艦これ ~もう一つの戦争~   作:spring snow

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二〇話程度で終わらせる予定です。


第一話 梟

 また一機が梟の描かれた零戦に落とされた。

 

「相変わらず良い腕してんな」

 

 無線から聞こえてきたのは少し高めの声だ。

 

「次の敵の方位を」

 

 無線で返した声は何の感情も感じさせない低い声。戦闘機乗りの妖精の中ではかなりのベテランであり、ペイントの特徴から「梟」と呼ばれた。

 

「無愛想なのも相変わらずで。方位二三〇、高度三千」

 

「方位二三〇、高度三千了解」

 

 操縦桿を横に倒し、引いた。機体は横に倒れ、針路を大きく変化させていく。

 機首が目標を向いたとき、前方に小さな黒点が大量に現れた。

 

「来たな」

 

 梟は燃料スロットルを押し込み、回転数を急上昇させていく。

 見る見るうちに黒点が大きくなっていき、やがてそれらが形を為していく。

 ざっと見積もって五〇機。戦闘機と爆撃機の混成部隊だ。先ほどの攻撃隊より数が多い。

 味方は三〇機。単純な機数では味方の方が少ないが、戦闘機の数で言えば、味方が圧倒している。

味方の戦闘機が二手に分かれた。一つは上昇していく機体。もう一つはそのまま直進していく機体。前者は敵爆撃機を狙い、後者は敵戦闘機に狙いを付けている。

 敵はなおも直進してくる。特徴的な丸い機体は黒々としており、陽光を浴びた一部が鈍く光っている。

 

「来るぞ」

 

 言うが否や互いの機銃弾が交差した。その初戦で敵味方の数機が墜ちていく。それらを気遣っている余裕はない。瞬く間に巴戦が始まる。お互いの後ろを取ろうと右へ左へ、または上へ下へと機体を操る。

 梟が狙いを付けたのは先頭にいた戦闘機。動きからしておそらくは実戦経験豊富な機体だ。

 まず、機体を横転させ上昇し始める。敵機は梟を追うように上昇に転じていく。上昇力は僅かに敵機の方が速く、距離が縮まっていく。

 間もなく射程圏内に入ろうかという瞬間に梟は操縦桿を強く引きつけ、燃料スロットルを絞り込んだ。上昇を続けていた機体は瞬く間に速力を落としながら旋回機動に入った。旋回半径はかなり狭い。敵機を視界内に捕らえる。

だが、そう簡単に敵機も後ろは取らせない。

梟が旋回に入った段階で機体の速力を落としながら機首を下げ、降下に移る。

梟は手前に引いていた操縦桿を横に倒し、再び手前に引く。旋回機動から降下機動へと素早く零戦は切り替わっていく。

速力は瞬く間に増していき、敵機に追いすがっていく。

 梟は機銃の標準器をのぞき込んだ。その瞬間、敵機の姿が膨れあがり、消えた。

 

「ちっ!」

 

 梟は素早く操縦桿を引いて降下を取りやめた。直後、尾翼付近を機銃弾がかすめた。敵機は梟をぎりぎりまで引きつけ、素早いロール機動で梟を躱し後ろを取ったのだ。

 これほどの腕を持つ機が敵にもいたとは、と梟は内心舌を巻いた。

 敵機は梟に追い打ちを掛けるべく、旋回起動に入る。

 だが、梟はここで罠を仕掛けていた。続けていた旋回機動にロール機動を加える。すると機体は失速し、急激に機首の向きが変わっていく。

 操縦桿から手を放し、機銃の引き金に手をかける。瞬く間に敵機が標準器で膨れあがっていく。

 梟は引き金を引いた。両翼から子気味の良い連射音が響き、二〇ミリ機銃弾が敵機に吸い込まれていった。一撃でも与えれば致命傷を与える機銃弾を何発も食らった敵機は瞬く間に粉々に撃ち砕かれ墜ちていった。

 墜ちていく機体から目を離し、次の獲物を探し出す。

 近くに味方機を狙う敵機の姿が見えた。味方機はエンジン部分に被弾したのか、速力が落ちている。

 敵機の背後に回り込み標準器をのぞき込んだ。しかし、敵機も梟の存在に気付き、機体を旋回させ、射線から逃れる。

 逃がしはせぬ。

 操縦桿を引き倒し、旋回機動に入る。

 敵機はそのまま急降下へと移り、逃れようとしていく。

 梟もそれを追って急降下に入った。しかし、敵機の動きに違和感を抱く。妙に速力が遅い。

 それに気づいた直後、背中に寒気を感じた。ほぼ反射的に操縦桿を横に倒し、右に機体を傾け、旋回する。

 その瞬間、今まで機体がいたであろう地点に機銃弾が通り過ぎていった。

 敵機は味方と連携して、梟を追い詰めていたのだ。

 

「ちっ!」

 

 敵機が二機に増えた。

 

「付いてこい」

 

 梟は機体を急降下させ、逃げるような機動に入る。

 敵機はそれを逃げたと思ったのか追いすがってくる。機速がかなり速い。瞬く間に距離が詰まっていく。

 梟は操縦桿を斜めに押し込み、エンジンスロットルを絞った。

 機体は急減速と同時にループ機動を行った。バレルロールと言われる機動だ。

 敵機は減速が間に合わず、梟の正面に飛び出してしまう。

 梟は標準器を覗く間もなく両脇に置かれた引き金を引いた。二〇ミリ機銃弾が敵機目掛けて殺到。右翼を爆砕した。バランスを崩した敵機はきりもみ回転を起こし、墜ちていった。

 梟はもう一機を捜索しようと視界を周囲に向けた。既にそのときには空戦が終結へと近づいており、敵味方の姿はまばらとなっていた。

 不意に無線機から声が聞こえた。

 

「管制機より各機。敵航空隊は撤退せり。防空部隊は損傷機から順に着陸せよ。繰り返す……」

 

 空戦は終結した。

 

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