またまたお待たせしました。大晦日からコロナに罹って後遺症で蓄膿症と頭痛に悩まされてメンタル死んでました。せっかくの長い正月休みが全部潰れましたコンチキショーめ。
五月の初め。桜の花弁もすっかり散り、青々とした葉を伸ばす季節。
燦々と光陽が大地を照らし、色とりどりの花が鮮やかに咲き誇る頃。
(あったけぇなぁ弟よ…………)
(そうだねぇ兄貴…………)
俺は弟と同じ柵内に放牧され、のんびり草を食みながら日向ぼっこに興じていた。
どうも、ウッドストックです。皐月賞から数日経って、現在完全オフです。
いやーアテクシとうとうGⅠ馬になってしまいましてよ。元人間の馬もどきなアテクシが。クラシックの一冠目、皐月賞を勝ち取ってしまいましたわよ。あなた信じられます? アテクシはぜーんぜん実感ありませんことよ。
おかげでうちのオーナー馬主は歓喜で踊り狂ったらしいけどね。そりゃ自分の馬がGⅠに勝ったんだもの、人間でいうとパトロンになった陸上選手が全国大会に優勝したレベルなんだから、お祭り騒ぎも仕方ないんだけどさ。
言うて俺ちゃんことウッドストック様的には、明らかに待遇変わったとかそーゆーあからさまなゴマすりムーヴはなかったわけで。
精々馬のマッサージ師さんが時々あん摩しにきてくれたり、おやつのりんごの味が変わったりしたぐらいかなぁ。多分あれ王林かふじのどっちかじゃね? リンゴの種類あんまり知らないけど俺はくわしいんだ。
いや、アレだよね。姿形が変わってもマッサージっていいもんだよねって、俺はそう言いたいわけですよ。なんだっけ、身体の筋膜を剥がしてうんたらかんたら言ってなかったっけかな。多分そんな感じのこと厩務員のおっちゃんに言ってた気がしなくもない。
俺はぶっちゃけマッサージが気持ちよすぎたのと、マッサージ師のお姉さんが美人だったから、そっちに気を取られて話聞いてなかったけど。
はー俺が馬じゃなかったらなー! マジ一夜を共にしたいんだけどなー俺馬なんだよなー! っかー残念だわー! 俺のイケメンぶり(馬基準)だったらイチコロなんだけどなー馬だからなー! っかー残念だわー! っかー!
「この子本当に大人しいですねー」
「いやあまったくですね。私も色んな馬見てきましたがここまで素直なのは初めてですよ」
「おまけに人懐っこくて……アハハッ、鼻キスされちゃいました」
「ソイツ美人に目がないんですよ~」
「えぇ~? そうなのキミぃ~」
「ブモッ! ヒヒッ、ヒヒッ(その通り! お姉さん綺麗だね)」
いやもう本当に美人さんなんだよね。なのに笑うとカワイイっていうか。マジお近づきになりたいわー。ねえねえお姉さんどこ住み? LINEやってる? 彼氏いるの? 納豆にネギいれるタイプ? てかLINEやってる? あ、まだLINEねーわこの時代。あっても俺馬だからスマホ出来ねーわ。くそぅ。
(兄貴ホントに人間好きだよね~……俺には分かんないや)
(人間はいいぞ。なにも言わんでも飯くれるし遊んでくれる)
(いい年なんだからメスにアピールでもしたら?)
(いやーキツいでしょ)
うん、まあオルフェの言うことも間違っちゃいないんだけどさ。俺まだ現役で競走馬だし無理やん。メスにアピールしても交尾出来ないじゃん。そもそも俺前世人間って意識がハッキリしてるから、馬と交尾が出来るんかも怪しいじゃんアゼルバイジャン。
俺個人の感覚からしたら馬と交尾って異種交配になるわけですよ。俺一応GⅠ馬になったから多分種牡馬的価値はあると思うし、そういうお仕事が回ってくるのはほぼ確定みたいなところありますけど。
いざそういうことになったとして……下品なんですが、その……フフ…………息子が、臨戦態勢、とってくれるかどうかの問題が付きまとうわけですよ。
いやー出来るかなぁ!? お馬さんとSEXY出来るかなぁ!? やれば出来る!? やかましいわ! いざとなったらひとりでできるもん!? 俺馬だから出来ねーっつってんだろバカタレがよ!!
…………とまあ、最近はこんな風に引退後の種牡馬生活に関して頭を悩ませては現実から全力で目を背ける生活を続けてるわけですが。
(兄貴ってなんでそうメスに対して一歩引くのさ)
(どの馬にも縮こまるお前が言えた口かよ)
(別に他の奴といてなんか話す訳でもないし……)
(お前が積極的に絡みに行かないからだろ)
(うるさいなあ。人間に逃げてる兄貴に言われたくないし)
(言うようになったじゃねえかお前…………おん?)
手の掛かる弟と何時ものように軽い口喧嘩をしている最中。
見学者用の駐車スペースに、覚えのあるエンジン音が停まったのを聞いた。
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「さ、着いたぞ」
目当ての場所に着いた私は、駐車場で車のサイドブレーキを引き、エンジンを止めた。
「……………………」
「…………ほら、降りよう」
バックミラー越しに、後部座席に座った彼女を見るが、相変わらず聞こえているのかいないのか分からないほど、遠い目で窓の外を見てだんまりを決め込んでいた。
いや、聞いてはいるのだろう。現にえらくゆっくりとではあるが、緩慢にシートベルトを外しているのだから。私に対して何も言わないのは、半ば当て付けというか、八つ当たりのようなものだろう。
私は
先代であった父からこの企業を受け継ぎ、現在私で三代目だ。地域の隙間に上手いこと潜り込み、仕事に困ることはない。
主な業務は現場作業の備品を仕入れ、販売する小売業だ。
土木から医療、自動車整備に事務文房具までなんでもござれ。困った時はウチに聞いてください。痒いところに手が届く、そんな言葉をモットーに今まで誠実にやってきた。
最近はPCパーツなども取り扱い始め、通販売上も快調に伸びている。時代と共にニーズを調べ、柔軟に対応したお陰で業績はここ数年右肩上がりだ。
そんな私だが、最近馬主というものを始めた。この国では競走馬を購入、所有するのが一流企業経営者としての一種のステータスのようなところがある。
が、手前味噌にもウチは一流とは言えないし、私自身競馬というものにこれといって興味はなかった。精々父が仕事の付き合いで少々金を落としていたぐらいだろうか。当然馬に関してはとんと知識がないし、所有すること自体に意味を見出だせもしなかった。
何故そんな私が馬主になったか。言ってしまえば「流されて」だ。私の知人にも馬主に熱をあげる者は何人かいるが、その中の一人に日頃から世話になっている人がいたのだ。
その人はとにかく馬という生き物が大好きで競馬も大好き。もはや馬主をやるために仕事をしているといっても過言ではないほどにノーホース・ノーライフな人である。特に私の二代前……つまり初代社長であり初代会長である私のお祖父さんとは、私の父と変わらぬ歳でありながら、互いに業績を競いあうライバルであり、酒を交わす友でもあった。その関係で彼とは家族ぐるみの付き合いがある。
その彼に、一年前のある日突然「高徳君、馬主になってみる気はないか?」と言われたのだ。
正直馬云々には興味がなかったが、普段からの付き合いもあり断りきれず、ひとまず一頭だけ所有するということになってしまった。
当然だが審美眼……この場合相馬眼と言うのだったか。そんなものを持ち合わせているわけもなく、彼のアドバイスに従うがまま子馬を一頭購入した。
そんな適当に買った…………後々聞いた奇行が面白く、その場のノリで付けた「ウッドストック」という名前の馬が、まさかGⅠレースを勝ってしまうとは、あの時はまったく思わなかった。
「ごめんください……」
「あーどうも御簾納さん、ご無沙汰しております」
「いやいやこちらこそ、ウッドが世話になってます。どうですかアイツは」
「弟のオルフェーヴル号と放牧に出してますよ。いやあ皐月賞は熱かったですねえ、あんな大激戦滅多にみれるもんじゃない」
「私も競馬はド素人ですが、あのレースは手に汗握りましたよ。少し面白さが分かってきました」
ウッドストックを担当している厩務員の男性と出会い、言葉を交わす。面白さが分かって来たというのは本心だった。
「…………おや、そちらの子は?」
「娘の
「……………………」
私が挨拶を促しても、彼女は無言のまま会釈したきり、一言も言葉を発しなかった。
「…………すみませんね、今ちょっと気むずかしくて」
「ハハハ……まああれぐらいの歳の子にはよくあることですよ。早速ウッドのとこに行きますか?」
「ええ、是非。ほら菜摘、行くぞ」
「……………………」
返事はないか。気分転換になるかと思ったが、如何せん年頃の娘が何をすれば喜ぶのかなんて知らないからなあ。
顧客の笑顔だったら今まで数えきれんほど見てきたというのに。一番見たいものが見れんとは皮肉なものだ。
……それも、今まで家族サービスを疎かにしてきた私への罰なのだろうか。
妻を亡くした私には、母を亡くした娘の気持ちが分からない。
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「ブモ────ッ!!(タカノリ────ッ!!)」
「んぶぶっ、アハハハッ! こらウッド舐めない、やめなさいこーらっ、んぶぶ」
「ブモモモモモモモモ!(久しぶりじゃねーかタカノリ! 元気してたかタカノリ! 遊ぼうぜタカノリ! ちょっと痩せたかタカノリ!? 飯食ってるかタカノリ!?)」
「あててててっ、こら噛まない噛まない、アハハハハ」
「ボボボボボボボ(んほぉ~~~タカノリの頭皮柔らかいナリィ~~~~)」
「ブルッ……(兄貴ちょっと気持ち悪いよ……)」
「ブモッ(お前あとでケツ蹴り飛ばす)」
「ヒヒッ!?(理不尽すぎない!?)」
誰かと思えば俺のオーナー馬主でいらっしゃるタカノリくんでねえのぉ。あんれまァ~まんずまんずよう来だなや、にんじん食っでぐかい?
ここ数ヵ月ぐらい顔見せに来なかったから俺に飽きたのかと思ったじゃあないの、久々に顔みたら嬉しくて顔ベロからの頭甘噛み決めちまったぜ。なんか髪薄くなった?
「相変わらずだなぁお前は」
「本当に高徳さんにも懐いてますよねえ。ここ数日で一番テンション高いですよ」
「そうなんですか? お前かわいいなあホントに」
「ヒヒッ! ブモモッ!(おうとも! もっとめでるがよい!)」
タカノリって俺の前世でいうモ○タロウみたいな会社経営してるんだっけ? そりゃあまあ忙しくなるときもあるよね。腐っても元社会人よ俺は、理解あるムーヴ出来ますよ。
でもそれはそれとして寂しかったわ! もうちょっと会いに来る頻度増やしてくれてもいいんじゃないの!? あなた私と仕事どっちが大事なの!? 今年も海見に行くって! 映画もいっぱい見るって! 約束したじゃない! あなた約束したじゃない! した覚えねーけど! そもそも俺馬だから行けねーけど!
あ、そこそこ、タカノリその目の下辺り掻いて。あぁ~至福。思わず唇めくれちゃうわ。
「ハハハッ、お前ホント変顔好きだなあ…………ほら、菜摘も触ってごらん」
んお? そういやさっきから気になってたけど、そっちのお嬢ちゃんとは初めましてだね? ナツミちゃんっていうんだ。ブモブモッ、ボクわるいうまじゃないよ。
「……………………いい。別に馬とか好きじゃないし」
ハハハそっかー別に好きじゃな別に馬とか好きじゃないし!!?!??!?
(マジか……兄貴がフラれんの初めて見た)
(好きじゃない……好きじゃない? え、なに俺好かれてないの? 実は皆嫌々俺に接してたの? 俺好かれない運命なの? 好かれなかったら俺の存在意義って何? は? 無理死のう)
(ショック受けすぎでしょ……)
「そうか……かわいいのにな」
「どうせギャンブルに使われるんでしょ……人間の都合で。かわいそうに」
「それは……まあ、そうだが…………」
「お母さんそっちのけで馬にばっかり構ってたんでしょ……」
「菜摘」
「本当のコトじゃん!! なに馬主って!? 私達はほっといて馬にばっかり構って!!」
「やめなさい!!」
「ッ、知らない!!」
「あっ、コラ菜摘!!」
…………行ってしまった。なんか随分家庭内のことで問題抱えてらっしゃったのねタカノリ。
あらら、タカノリも行っちまった。まあそりゃ年頃の娘さんがどっか行ったら心配にもなりますわな。しょうがねえっちゃしょうがねえけども。
「こりゃあ大変だ。
「ヒヒッ(あいよ~)」
おっちゃんも行っちまった。やれやれ人間ってのは忙しなくていけねえや。
(にしても変わった人間だったね。あれ隣の奴が父親でしょ? 随分反抗的じゃん)
(あの年頃の人間は色々と難しいらしいからな。てかそれに関しちゃお前はあの子の事言えないと思うぞ)
(えっ、普段の僕あんなだった?)
(いやあれより
(ええ!?)
なに驚いてんだこいつ……基本クソビビりで他の馬にもいじめられるし厩務員のおっちゃんにも心開かねえし調教は嫌がるし。今のところあの親父の息子で俺の全弟ってことでまだ期待されてるが、普段わりと大人しいこと以外あんま良いとこねえぞ。
こんな調子で本当に未来の三冠馬になれるのかね? 史実じゃそうなったけど、俺という畜生道落ちの馬もどきがガッツリ関わってる時点でもう史実との解離は相当だろうし。大丈夫なのかしら、お兄さん心配だわ。
(なんで走りまで人間に指示されなきゃいけないんだよ……好きに走りたいのに)
(競走馬に生まれた時点で諦めろ。というかお前もうすぐゲート試験だろ? 今さらだよ)
(そうそうアレ何!? なんであんなクッソ狭いとこ入んなきゃなんないのさ!? 開く音もうるさいしさあ!? 合図でよーいドンじゃダメなの!?)
(俺も詳しくは知らねえが競馬ってそんなもんだしな……いやはや出来の悪い弟を持つと苦労するぜぇ)
(アレを一発で合格した兄貴の方がおかしいんだからね!? 僕と一緒にやってる奴ら大体僕と一緒ぐらいだからね!?)
(おやおや言い訳とはお見苦しい)
(その上から目線めちゃくちゃ腹立つ……)
(実際立場は上だもーん)
(マジでコイツだきゃア…………ッ!!)
へへーんだ、悔しかったら一回でも併せ馬で俺に勝ってみやがれってんでぃ。まあデビューもまだのひよっことクラシックレース一冠獲って三冠馬予定のワガハイでは天と地ほどに差がありますがねぇガハハ!
(頭キた!! 蹴り飛ばしてやるから表出ろクソ兄貴!!)
(おやおやオルフェくんおこなの? ねえねえおこなの? ていうか今ここが表ですけどそんなのも分かんないぐらいおこおこぷんぷんなっちゃってんのぉ~??)
(えーえーそうですともぶちギレですともいいからはよついて来やがれ下さいクソボケ野郎!!)
(へいへい、そう殺気立つなよ)
(誰の所為だと…………!)
まあ俺が煽り倒した所為ですよねごめんねオルフェくん。でもこのぐらいしないと君また調教イヤイヤするでしょ? 君もうデビューまであんまり時間ないんだから、俺なりに君の調教に協力して差し上げようというのだ。未来の三冠馬を俺も育てたいのだよ。そんであわよくば周りの馬に「アイツはワシが育てた」って後方師匠面したい。
そんな俺の馬鹿馬鹿しい企みを知る由もない愛しの弟は(レース勝ちまくってるからって調子乗りすぎなんだよ……)とぶつぶつ文句を言いながら走りやすいところへ移動していく。それにしてもオルフェのやつこんな苛烈な性格だったっけ? いや俺の
ま、強くなって欲しいってのは100%本音だしな。弟の為に一肌でも二肌でも脱いであげましょうとも。
唐突なんですけど皆さんウマ娘のウッドストックに言ってもらいたい台詞とか下の活動報告で募集しますんで気楽に落書きしていってくれさい。そのうち掲示板回とかで使うと思います。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=292525&uid=222126