艦これ ~もう一つの戦争~   作:spring snow

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第九話 キスカ戦②

「それで、この悪天候の中、戦闘機を飛ばすとはな……」

 

 梟はぼやいた。

 夕立たちが会敵したことで、当初、予定されていた攻撃時期を大幅に繰り上げられたのだ。それに合わせて護衛機四〇機も出撃命令が下った。梟はそのうちの一機だ。

 今回の任務は今までのような艦隊の防空ではなく、攻撃隊の護衛だ。勝手の違う戦いを強いられる上、天候は最悪だった。第六六艦隊の航空隊は海軍に比べて練度は高い。それでも発艦に手間取るほどの悪天候だった。報酬がなければ、間違いなく断っていた。

 降りしきる雪の中を攻撃隊は整然と隊列を組んでいる。攻撃隊の数は二〇機ほどであり、そこまで多くはない。

 

 夕立たちが会敵したことで深海棲艦が周辺を遊弋している可能性があることが判明した。そこで周囲に偵察機を派遣したところ、戦艦を含む有力な敵艦隊が発見されたのだ。今回の攻撃部隊はこの艦隊を目標としている。

 

「高速接近中の敵影を捉えた。おそらく番犬だ。方位〇一〇、距離六〇マイル、高度三〇〇〇。会敵予想時刻まで一〇分」

 

 蝙蝠の声が無線機から響いた。上空で電子の目を光らせている彼が接近中の敵戦闘機を捉えたのだ。

 

「各機は高度を五〇〇〇とせよ」

 

 蝙蝠からの指示に梟たちは高度を上昇させる。曇り空の中へと突っ込んでいく。正直、雲の中は好きではない。何せ視界が効かないうえ、雲の中では気流が安定しない。運に左右される個所が多分にあるのだ。

 高度計を頼りに上昇を続ける。機体は少し揺れているが、まだ激しい気流の乱れにはあっていない。

 徐々に日の光が見えてくる。もう間もなくだ。

 

 そして視界が開けた。

 

「なぜだ!なぜ敵がいる!」

 

 誰かが叫んでいるのが聞こえた。

 蝙蝠からの指示通り、高度は五〇〇〇。敵機はいないはず。しかし、そこにはいるはずのない敵機がいた。機数は一〇。それほど多くはない。

 

「蝙蝠。敵機がいる。電探はどうなっている?」

 

 梟は蝙蝠に呼び掛けた。

 

「現在、状況を確認中である。電探に反応する敵影は無し」

 

「了解」

 

「蝙蝠より各機。理由は不明であるが、敵機は電探に反応しない新鋭機と考えられる。敵機は戦闘機隊に任せ、攻撃隊は敵艦隊の撃滅に努めよ」

 

 蝙蝠の言葉にすぐさま、傭兵たちは反応する。

 

「荒鷲、了解」

 

「鷹、了解。報酬は倍で確定だな」

 

「トンビ、了解」

 

 戦闘機隊はぐんぐん速力を上げていき、敵戦闘機めがけてとびかかる。敵機も待ってましたと言わんばかりに正面から機銃を撃ちまくりながら突っ込んでいった。

 梟は中央付近の敵機に狙いを定めた。機体は片翼が真っ赤に染められており、見るからに敵部隊の中でも精鋭と思われた。

 敵機は機銃を撃つことなく、機体を横に滑らした。

 撃つときは敵を仕留めるときのみ。そう言っているように感じた。

 敵機に追いすがるべく、機体を横に倒し、素早く旋回を始める。しかし、敵機は簡単には後ろは取らせない。すぐさま高度を落とし始めた。

 

「まずい……」

 

 高度を下げた先には味方の攻撃隊がいる。射線に入るため、梟は撃てないが、彼は撃つことができる。

 エンジンスロットルを押し込み、機体を加速させる。機体全体に振動が走り、軋み音が響き始める。梟の零戦は五二型。初期型よりは装甲を増しているとは言えど、急降下が苦手であることに変わりはない。速度計は七〇〇キロを指している。

七四〇キロまでは耐えることができるが、そこから先は危険だ。

敵機のダイブ速度は想像以上に速い。ぐんぐん距離を離されている。

 

敵機の両翼が煌めいた。

 

直後、攻撃機の一機が白煙を上げて高度を落とし始める。白煙は瞬く間に炎に変わり、機体全体を包み込んだ。

搭乗員の脱出は確認できない。生存は絶望的だろう。

 

味方の仇を討つべく敵機を見つめる。そのままダイブをしながら、機体を捻り、上昇を開始しようとしていた。上から被せるように機体を敵機めがけて突っ込ませる。両翼から重い射撃音が響いた。

しかし、梟も気を焦って射撃を行ったためか、敵機に命中弾は無く、取り逃がす。梟が追いすがってくることに気付いた敵機が上昇から水平旋回へと切り替えた。

 

素早い。

 

梟はすぐに敵機の動きに気付いた。従来の深海棲艦の機体に比べ、格段に旋回性能が高い。今までの敵戦闘機であれば高速度における旋回能力は零戦よりも高くはあったが、どうにか対処のしようがあった。

しかし、この機体は低速度域でも素早く動ける。今までの敵より格段にやりづらいと言える。

すぐさま敵機を追うように水平旋回を行う。一周、二周とするうちに距離が詰まっていく。

 

そろそろか。

 

そう思った直後、敵機が視界から消えた。梟はとっさの判断で水平旋回を止め、機体を横に滑らせる。直後、自分がいた位置に敵の記銃弾が降り注ぐ。速度を一気に落とし、ロールをかけて梟の後ろに食らいついたのだ。

今度は梟が終われる立場となった。

 

旋回性能はほぼ互角。ダイブ性能、速度は相手のほうが上。果たしてどうする……。

 

梟は冷静に考える。時間はない。機体をそのまま緩やかに降下させて速度を稼いでいく。同時に燃料スロットルを全開にして、機体を加速させた。身軽なゼロ戦はそれなりに加速性能が高い。わずかながら敵機を引き離す。それを見て敵機はスロットルを増やしたのだろう。最初こそ距離を取られたが、徐々に速度差を詰め始めた。

梟は相手に感づかれないようにスロットルを絞り始めた。

徐々に敵機との距離が詰まる。

 

いまだ。

 

梟はスロットルを一気に絞ると同時に機体をロールさせた。失速するぎりぎりの速度。梟の機体は思い通り急減速をしながら機体が回転する。逆に勢いのついた敵機はそのまま梟の正面へと抜け出した。

背後を取られたことに気付いた敵機だが、もう遅い。梟は標準器を敵機に定め、機銃桿を引き絞った。敵機の尾翼に二〇ミリ機銃弾が命中。尾翼を吹き飛ばして錐もみ状態になりながら落ちていった。

梟は周囲を見回すと空戦は大方決着が付いていた。とは言っても空を舞っている味方戦闘機の数は半分近くの二〇機ほどにうち減らされている。

 

だいぶ、やられたな。

 

梟は呟いた。見れば味方の攻撃隊もちらほら引き上げてきているのが見える。

 

「蝙蝠より各機。作戦は終了した。全機帰投せよ」

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