作戦艦隊が帰投してから三日後。連合艦隊旗艦の長門艦上で反省会が開かれていた。
「以上のことから我が艦隊は敵基地の撃滅に成功したわけであります」
若い男が落ち着いた様子で戦果報告を行う。彼こそ、今回の作戦で本隊を率いていた大西健二司令長官である。彼は若手でも非常に優秀な人物であったことから、本隊である第一艦隊の司令長官に抜擢された逸材であった。
「本当によくやってくれた。おかげで南方海域の深海棲艦を一掃することができた」
連合艦隊司令部の参謀長の福留守が礼を言う。
「いえ」
大西は小さく頭を下げた。
「では次は角田司令長官からの報告です」
その言葉に司令部の所々から小さな笑いが起こった。
「……第六六艦隊は囮の任を全う。敵本隊のつり上げに成功した。被害は艦載機四機の損失。人的損失無し。以上」
いつも以上に抑揚を感じさせない声で角田は言った。その言葉に笑いがさらに大きくなる。
「敵艦隊への攻撃は?」
福留の言葉に角田は隻眼の鋭い視線で一瞥した。
「……無し」
「それは逃げ回っていただけでは?」
笑いがいよいよ会場全体を包み込む。
「……敵より我が方が劣勢。攻撃を行えば全滅する」
「つまり敵の攻撃より自分の命を優先したのですな?」
「……」
角田は明らかに不機嫌そうに顔を歪めた。
「福留君。いい加減にしなさい」
小さいながらよく響く声が中央の席から聞こえた。それまで聞こえていた笑いがピタッと収まる。
「角田君。少ない戦力でよくやってくれた。連合艦隊司令長官として感謝する。君たちのおかげで本作戦は成功した」
そう。彼こそが連合艦隊司令長官、古賀一郎大将である。
「……ありがとうございます」
「今後、君たちの艦隊を増強することを約束しよう」
「長官!」
古賀の言葉に福留が制止にかかる。
「現在の戦力では今後の作戦に支障を来す。他の艦隊の増強の必要性もないからそのくらいは良かろう」
「しかし、彼らは……」
「長官、お言葉ですが彼らは『狂犬』です」
今まで黙っていた艦娘が初めて声を発した。この場に唯一いることを許された艦娘『長門』であった。
「彼らを増強したところで協調という言葉を知らない彼らに使いこなせると思いますか?」
「長門。彼らは今回の作戦目的を立派に果たした。協調は十分に可能だろう」
「それは彼らに『厄介者』しかいない……」
「長門!」
古賀が鋭い声を発した。長門は不機嫌そうな表情のまま黙った。
「角田君、申し訳ない。長門が失礼な態度を取った」
「……いえ」
「とにかく増強に関しては連合艦隊司令長官の名で約束させてもらう。その点は安心してくれ」
古賀のその言葉を最後に反省会はお開きとなった。
大西はその間、無表情のまま角田の顔を見つめていた。
角田が長門の会議室から出てきたとき、一人の下士官が駆け寄ってきた。
「角田長官。連合艦隊司令長官がお呼びです」
彼は連合艦隊司令長官付の従兵だった。
「……分かった」
頷いて角田は従兵の案内に従った。
「長官、角田少将をお連れしました」
「入れ」
角田が通されたのは連合艦隊司令長官私室だった。中に入るとマホガニー製の執務机が置かれており、そこで紅茶を飲んでいる古賀の姿があった。
「おう。まあ、そこに座れ」
そう言って応対用のソファーを勧めた。従兵に退室するよう促し、部屋には角田と古賀のみが残された。
「角田。ご苦労だった」
「別にそこまでじゃない」
角田は表情を僅かに緩めて古賀に言った。
実は角田と古賀は同期であり、席次は角田が主席で古賀が次席であった。
「『あの事件』さえなければこの席にはお前がいたはずだった」
「……」
「お前は地位を、いや海軍はあれで角田茂という天才を失った」
「……過去の話だ」
角田は表情を硬くして言った。
舷窓から西日が差し込む。間もなく夕暮れだ。
「今後、海軍は深海棲艦相手に攻勢を仕掛けるつもりだ。今後、間違いなくお前達の力が必要になる」
「分かってる」
「頼むぞ」
古賀の言葉を最後に角田は部屋を出た。部屋を出た角田の表情はいつもの無表情に戻っていた。