本土の二式大艇が接近する大型艦隊を捉えた。大型空母二、戦艦一、重巡洋艦三、軽巡洋艦五、駆逐艦一〇の計二一隻の強力な艦隊だ。本土の航空隊が攻撃を仕掛けるも有効な被害は与えられていない。現在、周囲に海軍の有力な艦隊はおらず、敵艦隊による本土のへの攻撃は時間の問題である。第六六艦隊は直ちに出撃し、敵艦隊の撃滅に当たれ。
「まったくついてねぇな」
梟は嘆息気味に言った。彼は今、対空防衛の任についている。敵の襲撃を伝え聞き、第六六艦隊が緊急出撃したのが昨日の夕方だ。土佐沖に直ちに艦隊を展開させ、敵の攻撃に備えた。幸いなことに敵の位置は判明している。問題は敵に攻撃を行えるほど有力な部隊が本土沿岸に存在しないことだ。そこで角田が選択したのが敵の攻撃を誘発し、味方艦隊が到着するまでの時間を稼ぐこと。決して大きくはない艦隊だが、無視できるほど小さくもない。さらに言えば小型とはいえ空母がいる。見逃すには大きすぎる存在であることを利用したのだ。
敵が大型空母をそろえてきているということは艦載機が二〇〇機近いことは明白。それだけの大軍をわずか二十機ほどの戦闘機で護衛を行わなくてはならないのだ。
「本当についてねぇ」
梟がそう言ったとき、無線から声が聞こえた。
『敵影確認。一一時方向、一一〇海里、高度四〇〇〇。およそ百機』
早期警戒機からの情報だ。通常、早期警戒機はいないが、今回は本土が近いこともあり、本土の航空隊の早期警戒機が出張っている。
『こんな無茶な任務なら報酬は弾むんだろうな』
問いかけたのは鷹だ。
『無論だ。艦隊が無事ならばな』
早期警戒機の管制官が答えた。安心感のある声だ。
『そう来なくっちゃな!』
鷹の弾んだ声が聞こえた。
『ほかに敵影は見えない。燕隊を残し、ほかの部隊は敵を撃滅せよ』
管制官の声に答えるように一六機の機体が翼を翻し、一一時に機首を向けた。その中に梟の機影もあった。
『狩の時間だ』
深海棲艦の艦載機にとって破局はいきなりだった。
上空から逆落としに戦闘機が突っ込んできたのだ。初撃で十機ほどが落とされたが、敵の少なさを見て部隊はすぐに落ち着きを取り戻した。何せ味方は百機の大軍。しかもそのうちの半数は戦闘機だ。十数機相手の敵に負けるわけがない。
しかし、その楽観的な考えはすぐに打ち破られることとなる。
餌に群がる蟻のごとく敵機に食らいついた戦闘機部隊だったが、戦闘はなかなか決着がつかない。それどころか、一機、また一機と落とされていく。
何が起きている。
深海棲艦にとって戦闘とは圧倒的な数の差で押し込んで戦うこと。そこに何の小手細工もいらない。正面から戦っていれば勝てる、はずなのだ。それが効かない。
この時、初めて恐怖を感じた。
わずかに隊列が乱れ始める。
そこへさらに追い打ちをかけるかのように別の戦闘機が食らいついてきた。味方の戦闘機はすべて先ほどの敵相手に出払っていて、援護はいない。完全に壊乱状態となった深海棲艦の攻撃隊は上へ、あるいは下へ逃げていき、敵への攻撃どころではなくなった。
狙われた攻撃機に逃げる手立ては残されていない。一機ずつ確実に仕留められていく。
攻撃隊の異変に気付いた戦闘機だったが、こちらはこちらで最初の戦闘機相手に恐慌状態に陥っていた。何せ十対一という圧倒的な差をもってしても敵を押しつぶせずにいたのだ。それどころか味方が落とされる始末。
『聞いていた話と違う!』
深海棲艦の爆撃機が叫んだ。自分たちが出撃するときに聞いたブリーフィングでは敵本土にはろくな防衛部隊はおらず、いるのは金で雇われた傭兵を中心とした弱小艦隊一つだけという話だった。
何が弱小か!こいつらこそ本当の化け物だ!
今頃気づいても全てが手遅れだった。
それでも数の力は強かった。
数十機の攻撃隊が第六六艦隊までたどり着いたのだ。
今までは獲物であった自分たちであったが次は違う。今度は敵が獲物になる番だ。
攻撃隊はすぐさま攻撃態勢に入る。攻撃機は一気に高度を下げていき、急降下爆撃機は急上昇していく。
そして体制が整うなり、艦隊の中央、空母めがけて襲い掛かった。
周囲には駆逐艦が十隻ほど取り巻いており、輪形陣を組んでいる。やがて数隻から発砲炎が上がり始めた。対空射撃を開始したのだろう。しかし、そう簡単に当たるものではないし、数隻の駆逐艦の対空砲火なぞたかが知れている。
彼らはその認識の甘さを身をもって痛感することとなった。
瞬く間に十機が火を噴きながら落ちていく。
対空砲火が激しいわけではない。一発一発が正確なのだ。
『こいつらは……、一体……』
そう呟いた攻撃機は次の瞬間、砲弾が命中。その考えはとこしえの闇に沈んだ。
ついに深海棲艦の航空部隊の潰走が始まった。
攻撃機は適当な位置で魚雷をばらまき、爆撃機は当たるわけがない高度で爆弾を落としていく。
それらを各艦は悠々と躱しながら、なおも対空砲火を撃ちあげる。
さらに十機が対空砲火にからめとられた。
生き残った深海棲艦の航空隊は這う這うの体で飛び去って行った。
「被害は?」
角田が龍驤に尋ねた。
「駆逐艦『松』の救命艇が破壊されて小破。それぐらいやね」
「よろしい。戦果は?」
「今、集計中やけど、五十機くらいは落としたんちゃうかな」
「……」
角田は特に言わなかったが、顔は満足げだ。
「敵は?」
「艦隊をまとめて西へ向かっとんな」
「……作戦終了だな」
角田はつぶやいた。
「了解。全艦に撤退命令を出すわ」
そう言って龍驤は通信室へと向かった。
『全機に告ぐ。敵は撤退を始めた。よって作戦目的は達成されたと判断する。皆、ご苦労だった。全機帰投せよ』
無線からそれが聞こえると同時に梟は、大きなため息を一つついた。