Fate/Grand Order『楽園常夏領域 アヴァロン・アエスタス -真夏の夢と南の島の一等星-』 作:ひゅーzu
第八節目の更新です。
引き続き、この物語はFGO第二部第六章「妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ」のネタバレを含みます。予めご了承ください。
残すは二話。どうかお時間の許すかぎりお読みいただけますと幸いです。
"────さよなら。ブリテンの、大切な友人。"
"……さよなら。
自分によく似た、なんでもない女の子。"
そうして。
崩壊した妖精國。
役目を終えた "楽園の妖精" の願いを受けて、
"聖剣の騎士" として英霊となった私は、
この
ここから先は、彼らの旅路が続いていく。
その終末の
"こんにちは。楽園の妖精さん。"
ひとりの
第八節『TAMAYURA』/
「女神、アムール──────!」
自分───藤丸 立香たちは、現れた女神アムールに対して、警戒の眼差しを向けた。
だがしかし──────、
「真 夏 の カ レ ン ち ゃ ん です──っ!」
アムール───真夏のカレンちゃんはそう言って、何度も言わせないでください、と頬を膨らませていた。
「あれ……?」
なんというか。いつも通りの彼女だった。
「えっと、キミは僕らに鐘を鳴らさせないように
ネモ船長が訝しげに直接そう訊ねる。
「は───?鐘を鳴らせば、この特異点は修復されると指示したのは私ですよ?なぜ私がそのようなことをする必要があるのです」
カレンは逆に困惑した表情を浮かべる。
「なんだ。てっきりお前さん、BBのグロスター以来まったく顔を出さねぇもんだから、何か悪さをしているもんかと…」
村正が気まずそうに頬をかく。
「はぁ、心外ですね。あまりの歯に
「報復が最悪すぎねぇか!?」
どうやら。
この女神は相も変わらずの奔放な性格を貫いている。今までの経験から、つい訝しんでしまっていたが、こちらが深読みをしすぎただけだったようだ。
「……ですが、"鳴らしてほしくなかった" というのは、確かに事実ではあります。なぜならその行為は、この旅路の
「──────、」
「ティターニア。貴方にとってこの旅路は、楽しいものになりましたか?」
カレンは少しだけ不安げにそう訊ねた。
「ええ、とっても。わたしには勿体ないくらいの思い出をつくらせてもらいました。みんなには、感謝してもし切れないくらい」
「…ちょっと待った。この特異点を修復したら、俺たちは全員揃ってカルデアに帰還するんだよね?」
自分のその言葉を聞いて、ティターニアは少しだけ寂しそうな顔を浮かべて、
「いいえ。残念ですが、わたしは皆さんのところへは帰れません。元々 "そちら側にいる者ではない" んです」
「え──────?」
彼女はなにを言っているんだ。
だって今までずっと、この特異点を修復するために共に過ごしてきた仲間だというのに。/ ……いや、この特異点を修復するため "だけ" に、共に過ごしてきた。
「ティターニアさん、どういうことですか?ちゃんと説明してください!」
ガレスは意味が理解できずに、そう言い放つ。
「うん。そうだよね、ガレスちゃん。……カレンさん、お願いします」
ティターニアのその言葉を聞いて、カレンが指を鳴らす。
すると彼女の姿は、見たこともない白い
「その格好、は──────、」
忘れていた、大切な記憶が蘇る。
ここではない異聞の地。"楽園の妖精" と "巡礼の鐘" を巡る、妖精たちが紡いだ物語。そのはじまりからおわりまで。
***
"こんにちは。楽園の妖精さん。"
ひとりの
「
"愛の女神です。はじめまして。"
色んな妖精は見てきましたが、本物の女神を見るのは初めてでした。
"
「これは、お恥ずかしい。女神様にお見せできるほど、美しいお話ではなかったでしょう」
"いいえ。私は気にいりました。"
それならよかった。
"ですが。ひとつだけ不満が。"
はて。思い当たる
"
それは思ってもみなかった提案です。
ですが───、
「いいえ。その必要はありません。何故なら私は───
"───楽園の妖精に
「はい。ですから、
"───いいえ。綺麗事ですよ。それは。"
え──────?
"厳しく冷たい
なぜだろう。彼女は怒っていた。
"ですが本来、季節とは巡るもの。春を迎えたのなら、燃えるように暑い
「燃えるように暑い───、夏?」
"そうです。
女神様は真っ直ぐに私を見据える。
"夏も辛い記憶のひとつ?笑わせないでください。夏というのは、
女神らしい振る舞いが
"私は、
まだこの瞳に残っていた
彼女の言葉には、嘘偽りはなく。この女神は、そんな憤りと願い
「──────そう、ですか。」
最後の最後まで。
この世のどこにもない
そんな彼女へ。たとえ瞬きでも。
なにかしてあげられるのなら。
そんな
────
もう一度 旅を続けましょう。
***
「キミ、は──────、」
同じくネモ船長も、その記憶が再生されたようだ。
「おい、どうしたキャプテン、藤丸。てめぇら急に青ざめてやがんぞ…?」
「ネモ殿、マスター、どこか体調が…?」
村正とガレスは、なんともない様子だった。
それもそのはずだ。あの異聞帯にいた
「─────なるほど。そういう
キャスターの霊基であるクー・フーリンは、その真相に気づいたらしい。
「事情を知らないガレスちゃん達のために、ちゃんと説明するね。…わたしは "楽園の妖精"、アヴァロン・ル・フェ。藤丸くんたちとブリテンの妖精國───
「楽園の、妖精───?」
「わたしはカレンさんに協力してもらって、この特異点を創りました。…理由は本当に自分勝手なものです。ただ みんなと楽しい "夏の思い出" をつくりたかった。それだけ」
──────名前を。思い出せない。
「これは
ここではない異邦の地。
もう一つの彼女との思い出。
こんなに鮮明に思い出せるのに、どうして。
「
──────名前。その名前だけが。
どうしてこんなにも、口にできないのか。
「だから "役を羽織り" ました。はじめから "そうあってくれ" と願われ、その先はない。夢の中だけの少女。『ティターニア』という名前は、この世界のわたしにとって都合がよかったのです。だから、みんなはわたしのことを知らなくても、"そういうものだから" と思って、仲間として受け入れてくれました」
自分が許せない。
ただその名を口にするだけで、この少女の告白を止められるというのに、それができない自分が。
「おかげで、わたしは楽しい思い出をたくさんつくれました!…なのでこれは、悲しいことではないのです。はじめから、
そう言って、少女は "宣誓の杖" を取り出す。
「わたしたちが鳴らしてきた "純愛の鐘" は、楽園の妖精であるわたしがもつ性能を
少女が、その錫杖をカレンに差し出す。
「──────本当に。よろしいのですか。一度使ってしまえば、もう後戻りはできません。貴方は二度と、この常夏の楽園を訪れることはできないのですよ?…貴方さえ望めば、
それを聞いて、少女は目を丸くする。
「本当に優しい女神なんですね、あなたは。」
「ただ事実を伝えているまでです。"永遠に繰り返される楽しい今日" が、貴方は欲しくないのですか?」
少女は、淡く微笑む。
「──────ええ。だって、きっと。そんな日々を続けていたら、いつかは
「──────、」
その言葉に。カレンは息を飲んでいた。
「…わかりました。では、宣誓の杖をこちらに」
カレンの言葉に、少女が錫杖を手渡した。
その瞬間──────、
「「「ッ───────────────!」」」
「えっ─────────?」
カレンに攻撃を仕掛けようとしていた、"三人の常夏騎士" が、その
***
突然の出来事に、自分は頭の理解が追いつかなかった。
「───惜しかったですね。
「ぐっ、かはっ─────────!」
三人の常夏騎士が倒れる。
その腹部には、青黒い注射針のような、何者かの
「なにを、してるんだ──────、」
困惑のあまり、思考が定まらない。
「藤丸。下がってろ。アイツはもう "カレンじゃない"」
なんだって──────?
「ふふっ、うふふふ─────────!」
カレンの服が、黒い装束へと変質していく。
「カレン、さん──────?」
「ティターニアさん、危ない──────!」
ティターニアを押し退けてカレンの前に立ったガレスも、その両足を謎の青黒い牙で貫かれる。
「ぐっ、あ"あ"──────!」
「ガレス──────ッ!!」
彼女は両足を穿たれて、その場に膝をつく。
「誰だ…?キミは───、」
ネモ船長は今度こそ、明確な敵意をもった眼差しでカレンを見据えた。
「なにを言っているんですか?
カレンを名乗る何者かは、そう言って不敵に微笑んだ。
「ちげぇな。完全に切り替わりやがった。…これだけの "人間の血の匂い"、てめぇ今までどこに隠してやがった?」
「隠してなどいません。ただ表に出していなかっただけですよ。けれどもう、その必要もなくなった」
そう言って、女は手にした錫杖を撫でる。
「目的はこの特異点か?はじめから錫杖を狙っていたな。何のためにそんなことをしやがる」
クー・フーリンのその言葉を聞いて、女は目を丸くする。
「おや。まだ誰も気づいていらっしゃらないのですか?…この特異点が、
そう言って、女は邪悪な笑みを浮かべる。
「どこに創られたか………?」
そうだ。なぜ自分たちは今まで、ただの一度も思い至らなかったのだろうか。この特異点が、一体 "どこに存在しているのか" について。
「ではお教えしましょう。この特異点の
***
─────それは、なんてことのない。
いつも通りの "今日" からはじまりました。
「はぁ、暇ですね。世界のどこかで人類絶滅の危機とか、発生していないものでしょうか」
そう呟きながら、ノウム・カルデアの廊下を(ふわふわと浮いて)歩く私───カレンは、中央管制室を目指す。
「おや。こういう時にかぎって誰もいないのですね」
管制室の中は珍しく誰もおらず、今ならイタズラし放題───もとい点検し放題でした。
さすがにメインフレームの中へと入るわけにはいきませんので、ささっとパソコンを拝借。
「
カルデア内のデータベースを開く。
そこには数多の特異点や事象、異聞帯の記録がデータとして保存されていました。
「妖精國…?直近の記録のようですね。そういえば、まだ詳しくは聞いていませんでした。
キッカケは、そんな些細なことです。
私は普段通りのテンションで管制室に忍び込んで、なんてことのないような心持ちで、その物語を閲覧しました。
「なんですか。これ」
はじまりからおわりまで。
あまりにも興味深いお話に、私は余すところなく読み切りました。自分でも気がついていなかっただけで、三周は読んでいたでしょう。
ですが──────、
「納得、できません。」
決して。この物語の続きが読みたかったのではありません。
ただひたすらに、この結末に見合う報酬が欠如していると感じたのです。使命感に駆られたのです。
「
盛大に。建付けを悪くさせそうな勢いで、彼女の部屋の扉を(自動ですが)物理的に開く。
「うひゃあ!?な、何事ですか──────!?」
彼女───BBはどこで手に入れたのか、高級そうなロールケーキをお皿の上に乗せて、今まさに食べようとしていたタイミングでした。
「貴方に協力してほしいことがあるのです。BB」
カルデアに保存されている霊基グラフを見たかぎり、私のしたいことを叶えることができる現実的な人材は、彼女だけだと判断しました。
「貴方はアムール───いえ、カレンさんでしたか。いきなり協力してほしいとは、一体なんのつもりですか?」
彼女は露骨に、関わりたくないという表情を浮かべていました。
「第六の異聞帯───妖精國の記録についてはご存知ですか」
「え?─────はい。既に知っています」
彼女の表情は、その言葉でなにかを察したのか、真剣な眼差しに変わってくれました。
「私はあの結末に。あの國の終末を看取った彼女に、報酬を与えてあげたいのです」
────そうして。
私は自分のプランを彼女へと伝えました。
「……なるほど。結論から言いますと、"不可能ではない" です」
彼女は熟考の末にそう答えてくれました。
「ですが、それは私の協力が必要不可欠なのは当然として、その
彼女は、ただ事実としての情報を包み隠さず話してくれました。
「───はい。それでも構いません。それだけの無茶をする価値があると、私は考えます」
それを聞いて、彼女は苦笑しました。
「それともう一つ。正直、私にはそんなことに協力するメリットがありません。…貴方は私を納得させる理由を用意できますか?」
彼女は、少し意地悪な表情を浮かべてそう言いました。
はじめは私と似ている
「ええ。それなら当然あります。だって、貴方も "夏を楽しめますから"。どうぞ、お好きな夏を叶えてください」
私は自信満々にそう答えました。
それを聞いた彼女は目を丸くした後、
「はぁ、わかりました。…それでは、環境を整えやすいよう私も自身を
そう答えてくれました。ほら、お人好しです。
パチン、と指を鳴らしてBBの姿は夏の霊基へと一瞬にして切り替わりました。
「…では。これより私の "ムーンキャンサー" としての霊基を貴方に一部
私はその言葉に無言で頷きました。
「私は "ムーンセルの使者" ですので、限定的ではありますが、その月の眼の
世界には "観測宇宙" と "記録宇宙" の二種類が存在するそうです。
観測宇宙とは、今私たちが見ている世界のことです。過去が現在によって更新され、現在はいずれ来る未来を予測し続けなければならない。それ故に、過去・現在・未来の三者を、同時に知覚することができません。
一方で記録宇宙とは、過去・現在・未来を同時に知覚することができる、高次元の視点。この三次元の世界をひとつの巻物と捉え、その世界にいる自分を閲覧するように
彼女が話したムーンセルの中枢というのは、この記録宇宙の視点で世界に接触できる、いわゆる
「ムーンセル中枢を介した、過去への接触。その行為をもって貴方の望む "妖精國の時間軸" に飛んでもらいます。限定使用ですので、可能な回数は最低限の
「ええ。彼女たちを説得できるか否かは、私の手腕にかかっている、ということですね?」
「はい。そこから先のプランは、私の
「わかりました。……ちなみに信頼していないわけではありませんが、成功率は何パーセントくらいなのでしょうか」
ふと気になったので、私は口にしました。
「そこはご心配なく。消えゆく間際の存在を釣り上げるのは、実は
それを聞いて安心した私は、了承の意を込めた眼差しを向ける。
「では、"月の海を渡り、星の楽園に至る" …
彼女の言葉とともに、私はその身を "月の癌" へと変換させ、虚数の海を渡る旅路に向かう。
目指すは終末の妖精國。
星を目指した
***
「では。貴方の
私との接触の末に、彼女はその夢の続きを受け入れてくれました。
ここから先は、本格的に私が主体となって準備をしなければならない。
「これより、貴方の "楽園の妖精" としての力を六つに分断させ、この
彼女の身体から、六つの光の玉が出現する。
「
彼女は無言で頷いてくれました。
「無論、この特異点を終わらせるためのストッパーとなる機能も用意します。それに関しては、貴方がその地に召喚された際に、改めてお話するとしましょう。…貴方がその夢を終わらせたいと思った時に、その機能を使ってください」
"この夢に、わたしの知り合いはいますか…?"
「………いいえ。夢の主人である貴方を知る存在はかぎりなくゼロにしておかなければ、この揺らぎが
彼女は残念そうに目を伏せる。
「──────ですが。できるかぎり、貴方にとって関わりのある者たちは呼んでみせましょう。約束します」
"そのお心遣いだけでも、嬉しいです。"
「それでは、"
そうして、つかの間の邂逅は終わりを告げる。
彼女は瞼を閉じ、私はこの楽園を開いた。
***
そこから先の私は、もう大忙し。
楔となった島々を飛び回り、もう一人の協力者の力で、夢の住人たちを用意しました。現実には存在し得ない人々です。
次に私が準備したのは、彼女をもてなしてくれる
それぞれの島に
まずはじめに呼んだのは、ギリシャの女神。
アムールでもありエロースでもある私の遠縁を利用して呼んだつもりだったのですが、サーヴァント召喚の経験がない私では、少々 雑な呼び出し方になってしまいました。ミス・BBから教わった召喚方法は、私には向いていなかったみたいです。
「それでは、頑張ってください!(説明なし)」
次に呼んだのは、他ならぬ協力者であるBB。
本当は一番はじめに召喚しておくべきでしたが、失敗した際の不始末を考慮して、内側に招き入れるのは危険と判断し、二番手にしたのです。
「貴方にも説明はいりませんね。……って、なんですかその霊脈の使い方は。BBランド、ですって!?」
三人目に召喚したのは、インドの
ノリノリで "冒険をさせたい" という私の目的に応じてくれました。なんてイジメっ子気質でものわかりの良いドラゴンなのでしょう。推せます。私のお気に入りのスピルバーグな映画を薦めたい。
「こちらのビデオをどうぞ。私のオススメです。…あぁ、テレビの電力ならこの島の霊脈をちょちょいと拝借して、ほら、つきました。感想を待ってます」
四人目に召喚したのは、オランダの天才画家。
彼女の美術展を訪れたことがなかったので、本物を見たいと思ったのです。きっと素晴らしい景色を描いてくれるでしょう。楽しみです。
「───────────────、」
五人目に召喚したのは、ケルト神話の女王。
彼女は妖精國の関係者に関わりのある人物です。ですので、その記録を一部ですがお伝えしました。それと私は、彼女の情欲的な思考を高く買っています。是非とも、この島では一波乱起こしてほしい。夏の魔物はキミに決めた。
「それには従えない?そうですか。では────────────────────、」
最後に召喚したのは、アッシリアの支配者。
彼女には、締めの祭りを盛り上げてもらいましょう。持ち前の女帝としてのカリスマ性は、妖精國の女王モルガンにも並ぶ……─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────、はて。私はなにを話したのでしょうか。
そうして。六人の女王は召喚されました。
六つの夏を
あとは。
この特異点の観測者となる人物を呼ばなければ。
"藤丸 立香"。
彼が居ることではじめて、この特異点は
ですが旅を進めやすくするために。
そしてなにより
残りの力を使って、旅路の仲間を呼びましょう。
もとよりこの特異点には、妖精國と何かしらの縁をもつ存在しか呼ぶことはできません。楽園の妖精の力を駆使して無理やり召喚した女王たちは別ですが、はじめから旅のお供に関しては、そう決まっていたことなのです。
呼び出すサーヴァントは
一人目には、最初の従者となってもらわないと。
「え?なんですかその剣は。従者であれば相応の剣を持っておくべきだ、ですか?護衛は重役だからプレゼント?…思っていたよりも気前がいいのですね、貴方は」
二人目には、約束を果たしてもらわないと。
「え?人手が足りないから一人ほしい?…構いませんが、本当によろしいのですか?その男はこの中で一番扱いづらいですよ」
三人目には、彼女が無茶をしないよう目を張ってもらわないと。
「………余計なことをされたら、困りますから」
そうして。
すべての条件が整いました。
こうして多くの助力と例外。
そして私のお節介と彼女の小さな我儘で。
『楽園常夏領域 アヴァロン・アエスタス』
やがて本物の
妖精國にまだ残っていた
その常夏の領域は創り出されたのでした。
***
「楽園、常夏領域………?」
自分───藤丸 立香たちは、この特異点の真相を知った。
「そうです。この楽園は、妖精國の星の内海に生まれた、あらゆる例外の上に成り立つ "変異特異点" です」
女の言葉に、思わず絶句する。
今まで一度も、そのような場所に特異点が生まれたことなどなかったからだ。
「時間の概念から切り離されてやがったのも、そもそもこの土地が "星の表層" じゃなかったからか」
村正が女を睨みながらそう言った。
「その通りです。本来はこのような事態は起こり得ません。…しかし楽園の妖精である彼女と、異聞帯というイレギュラーな事象が重なった結果、このような楽園の影を利用した特異点を生み出すことができました」
特殊な経緯により誕生したあの妖精國で発生した事象は、領域外に波及してしまえばそれが汎人類史においても
そうした、あの世界がもつ現実への影響を、自分たちはもう知っている。それ故に、この特異点の存在がなにを意味しているのかがわかってしまった。
「……この特異点が、そのまま "僕らの世界" の星の内海へと取り込まれてしまったら、どうなる?」
ネモ船長は額に汗を滴らせる。
「ふふっ、さして大きな影響は起きませんよ。星の内海はもとより表の世界とは隔絶した場所ですから。………ですがそれは、この楽園が
「っ─────────!?」
突然、あたりの空が暗闇に包まれる。
女は困惑する自分たちを見て。ニヤニヤと笑っていた。
「テメェ、肝心なことを話してねぇな。今さっき語ったのはアムール神───カレン・オルテンシアの
クー・フーリンが強く女を睨みつける。
「……ええ。その通りです。
女は、その青黒い
「
女はそう言ってニンマリと笑った。
「ふざけてんのか、てめぇ!いい加減に正体を晒しやがれ!」
怒号とともに、村正が抜き身の刀を握る。
「ふざけてなどいませんよ。正真正銘、
女は思い出した、とポンと手を叩く。
「我が
女の姿をした邪神───カレン・マイノグーラは、そう言ってこの世のものとは思えぬほどの邪悪な気配を放った。
***
"では、月の海を渡り、星の楽園に至る …前代未聞の星間旅行ですが、貴方の幸運を祈っています"
彼女の言葉とともに、私───カレン・オルテンシアはその身を "月の癌" へと変換させ、虚数の海を渡る旅路に向かう。
その刹那──────、
私は見てしまったのです。
直感的に、まずい。と思いました。
このカレン・オルテンシアという少女の身体は、"被虐
故に恐れました。BBが秘めるもうひとつの目、そしてその目を通して見えた、私の知らない
ですが、なんてことはなかった。私は霊障を発症させることもなく、私は
私は、まさか自分自身が
世界を自由にできる権能をその手中に収めながら、何も行動を起こさない
「へぇ。放っておけば、世界は勝手に
なんというイージーモード。
──────ですが。
そう上手くはいかないみたいでした。
"えっと、あの、貴方は
"ええ、はい!それは承知しています…エヘへ、でもなんていうか、"それだけじゃない"気配がして……"
"そう、なんですか……?どちらかといえば、もっと禍々しい……
その少女は、
イージーモード?笑わせます。
そんな甘い世界なら、今こうして失敗した同胞の
だから。
なんとしても。この世界を
そのために、ね。
***
「カレン・マイノグーラ──────!」
自分───藤丸 立香は、そうして本性を晒した外宇宙の神性の名を口にする。
目の前のカレンは、既にカレン本人でも、愛の女神アムールでもなく、全くの別物なのだと、はっきりと知覚した。
「はい。
そう言って、邪神は漆黒に染まった空を見上げる。
「にしても。正直驚いているんですよ?まさか本当に、この特異点の鐘をすべて鳴らしてしまうなんて」
「ゴッホに正体を看破されてから、キミはずっと裏で "鐘を鳴らさせないため" に暗躍していたんだろう。僕らが全ての鐘を鳴らすことに成功したのが、そんなに予想外だったかい?」
ネモ船長が憎らしげにそう訊ねる。
「────────ふふっ、あは、あはは、あはははははははははははははははははっ!!!!」
ネモ船長の言葉を聞いて、なぜか邪神は唐突に笑い出した。
「鐘を鳴らさせないため?ふふっ、あはは、愚かですね、貴方たちは」
邪神は心底おかしいと、お腹を抱えていた。
「……何がおかしい。てめぇはこの特異点が消されないようにするために、
村正の言う通りだ。
彼女はゴッホに正体を看破され、静観では計画通りに進まないと判断し、メイヴに強引に常夏領域を敷かせたり、余分な "宣誓の杖" の情報をセミラミスに提供したりしていた。
それは自分たちに鐘を鳴らさせずに、この特異点を残し続けるためではないのか───?
「残念ですが、
「なん、だって──────?」
「だってそうでしょう?…鐘を鳴らさなければ、この特異点 全土は本当の意味で
「じゃあなんでテメェは、メイヴやセミラミスにあんなことをした!鐘を鳴らしたかったのなら、そんな必要はなかっただろうが!」
クー・フーリンが声を荒らげる。
「馬鹿ですか、貴方は。…
邪神は、愉快げに笑う。
「そしたら貴方たちはどうなりますか?……"
まんまと。自分たちはこの邪神に利用されたというのか。
「キミは、本当に邪神なのか───?」
あまりの人間への理解度。そして
「ええ。だってこの
そう言って、邪神は不敵に微笑む。
「では。もうお喋りの時間は終わりです。ここまでお疲れ様でした。貴方たちの奮闘で、無事にこの特異点の問題は解決し、"世界は内側から" 支配されます。外から道を繋ぐなど、ばかばかしい。…最初から、内側につながる者を利用してしまえば、ほらこの通り。あっさりと世界は
そうして邪神は錫杖を掲げる。
「"暗く甘く、
「っ─────────!!」
止めようと走るも、既に遅い。
「では。さようなら、皆さん。
─────────"『
あたりの島が。海が。風が。
青黒い闇へと包まれていく。
自分たちは為す術もなく、
夢の楽園は、悪魔の手によって、呑み込まれる。
「ティターニア──────!」
この状況が受け止められずに硬直していた彼女へと、駆け寄って手を伸ばす。
しかし。伸ばしたその手も、既に闇に包まれ、もはやなにを伸ばしていたのか、誰の名を呼んでいたのか。そんなことすら曖昧に溶け合って、世界は暗闇に閉じていく──────。
/『TAMAYURA』-了-
ここまでお読みくださいまして、誠にありがとうございました。今回はクライマックスの種明かしターンですので、いつものように長くはないよ!え?1万文字こえてる?ごめんなさい!
というわけで、ここからはいつも通り、この真相の補足説明を最終節のネタバレを含まない範囲でお話していこうと思います。興味がございましたら、お読みいただけると幸いです。
ついに明かされたこの特異点の真相、「楽園常夏領域 アヴァロン・アエスタス」。この変異特異点は、妖精國における星の内海───楽園の影の上に創られた場所でした。
物語中に書かれていた内容がすべてですが、この特異点の島々は、楽園の妖精である彼女がもつ性能を六つに分断し、楔としてテクスチャを上書きしていたのです。この特異点そのものが、彼女とカレンの二人がかりで生み出された
常夏騎士の三人が自らの名を偽って、この特異点にやって来ていたのは、この地が「罪なき者のみ通れる場所」だからです。妖精國 出身の妖精であり厄災へと変生した彼女たちは、名を明かすだけでこの特異点から弾かれてしまいます。そのため、あのような裏技で介入していたわけです。
彼女たちが呼ばれたのは、ティターニアたちがノリッジの鐘を鳴らした際に、この特異点生成の関係者である
ちなみに「アエスタス」とは、ラテン語で夏を意味します。なぜラテン語なのかと言いますと、ほら、アムールはローマの女神ですから。
また物語でも語られましたが、カレンがこのような計画をしたのは、他ならぬ楽園の妖精である彼女へ頑張った
カレンは自身の経験から、終わりを目指すのは "その先に残るなにか" のためだと考えています。しかし妖精國の終わりには、その先に残るものは何もなかった。藤丸たち汎人類史の旅路は確かに続いていきますが、それは彼らの続きであって、"妖精國の続き" ではありません。
カレンはそれに納得ができず、せめて最後までこの國を看取った一人の少女に、夢を見せてやりたいと考えたのです。しかし、その夢は、その過程で触れてしまった "一柱の邪神" の手で歪んでいきます。
・星5 ムーンキャンサー イヴィルゴッド・カレン
本来の彼女の第三再臨の霊基、ゴッド・カレンと似て非なる神の姿。クトゥルフ神話にて語られる、架空の女神であり影の女悪魔 "マイノグーラ" が取り憑いた姿です。
彼女がカレンに取り憑いてしまった原因は、BBが記録宇宙を閲覧するための権能をカレンに与えるべく、ムーンキャンサーの霊基を適応させた際、夏の霊基であるBBの内に潜む別の邪神───ニャルラトホテプが宿っていたことが理由です。
悪魔マイノグーラは、ニャルラトホテプの従姉妹にあたる神性であるため、その縁とカレンがもつ被虐霊媒体質の性質が、彼女を知覚してしまい、結果 本体を引き寄せてしまいました。
カレンが霊障を発症しなかったのは、カレン本人に取り憑いていたから…というわけではなく、"何事も無かった" と思い込むことが、マイノグーラという悪魔の霊障だったのです。
彼女は多くの人間を趣向品として食べる恐ろしい邪神ですが、その霊障の性質ゆえに、この世界において彼女を危険視する書物はほぼ残されていません。唯一記録が残されているのは「オキマーの啓示書」と呼ばれるものだけです。この性質ゆえに、彼女は封印されることもなく野放しにされています。
支配的な欲求があるわけでもなく、あくまで人間を食べるのは趣味。使命感ではなく、"美味しいからいつでも食べれるよう人間を支配下においておくか" と考えて今回の行動をしています。…一番ヤベェやつ。
また、今回の話では誰よりも早く常夏騎士の三人がカレンの正体に気づいて攻撃を仕掛けようとしました。これは自分たちと同じく、目の前の女神も偽装をしていると肌で感じ取ったからです。これは完全にこの領域の部外者である彼女たちだから知覚できたことで、普通は気づくことができません。
"楽園の妖精" の妖精眼でも見抜けなかったのは、あの時 話していた相手は本当にカレン本人であり、何一つウソはついていなかったからです。また、領域内部にいたため、知恵の神の力を継いでいるクー・フーリンでも同じく看破はできませんでした。ただなんとなく "様子がおかしいぞ" と薄ら感じる程度。
ゴッホがマイノグーラに気づくことができたのは、彼女自体が同じく外宇宙の神の力をもっているから、というのももちろんありますが、アイランド・クイーンには一定の "
この性質のおかげで、ヴリトラはランスロットが本物ではないことを察していましたし、メイヴは「コイツ(カレン)の言うこと聞いたら嫌な予感がする!」とカレンの要望を拒否しました。エウリュアレがカルデアで面識があるはずのガウェインを見て「だれ?」と言っていたのも、別人だと直感したからです。
また、セミラミスがすぐにトリスタンとティターニアの正体が別人であると把握できたのも、妖精國の話を聞いていたからというのもありますが、こっちの性質のおかげでもあります。
ちなみにゴッホが気づいていなかった場合、マイノグーラは最後の鐘が鳴らされ、錫杖を回収する瞬間まで尻尾を出すつもりはなかったので、完全に詰んでました。ゴッホのファインプレーです。
また、BBが話していた、「消えゆく間際の存在を釣り上げる行為は、経験済み」という発言ですが、これに関しては是非ともFate/EXTRA CCCをプレイしていただければ、なにを指しているのかがわかるかと思います。よろしかったら是非とも!
他にも、ティターニアが第一節の冒頭でカレンの説明を聞いた際、飲み込みの早い反応をしていたのは、ある程度の事情を知っていたからです。
カレンから、やめたい時のためのストッパーだと言われていた純愛の鐘と宣誓の杖を、なぜ彼女は最初から鳴らす道を選んだのか。
その理由は、最終節にて、明かされます。
さて。こうした由来もあり、かなり情報量が過密してしまいましたが、振り返って読み返してみると、あれ?この時の反応ってもしかして?となる場所が多々 見つかるかと思います。お時間がございましたら、是非もう一度読み返してみてもらえると作者は大変喜びます。
改めまして、ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございました!残すところ、あと一節。どうか最後までこの物語をお読みいただけると幸いです。次回の最終更新をお待ちください!