艦これ ~もう一つの戦争~   作:spring snow

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第五話 叢雲

 叢雲は辞令を聞いた瞬間、ついにという思いがあった。元々、上司とはそりが合わず、どこか煙たがられている節があった事は気づいていた。

 

 しかし、その配属先は予想外の場所が告げられた。

 

「第六六艦隊」

 

 ならず者の集団、狂犬。ろくな噂を聞かない艦隊が配属先だった。

 配属に向け航行している段階で不安はさらに膨れあがった。同時に配属されたのが「死神」と「ソロモンの悪夢」だからだ。どちらも良い噂は聞かない。

 この時点で予感は確信に変わった。

 

 間違いなく配属先はろくな場所ではない。

 

「はぁ……」

 

 何度目か分からないため息をついた。今日ばかりは美しい青色の海も憎らしく見える。

 そのとき周囲を低いエンジン音が満たし始めた。

 

「敵機?」

 

 この空域で訓練があるとは聞いていない。すぐに叢雲達は対空兵装である主砲を構えた。命中率はほとんど期待できないが、牽制程度にはなるだろう。

 すると視界の端に二機の機影が映った。濃紺色の機体。

 

「あれは味方機っぽい?」

 

 夕立が呟く。よく見れば味方の零戦と彩雲だ。

 

「でも今日は訓練はないはず」

 

 叢雲は警戒を解かずに二機を睨み続ける。そのとき無線が鳴り始めた。

 

「お、見えたぞ……。あれが増強部隊か」

 

「駆逐艦三隻とは中央もけちだなぁ」

 

「まあ、仕方ねぇよ。何せうちは『ガルム』だ」

 

 零戦の尾翼には梟が、彩雲の尾翼には蝙蝠が描かれている。

 

「上空の二機、直ちに所属を名乗りなさい!さもなければ撃ち落とすわよ!」

 

 叢雲が無線に叫んだ。

 

「おお!怒ってるぜ、あいつ!」

 

「当たり前だ、馬鹿。こちら第六六艦隊 空母龍驤所属の梟と蝙蝠だ」

 

「ここは演習空域には指定されていないはずよ!」

 

 そのとき、雪風と夕立が不思議そうな顔を向けた。

 

「え?演習空域って何?」

 

「知らないっぽい~」

 

 まさかの艦娘たちの叢雲は頭を抱えた。ここでは海軍の常識は通じない。これから行く先が思いやられる叢雲だった。

 

 

「いや~、うちの奴らがすまんな~」

 

 龍驤が叢雲に言った。とは言ってもそこに反省の色はない。

 

「いえ……」

 

「まあ、海軍さんからしたら、うちらは異質な存在やろうけど直に慣れるけんな。

気にせんといて」

 

「はい」

 

 その場にはもう一人、艦隊の指揮官である角田がいるが、一言もしゃべらない。海の遠いところを見つめているだけだ。

 

「失礼します」

 

 叢雲は着任の挨拶を終え、その場を後にした。

 ここは佐賀県の別府湾錨地だ。彼女たちはその存在から呉や舞鶴のような大きな場所ではなく、海軍でもあまり使われていない錨地を中心に活動している。

 上空を零戦四機が模擬空戦を行っている。

 

「ん?」

 

 不思議に思い叢雲は目をこらした。

 通常、二機同士で組んで行われる訓練だが、様子がおかしい。明らかに一機に対し、三機の零戦が組み合っている。

 

「何よ、あれ……」

 

 三機の零戦の動き方が悪くはない。むしろ海軍内でもベテランと言って良いほどの動き方で連携もよく取れている。

 しかし、残った一機がそれ以上に異質な動きだった。

 まるで後ろに目が付いているかの様に射線を取らせない。しかも連携の隙を突いて着実に追い詰めている。

 直後、一機の零戦が完全に補足された。撃墜判定を下されたのだろう。降下を始める。

 残った二機は隊列をすぐ組み直し、一機の零戦に挑みかかる。しかし、降下しながら引き離しに距離を空けられる。

 二機は追いすがるように降下に入った。不意に追われていた零戦が速度を落とし、ロールをかける。バレルロールと言われる機動だ。かなりリスキーな方法だが、うまく決まれば後ろの敵機の後方に付ける。

 後ろの二機はそれに掛かるようなまねはしない。すぐに機体の速度を落とし、一機の零戦を射程圏内に収める。

 

 落とされる。

 

 叢雲が思った瞬間だった。バレルロールを行っていた機体が失速したのだ。

 追っていた二機は一瞬で見えなくなった相手の姿に一瞬、動きが緩慢になる。直後、失速した機体を立て直し、下から突き上げるようにして一機の零戦を仕留めた。

 残った一機はすぐに状況を把握し、機体を右に旋回させていく。しかし、逃がさんとばかりに追う零戦は旋回をかけた。

 性能に差は無い。ループが二回三回と続く。

 四回目に入ったとき、追いかける機体の動きが変化した。右に軽く機首が振られたのだ。その瞬間、異様に旋回半径が短くなった。

 

 左捻り込み

 

詰められた零戦は為す術もなく、高度を落としていった。

 

 叢雲は一連の動きを見ていて、驚きを隠せなかった。今まで、この艦隊は軍隊での落ちぶれた奴か傭兵のような金の亡者ばかりで練度は低いと聞いていた。

しかし、実際はどうだろうか。

正規の軍隊のパイロットの中で、あの演習で負けたパイロット達の腕にすら及ぶ者は少ないだろう。

自分たちはこの艦隊を過小評価することでしか自分たちのプライドを保てなかったのではなかろうか。

 

「良いわ……」

 

 この艦隊にそこまでの実力があるなら自分もやってやる。

 叢雲は誓った。

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