月に寄りそう乙女の作法 Nomadic Rapunzel 作:ペタンコ
ミストトレインガールズとかいうゲームで今、何故かつり乙コラボが実施されてるらしいですね。
ルナ様とりそなと湊に会えるらしいので、冷やかし程度にやってみても良いかもしれません(遊星くんはどうなっているのか、気になるところです)。
あれから私達とリリアさんは共に机を並べて学ぶ仲になり、話す中でよりパーソナルな部分にも触れることになった。
直ぐに分かった部分といえば、リリアさんが服飾のデザインを専攻していること。
それを知った時、駿我さんが心から学びを共有できる学友を作ってみなさいと仰って下さった気がして、とても嬉しく感じた。
自然に、けれども当然の帰結のように、私達は勉強の後に服飾も学び合う関係になって。
「わぁ、デザインがこんなに沢山!
私、こんなキラキラした服のデザインを見るの、初めて!
リリアさん、凄いです!」
「そう褒められると、謙虚でいられなくなりそうです。
ですが、自信を持って描いたものであるのも事実。
今度賞に出展しようと思っていましたので、とても励みになります」
場所は、勉強をしていたメゾンド・パピヨンの食堂から、その地下室へと移動して。
そこにはなんと、大家さんが個人で所有していたアトリエがあった。
驚いたことに、大家さんはアトリエを下宿している人達に開放していたのだ。
何でも、少し前までは服飾に携わる一級線の人材で、今は若い人達を育てることが楽しいのだとか。
その好意により、私達にもアトリエは開放されて。
存分に服飾に取り組める環境が、ここには揃っていた。
本当にありがとうございます、お優しい大家さんに駿我さん、それにお兄様。
リリアさんのスケッチには、流行を忠実に取り入れつつもそこに自分の色を色濃く反映するタイプのデザインが並んでいた。
流行に乗るのではなくて、流行を屈服させて染め上げようと言わんばかりの筆致。
穏やかなリリアさんの性格からは考えられないくらい、我が色濃く現れている。
ただ、主張が強すぎる部分もあるので、万人に好かれるデザインではない。
けれど、それだけ強い自分を持っているのは、とても素敵なこと。
まだ残っている荒削りさが、これからどれほど伸びるのだろうとワクワクさせてくれる。
そんなデザイン達を見て、メリルさんは目をキラキラさせていた。
この服を縫ってみれば、どんな感じに仕上がるのだろうか。
この服のこの意匠は、どんな意味合いを持っているのか。
この服の骨子を理解すれば、オートクチュールを縫えるのではないか。
そんな期待が、メリルさんの中で広がっているのを感じる。
あれこれと矢継ぎ早にメリルさんは質問し、それに淀みなく答えている姿は胸を張っていて。
この人には成功して欲しいなと、そんな思いが芽生える光景がそこにはあった。
一方で私は、華花さんに型紙を見せてもらっていた。
彼女が、リリアさんのデザインを元にして書かれた、精緻な設計図を。
「――僅かなズレもない、とても綺麗な型紙です」
「どうも」
つい感嘆の声を上げると、華花さんは素っ気なく答えて。
それについ、私は熱を籠もった声で華花さんに投げかけていた。
「私、服飾で花があるのは、デザインと意匠だけだと勘違いしていました。
初めて、なんです。
デザインでも意匠でもなく、型紙が美しいって感じたのは」
「良いことを教えてあげます、初体験乙女。
型紙なんて、ねちっこいか気が利く人なら、練習を続けてれば上手くなる分野です。
これ程度に感動しているのは、あなたが未熟だから。
もっと修行なさい、床下手乙女」
「はい、裁縫だけでなく型紙にももっと取り組みます!
いつか華花さんに認められるような、そんな型紙を作ってみたいです」
「馬鹿ですね。認めるも何も、型紙なんて誰にも見向きもされないものです。
だから、私は貴方のそれを評価しないし、自分で納得をいくものを何度も認め直すしかないんです」
「確かに、動機が不純ではデザインに変な思想が混じってしまいますね。
こちらが愚かでした、参考になります」
「ところで大蔵さん、床下手乙女という言葉を否定しなかったですよね。
つまり、貴方は初体験を済ませているガバガバだということでは……?」
「残念ながらまだユニコーンに乗れます」
「騎乗位がお望みと。
なるほど、とんだルーキーがいたものです。
ほら、あれって突かれる度に“んほー”って絶叫しちゃうじゃないですか?
私、非処女なので」
「それは……女の子的には、男の人に聞かれたくないんですが……」
「フッ、勝った」
負けました。
そんな会話をしつつ、私は華花さんの引いた型紙の線を指でなぞって行く。
手書きで、けれども機械のような正確さ。
恐らくは別紙で何度も計算したであろう、デザインの良さを一番にするための道筋。
触れていると、まるで剃刀の様な切れ味を感じずにはいられない。
うん、私もメリルさんみたいにワクワクしている。
こんな風になってみたいと、いつかこれでお兄様のデザインをお手伝いしてみたいと。
どんな自分になりたいかが、まるでパズルのように組み上がっていく。
自分がなりたい延長上に、華花さんがいるから。
あ、私はこの人を目標にしたんだと、胸にストンと落ちてきた。
型紙をなぞっていた指を、自分の胸に当ててみる。
何だか、指先と胸がとっても熱い。
やりたいという気力と、なりたいという憧れで、心がソワソワする。
でも、華花さんが言っていたみたいに、華花さんになるんじゃなくて必死に繰り返して、凄い自分を作り上げるしかない。
そういう職業で、そういう役柄がパタンナーなのだから。
今日、裁縫と同じくらい頑張る目標が、心に芽生えた。
「おぉ、流石は朝日ちゃん! 仕草に色気がある!
兄上と婚約していないというのなら、俺と一夜を共にしてもらいたいくらいだ。
……でも、朝日ちゃんに手を出したら、兄上は処すと言っていた。
恐らく、俺のビッグサンのことを指しての言葉だろう。
つまり、朝日ちゃんの貞操と俺の性遺物はトレードオフの関係にあるということ。
朝日ちゃんは抱いてみたいが、それで二度と女を抱けなくなるのは気が狂いそうだ。
華花くん、これについてどう思う?」
「服飾のことになると分かんなくてダンマリだったのに、下のことになるとペチャクチャ喋りやがって。
脳味噌に詰まってるのは、灰色の脳細胞じゃなくてナニの海綿体ですか?
あと、世界平和のために下半身野郎は去勢された方が良いので、是非大蔵さんに手を出すと良いです」
「やはりそうか。正直見た目は幼い以外はどストライクだし、手を出さない理由は兄上しかない。
俺のブツと交換なのは気掛かりだが、それに見合う価値なのは確かだ。
でもなぁ、やっぱりなぁ……my sonとお別れはあまりに切ない。
息子に適度に構ってやらないと、ネグレクトと呼ばれる世の中だしなぁ。
うん、あと20年は我慢できるし、人生の最後の楽しみに取っておくか、ハッハ~!」
「サラッと人の人生に関わることについて、話さないで下さい。
困ります、あとアンソニーさんのお嫁さんになる予定はありません……」
「聞きましたか、今の?
抱かれたらその人の所有物になるって、今日びカビが生えた思想をしてますよ」
「おっと、それはいけない。
朝日ちゃん、人生は一度限りなんだぜ。
それを考えると、精一杯楽しまなきゃ損じゃないか!
快楽に身を任せるのも、悪いことじゃないんだぜ」
「いえ、私はそうしたいという話なだけで、人についてはとやかく言いませんので……」
私の言葉に、アンソニーさんはアメリカ人のテンプレートみたいに肩をすくめて。
華花さんは、“私、非処女ですから!”と謎のアピールをしていた。
日本と違って性に大らかなのは、欧州特有の寛容さがあるからだろうか(それにしたって、この二人は少し特殊な気がするが)。
「ところで華花くん、さっき騎乗位ならば“んほー”と叫ぶと言っていたが、それは違うぞ。
正確には“オウイエス!!!”や“カムヒヤー、カモーン!!!”が正しい。
もしかすると、実は騎乗位はしたことが無いのでは――」
「それアメリカ人だからでしょーっが!
私は非処女ですよ! 誰がなんと言おうがそうなんですよ!!!」
華花さんの声は大きく、その主張はとても熱烈だった。
リリアさんは顔を赤くして悶えていて、メリルさんは吃驚したように目を見開いている。
そして、上の階から降臨した大家さんに、黙らないと処女膜を縫い合わせるよと華花さんは怒られていて。
内容よりも大声の方を注意する。
欧州と日本の違いが、文化として表れている一幕だった。
服飾について、皆で取り組むようになってから数日。
今日はメリルさんと二人で、地下でミシンを走らせていた。
そんな静かな一時の出来事だった。
「こんにちはーーーっ!」
大声と共に、アトリエの扉が勢いよく開いて。
そこからひょこっと現れたのは、明るいブラウンの髪をしている溌剌とした少女。
キョロキョロと辺りを見回して、そして視線をあるところでロックした。
それは、嬉しそうに顔を綻ばせていたメリルさんと、目が合ったからだろう。
「エッテ!」
「メリルぅ!!」
その子は、メリルさんへと猛然と近づき、ひしっと抱きしめていた。
メリルさんも、嫌がる素振りは見せずに抱きしめ返して。
「久しぶり~、サヴォワに遊びに行ったのにいなくてビックリしたよ。
こっちに来たなら、言ってくれれば良かったのに」
「忙しくて、すっかり忘れてた」
「婚約者のことを忘れるとは何事か~、このこのっ」
「わっ! 髪の毛くしゃくしゃにしないで~!」
どうやら、メリルさんとこの方は友達であるようで、それも親しい友人関係にあるみたいだ。
仲良さげに、お互いのことを確かめあっている様子は、何だか微笑ましげに感じる。
私も日本に戻った時に、同じ様なやり取りを湊や七愛さんと行うと思う。
そう考えると、この二人の仲の良さにも合点がいく。
思わずニコニコとしてしまっていると、メリルさんのご友人の女の子は少し落ち着いたのかこちらを向いた。
そしてジロジロと私を見て、ウンウンと頷いて。
「お初にお目に掛かります、大蔵朝日と申します」
そんな彼女にこちらから挨拶をすると、彼女はやっぱりと呟いた。
やっぱり? もしかしてどこかで会ったことがあるのかと思い返しても、記憶に引っ掛からない。
恐らく、私と彼女は初対面の筈なのだから。
私が何かを尋ねる前に、彼女はビシッと私の方を指さした。
何だか楽しそうに、それでいてイタズラっぽく。
「君がメリルを拐かした張本人の、アサヒ!
君の名前は、沢山メリルから聞いてたよ。
それこそ、私がツンツンしちゃうくらいに」
「え?」
話の流れについていけてない私に、彼女はメリルさんを舞台俳優の如く大仰に抱き寄せて。
フフンと、嬉しげに告げたのだ。
「私の名前は、ブリュエット・ニコレット・プランケット。
メリルの婚約者にして、いずれ大女優になる予定だよ。
メリルは君のことが大好きらしいけど、横恋慕しちゃ嫌だよ」
サラリと、彼女は言ってのけた。
メリルさんの婚約者、女の子同士でそういう関係なのだと。
思わずメリルさんに視線を合わせると、勢いよくブンブンと頭を横に振っていた。
「メリル、礼拝堂で誓いを交わした仲だよね?
ずっと一緒にいようってさ、メリルも覚えてるよね?」
「うん、確かにやった。
でもね、それは結婚がずっと離れ離れにならない約束事だって思ってたから。
色々と知った今は、やっぱり駄目だと思う。
マザーも、安易に交わして良い契約じゃないって言ってた」
「でも、誓ったよね?」
「男女じゃないと、神様は聞こえないふりするってマザーが言ってた」
「黙認されたってことだよ、それは!」
「違うと思う」
二人の間に齟齬があるけれど、仲が良いのは間違いない。
この二人を見ていると、湊と七愛さんのことを思い出す。
じゃれ合っている姿が、とても楽しそうだと感じて。
「アサヒ、どっちが正しいと思う?」
「朝日、マザーが言ってたことが正しいよね?」
ムムムといった表情で、私の方へ振り向いた二人。
そんなところまで仲良しで、ついつい頬が緩んでしまう。
「メリルさんが、どうしたいかによると思います」
そういうと、即座にブリュエットさんはメリルさんのお顔を両手で挟んで尋ねていた。
「メリルは、私のこと好きだよね?」
「うん」
「アサヒ、両思いだった!」
「違うからね、朝日!」
渾身のドヤ顔を浮かべるブリュエットさんに、メリルさんがその胸をポカポカと叩く。
何だかんだで、二人共楽しくて嫌がってないのが二人の仲なのだろう。
私や湊、それに七愛さんを見ていた大人の人達の反応が、ちょっと分かった一時だった。
その後、ここに訪れたリリアさんと華花さんが目をまん丸になっていた。
リリアさんとブリュエットさんは友達で、しかも貴族の家系であるという。
それでいても、ブリュエットさんは気さくなままでいてと言っていた。
世間は狭いと感じたけれど、こんな人もいるんだと世界が広がった日だった。
「ねぇ、私は言いましたよね?
あの子を品なく、辱めなさいと。
……出来たと思っています?」
「いえ、出来てません」
「そんな事もできないの?」
「私の百倍シモいのがいましたので。
キャラ被りのせいか、大蔵さんも直ぐに慣れちゃいましたしね」
「もぅ! あの人にも日本人の血が流れているから!
元からあんなだなんて、本当に信じられない!
やっぱりアジア人は下品!!」
「どうします?」
「……次は、あの子の服飾を否定して。
前みたいな優しいやつじゃなくて、人格を否定する勢いで」
「…………はい、それをお嬢様が望みなら」
「――オオクラ家、一杯食わされましたけれど、次回はそうなりませんわ」
これから毎回、とある人物が登場する度に最後にちょこっとあった、ご令嬢惨敗シリーズが開催されるらしいです。
エッテも顔見せをしてくれて、あと少しでパリ編のキャラは全員出揃うと思うのでよろしくお願いします。