣な眼差しを見て、セミラミスは口を開いた。

 

 「我の夢とは、別の話だ。かの妖精國で、なぜ女王モルガン(・・・・)(くに)を維持し続けたのかわかるか?…彼女の本当の望みは、その國で "笑う(なんじ)の姿" を見ることだ。もしも汝がその國では笑えぬというのであれば、"國を投げ捨てても構わぬ" ほどにな」

 

 「えっ──────?」

 

 「我は終ぞ娘など持たなかったからな。真に理解できるわけではない。だが、紛れもなくあの女王は汝を愛していた(・・・・・)ぞ」

 

 セミラミスは、優しげな眼差しでトリスタンを見つめる。

 彼女がトリスタンにあのダンスホールを造ったのは、そんな不器用な母がしてやれなかった、娘の笑顔を見るための舞台だったのだ。

 

 

 「───、そう。それが聞けて、よかった、」

 

 トリスタンは俯いたまま、立ち上がり(きびす)を返した。

 

 「あれ?トリスタン、泣いてる───?」

 

 「はぁ!?泣いてねぇし!オマエの目腐ってんじゃねぇのか!?」

 

 わたしの言葉に、トリスタンはいつも通りの刺々(とげとげ)しい言葉を返した。

 その言葉を聞いてわたしは苦笑する。

 

 

 「…おい、ティターニア。協力してやったんだから、私の言うことも一つ聞けよ」

 

 「え?いいけど、なに?」

 

 わたしがあまりにあっさりと承諾したものだから、トリスタンは少し呆気に取られていた。

 

 「───私、まだ(おど)り足りないから。ダンスホールはこの島にしかないわけだし、島の住民にはいてもらわねぇと私が引き立たないし、つまり、その…」

 

 トリスタンは少し言い淀んだ。

 

 「えっと、一緒に踊ってほしいってこと?」

 

 「(ちが)っ…くはなくもねぇけど!ようするに!島の復興を手伝ってほしいって言ってんの!」

 

 恥ずかしそうに頬を赤らめて、そう言い放った。

 

 

 「うん、もちろん!」

 

 わたしはそれに笑顔で返した。

 

 

***

 

 

 セミラミスとの闘いから一週間。

 自分───藤丸 立香たちは、トリスタンの申し出を承諾し、キャメロットの復興に協力した。

 元々が宝具で形作られた島だったこともあり、そこまでの多大な時間を要さずに島は元通りの活気を取り戻したのだ。

 

 

 「ティターニアさん!あの白くてフワフワしたやつなんでしょう!?」

 

 「ほんとだ、村正のおじいちゃんのヒゲみたいだ!」

 

 「ヒゲなんて生えてねぇだろうが!…あれは "綿あめ" だ。試しに食ってみろよ。復興の協力祝いで、金銭を取ったりはしねぇらしいからな。遠慮なくお言葉に甘えようや」

 

 街は最初に来た時と同じく、日本の夏祭りのような雰囲気に包まれていた。

 はじめ来た時は驚きと警戒でほとんど楽しむことはできなかったが、こうして一段落ついた今となっては、吹っ切れたように満喫していた。

 

 

 「ねぇねぇ、お姉ちゃん!この前おそらを飛んでたよね!凄いきれいだったよ!流れ星みたいだった!」

 

 ランスロットが街の子供に声をかけられる。

 

 「む、目の付け所が良いな少年。聞いて驚くがいい!僕はこの夏でもっとも美しい常夏騎士、ランスロットだぞ!…サインとかいるかい?」

 

 「なに、いつの間にサインなど用意していた貴様───!」

 

 「ふっ、これでも某ブリテンでも同じく、もっとも美しい妖精騎士と讃えられていたんだ。それくらいのファンサは心がけているとも」

 

 自信満々に胸を張るランスロット。

 

 「はっ!んなの妖精(ひょう)だろ。当てになんねぇんだよな」

 

 「なんだと!人間(ニンゲン)からもそう言われてたぞ!」

 

 「へー?それ誰ぇ?名前言ってくれないとわかんないなー」

 

 「…ぱ、パーシヴァルだ!」

 

 「身内(みうち)じゃねーかッ!」

 

 そんな常夏騎士 三人衆のやり取りを微笑ましく見守る。

 

 

 「おい村正にキャプテン、あの射的(しゃてき)とやらで一勝負しねぇか?」

 

 「ああ?鉄砲玉は専門外だぞ。なぁキャプテン」

 

 「いや、面白そうだね。ちなみに何を賭けるんだい?」

 

 意外と乗り気なネモ船長。

 

 「よし、そう来なくちゃ!…んで、そうだなぁ負けたら一晩 野宿ってのはどうだ?」

 

 「なんだそれ、儂はやってらんねぇよ。おとといきやがれ」

 

 「逃げんのか?」

 

 「逃げるのかい?」

 

 「…………、やってやろうじゃねぇかよ!おい、店主さん、この店で一番 重てぇ(まと)はどいつだ!この青頭(あおあたま)か!」

 

 「いや誰が射的の(まと)だコラァ!」

 

 射的の銃を人に向けるのは危ないのでやめましょう。

 

 

 「藤丸くん、もうすぐ "盆踊り" というのが始まるそうです!一緒に見に行きませんか?」

 

 「うん、そうだね。見に行こう!……それとティターニア、鼻の上にさっきの綿あめがくっ付いてるよ」

 

 そう言って、その綿あめを(つま)む。

 

 「あっ、ほんとだ。あはは」

 

 

 

 ──────そうして祭りは続く。

 やがて今夜の締めの祭囃子(まつりばやし)に合わせて、円になって街の人々は歌いながら、盆踊りを踊り出す。

 

 

 

 「───悪くないな。こうして間近で眺めるのも」

 

 セミラミスは(やぐら)の上から、街を彩る祭りの提灯(ちょうちん)と人々を見下ろしていた。

 

 「ここにいたんだ、アナタ」

 

 彼女が振り返ると、下に繋がる梯子(はしご)から、ひょっこりとトリスタンが顔を出していた。

 

 「なんだ、わざわざ登ってきたのか、トリスタン」

 

 「ええ、これアナタも食べたいかと思って!」

 

 トリスタンはそう言って、背中に回していた手を前に出す。

 

 「む、なんだその白い山は」

 

 「"かき氷"っていうんだって!美味しいから思いっきり食べてよ!」

 

 「そ、そうか。では…」

 

 勢いよく口に含んだセミラミスは、あまりの冷たさに眉間(みけん)(しわ)を寄せた。

 

 「っ───!なんだこれは!?」

 

 「あははははは!今日一面白い顔だったぜ、アナタ!」

 

 そんなイタズラっ子のような笑みを浮かべたトリスタンを見て、セミラミスは怒りを忘れ淡く微笑む。

 

 「ふん、このようなことをしたからには、貴様も当然食べるに決まっておるよなぁ?」

 

 「えっ、ちょ、怖い、その笑顔怖い!ちょっと待って!つ、冷た───ッ!?」

 

 

 祭囃子に混じって、トリスタンの叫び声がこだました。

 

 

 

 「おーい、ティターニア!これ、お前さんにやるよ」

 

 向こうでクー・フーリンたちと勝負をしていた村正が、こっちの方へと駆け寄ってきていた。

 

 「えっ、急にどうしたの、村正」

 

 「いいから、いいから!……ほら、よく似合ってるぜ!」

 

 そう言って、村正は白い花の髪飾り(・・・)をティターニアへと付けてあげていた。

 

 「ホントだ!よく似合ってるよ、ティターニア!」

 

 「──────、」

 

 「射的の景品で貰ったもんだが、(オレ)にゃ使い道がねぇからな。まぁ高価なもんってわけじゃねぇから、迷惑じゃなければお前さんにやるよ……って、ティターニア?どうした?」

 

 「───っ、ううん!柄にもないことするなぁこの爺ィ!って思ってただけ!………ありがとう、村正のそういうところ、私は好きです」

 

 「ん?お、おう?今 (オレ)は褒められたのか、それとも(けな)されたのか?」

 

 村正は珍しく困惑していた。

 

 「当然、どっちもです。なので、これからも精進してください」

 

 「おう。……って、何を!?」

 

 

 

 

 「ぐぬぬ、中々(すく)えませんね、この金魚…」

 

 「ガレス、僕に貸してごらん。重要なのは速さじゃないんだ。水面(みなも)を揺らさないことだよ。……ほっ!」

 

 はじめてとは思えない手つきで、ランスロットは金魚を掬い上げる。

 

 「おおお!すごいです!さすがはランスロット様!…もしや網一つで魔獣を倒した経験が!?騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)なのですか!?」

 

 「……?よくわからないけど、多分そう!」

 

 二人の会話はなぜ成立しているのだろうか。

 

 「まったく。こうして見ていると、そっちの方が姉妹に見えるな」

 

 「なにを言っているんですか、ガウェイン姉様。私にとって一番の姉様は、太陽の騎士 ガウェイン、ただ一人ですよ!」

 

 「───そうか。微笑ましいかぎりだ。本当に。」

 

 ガウェインは柔らかに微笑んだ。

 

 「ランスロット様にも()がおりましたよね!エクター・ド・マリス卿!またいつかお会いしたいです」

 

 「──────弟、か。そうだね。不出来な僕とは違って、本当に立派な人間だ。心底から敬愛しているよ。……僕も、また会いたいなぁ」

 

 ランスロットは懐かしむように遠くを見据えた。

 

 

 

 

 「なぁ藤丸、キャプテンを見なかったか?」

 

 そう言って、クー・フーリンが自分たちのもとへとやって来た。

 

 「あれ?さっきまで一緒だったんじゃなかったの?」

 

 「そうだったんだが、用事があると言ったっきり、どっか行っちまったんだ」

 

 「どうしたんでしょう、ネモくん」

 

 ティターニアとあたりを見回す。

 

 「あんまり遅いようだったら、みんなで探しに…」

 

 行こう、と言おうとした時、大きな音が空に鳴り響いた。

 

 「あ───、」

 

 

 見上げた先に広がっていたのは、"大輪の花"。

 

 

 色とりどりの花火(・・)が、

 キャメロットの夜空を彩っていたのだ。

 

 

 「ネモ船長──────、」

 

 この花火は、ネモ船長が打ち上げたものだ。

 以前、ノリッジで見た時のことを思い出した。

 

 「へぇ、粋なことをしやがるな、キャプテン」

 

 

 それぞれの場所で、揃って花火を見上げる。

 

 歌と踊りは遥か空まで。

 祭祀の島 キャメロットは、

 今日も鮮やかに夏を盛り上げていた。

 

 

 

***

 

 

 キャメロットでの復興祭りから一夜明け、自分たちはロンディニウムへと帰還した。

 

 

 「では、最後の鐘を鳴らすんだね」

 

 ロンディニウムの波打ち際で、ティターニアは振り返る。

 

 「───はい。鐘を鳴らしましょう」

 

 「…でも、女王に勝ったはいいが、肝心の鐘の場所は向こうも把握してなかったよな?どうするんだ?」

 

 村正が腕を組んで、そう訊ねる。

 

 「いいえ。鐘の場所なら、わたしは "はじめから" 知っていました。……ガレスちゃん、その剣(・・・)を私に見せてもらえますか?」

 

 「え?…私の剣、ですか!?」

 

 

 そうして、ガレスが握った剣に対して、ティターニアが錫杖の小鐘を鳴らした。

 すると───、

 

 「ほ、本当に出てきた……!?」

 

 ガレスの剣の内側から、純愛の鐘が出現したのである。

 

 「───なるほど。ロンディニウムにおいて、ガレスがあれほどの宝具を何度も使用をすることができたのは、この鐘が封じられていたからだったのか」

 

 鐘を保有している者は、その島の常夏領域の影響も受けず、島の霊脈から魔力を引き出すことが、ある程度ならば可能だ。

 自分たちはオックスフォードにて、そうして生きながらえていた魔獣を知っている。

 

 「…そういえば、女王セミラミスは、このロンディニウムに一体どのような常夏領域を敷いていたのでしょうか?」

 

 そのことに関して、彼女は終ぞ口を割ることはなく別れてしまった。一体どのような常夏領域をこの島にかけていたのだろう。アムールがいる以上、"敷かない" という選択肢を取っているはずはないのだが。

 

 「───それなら、私はわかる」

 

 トリスタンがそう呟いた。

 

 「それは、一体…?」

 

 「散々 言ってたろ。"恒久の楽園をつくる" って。…きっとこの島に敷かれてたのは、"(いさか)いの喪失(そうしつ)"。この数日、何度かこの島を訪れた私でもわかった。島の人間が、ウザいくらいに平和ボケしすぎだってな」

 

 諍いの喪失。

 なるほど。彼女が望んだ世界は、この島の上でなら叶っていたのか。きっと彼女は、それをあのキャメロットから見ていたからこそ、この特異点全てにその楽園は築けると信じた。

 

 「では。鐘を鳴らしてしまったら、この島には争いが…?」

 

 ガレスが不安そうにそう訊ねる。

 

 

 「───いいえ。この島の人々なら大丈夫です。わたしはそう信じています。ですから、ロンディニウムの鐘を鳴らしましょう、藤丸くん」

 

 ティターニアは、まっすぐな眼差しでそう告げた。

 

 「…ああ。最後の鐘を鳴らそう。」

 

 

 錫杖を掲げる。

 その脳裏に思い描くのは、

 この特異点で経験した多くの思い出。

 

 輝かしい星のように、まばゆく(よぎ)る。

 

 最後の鐘の音は、まるでこの特異点全土を優しく撫でるような、暖かな響きを奏でていた。

 

 

 

 「これで、全部の鐘を鳴らしましたね…」

 

 遠くの水平線を見つめ、ティターニアがそう呟く。

 

 

 

 「ええ。おめでとうございます、ティターニア。そして藤丸 立香。貴方たちは無事に、この特異点 全ての鐘を鳴らすことができました」

 

 

 ここにはいなかった第三者の声に、思わず振り返る。

 そうして現れたのは、この特異点の首謀者と思われる女神。本当の意味でこの楽園を築いた、ローマ神話における愛の女神アムール。

 その疑似サーヴァントである、カレンの姿だった。

 

 

 

 

 

 /『人気女帝で行こう』-了-

 




 
 
 まずはここまでの長文をお読みいただきまして、誠にありがとうございました。毎回文量が増えてますね。なぜなのだ。
 しかし今回はクライマックス間際ということで、総括も含めお許しいただけますと助かります。
 
 さて。ここからはいつもと同じく今回の話の補足説明に入らせていただきたいと思います。興味がございましたら、こちらもお読みいただけると幸いです。
 
 今回の島のテーマは、"祭祀"。
 日本において夏といえば、お祭り!宴だ!…ということで、最後の島は夏祭りを締めにもってきたシナリオとなりました。え?ほとんどバトってただろって?…まあ、"終わりよければすべてよし" ということでお許しを。最後の島だしね。正面衝突してほしかった。
 ちなみに今回の祭祀も含めて、全体的に "日本の夏" に寄ったテーマが多々ありましたが、これはアムールもといカレンが、生前に日本へ移住し、その国の文化に感化されたことが原因となっています。
 
 
 ・星5 キャスター セミラミス
 
 今回のメイン!ロンディニウムの真の女帝セミラミスです!デザインはシックに、ダークブラウンのワンショルダービキニにレースの透けパレオ。髪はあえて普段通りに致しました。どこぞの怪盗と並んだら()えそうですね。

 そしてその舞台はキャメロット。六つ目の純愛の鐘を保有すると偽る、本来は存在しない七つ目の巨大な島として登場しました。
 物語中でのセミラミスとカレンの会話の通り、本来は小さな小島にすぎなかったキャメロットに、ティターニアたちは召喚される予定でした。ちなみにその時の地名はキャメロットではなく、"ティンタジェル" です。
 島の住民たちに関してですが、彼らは皆 他の島から移住してきた人々でした。アイランド・クイーンとしての特性を考慮せずとも、一定の人々を魅了できたのは、セミラミスの持ち前の王としてのカリスマ性が理由となります。
 また、物語内で語られていたように、彼女には妖精國の女王モルガンを連想させる立ち回りと役どころを担ってもらいました。…しかし、セミラミスの目的とモルガンの目的は、その前後が()です。モルガンは自らの國を築き上げる過程で、國以上に大切なものを得ましたが、セミラミスは必要だと感じたことを得てから、島を築くことを選択しました。
 
 ロンディニウムの島に "諍いの喪失" の常夏領域を敷き、ティターニアたちに平和の楽園を享受させていたのは、そうした世界を垣間であれ見せてやりたいと思ったからです。しかし、それでも根っこはアッシリアの独裁者。言っても聞かないヤツらには力でわからせる。失わせればその意味を痛感するだろう。ということで、問答無用でロンディニウムに魔力砲を放ちました。めちゃくちゃだよ、この女帝!

 こうしたモルガンとセミラミスの類似性を描いたのも、Fate/Apocryphaにて、モードレッドがセミラミスに対して自身の母と同じ臭いを感じていたところから引っ張ってきたオマージュでした。詳しくは原作を是非!
 
 そして今回新しく登場した宝具、
 『虚栄の天空聖島(レイニングアイランド・オブ・キャメロット)』ですが、本来の彼女の宝具『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』とは似て非なるものとなります。その理由は、"素材の違い" です。
 本来、彼女の宝具を組み上げるために必要なものは、彼女が生きていた土地であるイラクのバグダット周辺の木材や鉱物、土などを使用しなければなりません。しかしこの特異点にはそれがなく、代わりに別の資源が溢れていました。その本当の素材の源は現段階では語れませんが、そうした神秘としての強度が強い素材を用いた結果、他の島にも負けず劣らずの大規模な天空島を作り出せたわけです。
 なので完全な上位互換というよりも、純粋にかけた時間と素材の強度ゆえに、より高性能な宝具となったのです。にしても移動できるとか聞いてない。ラ〇ュタでもそんなことしなかったよ!
 ちなみにレイニングとは、英語で "君臨し続ける" という意味です。
 
 
 ・星4 アーチャー 常夏騎士 トリスタン
 
 ついに揃った三人目の常夏騎士。この夏一の残虐(ざんぎゃく)娘……ではなく。この夏一の "踊り子" としてキャメロットの住民たちからは大人気のトリスタンです。普段の加虐体質は主人公たちと再会するまでなりを潜めていましたが、それはこの特異点には嫌いな妖精たちがおらず、善良な人間だけが暮らしていたためです。
 彼女が偽物の島であるキャメロットに召喚されたのは、そも土地として数ヶ月の信仰をキャメロットが集めており、かつ他の島に比べるとトリスタン本人との縁が一番強かったのがこの島しかなかったためです。
 
 また、今回の彼女はFGO第二部 第六章本編の時と比べ、だいぶ思慮深い判断ができるようになっておりますが、これは自己の過ちと後悔が直近として記憶に残っている故の罪悪感からです。母であるモルガンの願いを叶えようと頑張っていたのも、これ以上迷惑をかけたくないという一心でした。…うん、でも顔はちゃんと確認しようね?
 
 ちなみにセミラミスがトリスタンへあの舞踏会場を作ってあげたのは、終ぞ叶わなかったモルガンの夢を叶えてやりたいという思いもありましたが、トリスタンの夢を叶えてやりたいという願いでもありました。母を偽って、利用しただけと言ったのは、そんなセミラミスの不器用な照れ隠しでもあります。
 
 
 ・星4 セイバー ガレス
 
 改めて語る、六つ目の鐘の島 "ロンディニウム" を守る騎士です。彼女の在り方や印象は、FGO 第二部 第六章における "鏡の氏族" 最後の生き残りであるガレスと大きな違いはありません。それ故に、この物語における彼女にはその変わらぬ不屈の闘志と、それを支えるための剣を主軸に(えが)かせてもらいました。
 彼女の所持していた大剣があれほどの出力の宝具を二種類も使えたのは、その内部に純愛の鐘を保有していたからでした。無論、ロンディニウム以外の地では、今回ほどの宝具連発はできません。長い伏線だったネ!
 純愛の鐘は、その結びつく土地でしか姿を出現させることはないため、他の島で錫杖を振っても、ガレスの剣の鐘は反応しませんでした。ティターニアはそのことに気づいていたため、ロンディニウム内では一度も錫杖は振っていません。
 
 
 他にも、ガレスとランスロットの共闘…無辜の民を守ったガウェイン…村正がティターニアへ渡した髪飾り等、今回の話は語りたいところが本当にたくさんございますが、あえてここまでとさせていただきます。ここまでの長文をお読みくださいまして、誠にありがとうございました!

 ついに六つの鐘が鳴り、物語はクライマックスへ向かいます。
 残りは二節、どうぞ次回の更新をお待ちいただけますと幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。