月に寄りそう乙女の作法 Nomadic Rapunzel   作:ペタンコ

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他の人の小説には楽しみにしてます、毎日更新してください! って思うのに、自分が書く時はマイペースになってしまうのはなぜなのでしょうね……。


第39話 違うんです、本当なんです信じてください

 

 メリルさんの居場所が分かった。

 そう伝えてくれたエッテさんは、そこがプランケット家のホテルだったのだと明かす。

 

「長身の東洋系の人と一緒にいるところを見たって!

 きっとそいつがメリルを誘拐した犯人だよ!!」

 

 その言葉に、私は予感のようなものが背筋を走った。

 メリルさんの知り合いで、それができる人物。

 あぁ、と理解する。

 目的が分かりませんが、貴方なのですね、と。

 

「誘拐、ではないのかもしれません」

 

「何か知ってるの、アサヒ?」

 

 はい、と直ぐには答えられなかった。

 そうであろうと思っていても、それは論拠が無いものだから。

 知っているでは語弊がある、それでもと思った内容を私は口にする。

 何とか、変なふうにあの人が誤解されて欲しくはないから。

 

「私の兄、お兄様は長身で顔立ちが整った才能のあるお方です。

 メリルさんともお知り合いで、ここに来る前はお世話になっていたと伺っています」

 

 恐る恐る紡いだ言葉に、返ってきた反応は不思議そうなものだった。

 

「なんで私、アサヒのお兄さんの自慢をされているの?」

 

「じま、ん?」

 

 エッテさんの目はジトリとしており、何とかそう思われた要因について頭に巡らせる。

 お兄様のこと、私は事実を羅列しただけ。

 けれど、それが本当のことだとしても、お兄様を知らない人からすれば美辞麗句に聞こえるのかもしれない。

 なるほど、と私は頷いて呟く。

 

「流石です、お兄様」

 

「……アサヒ、どうしちゃったの?」

 

「アサヒさん、一人で納得なさらないで説明してください」

 

「さすおにって何だよ、ブラコンか?」

 

 私の理解は、どうやら他の人には大変不明なことだったようで。

 この場にいる全員から、胡乱な目で見つめられる事となった。

 けれども、この場でお兄様の凄さを語っても、恐らくは分かってもらえない。

 私の言葉だけで言い表せる人ではないから。

 故に、私は何とか最低限のことだけを伝えようと言葉を紡ぐ。

 

「えっと、お兄様は――」

 

「もう良いから、メリルのことを教えて。

 どういう状況で、なんで居なくなったのか」

 

 私の言葉は、エッテさんの正論に掻き消えることになった。

 そもそも、お兄様を誤解されたくないならば、直接会ってしまうのが一番早い。

 ……お兄様の目的が何なのか、それを知る必要性もある。

 誤解が、もしかしたら解けない可能性もあるのだから。

 

 お兄様との間に何かが起こりそうで、それが怖いのかもしれない。

 お兄様の目的と、私達のメリルさんと一緒に居たいという願いが衝突するかもしれないから。

 才人であり万能でもあるお兄様だけれど、それ故に私の様な凡人には分からないロジックで行動されていることもある。

 その時が訪れたら……私はどうするべきなのだろうか。

 

「アサヒさん?

 顔色がよろしくないようですが……。

 やはり、疲れが取れていないのではないですか?」

 

 私の逡巡に、リリアさんが声を掛けてくださった。

 でも、それに対して私は首を振る。

 もし会えたならと思っている人が近くに居る気がして、気分は間違いなく上向いている。

 ただ、それと同じくらいに不安を感じているだけだから。

 堂々巡りの思考に陥っているだけ、それは答え合わせをしないと解決できないことだから。

 

「大丈夫です、むしろ動かずに入られません。

 だから、行きましょう。

 メリルさんを迎えに、私達で」

 

 だから、開き直った。

 前向きに、前のめりに行くために。

 メリルさんと一緒にいたい、お兄様に……厚顔無恥にも程はあるけれども会いたい。

 そんな考えが、後ろ向きなことを全て捻じ伏せていた。

 単に欲望に素直になって、理性を捨てただけかもしれないけれど。

 

「よく言ったよ、アサヒ! 行こう!

 アサヒのお兄さんに事情を問いただして、メリルを返して貰わなきゃ!」

 

 私の顔に色が戻ったのだろう、エッテさんは力強い宣言に私達は頷いて応えた。

 ただ、リリアさんだけはやはり心配そうにしてくださっていたけれど。

 

 勢い良く、というよりも居ても立っても居られなくて。

 私達はメゾンド・パピヨンを出立した。

 メリルさんを連れて、戻ってくるために。

 

 

 

 

 

 プランケット家の自家用車に揺られること約二十分。

 私達は目的地のホテルへと到着していた。

 ただ、最速で動いたにも関わらず、私達は少し遅かった。

 

「はい、オオクラ様は既にチェックアウトされています」

 

 その言葉に、やはりお兄様だったという緊張感が背中に走るのと、直ぐに会えないことに対する落胆と……少しな安堵。

 私は、お兄様に会ったら、何を話せば良いのか。

 それすら決められてないことが、不安の源泉になっている。

 会った時に何を言われてもおかしくない所業を私はしていたから。

 

 そんな私個人の心情を脇においたとしても、メリルさんへの手掛かりが遠のいたことは確かで。

 やる気が空回りした、そんな重い空気が立ち込めてきて。

 それでもエッテさんはめげずに、直ぐに従業員の人への聞き取り調査を行なっている。

 リリアさんや華花さんと顔を合わせ、影が落ちる表情に蓋をして私達もそうしようと判断した……そんな時のことだった。

 

「ここに居たのかみんな!」

 

 フラリと、メリルさんを探しに街に出てくれていたアンソニーさんが現れたのは。

 そういえば、目の前のことに必死になりすぎて、協力してくれているアンソニーさんや駿我さんに一報を入れていなかった。

 申し訳なさが沸々とジワリと噴き出てきて、私は慌ててアンソニーさんへと駆け寄った。

 

「申し訳ございません、アンソニーさん。

 メリルさんの手掛かりを掴んだので連絡せずに出立してしまいました……」

 

「おぉ、それは重畳!

 ところで、その肝心のメリルちゃんはどこに?」

 

「それが、ちょうどすれ違ってしまったみたいで……」

 

 アンソニーさんは、そうかと肩を落とされた。

 初日から、ずっとあちこちを探し回ってくれているアンソニーさんは、それでもバイタリティーに溢れたままで。

 けれども、いつも瀟洒に磨かれている靴は、反比例するように草臥れていて。

 私たちと一緒で、メリルさんを必死に探してくれている懸命さがそこに現れていた。

 

「――ありがとうございます、お優しいアンソニーさん」

 

 吐息が溢れるように感謝が口を衝いたが、アンソニーさんはキョトンとした顔をした後に安心するような笑みを浮かべられた。

 年上が、年下の子を安心させようとする仕草。

 その仕草が、私を安心させようとする駿我さんにそっくりで、タイプが違うと思っていた二人はやはり兄弟なのだとしみじみ理解する。

 

「なぁに、俺たちは従兄弟!

 大蔵家に於いては家族そのものさ!

 お祖父様や他の家族たちは認めなくとも、俺や兄上はそう思っている。

 それに……俺は弟だったからなぁ。

 一度くらいは、頼れる兄になってみたいという願望もあったのさ」

 

 茶目っ気のあるウインクと暖かな言葉に、動揺していた心を温められる。

 まだメリルさんもお兄様も見つけられていないけれど、私には頼れる人たちがいる。

 そう思えたことで、まだ頑張れそうだと心が奮い立った。

 

 そして、緊張感が解けたからか、ひどく単純な解に気が付いた。

 私とアンソニーさんが家族だというのなら、お兄様ともそうである。

 アンソニーさんは私と違い、正式に認められた大蔵家の一員でもある。

 なら、お兄様の連絡先を知っていても不思議じゃない!

 

「アンソニーさん、実はメリルさんはお兄様の……衣遠兄様の下にいるんです」

 

 逸りが逡巡を飛ばし、口が勢いで捲し立てた言葉が滑りでる。

 これでもしかしたら、と思った言葉。

 それを聞いたアンソニーさんは目を見開いた後、今まで見たことのないほどに眉を顰められていた。

 

「なる、ほど?

 だから兄上は警察じゃなくて自力で探せと言っていた?

 そうだな、衣遠も我が一家と敵対的とはいえ家族だ。

 それが誘拐で捕まるなんて、流石の兄上でも気が引けたのだろう。

 でもそれなら何故、兄上は衣遠の奴に連絡しない?

 いや、しても無駄だったのか?」

 

 アンソニーさんは、遠い目で思考を巡らせ始めていた。

 その思考速度は、いつものアンソニーさんからは考えられないほどに早く、この人も才気がある人なのだと汲み取れる。

 たた、駿我さんがいうところの迂闊なことがあるとすれば、考えていることが全て口から漏れ出てしまっているところだ。

 

 お腹の探り合いは難しいから、駿我さんからは不出来だと言っているのかもしれない。

 ただ、その正直さが滲んでいるところが、この人の良いところなのだ。

 そういったところが、アンソニーさんに親しみを感じさせてくれているのかもしれない。

 

「いや、しかし……」

 

「アンソニーさん、どうかお願いします」

 

 そんな信頼できる人に、私は深々と頭を下げた。

 気分的には、蜘蛛の糸に縋っているカンダタ。

 この糸が断ち切れれば最後、また手掛かりのない暗闇の中に戻るのはあまりに辛い。

 身勝手ながら、大蔵家内でのパワーバランスやアンソニーさんの立場があると承知の上で、私は無理を言っていた。

 

「んー、兄上には危険なところには近づけるなと言われているが……まぁ、少しぐらいならいいか!

 分かった、朝日ちゃんにそうまで言われたらなぁ」

 

 頭を上げた私が見たのは、まるでミントが風になって香った様な笑顔。

 この人がモテているというのは、顔が良いという理由だけではないのだろう。

 そう考えて、駿我さんへの既視感が過る。

 私が困っている時、あの人は平然とそういうことを言うから。

 クスリと笑った私にアンソニーさんが不思議そうな顔をしたので、私は思ったままを素直に伝える。

 

「いえ、駿我さんとアンソニーさんはやはり兄弟であるのだなと。

 困っている女の子がいれは、スマートに助けてくれるあたりが特に」

 

「…………朝日ちゃん、俺は確かにそうだが、兄上に対して君は勘違いをしている。

 あの人は誰にでも優しいわけじゃない。

 君に、特別に優しいだけなんだ」

 

「そんなわけありません、言動の節々が女の子の扱いに慣れておられました」

 

「えぇ……あの兄上が?

 あの女を女とも思わず、男女平等に道具として使っている兄上が?」

 

「アンソニーさん、お仕事中であれば駿我さんは真面目な方ですので私情を交えられないと思いますよ」

 

「兄上はオールパブリックとも言うべき人で、プライベートなど無いに等しい。

 つまりは、そう言うことさ」

 

 ……アンソニーさんの言い分は分かる。

 自覚していることではあるけれど、私を特別扱いしてくれていることは。

 ただ、それは家族の範疇のもので、女の子に対してのものではない。

 だとすると、あの女の子に対する口の上手さは天性の……?

 ならば、やっぱりアンソニーさんと駿我さんは兄弟であるという感触が強まった。

 きっと、女性にすごく強い家系なのだろう。

 

「駿我さんと結婚される方は、毎日がドキドキしてしまうでしょうね」

 

 駿我さんの言葉にアタフタして、優しくされることに照れてしまって。

 女性にそういう事ができるのを、家族の私は知っているから。

 

「おぉ! これは兄上の春も近いかもしないなぁ!」

 

「違いますよ?」

 

「照れることはないが、朝日ちゃんは奥ゆかしいからな!

 そういったところも、兄上にピッタリだ!!」

 

 一方で、アンソニーさんは私と駿我さんの仲をずっと勘違いしたままだった。

 頑なに、駿我さんが光源氏の如く、私に英才教育を施していると思い込んでいる。

 もう私も、一言訂正して笑って流してしまうしかなかった。

 

「それよりもアンソニーさん、どうか……」

 

「おっと、そうだった。衣遠の番号は、と」

 

 一瞬華やいでいた空気が、再び張り詰めたモノに戻る。

 アンソニーさんが、携帯を操作して発信音がした辺りで、私の体をゾワゾワと伝っていくものがある。

 それが親愛による高鳴りなのか、感じていた虫の知らせなのかの判別はつかない。

 そして――。

 

「おぉ、衣遠!

 俺だ、大蔵アンソニーだ!!

 早速で悪いのだが本題に入ろう、メリルちゃんを返して欲しいのだ。

 …………うん? 条件?

 朝日ちゃんを単身、指定の場所に行かせるのが?」

 

 アンソニーさんの声が聞こえて、携帯の向こう側はお兄様と繋がっている。

 そのことに二重の意味で浮足立ちながら、アンソニーさんの声に耳を傾けて。

 

「待て待て、そちらがそのつもりならばこちらにも考えがある。

 兄上と朝日ちゃんの交際を婚約に変更し、物理的にお前の兄弟になるという策だ。

 そうなれば、この無意味な遣り取りも意味を成さなくなるだろう?」

 

「アンソニーさんっ!?」

 

 とんでもない言葉が聞こえてきて、私は人目を憚らずに叫んでしまっていた。

 違います、違うんですお兄様!!!

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