艦これ ~もう一つの戦争~   作:spring snow

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第二話 ガルム

 梟は元々傭兵妖精として戦争に参加している。

艦娘の乗組員として働く妖精達には大きく分けて正規の軍人としての妖精と、傭兵としての妖精の二種類が存在する。

後者は深海棲艦との戦争の激化に伴い、妖精の需要が急激に増えたことに起因している。傭兵も軍人と同じ待遇を受けられるはずだが、実情は違う。守るべき国を持たない傭兵妖精は死の商人と正規の妖精や艦娘からも白い目で見られる存在だ。

そんなことから対立が起きることも多々あったため、傭兵専門の部隊が作られた。それが「第六六艦隊」である。

配属されたのは梟を始めとした傭兵の妖精、だけではない。海軍で問題を起こした、もしくは厄介者として扱われていた妖精、艦娘達が集められた言わば寄せ集めの部隊だ。

 狂犬のような問題児ばかりの集団。彼らに名付けられたあだ名は「ガルム」だった。

 

 

 

「お疲れ」

 

 着艦を終えた梟に声を掛けてきたのは方位を教えてくれた妖精「蝙蝠」だった。彼は正規の軍人妖精であったがその軽率な行動から懲罰を受けることが非常に多く、左遷に近い形でこの部署に配属されたのだ。

 

「おう。お前もお疲れ」

 

 梟は操縦席から降りながら言った。

 

「今回も相当な暴れっぷりだったな。梟じゃなくて荒鷲にしたらどうだ?」

 

「やだね」

 

「全く。どうしてそこまで梟に拘るんだか……」

 

 蝙蝠は半ば呆れながら言う。梟のコールサインの変更は今まで何度かあった。しかし、彼はそれらを全て断って今のコールサインを続けている。

 

「それより、今回の作戦はどうだったんだ?」

 

「成功らしいぜ」

 

 梟たちの参加している「ア号作戦」は人類による深海棲艦への一大反攻作戦として企図されたものだ。大まかな作戦内容としては囮部隊が深海棲艦本隊を引きずり出し、その間に深海棲艦の基地を破壊する作戦だ。

 その囮部隊の役目が彼ら第六六艦隊というわけである。

 

「目標は?」

 

「壊滅させることに成功したらしい」

 

「まあ、当然か」

 

 梟は冷たく言った。

 

「お前の気持ちは分かるが、そう感情的になるな」

 

 蝙蝠は半ば諦めたように呟く。

 梟の態度には正規軍への不満があった。

第六六艦隊は小型空母一隻とそれらの護衛の旧式の駆逐艦や巡洋艦が数隻と非常に小規模の艦隊である。それに対し、基地破壊を担う部隊は戦艦や正規空母など一線級の艦娘が何隻も配備されている。基地破壊を目的とするならば、そこまで大戦力はいらないはず。それだけの戦力の余裕があるならば、一部を囮部隊の第六六艦隊に預け、囮の生存率を上げるのが定石だ。

それを行わなかった正規軍への疑念が態度となって表われていた。

 

「姉御は?」

 

 梟は蝙蝠に尋ねた。

 

「ん」

 

 蝙蝠が指さした先は艦尾の整備員が待機している場所だ。

 梟は『姉御』と呼んだ艦娘の元へ足を向けた。

 

 そこで着艦作業をせわしなく整備員に混じって一人の艦娘の姿があった。小柄な体にツインテール。見るからに豪快そうな雰囲気をまとったこの艦娘こそ『姉御』こと龍驤だ。

 

「姉御、お疲れ様でした」

 

「おう、梟か!お疲れ様やな!」

 

 純粋な笑みを浮かべる彼女の姿を見て梟は、なんとも言えない気分がした。

 龍驤は元々、正規軍にいた艦娘だった。しかし、彼女はある『問題』を起こしたため、厄介払いに近い形で第六六艦隊に配属されたのだ。

 

「おかげで今回も作戦は成功や」

 

「姉御……。本当に良いんですか?」

 

「何がや?」

 

「この配属で満足されているのですか?」

 

 梟の言葉に一瞬だけ龍驤は表情を変えた。しかし、すぐに元の笑顔に戻る。

 

「構わへんで。この部隊でも日本のために戦える。戦う場所は違えど、結果は同じや」

 

 その言葉はまるで自分に言い聞かせるかのようだ。

 

「そうですか……」

 

 梟はその痛ましい姿に掛ける言葉がなかった。

 

「そんなことより、還ってきた奴らと酒盛りの準備でもせえ! 今夜は飲み会じゃ!」

 

 龍驤の取り繕った笑みだけが梟の目に焼き付いていた。

 

 

「狂犬は囮の役目を果たしたのか?」

 

 長門は広げた海図を見ながら言った。

 

「ええ。そのようです」

 

 大淀が無線機を手にして返答する。

 

「相変わらず生き残ることに関してはうまいな」

 

 その言葉は半ば嘲笑の雰囲気を帯びている。

 

「それより基地の破壊は?」

 

「成功したようです」

 

「よくぞやった! 『本隊』には提督名義で祝電を送っておいてくれ!」

 

 先ほどまでの表情を打って変わって心の底から嬉しそうに言った。

 

「承知しました。囮部隊にはどうされますか?」

 

「ふん。奴らに祝電なぞいらない。『帰還次第、報告書を司令部に提出されたし』それで十分だ」

 

 長門は冷たく言い放った。

 大淀は表情を変えずに了承しました、とだけ言った。

 

 

 

「司令官はん。無事全機収容終えたで」

 

 龍驤は艦橋にいた男に言った。片目に大きな傷を負った初老の男がそれに無言で頷く。とても真人間には見えない雰囲気を漂わせる彼こそ第六六艦隊司令長官角田茂だ。

 

「……損失は?」

 

「計四機。ただ搭乗員は脱出、救助済みやで」

 

「……」

 

 角田は黙って頷き、正面を見つめた。

 

「今回も無事に皆、母港に還れそうや」

 

「……そうだな」

 

 角田の変わらない表情を見ながら龍驤は満足げに言う。彼女にとって全員無事帰還できることが何よりの勲章なのだ。

 

「……全艦放送を」

 

「了解!」

 

 龍驤は嬉しげに言った。艦内放送と艦隊内の各艦に向けたスピーカーを用意する。

 角田はその前に立った。

 

「……司令長官の角田だ。皆、よくやった。以上」

 

 抑揚のない声だが、その表情はどこか柔らかかった。

 

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